この記事でご紹介する「マリッジ・ストーリー」は、2019年公開のドラマ映画。夫婦であるのと同時に、プロの演劇関係者である一組の男女が、破綻した結婚から離婚に向けた過程で葛藤する姿を描いた作品。
夫をアダム・ドライバー、妻をスカーレット・ヨハンソンが演じ、それなりの愛があるだけでは関係は続けて行けない夫婦のリアルと、離婚過程における正解が混沌として行く様を丁寧に可視化していく。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
製作・脚本・監督を務めたのはノア・バームバック。この鬼才が、当該夫婦以外の関係者を含めた、離婚における人間の機微を生々しく浮き彫りにしていく手腕は必見。
中々噛み応えのあるこの映画。本編を観る前にこの記事でちょっと味見して行きませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から25分30秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、夫婦の置かれた状況がある程度飲み込めると思います。そして、妻がこれまで何を心の中にため込んでいたのかも少しずつ見えてくると思います。
物語が転がり始めるタイミングですので、この先も観たいか否かを判断する最短のタイミングとしてご提案します。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「マリッジ・ストーリー」(原題:Marriage Story) は、2019年公開のドラマ映画。ニューヨークとロサンゼルスを舞台に、行き詰った結婚生活から、離婚に向けて話し合う若い夫婦の葛藤を描く。
ニューヨークで劇団を主宰し、高い評価を得ている演出家の夫チャーリーをアダム・ドライバーが演じ、劇団の看板女優から、TV界、映画界に復帰し、自尊心を取り戻そうともがく妻ニコールをスカーレット・ヨハンソンが演じている。
製作(デヴィッド・ハイマンと共同)、脚本、監督を担当するのはノア・バームバック。バームバックは自身の過去の離婚経験を下敷きに、夫婦の、愛だけでは続けられない結婚生活のリアリティと、時として離婚は、否が応でも物事の白黒をハッキリさせてしまう危険性を、丁寧なシナリオ、繊細な演出で炙り出して行く。
芸術的評価
第92回アカデミー賞で6部門にノミネートされ、ローラ・ダーンが助演女優賞に輝いた。
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、95%とこの上ない高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”共感と寛容さを伴いながら崩壊を観察し、力強い演技を持つ『マリッジ・ストーリー』は、脚本と監督を務めたノア・バームバックの傑作の中でも際立つ作品である” と、評されている。
商業的成果
この映画の上映時間は136分と若干長めである。製作費は8千5百万ドルと、この作品の内容規模に比して大き目の予算が付いている。
というのも、この映画の制作にはNetflixが入っていて、配給もNetflixが一手に担った。よって、従来型の劇場配給、従来型の予算投下、回収を前提としない、新しいマネタイズ・モデルが適用された新時代の作品である。
あらすじ (25分30秒の時点まで)
ニコール(スカーレット・ヨハンソン)とチャーリー(アダム・ドライバー)のバーバー夫妻は、8歳の息子ヘンリーとニューヨークで3人暮らし。
ニコールは、夫チャーリーがニューヨークで主宰する小さな劇団の看板女優を務めている。チャーリーの標榜する前衛的な舞台は、オフ・ブロードウェイで高い評価を得て、ブロードウェイ進出を伺う勢いだ。これまでの夫婦は、お互いの長所と短所を良く理解し、互いの欠点を補い合いながら、良き妻、良き夫、良き母、良き父としてやってきた。
ところが、今2人は離婚に向けて、調停員も交えて話し合いを進めている。調停員は、仮に離婚は避け得ない状況だとしても、息子も含めた今後の関係を軟着陸させるための有効的手段として、互いの長所を10個ずつ書き出し、それを互いに発表するという宿題を2人に課す。
夫婦はこれまでの結婚生活で見つけた相手の素晴らしいところを、感謝の気持ちも込めてそれはそれは見事な文章に書き起こして来る。しかしニコール(スカーレット・ヨハンソン)は、それをどうしてもチャーリーに読み上げることが出来ない。こうして調停員との面談も後味の悪いものになってしまう。
というのも、ニコールが結婚生活で払ってきた犠牲は、チャーリー(アダム・ドライバー)のそれよりも大きかった。ニコールはロサンゼルス出身で、そこで若手映画女優としての実績があったにも関わらず、ニューヨークでチャーリーと恋に落ち、彼と結婚生活を送るためにニューヨークに転居。演出に徹底した拘り(こだわり)を見せるチャーリーの指導の下、”チャーリーの劇団の”舞台女優として10年近く過ごしてきたのだ。
結婚生活に行き詰まりを感じ、女優としての自尊心を失っていたニコールは、ロサンゼルスのTV局からの新しいドラマシリーズのオファーを快諾し、息子のヘンリーを連れてロサンゼルスに戻ることを決意した。二人の間にはもう親密な会話はなく、必要な事務的な連絡事項を話すばかりだ。救いは、親権や財産分与で揉める気配が無いことだけ。
母親が暮らすロサンゼルスの実家に戻り、母に励まされながら、ドラマの撮影に取りかかるニコール。しかし、出演を決めた作品が急に下劣な物に見えて来て、キャリアを着実に積み上げているチャーリーと自分の現状とを比べ、気分は落ち込むばかり。
そんな中、旧知の女性スタッフが、彼女自身が離婚時に雇った専門の弁護士を強く勧めて来る。
弁護士を立てずにチャーリーとは穏便に離婚するつもりだったニコールだが、その弁護士ノラ(ローラ・ダーン)と面談してみると、ノラは非常に快活で押しの強い人物で、彼女自身も離婚経験者。ノラは、ニコールの心の奥底に眠る不満を巧みに引き出した上で、これからはチャーリーではなくニコールが物事の主導権を握るべきだと励ます。
離婚に向けて着実な一歩を踏み出したニコールは、チャーリーやチャーリーとの結婚生活において押し殺していた苛立ちや心の傷を、少しずつ言葉に出来るようになって行く。その一方で、それは息子の父親チャーリーとの決定的な訣別に近付くことも意味していた。
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点で書いてみたいと思います。こんなところに着目してご覧になると、この映画が意図するところが、より鮮明になるかも知れませんというご提案のつもりです。
この秀作を、より味わい深く鑑賞する一助になれると嬉しいです。
どれもネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。
ストーリングテリングの威力
映画の冒頭から、計算され尽くされた脚本に驚かれるのではないかと思います。
この映画をご覧になって、何を想い、何を感じるかは、もちろん皆さんにお任せするところなんですが、一点だけ触れておきたいのは、この作品の持つストーリーテリングの威力です。
全然、説明的じゃないんですよね。
家族が寄り添って暮らす姿、新たな喜びに胸を躍らす姿、ちっぽけなことにイラ立つ姿、相手の言動に人知れず傷付く姿。生活を彩るこうした一コマ一コマを、言葉で説明するのではなく、ストーリー性の高い象徴的な画(え)を用いて端的に表現して来るので、一目で心に沁み込んできます。その結果、進行のテンポも上がるんですよね。
最短で最大の演出。優れた脚本を楽しんじゃいましょう。
主役2人のケミストリー
スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーの演技が凄いです。
そんなことは素人の筆者に言われるまでもないと思うので、その相性、ケミストリーに注目してみましょう。
アダム・ドライバーは、前衛的な劇団の主宰者チャーリーを演じ、妻子のことを間違いなく愛しているけれど、それと同時に、劇団を切り盛りし、彼らを食わせて行く座長として、大きな夢や大義に邁進する父性を演じます(少なくとも、そういう初期設定になっています)。
妻の感情に気付けず、大きな体躯で空間にヌメーっと存在している感じが、観ているこっちをイライラさせることもしばしば。この「本人に悪気は無い」的無垢な感じに我々は益々苛立つ訳ですが、この無駄にデカい存在感はこの俳優さんのお家芸ですよね。
一方のスカーレット・ヨハンソンは、恋した相手と生活を共にすることを選んだ妻ニコールを演じ、夫のことを愛し、劇団の成功を我が事のように喜んでいるんだけれども、それと同時に、自分個人にだってもっと出来る筈だ、自分にはもっと違う道があったかもしれないと、常に自分ストーリーを追い求める女性を演じています。
本当は人が思うよりずっと繊細で傷つきやすいのに、その素顔を苛立ちという仮面で覆い隠してしまう。そんな彼女も一人になると、その小さな背中を丸めながら、人知れずさめざめと泣く。
さてっ!このデカいオッサンと小柄で美しい女性が共演したら、どうなると思いますか?
このギャップ、このケミストリーが、この映画の見どころの一つだと思うんですよね。
ニューヨーク vs. ロサンゼルス
この映画の舞台はニューヨークとロサンゼルスです。
筆者も含めて、アメリカに住んだことない人間にはあまりピンと来ませんが、ニューヨークとロサンゼルスって、対照的な存在としてアメリカ社会では認知されているんですって。
そして、この映画でもこの2つの都市が、夫と妻の関係を象徴する都市として活用されています。
ニューヨークは、舞台演劇の聖地で、伝統と格式の街でもあります。よって、劇中ではチャーリーの権威の後ろ盾であり、夫婦にとっての過去の象徴でもあります。
ロサンゼルスは、映像作品の聖地で、輝きと解放の街でもあります。よって、劇中ではニコールが自らを夫婦生活から解き放ち、新たなキャリアを見つける場所であり、夫婦にとっての新しい未来の象徴でもあります。
2つの都市の位置づけを頭に置きながら、この映画に当てはめてみると、物語が描こうとしていることをより鮮明にしてくれると思います。
まとめ
いかがでしたか?
ごくごく個人的な夫婦の話のように見えて、全ての夫婦や恋人同士に当てはまる話にも見える。何とも身につまされるストーリーかも知れません。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 純粋に物語として見ものです |
個人的推し | 4.5 | 50:50の関係ってあり得ないから、観てて切実 |
企画 | 4.0 | 主人公2人の配役は誰が考えたんだろう? |
監督 | 4.0 | ストーリーテリングの魔術師 |
脚本 | 4.0 | 外野が絡んで話が複雑化する様がエグイ |
演技 | 4.0 | 2人の演技が絶品 |
効果 | 4.0 | 映像が超綺麗 |
このような☆の評価にさせて貰いました。
総合的に落ち度が無いというか、凄く丁寧に作り込まれていることがよぉーーく分かる作品。Netfilix 作品には総花的な展開のストーリー、演出のものが多く、正直駄作が多い印象ですが、こうしたとんでもない作品も飛び出してくるから侮れないですね。