話題の記事続編なのに1作目の質を超えた映画5選

【ネタバレなし】映画「関心領域」(公開日、上映館、あらすじ)

この記事でご紹介する「関心領域」は、2023年公開のドラマ歴史戦争映画。第二次世界大戦中のアウシュヴィッツ収容所における、ナチス・ドイツの高級将校一家の生活を描いている。

監督・脚本を務めたジョナサン・グレイザーの独創性がいかんなく発揮された作品で、ユダヤ人虐殺という人類史に残る凄惨な戦争犯罪を、中年夫婦のありふれた家庭生活という鏡に映して描くことで、当時のナチス・ドイツ内部の異常性、そして、人類が潜在的に持ちうる残酷性を、淡々と描く衝撃作。

この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴あらすじ(序盤に限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。

この映画を観るかどうか迷っている人観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人ことも考え、ネタバレしないように配慮しています。

徹底した取材を下敷きに、新たに創造された、これまでに誰も創り出したことのないこの独特の世界観は、第96回アカデミー賞で国際長編賞と音響賞に輝いた。

日本でも2024年5月24日(金)から劇場公開された本作。映画ファンを自称する方は、このエンタメ作品とは対局に位置する驚くべき本作品を、一度はご自身の目でご覧になることをオススメします。ただし、思ってたのと違い過ぎたとならないようにこの記事でちょっと予習しておきませんか?

目次

概要 (ネタバレなし)

この作品の位置づけ

「関心領域」(原題: The Zone of Interest) は、2023年公開のドラマ歴史戦争映画。第二次世界大戦中ナチス・ドイツ主導の下、ユダヤ人を中心に数十万人が虐殺された(人数については諸説ある)アウシュヴィッツ強制収容所。この収容施設から壁一つ隔てた邸宅に住む、収容所初代所長ルドルフ・ヘス司令官とその家族の様子を描いた作品。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

物語は、基本的にこの一家が住む広大な敷地を持つ邸宅内部の家庭生活を中心に進行していく。そしてそこで描かれるのは、主人公の収容所所長ルドルフが、ナチス親衛隊(SS)として出世を果たすことのみに関心を寄せる姿と、その妻ヘートヴィヒが、そこでののどかな生活を続けていくことのみに関心を寄せる姿だ。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

すなわち、この映画では、夫婦やその周囲の人物の関心領域(The Zone of Interest)にのみスポットライトを当て、あたかも私小説のような世界観を仕立て上げることで、アウシュヴィッツ強制収容所やナチス・ドイツのホロコースト政策の異常性がより際立っていく。

原作との関係

この映画には同名の原作本がある。イギリスの小説家マーティン・エイミスが2014年に発表した「The Zone of Interest」がそれである。

この原作小説では、(実在の人物をモデルにした)架空の人物たちが登場し、アウシュヴィッツ強制収容所の司令官の妻に、別のナチス将校が横恋慕するという物語が描かれる。

しかし映画では、監督と脚本を務めたジョナサン・グレイザーが、自身の数年にもおよぶ徹底したアウシュヴィッツの実態調査を基に、敢えて登場人物を実名に戻して登場させ、上述の恋愛模様を描くのではなく、司令官夫妻の日常を描く作風へと物語を仕立て直している。

少なくとも、原作のストーリーをなぞる映画化とは思わない方が無難である。

芸術的評価

Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、93%とこの上なく高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”恐ろしい犯罪に加担した人々も、日常的な存在であることを冷静に検証することで、『関心領域』は、許しがたい残虐性の裏には平凡な姿があることを、冷めた目で見ることを私たちに強制する” と、評されている。

ロッテントマトの評価は93%

要は、凶悪な犯罪者の顔と、日常的な生活者の顔とは、表裏一体の紙一重であることを、不要な感情を排して冷静に描いた見事な作品であるということを述べているんだと思う。

第96回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞を含む5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞を見事受賞した。

国際長編映画賞と音響賞を受賞

音響賞を受賞した1人、ジョニー・バーンは、アウシュヴィッツ収容所の地図を取り寄せ、その上で目撃者の証言を基に内部で起きていた出来事を整理し、機械音、火葬場の音、長靴の音、銃声、叫び声を、現地の立体反響音までを考慮して効果音のライブラリーを作り上げてこの作品に臨んだという。

商業的成果

本作の上映時間は105分と標準より短めである。ただし、淡々と進む作風から、体感的には少し長く(≒ 時おり起伏に乏しい)感じるかもしれない。制作費の情報は残念ながら見つけられなかったが、世界興行収入は49.5百万ドル売り上げたと報じられている。

世界中で49.5百万ドルの売上

この作風と、巷間で目にするプロモーションの量から想像するに、十分なヒットなのではないだろうか。

国内上映館

2024年5月24日(金)より国内劇場公開が始まった本作の上映館は、こちらのサイトで確認することができます → LINK

あらすじ(映画冒頭部分のみ)

時は1943年。ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)は、ナチス親衛隊(SS)の高級将校であり、ドイツ占領下のポーランドにあるアウシュヴィッツ強制収容所の司令官であった。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

40歳を過ぎたルドルフには、妻と男女5人の子供たちがおり、ヘス一家はアウシュヴィッツ収容所と壁一つを隔てて隣接する、大きな庭を持つ邸宅に暮らしていた。

妻のヘートヴィヒ(サンドラ・ヒュラー)は、豊かな自然の中で、ゆったりと子供たちを育てることを理想としており、ここでの暮らしを大層気に入っている。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

年長の子供たちも地元の学校に通い、ここでの暮らしにすっかり溶け込んでいるように見える。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

加えて妻のヘートヴィヒは、地元ポーランド人の女性数名を家政婦として使い、収容されたユダヤ人から没収した高級品を身に纏う(まとう)など、アウシュヴィッツの女帝として振る舞うことも大いに楽しんでいる様子である。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

果たして、このヘス一家には、この後どんなことが起きていくのだろうか?

見どころ (ネタバレなし)

この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。あくまでもネタバレをしない範囲で、この映画を初見からスッキリと楽しむためのポイントになりそうな点を挙げてみたいと思います。

淡々とした時間(とき)の流れ

映画全般を通して、時間軸は淡々と流れていきます。

戦争映画であるにもかかわらず、事態が風雲急を告げるような展開は期待できないと思ってください。とにかく、ルドルフとヘートヴィヒのヘス夫妻の身の上に起こることを中心に、物語は進行していきます。

そして、そのコンセプトを補完するかのように、カットの殆どが固定カメラで撮影されているように見えました。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/ より

ハンドヘルド・カメラで撮影されたと思しきシーケンスは数えるほど、臨場感よりも一家の様子を醒めた目で定点観測しているような演出がとても印象的です。

視覚的な残酷さと無縁

これまでに、ナチス・ドイツによるユダヤ人に対するホロコースト(人種絶滅政策)をテーマにした作品は数多く存在します。そして、そのそれぞれが、誰の目線を通してナチスの戦争犯罪を描くかに工夫を凝らし個性を発揮してきました。

「シンドラーのリスト」(1993年) しかり、「ライフ・イズ・ビューティフル」(1997年) しかり、「戦場のピアニスト」(2002年) しかり。

しかし、それら全ての作品には共通点があって、それはナチス・ドイツによるユダヤ人に対する蛮行が、必ず視覚的に描写されていた点です。

ところが、この「関心領域」では、音(と登場人物による会話の内容)でしかその様子には触れられません。つまり、誰かが殴られたり、撃たれたりする様を ”目にする” ことは一切ありません。このテーマを扱ったこんな作品が今までありましたでしょうか?

皆さんはこれをどんな風に受け止め、どんな風にお感じになるでしょうか?

ちょっとだけ予備知識

この映画を正しく理解するための予備知識を少しだけ書いておきたいと思います。

アウシュヴィッツ強制収容所はポーランドにある

アウシュヴィッツ強制収容所はポーランド南部にありました。正式名称は「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所」。第一収容所、第二収容所、そして、周辺の大小40ほどの収容施設群をまとめて第三収容所と呼び、一般にアウシュヴィッツ強制収容所と言った場合は、これら全ての総称のようです。

ここの司令官に任じられていたルドルフ・ヘスとその一家は、母国ドイツを遠く離れ、このポーランド南部に赴任していた格好になります。これが一家のバックグラウンドになります。

ナチス親衛隊とはエリート部隊

主人公のルドルフ・ヘスはナチス親衛隊の高級将校です(中佐クラス?)。

ナチス親衛隊とは、元々ナチ党(国民社会主義ドイツ労働者党)の指導者アドルフ・ヒトラーの身辺警護をする警備集団でした。ドイツ語でSchutzstaffel(シュッツシュタッフェル)と言うため、その頭文字を取ってSSと呼称されることも多いです。

このSSは、要人の身辺警護から集会の会場警備と、その規模は時代と共に拡大され、ついには一般SSと武装SSという2つの部門に分かれ、後者はドイツ軍のエリート部隊としてドイツ国防軍と別に編成されるようになります。そして、秘密警察(ゲシュタポ)、占領地の管理、強制収容所の運営を担うようになっていっていきます。

ルドルフ・ヘスはこのナチス親衛隊に入隊し、少しずつ出世していく中でアウシュヴィッツ強制収容所の司令官に任じられたという経緯があります。

こうした予備知識を念頭に置きながら本作をご覧になると、夫ルドルフと妻ヘートヴィヒの立ち振る舞いに、共感は出来ずとも背景は理解できるかも知れません。

まとめ

いかがでしたか?

この衝撃の意欲作の個性的な一面が少しでもこの記事で伝わっていると嬉しいです。そしてまた、皆さんがこの作品をより味わい深く鑑賞するお手伝いが出来ることを願っています。

この作品に対する☆評価ですが、

総合的おススメ度 3.5エンタメ作品ではない
個人的推し 4.5映画ファンなら一度は観るべき!
企画 4.5“関心領域” の意味!
監督 3.5 淡々とした雰囲気
脚本 4.5この逆説的アプローチ!
演技 3.5ザンドラ・ヒュラーが怖い・・・
効果 4.0映像よりもとにかく音!
こんな感じの☆にさせて貰いました

このような☆の評価にさせて貰いました。

とにもかくにも、エンタメ作品的要素を期待して鑑賞すると期待外れに終わります。描きたいテーマに対して、逆説的なアプローチを駆使して、最大限芸術的に表現しているということが飲み込めてくると、この作品の底の見えない恐ろしさが身体にまとわり付いてくるかも知れません・・・

あわわっち

2024年のアカデミー賞は、「オッペンハイマー」と「関心領域」という、映画の定義を覆すような名作が作品賞にノミネートされてたんだなぁ・・・

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