この記事では、クエンティン・タランティーノが製作した西部劇であり、同時に密室サスペンス劇でもあるこの特異な作品の解説をします。タランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンを遂に主役に迎えたことによる効果なんかも、触れていきます。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
脚本流出事件を乗り越えて、二重、三重に伏線を張り巡らせる緊張感あふれるこの映画がどう出来上がったのか?是非この作品の世界に足を踏み入れてみてください!
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作における、観続けるか、中止するかを判断するジャッジタイムは、
- 上映開始から41分10秒のタイミングをご提案します。
ジャッジを下すまで少し時間を取り過ぎな気もしますが、本作品は”前振り”が長い映画なんですよね。上映時間167分のおよそ4分の1の時点ですので、ご容赦ください。
もちろんこれより前の時点で、「違うな」と感じて視聴を中止するのはご自身の自由です。ただ、このポイントまで視聴すると、本作の話の骨格が見えてくるので、いよいよ話が面白くなり始めるポイントであるのは確かです!
参考にして頂ければと思います。
概要 (ネタバレなし)
この映画の位置づけ
「ヘイトフル・エイト」(原題: The Hateful Eight)は2015年公開の西部劇。クエンティン・タランティーノが監督・脚本を務めている。時代と地理的な設定から言うと西部劇である。しかしそれと同時に密室ミステリーの側面も持つのが本作の大きな特徴だ。
公開当時本作品のプロモーションにおいては、そのミステリーとの関連からか、タイトルにある「エイト = 8」という数字をやたらと意味深にクローズアップしていた。これは、
- 8人による密室劇
- タランティーノにとって通算8作目の作品
を意味していたらしいのだが、前者は「劇中のどこまでの範囲を数えて8人なのか?」ちょっと混乱する。後者は「キル・ビルの二部作を分けて数えたら9作目じゃね?」と曖昧である。これはどうも、いつものタランティーノらしいおふざけが込められていたんだと思う。
単に「Hate = ヘイト」と「Eight = エイト」で韻を踏みたかっただけじゃないかな?
本作品の音楽は、タランティーノも大ファンなエンニオ・モリコーネが担当している。モリコーネが提供したガチの交響曲が、映画冒頭から作品の雰囲気を決定付け、出演者の台詞以上に雄弁にこの映画について語りかけてくる。
本作品でモリコーネは、本人も諦めかけていたという、悲願の悲願のアカデミー「作曲賞」を受賞した。実に6回目のノミネートの末にだ。それまで5回ノミネートされるも、毎回受賞を逃し続けたモリコーネには、2006年に「名誉賞」が贈られ、何となく映画界全般に一応の決着を見たような雰囲気があった。
ところがその9年後に、タランティーノが再度モリコーネにスポットライトを当てたことで、遂に「作曲賞」受賞を果たしたのだ。タランティーノのスピーチが素晴らしい!
I’m talking about Mozart, I’m talking about Beethoven, I’m talking about Schubert. とんでもない賛辞です!
あらすじ (41分10秒まで)
南北戦争が終了して数年後。
雪深いワイオミング州の山の中。近づく猛吹雪に飲み込まれまいと、6頭立ての馬車が大急ぎで山道を突き進む。
元北軍の少佐で、今は賞金稼ぎの黒人マーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は、獲物となる罪人3名を仕留めるも、猛吹雪で馬が死んでしまい、その3体の遺体と共に山中で立ち往生していた。
そこに上述の馬車が通りかかったので、マーキスはこれを強引に止め、一緒に乗せてくれるよう依頼する。
ところがこの馬車は、別の賞金稼ぎジョン・ルース(カート・ラッセル)に貸し切られた特別便で、ジョンは罪人のデイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)を生きたままレッドロックに届ける途中であった。
マーキスは直接ジョンに同乗の許可を求めるが、ジョンはこれを拒む。なぜならジョンは、デイジーに懸けられた1万ドルの賞金を失うリスクは取りたくないからだ。
交渉の末、マーキスとジョンには偶然もともと面識があったことと、マーキスにも3体の遺体で8千ドルの賞金が入ることに一定の安心を得たジョンは、マーキスが銃を御者に預けることを条件に、同乗を許可する。
両者ともレッドロックが目的地であったが、猛吹雪なので途中の”ミニーの紳士服飾店”に避難することも合意した。
道中で更に別の男、クリス・マニックス(ウォルトン・ゴギンズ)を拾うこととなる。クリスはレッドロックの新任保安官で、やはり吹雪で馬を失い立ち往生していたのだ。
クリスが悪名高いマニックス略奪団のボスの末息子であることを、一目で見抜いたジョン(カート・ラッセル)は、新任保安官就任話を信じずクリスを警戒していたが、もし本当に新任保安官な場合、自分(やマーキス)がレッドロックで賞金を受け取る相手はこのクリスになるという可能性も考慮し、クリスの同乗を許可する。
ただし、今度はクリスが御者に銃を預け、代わりにマーキスは銃を取り戻して、ジョンとマーキスで賞金稼ぎ同士、共同でクリスを警戒することにした。
馬車の中では、黒人を忌み嫌うクリス(ウォルトン・ゴギンズ)とデイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)の南軍寄りの主張と、そういう差別的な白人を嫌うマーキス(サミュエル・L・ジャクソン)とジョン(カート・ラッセル)の北軍寄りの主張とが対立する。
そうこうする内に馬車はミニーの紳士服飾店に到着する。
ただし、店には先客の駅馬車が避難しており、いつもの店主ミニーとスイート・デイブの姿は見えない。留守を預かっていると主張するスペイン語訛りの英語を話すボブは、店主不在の事情について多くを語らない。
店は、先客が何名か居るものの、入り口のドアが壊れていたり、いつも美味しいコーヒーがとても不味く淹れられていたり。
何か様子がおかしい”ミニーの紳士服飾店”。
猛吹雪でここに閉じ込められることになる彼ら彼女らに、一体これから何が起こって行くのか・・・
見どころ (ネタバレなし)
満を持して主役のサミュエル・L・ジャクソン
本作品では、サミュエル・L・ジャクソンが主役を張っている。満を持してという感じではないだろうか?
これまでタランティーノ作品では、主役級の活躍をしたり、声の出演だけしたりと、明に暗に一貫してクエンティン・タランティーノの世界観を具現化してみせてきた。それがいよいよ主役を張っているのである。
南北戦争直後に両軍の関係者が「密室」に閉じ込められるというこの特異なストーリー設定が、渋滞することなく進んで行くのはサミュエル・L・ジャクソンに負うところが大きいと思う。
というのも、彼が中心になって他の個性豊かなキャラクターとの繋ぎを果たしたり、ストーリーの説明役を務めたり、そして当人のキャラクターは、知的で狡猾で大胆で繊細という難しい役回り。こんな大車輪の活躍できる俳優さん他にいます?これを心から楽しんでください!
登場する小道具なんかも相まって、物凄く”リアル”な感じになって行くんですよねぇ・・・
カート・ラッセルのバカっぽさが好き
誤解を与えたら申し訳ないが、正確に言うと「カート・ラッセルが演じるキャラクターのバカっぽさが好き」です。実力も実績もある俳優さんなのに、いや、ある俳優さんだからこそ、今回のジョン・ルースという、どこかちょっと抜けているキャラクターをキッチリ演じ切れるんだと思う。
これは、上述のあらすじ (41分30秒) までご覧になっても十分に感じて頂けるのではないだろうか?こういう立ち位置のキャラクターがフラフラと立ち回らないと、ミステリーってシナリオが進行して行かないので、きっとタランティーノ監督の期待に十二分に応えたんじゃないだろうか?
是非、サミュエル・L・ジャクソとカート・ラッセルを対で楽しんでください
ウォルトン・ゴギンズ現る
前作の「ジャンゴ 繋がれざる者」に引き続きタランティーノ作品に登場したウォルトン・ゴギンズ。前作に引き続き、何とも厭らしいキャラクターで存在感を発揮してくる。ムカつくけど面白い。面白いけどムカつく。目が離せません!
次作の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」には出演してなくって残念と思っていたら、ノンクレジットの役、かつカットされちゃったんですってね。
今後の作品に登場するのか要チェックな俳優さんだと思っています!
脚本流出問題
結論から先に述べると、本作「ヘイトフル・エイト」には、撮影に入る直前に完成版のシナリオが外部に流出するという考えられないような問題が起きた。
その経緯や法的措置については、他のウェブサイトの記事に譲るとして、ここで強調したいのは、
- これを受けてクエンティン・タランティーノが脚本を描き直した
ということだ。
そんなこと普通出来ます?
しかも、流出した版の台本を使い、出演者を集めて、ライブで朗読会をやったというのだからお洒落だ!
この朗読会には、サミュエル・L・ジャクソン、ティム・ロス、カート・ラッセル、マイケル・マドセンと、主要キャラクターがこんなにも集ったという。ホテルの会場に集められた1,200名の前で、3時間半に渡って脚本を朗読したという。こんな贅沢な場ってあります?
演者が身振り手振りやアドリブを加えると、ト書きを担当したタランティーノが「脚本を共同執筆しようとするのは止めてくれ!」と言ったとか。
ここで得られた収益はNPO団体「フィルム・インディペンデント」に寄付されたんですって!
その他の情報
この作品に対する☆ですが、
総合的おススメ度 | 4.0/5.0 | 長い、特に振りが。暴力エグイ |
個人的推し | 4.5/5.0 | ハッキリ言って好きですねぇー |
企画 | 4.5/5.0 | 密室ミステリー。謎かけが面白いです |
監督 | 4.5/5.0 | 馬車、服飾店。狭いスペースがスリリングです! |
脚本 | 5.0/5.0 | 流出したから描き直した。信じられますか?凄い! |
演技 | 3.5/5.0 | ティム・ロスの役をクリストフ・ヴァルツで観てみたい |
効果 | 4.5/5.0 | モリコーネの音楽が最高です! |
エンニオ・モリコーネが、6度目のノミネートで悲願のアカデミー作曲賞を受賞しました。
「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観ると、如何にモリコーネがこの受賞を喜んだかが分かります!