話題の記事続編なのに1作目の質を超えた映画5選

(含むネタバレ)”スリーパーズ”のどこまでが実話かを検証する(意味・子役・キャスト情報も)

1996年に公開されたクライム・サスペンス・ドラマ「スリーパーズ」。その衝撃的な内容もさることながら、原作者のロレンツォ・カルカテラの「これは自身と自身の友人が実際に体験したことに基づいている」という発言が、全米を巻き込んだ大論争になった。

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この記事では、”スリーパーズ”という言葉の意味に鑑み、映画「スリーパーズ」のどこまでが実話で、どこからがフィクションなのかを検証してみたい。

まだこの映画をご覧になっていない方で、ネタバレなしで本作品を予習したい方は、是非こちらの記事をご覧ください。

是非この作品の裏にあった、真実の世界に足を踏み入れてみてください!

目次

前提知識

概要 (ネタバレあり)

「スリーパーズ」は、1960年代のニューヨークを舞台にした、4人組の男たちの映画だ。4人は元々気の置けない幼馴染で、ある事故をキッカケに揃って少年院に収監されるという暗い過去を共有している。大人になってもその絆は変わらない。劇中では、少年時代と、青年時代の両方が描かれており、それぞれのキャストは以下の通りだ。

役名少年時代青年時代
シェイクス (ロレンツォ・カルカテラ)ジョー・ペリーノジェイソン・パトリック
マイケル・サリバンブラッド・レンフローブラッド・ピッ
ジョン・ライリージェフリー・ウィグダーロン・エルダード
トーマス”トミー”・マルカノジョナサン・タッカービリー・クラダップ
(ビリー・クルーダップ)
特に主役の2人の存在感が!

映画の構成としては、少年時代も時間を割いて丁寧に描いている。

  1. 上)4人がどういう環境で育ったのかを描写するパート
  2. 中)少年院で凄惨な体験をするパート
  3. 下)青年になって過去と対峙するパート

ザックリ言うとこの上・中・下に分けられる訳だが、下の意味するところを視聴者にも存分に理解させるために、上と中にもタップリと時間を割くという構成だ。よって、子役の演技力も非常に重要なウェートを占めるのだが、結論としては、素晴らしい演技を堪能することが出来る。

あらすじ (ネタバレあり)

4人の少年(ジョー・ペリーノ、ブラッド・レンフロー、ジェフリー・ウィグダー、ジョナサン・タッカー)は、”ヘルズ・キッチン”と呼ばれるニューヨークの治安の悪い地域で育つのだが、少年時代はせいぜい”悪ガキ”と呼ばれる程度の非行しかしてなかった。だが、ある事故が彼らの運命を一変させてしまう。

その事故とは、無関係な男性に故意ではないが大怪我を負わせてしまうというものだった。原因は、店主の隙を突いて、路上のホットドックスタンドの位置を勝手に変えるというイタズラだった。本人たちは、そのスタンドを盗みたかったわけではなく、店主に「やばい!スタンドを悪ガキたちに盗まれる!」と思わせて、その慌てる様を見て笑おうという程度で済むはずだった(←十分質が悪いが…)。

ところが、この動かしたスタンドが制御不能に陥り、地下鉄の階段を転がり落ちて、無関係な男性を巻き込み大怪我を負わせてしまう。その結果、4人はいわゆる”過失致傷”の罪に問われ少年院に収監されてしまう。

悪いことに、この少年院が劣悪な環境だった。というのも、本格的なワルが収監されている院だったことに加え、数人の看守が、夜な夜な収監されている少年たちに性的虐待を加えていたのだ。4人は、ある一件から看守たちに目を付けられ、虐待の対象にされる日々。

少年院から釈放された4人は、誰にもこの凄惨な体験を口外しないことを誓い合う。そして、青年へと成長した4人は、1人は新聞記者(ジェイソン・パトリック)、1人は検事補(ブラッド・ピット)、2人は地元のギャング(ロン・エルダード、ビリー・クラダップ)になる。

ある夜、このギャング2人が地元のレストランで、自分達を虐待した看守の1人と偶然再会し、衝動的にこの看守を射殺してしまう。目撃者もいる。

この事件を担当するのは、何と4人組の一人である検事補マイケル(ブラッド・ピット)だ。しかしこれには、裏の意図がある。

訴追は実は全てフェイクで、呑んだくれの弁護士(ダスティン・ホフマン)を2人に付けて、検事側のマイケルが裏から意中のままに操り、裁判を筋書き通りに進める。そして、事件の背景・根っこを探るという名目で、別の元看守に法廷で証言させて、過去の虐待を認めさせていく。

新聞記者になったシェイクス(ジェイソン・パトリック)も、並行してうまく立ち回り、4人はそれぞれアプローチこそ異なるが、自分たちを虐待した3人の元看守に復讐を果たしていこうとする。

クライマックスは、自分達を息子のように可愛がってくれてきた地元の神父(ロバート・デ・ニーロ)に偽証をさせるシーン。敬虔なクリスチャンで知られるボビー神父が容疑者2人のアリバイを証言したことが決定打となって、事件の目撃証言が覆されることになる。こうして2人のギャングは無罪を勝ち取る。

その夜彼らは祝杯を挙げるが、法の精神を踏みにじった検事補マイケル(ブラッド・ピット)は、これを機に法曹界を去り、田舎に引きこもって隠遁生活を送るなど、彼らが一同に会するのはこの夜が最後になってしまう。

”スリーパーズ”という言葉の意味

”スリーパーズ” とは、「少年院上がり」を意味する隠語だと、劇中でも語られている。少年法により、犯罪を起こした未成年の更生促進と将来性の確保のため、少年院に収監された記録は外部から参照不可とする。こうして、少年時代の汚点を隠したまま、まっとうな社会生活をヒッソリと送っている者を、”眠っている者”という意味で”スリーパーズ”と呼ぶのだ。

事実関係の検証

ここからは、映画「スリーパーズ」のどこまでが実話で、どこからがフィクションなのかを検証して行きたい。

原作者:ロレンツォ・カルカテラの証言

まずは、原作者ロレンツォ・カルカテラの証言から整理したい。

彼が生まれ育ったのは、ヘルズ・キッチン(後述)である。

  • しかし彼は、
    • 少年時代に暮らしていたブロンクス地区では、非常に暴力的な犯罪が横行しており、自分自身も少年時代に暴力や強盗などの犯罪行為を目撃した
    • 十代の頃、友人と共に駐車場で車を盗んで運転していたところを警察に捕まり、裁判で有罪判決を受けた
    • 有罪判決を受けた彼と友人たちは、少年刑務所に収容され、非常に過酷な環境で過ごした
    • 収容されていた少年刑務所では、施設側が自分達を虐待し、性的暴行を加えるなどの非人道的な扱いを受けた

と証言している。整理すると、ヘルズ・キッチンで生まれ育ち、少年時代の一時期ブロンクスで暮らしていたということだろうか。

ヘルズ・キッチン

”ヘルズ・キッチン”と呼ばれる地域

ニューヨークのマンハッタンには、”ヘルズ・キッチン”と呼ばれる地域が実存する。具体的には、ニューヨーク市マンハッタンの西側、42丁目から59丁目の間、8番街から12番街の間の地域のことだ。

”ヘルズ・キッチン”は治安が悪かったのか?

ヘルズ・キッチンは犯罪多発地域として知られていた。所以は、20世紀初頭から第二次世界大戦後までの長い期間に渡って、移民や労働者が住む貧困地域となって行き、それに伴い犯罪や暴力の温床となっていったからだ。

特に、禁酒法時代には、違法なアルコール販売の拠点としても知られ、酒場やスピークイージー(密売酒場)が多数存在。結果、マフィアやギャング団などの犯罪組織もこの地域に根を張り、暴力行為や麻薬密売などの犯罪活動が横行していくことになった。

”ヘルズ・キッチン”の現在は?

1960年代以降、ニューヨーク市内全般の治安が改善される中で、ヘルズ・キッチンの犯罪率も下がり、1990年代には、高級マンションやレストラン、ショップなどが立ち並ぶオシャレな地域として再開発が進んだ。現在では人気のある地域となっている。

映画の地理的な場所

という訳で、本作の舞台となる1960年代においては、犯罪多発地域としての”ヘルズ・キッチン”が存在していたのは事実ということになる

ただし、ロレンツォ・カルカテラ本人の証言によれば、彼が少年時代に罪を犯して捕まったのはブロンクスということなので、事件の舞台をブロンクスからヘルズ・キッチンに移したことになる(両者は同じニューヨーク市内だが別の地区)。

キング・ベニーの存在

劇中の描写

劇中には、”キング・ベニー”と呼ばれるイタリア系老ギャングが登場する。そしてこの”キング・ベニー”は、ヘルズ・キッチン一帯を牛耳っているという描写がなされる。果たして、このモデルとなる実在の人物はいたのだろうか?

ヘルズ・キッチンを牛耳っていたのは?

筆者が調べたところ、ヘルズ・キッチンを牛耳っていたのは、イタリア系マフィアではなく、アイルランド系マフィアである。

具体的には、ウエストサイド・アイリッシュ・マフィアと呼ばれる組織で、19世紀後半にアイルランドからの移民が多かったヘルズ・キッチン周辺で組織され、アイルランド系移民の利益を守るために活動。

禁酒法時代には、ウィリアム・“ビル”・ドノヴァンらの指導の下、違法なアルコール販売の組織化に成功し、ヘルズ・キッチンを中心にニューヨーク市内で勢力を拡大。イタリア系マフィアとも敵対関係にあり、暴力沙汰も多く発生していた。

しかし、1990年代に入り、ニューヨーク市内のマフィア勢力が衰退する中で、ウエストサイド・アイリッシュ・マフィアもその勢力を失い、現在では影が薄くなっている。

つまり、ヘルズ・キッチンをイタリア系ギャング、“キング・ベニー”が牛耳っていたというのは、中々考えにくい。

ロレンツォ・カルカテラはイタリア系

上述の通り、ロレンツォ・カルカテラ本人はヘルズ・キッチンで生まれ育ったアメリカ人である。ただし先祖は、ナポリ西方、イタリア半島西のティレニア海に浮かぶイスキア島にルーツを持つ。つまり、イタリア系アメリカ人である。

アイルランド系からイタリア系に代えた?

という訳で、キング・ベニーのモデルは、実際は何某かのアイルランド系の顔役であったものを、ロレンツォ・カルカテラとの関係性を近く見せるために、イタリア系という設定に置換えた可能性は十分に考えられる

もしくは、完全な創作か。

ロレンツォ・カルカテラの就学履歴

原作小説、映画が大ヒットした事により、ロレンツォ・カルカテラの”実話発言”が大論争を呼び、ついにはニューヨーク弁護士会が実態調査をするに至った。

その結果、カルカテラが学校を退学した、長期欠席した、あるいは少年院に収監されたというような記録は見あたらず、「カルカテラ本人が少年院で虐待を受けた」という証拠は見つからなかった。

スリーパーズの存在

既述のように、少年院に収監された未成年の収監履歴は参照不可能である。よって、仮にカルカテラの少年時代の周囲の友人に少年院収監の過去があったとしても、それは確認が出来ないし、その制度の精神を尊重すると、確認をすべきではないということになる。

結論

よって、これまでの話を総括すると、

  • ロレンツォ・カルカテラの少年時代の友人で、少年院に収監された者がいる
  • ただしそれは、ヘルズ・キッチンの友人か、ブロンクス時代の友人かは不明だし、人数、性別も不明
  • そして、その彼/彼女/彼等/彼女等は、少年院で合法的、あるいは非合法的な辛い体験をした
  • それらの実体験を基に、スリーパーズ(”少年院上がり”)を題材に
  • ヘルズ・キッチンという実在の地域を舞台にした小説を執筆した

と結論付けられるのではないか。

まとめ

この記事では、ロレンツォ・カルカテラの証言を整理し、実際の事実と比較することで、ロレンツォ・カルカテラがどこから創作したのかを検証してみた。

結論は、”スリーパーズ”に該当する周囲の友人の証言を基に、実在のヘルズ・キッチンを舞台にして、モデルが存在すると思しき街の顔役の存在を織り込みながらストーリーを創作した、というものだ。

ここまで読んでくださった方の参考になると幸いです。

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