この記事では、1991年に故リヴァー・フェニックスがヴェネツィア国際映画祭など複数の映画祭、映画賞で主演男優賞を獲得した映画、『マイ・プライベート・アイダホ』の解説をします。あらすじ、見どころだけではなく、本作のメッセージや考察に関しても、ネタバレを避けつつご紹介します。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
相手役のキアヌ・リーヴスの意欲作としても知られる本作品について、先入観無く予習情報を入手し、この名作をより味わい深く鑑賞してみませんか?そのお手伝いをさせてください。
ジャッジタイム
この映画を見続けるか中止するかを判断するジャッジタイムは
- 上映開始から23分の時点をご提案します。
ここまでで本作のテイストや物語の主となる二人の関係がご理解いただけると思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
本作は、マイノリティの代弁者として、社会的弱者の世界を美しく描き出すことで知られるガス・ヴァン・サントが1991年に公開した青春映画です。同じく彼の作品である『マラノーチェ』『ドラッグストア・カウボーイ』と並び「ポートランド3部作」の一つとされています。
『マラノーチェ』が同性愛を描いた作品であり、『ドラッグストア・カウボーイ』が薬物中毒者の苦悩を描いた作品であることからも分かるように、ポートランドを舞台に社会的にも個々人の感情としても扱うのが難しいテーマを芸術作品に昇華させた3部作として、気になった方は必見です。
芸術的評価
作品の評価としては、アカデミー賞とは縁がなかったものの、ヴェネツィア国際映画祭主演男優賞、インディペンデント・スピリット賞主演男優賞、脚本賞、全米映画批評家協会賞主演男優賞と、特に主演のリヴァー・フェニックスの演技が高く評価され、彼の代表作として知られています。
商業的成果
商業的にも、制作費$2,500,000に対して興行収入が$6,401,336と2倍以上の成果を出しています。
LGBTQ作品としての評価
本作品は、批評家を持ってしてもテーマを一つに限定できないほど、多角的な魅力を持つ作品です。青春ものであり、ロードムービーであり、友情ものであり、ナルコレプシーという難病も一つの重要な要素です。それらを踏まえた上で、LGBTQを描いた作品としての側面、価値について掘り下げてみます。
21世紀になり、特にここ10年ほど、LGBTQ と呼ばれる性的マイノリティに対する偏見を無くそうとする流れが社会的に一般化し、『君の名前で僕を呼んで』『リリーの全て』『キャロル』といったLGBTQを描いたヒット映画も増えてきました。しかし、まだ偏見の多い1990年代初頭にこの難しいテーマを扱い、商業的にも成功させたことは、映画界にとって大きな進歩の楔と言えるでしょう。
作品の内容としても、敢えて直接的な描写はせず、また本筋のテーマを恋愛に限定せず、ニュートラルに青年たちの日常を描いた本作は、LGBTQ作品を見たことがないという方にも迷わずお勧めできる名作です。
敬遠してたらもったいないわ!by腐女子
あらすじ(ネタバレなし)
主人公マイク(リヴァー・フェニックス)は、ポートランドで男娼をして過ごす青年。彼は貧しい家に生まれ、父親の顔を知らず母親とも長年疎遠になっている上、強いストレスを感じると突発的に眠りに落ちてしまうナルコレプシーという難病を抱えている。彼は、故郷アイダホと母親の微かな記憶に思いを馳せながら、日々を生きていた。
ある日、エレーナという裕福な女性の家に男娼の仕事で行き、そこで男娼仲間のスコット(キアヌ・リーヴス)と再会する。エレーナとの行為前にナルコレプシーの発作で眠ってしまったマイクはスコットに介抱されるが、彼はマイクを置いて帰ってしまったため、翌日マイクはドイツ人のハンスに拾われてポートランドに戻る。
ポートランドに戻り、スコットたちと日々を過ごすマイクは、何を思い、何を決意し、どう生きていくのか・・・。
見どころ (ネタバレなし)
インディーズ映画のテイスト
まず本作の魅力として語らなければならないのが、インディーズ映画の作風を踏襲した作品のテイストです。本作品は、主人公マイクのストーリーであることは間違いありませんが、そもそも原作はシェイクスピアの戯曲『ヘンリー4世』シリーズの一部分だとされており、それを現代社会を生きる青年たちの物語に変換するためのリアリティとして、脇役の人物たちが語る様子をドキュメンタリー調で写したり、マイク、スコット、その仲間の日常を分厚く描いたりと、本筋のストーリーとは関係ないように見える部分が散見されます。
また、先述した「ポートランド3部作」の初期作『マラノーチェ』はガス・ヴァン・サントのインディーズ映画であり、ハリウッドに進出してからの2作も、インディーズ映画の撮影方法を踏襲することにこだわっています。したがって本作も、インディーズ映画らしいキャスト、スタッフともにアドリブの効いた撮影方法や、ノイズの多い映像がヴァン・サントの作り出す独特の味わいと相まって本作の芸術性を高めています。
さらに言えば、その分ストーリーは、先述した多面的なテーマのせいか、輪郭のぼやけた掴みどころのないストーリーになっています。つまり本作は、ストーリーを追いかけて楽しむ映画というよりは、映像や音楽を感じながら世界観に浸り、若かりしリヴァー・フェニックスとキアヌ・リーヴスの美しさを堪能する絵画的な芸術作品であると個人的には思っています。
サントラを聴くだけで美しい映像が思い出されます・・
リヴァー・フェニックス
商業的にも、評価的にも、本作はリヴァー・フェニックスの映画であると言っても過言ではないでしょう。1993年に急逝し、今や知る人ぞ知る伝説の俳優とされる彼ですが、本作の公開当時はスター街道に足を踏み入れたばかりの彼にとって、本作は良くも悪くも重要なターニングポイントになる作品だったと言えます。
実際、本作の際どい題材は、彼のエージェントには危険に見えたようで、出演に反対していました。しかし脚本に惚れ込んだリヴァー・フェニックス本人がエージェントに内緒で出演を決め、さらには本作に同性愛の要素を加えるアイディアを生み出したのはリヴァー本人。それほどの情熱とこだわりを持った俳優だった彼の演技は必見です。
具体的には、ナルコレプシーという難病を表現する演技の技術面はもちろん、アウトローに生きるマイクが抱える内なる苦悩を表現する、どこか自信なさげでありつつ官能的な演技が、見る者に感情移入させ、本作の世界観に没入させます。
かえすがえす、リヴァーを失ったことは、映画界の損失…
メッセージ
本作は先述したように多面的なテーマ性を持ち、掴みどころのないストーリーのため、最も伝えようとしているメッセージが何なのかは意見が分かれます。ここではネタバレを避けるため詳しくは記述しませんが、見る者に解釈の余白を与え、個人個人が自分の受け取り方をできるため、そちらにも注目してご鑑賞ください。
特にラストシーンには様々な考察が存在するため、鑑賞後に読んでいただけるよう、個人的に最も納得できた考察をしている記事を貼っておくのでよければご覧ください。
まとめ
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | リヴァー・フェニックスの代表作 |
個人的推し | 4.0 | 余韻がすごかったです |
企画 | 4.0 | インディーズの作風がいい味 |
監督 | 4.0 | 独特の印象が綺麗 |
脚本 | 3.5 | 少し難しいかも? |
演技 | 4.5 | リヴァーもキアヌも言うことなし! |
効果 | 4.0 | 音楽や色合いが沁みます |
本作品はリヴァー・フェニックスの代表作であり、ヒット作の中では実質的な遺作として現在でも映画を語る上で外せない作品です。リヴァー・フェニックスが好きな人、キアヌ・リーヴスが好きな人、青春映画が好きな人、腐女子・・、好みはそれぞれですが、誰にとっても見る価値のある作品であることは間違いありません。この記事を読んで少しでも興味を持っていただければ幸いです。