この記事でご紹介する「メメント」は、2000年公開のサスペンス作。脚本・監督を担当した鬼才クリストファー・ノーランの映画本格デビュー作でもある。短期記憶が10分で消える脳障害を抱える男を主人公に据え、その男の主観で物語を描くことで、周囲の誰も信用できない恐怖を視聴者に追体験させる。この辺りを図解も交えてご説明します。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
クリストファー・ノーランを一気にメジャーな映像作家に押し上げて行ったこのスマッシュヒット作の世界を一緒に予習しませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作における、そのまま見続けるのか、見るのを止めるのかのジャッジタイムですが、
- 上映開始から11分10秒をご提案します
このポイントまで視聴すると、本作独特の映画構成([カラーで描かれる時系列的に後半の話]と[白黒で描かれる時系列的に前半の話]が交互に入れ替わる)が数ターンが終わったところになる。大体この辺りで、何故こういう構成なのか、混乱しないコツは何か(詳細は後述)が分かり、この映画の勝手が掴めてくると思う。
残り100分強、「こういう映画ワクワクする!」と思えるか「うーん、こういうの苦手かも・・・」の判断が付くと思うので、まずは11分10秒観てみてください。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
メメントは、2000年に公開された犯罪サスペンス映画。クリストファー・ノーランが脚本、監督を担当しており、クリストファーの弟ジョナサン・ノーランが原作を担当している。本作品は、クリストファー・ノーランの長編映画第2回監督作品であり、彼の名を一躍メジャーなものにした大出世作である。
本作品でも、クリストファー・ノーランのライフワークである「時の流れ」が最大のテーマの1つに扱われている。主人公は、妻を殺害した犯人を執拗に探している私立探偵のような人物像なのだが、同時にその殺害事件の時に負った外傷により、新しく見聞きしたことを10分間しか覚えていられないという記憶障害に陥っているという設定となっている。
この頃から既に「時の流れ」オタクだったんだね!
時系列の図解解説
この「主人公の記憶は10分単位で断片化してしまう」という特異な状況を色濃く描写するために、この映画では「現在の出来事の場面(下の図のピンクの矢印)」と「過去の回想の場面(下の図のグレーの矢印)」とが数分毎に何度も入れ替わりながら進行して行く。しかも、ピンク側は時系列上の新しい場面から古い場面に移行し、グレー側は古い場面から新しい場面に進行するという、意図的に順序を入れ替えた大胆な構成になっている。絵にするとこんな感じ。
このように本作品では、視聴者は、最初に「物事の結末」を、次に「物事の発端」を見せられてから、ピンク側では時間を遡りながら、グレー側では時間を辿りながら、時系列上のある一点を挟み撃ちにしていく。こうすることで、映画の最後でようやく「物事の発端」がどういう経緯で「物事の結末」に繋がるのかの全貌が明らかにされる。すなわち、こうすることで殺害の真相が明らかにされるサスペンス構成となっている。
時系列の上で挟み撃ちを行う。あれっ!テネット?
メメント (Memento) の意味
本作のタイトルであるメメント (Memento) とは、ジョナサン・ノーランが書いた「Memento Mori」という原作のタイトルからそのまま流用されたとのこと。この背景には、ラテン語にはそもそも「Memento Mori」という戒めの言葉が存在し、これは「誰しもに必ず訪れる死を忘れるなかれ」という意味なんだそうだ。
しかし、筆者としてはこの言葉にこだわるよりも、「Memento」という英単語の、「思い出の種」「形見」「記念の品」という意味に着目し、(詳細は後述するが)主人公が自身の記憶障害への対策として、入れ墨、メモ用紙、ポラロイドカメラを駆使して、何とか正確な記録を残して行こうとする様を示唆していると素直に捉えれば良いのでは?と思っている。
芸術的評価
この映画は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
見どころ (ネタバレなし)
独創的な構成
本作品では、とにもかくにも上述の独創的な構成が最大の見どころである。逆に言うと、この構成が理解できていないと迷子になってしまい、ストーリーに付いて行けなくなると思う。
ポイントを幾つか述べると、
- ピンク側の①のシーンだけは、映像を逆回転で再生させるという念の入れようなので、映画の冒頭でパニックに陥らないように気を付けて!
- ピンク側の③以降、③、⑤、⑦・・・の場面は、それらの互いの並びは時系列を逆行して構成されているが、それぞれの場面の中の再生は順行方向なのでご安心を。
- そして例えば、③の場面の冒頭には印象的な台詞が配され、後から出てくる⑤の場面の終わりにも同じ台詞がノリ代の役目で出てくるので、「あっ!時系列上は⑤の後が③に繋がるのね」と頭の中で並び替えがしやすい。作り手側の意図として、そのノリ代を頼りにストーリーに付いて来いってことなんだと思う。
なお、ピンク側のシーン (①、③、⑤…) は全てカラーで描かれ、グレー側のシーン (②、④、⑥…) は全て白黒で描かれるので、両者の区別が付かなくなることは無いので、そこも安心ポイントだ。
より過去の場面が白黒で描かれることで、記憶がより薄れている感じがにじみ出てて、その辺りの趣もイイ感じよ!
主人公のキャラクター描写
妻を殺害した犯人を執拗に探し出そうとする主人公レナードを演じるのはガイ・ピアースだ。
彼が、記憶障害に抗いながらも手掛かりを集め続けるこの人物を淡々と演じている。特に記憶が消失することへの対策として、まめにメモを取ったり、自分の体に入れ墨を彫ったり、出会った人間のポラロイド写真を撮ってそこに注意書きを付記したりと、未来の自分へとメッセージを何とか残そう、残そうとする。そんな孤独な主人公像をガイ・ピアースが紡ぎ上げているので、注目だ!
大事なことが消えないように自分の身体に入れ墨で残す。ん?プリズン・ブレイクはこれの真似してるの?
現在だったら全部スマホ1台で済んじゃう用事が、この頃はアナログのツールで描かれてたのね。でも、本質的なストーリーの面白さは不変です!
テーマ
この映画のテーマ(主題)は結構深いように思う。というのも、既述のように本作品では、記憶に致命的な問題を抱える人物レナードが主人公で、物語は基本的にこのレナードの目線で描かれていく。すなわち、この世界で起きた事象は、レナードの経験(≒記憶)を通してレナードに蓄積され、レナードのアイデンティを作り上げていく。
つまり、レナード個人という実存と、世界と言う実存は、記憶を介して繋がりを保っていく。でも、この記憶が頼りにならないんだったら、レナード個人も、世界も、両者の繋がりも、果たして・・・
ハッキリ言って、こんな小難しいことを考えなくてもストーリーは十分に楽しめるので、もし頭の片隅に残っていたら一緒に考えてみてください。
その他の情報
筆者の本作に対するおススメ度合いは、 4.0/5.0 です。
如何せん難解で構成が複雑すぎるという点、ある程度の暴力シーンが出てくるという点、この2つが好き嫌いが凄く分かれるところだと思います。その辺りを加味して(面白い、面白くないという観点とは別に)おススメ度合いとしてはこの☆にさせて貰いました。
年代が異なるので一概には並べて評価出来ないが、
- クエンティン・タランティーノのレザボア・ドッグス(1992年・製作費:1百20万ドル)
- ソフィア・コッポラのロスト・イン・トランスレーション(2003年・製作費:4百万ドル)
等と同様に、クリストファー・ノーランは本作品を、2000年に製作費わずか9百万ドルで製作しているのね。とんでもなく才能のある人達は、創造力を働かせて低予算でも優れた作品を作って世に出て来ちゃうのねと、今回この投稿を書きながら改めて思いました。
メメントは、当初はわずか11館の上映から始まって、評判が口コミで広がって遂には500館で上映されるようになり、公開10週目に全米トップ10にチャートインしたんだそうな。広告費が無くてもバズる映画はバズるのね・・・
お好きな方は、2回、3回と楽しめる映画だと思います。