この記事でご紹介する「フェリスはある朝突然に」は、1986年公開の青春映画。主人公の高校生フェリスが仮病を使って学校をサボる1日を描くコメディ作品。監督、脚本、製作をジョン・ヒューズが担当していて、目を凝らして観ると1980年代の若者がサラリと権威に反抗する様が描かれている。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
とは言え、難しいことを考えず、主演のマシュー・ブロデリックの魅力を目で追って行くだけでも十分に楽しめる102分の作品ということで良いと思います。ただ、より楽しんで鑑賞するために、こちらの記事もサクッと読んで貰えると嬉しいです。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から30分00秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画の雰囲気やノリが掴めますし、ストーリーが転がり始める端緒が掴めます。好き嫌いを判断する最速のタイミングだと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「フェリスはある朝突然に」(原題:Ferris Bueller’s Day Off) は、1986年公開の青春映画。原題からも推察できるように、高校生のフェリス・ビューラー少年が、学校をサボってノビノビと過ごすある1日をコミカルに描いている。
主演はマシュー・ブロデリック。父親の影響で高校在学中から舞台出演の経験を積んだブロデリックは、1983年の映画デビュー作から役に恵まれ、前々作「ウォー・ゲーム」(1983年) 、前作「レディホーク」(1985年) に引き続いて、本作 (1986年) でも主演を獲得。フェリス少年の飄々(ひょうひょう)としたキャラクターは彼のハマり役となった(出演時23歳)。
製作、脚本、監督は、ティーンエージャーの繊細な心情を描く作品群で1980年代に高い評価を得たジョン・ヒューズが担当している(製作はトム・ジェイコブソンと共同)。本作では、ジョン・ヒューズらしい若者の心理に迫る繊細なタッチに、マシュー・ブロデリックが醸し出す独特なユーモアが加わり、何とも独創的な世界観が完成している。
ジョン・ヒューズが、そのキャリアにおいて何がしかの形で制作に関わった作品数はかなり多く、参考までに一覧表を載せておく。
邦題 | 原題 | 公開年 | 監督 | 原案 | 脚本 | 制作 | 製作総指揮 | キャラクター創造 |
ナショナル・ランプーン/パニック同窓会 | National Lampoon’s Class Reunion | 1982 | 〇 | |||||
キャプテン・ブーリーの大冒険 | Savage Islands | 1983 | 〇 | |||||
ホリデーロード4000キロ(ナショナル・ランプーン/ホリデーロード4000キロ) | National Lampoon’s Vacation | 1983 | 〇 | 〇 | ||||
ミスター・マム | Mr. Mom | 1983 | 〇 | |||||
すてきな片想い | Sixteen Candles | 1984 | 〇 | |||||
ブレックファスト・クラブ | The Breakfast Club | 1985 | 〇 | |||||
ときめきサイエンス | Weird Science | 1985 | 〇 | |||||
ナショナル・ランプーンズ・ヨーロピアン・ヴァケーション | National Lampoon’s European Vacation | 1985 | 〇 | |||||
フェリスはある朝突然に | Ferris Bueller’s Day Off | 1986 | 〇 | |||||
プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角 | Pretty in Pink | 1986 | 〇 | 〇 | ||||
大災難P.T.A. | Planes, Trains & Automobiles | 1987 | 〇 | |||||
恋しくて | Some Kind of Wonderful | 1987 | 〇 | 〇 | ||||
結婚の条件 | She’s Having a Baby | 1988 | 〇 | |||||
大混乱 | The Great Outdoors | 1988 | 〇 | 〇 | ||||
おじさんに気をつけろ! | Uncle Buck | 1989 | 〇 | |||||
ナショナル・ランプーン/クリスマス・バケーション | National Lampoon’s Christmas Vacation | 1989 | 〇 | 〇 | ||||
恋の時給は4ドル44セント | Career Opportunities | 1990 | 〇 | 〇 | ||||
ホーム・アローン | Home Alone | 1990 | 〇 | 〇 | ||||
カーリー・スー | Curly Sue | 1991 | 〇 | |||||
オンリー・ザ・ロンリー | Only the Lonely | 1991 | 〇 | |||||
あぶない週末 | Driving Me Crazy | 1991 | 〇 | 〇 | ||||
ベートーベン | Beethoven | 1992 | 〇 | |||||
ホーム・アローン2 | Home Alone 2: Lost in New York | 1992 | 〇 | 〇 | ||||
わんぱくデニス | Dennis the Menace | 1993 | 〇 | 〇 | ||||
赤ちゃんのおでかけ | Baby’s Day Out | 1994 | 〇 | |||||
34丁目の奇跡 | Miracle on 34th Street | 1994 | 〇 | 〇 | ||||
101 | 101 Dalmatians | 1996 | 〇 | 〇 | ||||
フラバー | Flubber | 1997 | 〇 | 〇 | ||||
リーチ・ザ・ロック | Reach the Rock | 1998 | 〇 | 〇 | ||||
ホーム・アローン3 | Home Alone 3 | 1998 | ||||||
ベートーベン3 | Beethoven’s 3rd | 2000 | 〇 | 〇 | ||||
ニューポート・サウス | New Port South | 2001 | 〇 | |||||
マイ・ラブリー・フィアンセ | Just Visiting | 2001 | 〇 | |||||
ホーム・アローン4 | Home Alone 4 | 2002 | 〇 | |||||
メイド・イン・マンハッタン | Maid in Manhattan | 2002 | 〇 | |||||
ベートーベン5 | Beethoven’s 5th | 2003 | 〇 | |||||
Mr.ボディガード/学園生活は命がけ! | Drillbit Taylor | 2008 | 〇 | |||||
お!バカんす家族 | Vacation | 2015 | 〇 |
芸術的評価
この映画は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
商業的成功
この映画の上映時間は102分と短く、割とサクッと観られてしまう作品である(何度も観返しているファンも多いと聞く)。出演者は若手俳優主体なこともあり、制作費6百万ドルと、1986年当時としても安く抑えられた一方で、世界興行収入は7千万ドルを超えた。実に11.7倍のリターンである。
”フェリス”というキャラクターは世間でアイコン化されているし、後の作品からのオマージュも散見されるヒット作である。
あらすじ (30分00秒の時点まで)
シカゴ郊外の比較的裕福な家庭に暮らすフェリス・ビューラー少年(マシュー・ブロデリック)は、ある朝高校をズル休みすることにした。ベッドに横たわり具合が悪い振りをし、両親の目を見事に欺く(あざむく)。
納得が行かないのは、端から仮病を見破っている妹のジーニー(ジェニファー・グレイ)だ。しかしフェリスは、巧みな小芝居に優しい両親への感謝の言葉を織り交ぜる念の入れようで、かえって父母を幸せな気持ちにさせてしまうほどの手練れである。
実はフェリスが仮病を使うのは今学期だけでも9回目。そろそろ言い訳もネタ切れだ。しかし、この日はとても気持ち良く晴れ渡った日なので、フェリスはとにかく今日一日を、今年度最後のチャンスと捉え、目一杯楽しむことにした。
「人生は足早に過ぎ去って行ってしまう。少しは立ち止まって周囲を見渡さないと、大事なことを見逃しちゃうよ」 – “Life Moves Pretty Fast. If you don’t stop and look around once in a while, you could miss it.”
というのが、フェリスの信条なのだ。
意気揚々とシャワーを浴びて、出掛ける準備を整えるフェリス。
風呂から出ると、本当に具合が悪くて自宅で寝込んでいる、親友であり、金持ち息子のキャメロン(ジェフリー・ジョーンズ)に再三に渡って電話をし、車で迎えに来るように強引に頼み込む。
学校に登校している生徒達とも電話で連絡を取り合い、具合が悪いと散々喧伝(けんでん)し、根回しもバッチリだ。
ただしジョーンズ校長(エドワード・ルーニー)は、フェリスの今学期9回目のサボりを見破っており、何とか仮病の証拠を掴もうといきり立ち始める。
そんな状況下でも、巧妙な作戦を繰り出して、ガールフレンドのスローアン(ミア・サラ)の公休早退をも勝ち取るフェリス。こうして、フェリス、キャメロン、スローアンの3人組は、他の生徒たちが学校で勉強をしているのを尻目に、シカゴの街へと繰り出して行く。
果たして3人はどんな Day Off (休暇) を過ごすのだろうか?このまま教師や親たちの目を欺き続けることができるのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。全てネタバレなしで書いていきますので、皆さんがこの映画をより味わい深く鑑賞するためのお手伝いが出来ると嬉しいです。
ポイントは、1980年代風のソフト反逆です。暴力を伴うようなあからさまな反抗ではなく、賢く、機知に富んだスタイルで権威に抵抗して行く様が、ジョン・ヒューズ・マジックにかかってユーモラスに描かれて行きます。
”フェリス少年” との共犯関係を作る ”第4の壁の破壊”
この映画は、とにかくマシュー・ブロデリック扮するフェリス・ビューラーという高校生を軸に、徹頭徹尾、彼の目線で物語が描かれて行きます。
このフェリス少年は、恵まれた環境で育ったはずなのに、社会に対して斜に構えた冷めた目を持っています。しかし、世間の全てに対して背を向けている訳ではなく、表面上は”良い子”として振舞っています。少なくとも両親はそう認識しています。チアリーダーの可愛い彼女スローアン(ミア・サラ)もいるし、周囲の生徒とのコミュニケーションもバッチリです。
そんな彼の裏の顔を見抜いているのは、登場人物の中では妹のジーニーや校長のルーニーといった、ごく限られた人間だけで、ともするとフェリスの二面性に我々観客は嫌悪感を覚えてしまうかも知れません。
そこでこれを回避するために登場する方策が、”第4の壁”の破壊です。
”第4の壁”というのは元は舞台用語で、舞台上の登場人物たちとそれを観る観客の間に存在する、目に見えない仮想の壁のことです。これを”第4の壁”と呼んでいます(背面が第1、下手が第2、上手が第3)。我々はこの概念的な壁があるお陰で、劇中の演者に気付かれず、至近距離から物語の目撃者になれるという、ある種の”お約束”が成立していると考えます。
ところがこの映画では、冒頭から主人公のフェリス少年が再三再四、スクリーンのこちら側に居る我々に、カメラ目線で話しかけてきます。つまり、初っ端から”第4の壁を破壊”してくるわけです。彼が映画の最初から、我々観客に本音を告白してくることで、否応なく我々は彼の”サボり願望”に共感し、彼の共犯者とさせられてしまいます。
そこへマシュー・ブロデリックの、何とも憎めないチャーミングさが加わるので鬼に金棒です。こうして、我々は彼と一体となって、エスケープ劇のスリルを楽しむのが、この映画の最大の見どころです!
ハッキリ言ってズルいです!
80年代風の権威への反逆(メッセージ)
シレーっと権威への反逆が描かれているのにもご注目です!
60年代のヒッピー・ムーブメントや70年代のベトナム戦争前後のようなあからさまな描き方ではないですが、この映画では80年代らしく”ソフトな反逆”が描かれています。
1980年代のティーンは、60年代や70年代のティーンとはノリが違うけど、彼らだって彼らなりの気骨はあるんだよというのが、隠れたメッセージなのかも知れません。
例えば、高校権威の象徴である校長との頭脳戦や、高級車の象徴であるフェラーリの扱い、高級レストランやその従業員を風刺的に描いたりと、ユーモアを忘れることなく、権威と権威の盲信者を、フェリスの目線で皮肉って行く様を、ちょっと意識してご覧になると、この映画がまた違った見え方がするかも知れません。
名言
この映画には、名言が幾つか登場します。ネタバレを回避するために、上記で「あらすじ」を述べた冒頭の30分に登場した分だけご紹介します。
「人生は足早に過ぎ去って行ってしまう。少しは立ち止まって周囲を見渡さないと、大事なことを見逃しちゃうよ」
“Life Moves Pretty Fast. If you don’t stop and look around once in a while, you could miss it.”
Ferris Bueller – from “Ferris Bueller’s Day Off”
決して反体制の反逆児という訳ではないフェリスですが、人生を太く短く生きる人生観を持っています。
「僕は『~主義』なんて信じない。自分を信じるのみだ。ジョン・レノンだって言っている『僕はビートルズを信じない。自分を信じるのみだ』ってね。的を射ているよ」
“I don’t believe in ‘isms,’ I just believe in me. John Lennon said, ‘I don’t believe in The Beatles, I just believe in me.’ Good point there.”
Ferris Bueller – from “Ferris Bueller’s Day Off”
とも言っています。シレーっと世の権威を否定していますね。
まとめ
いかがでしたか?
現在でも根強い人気を誇るこの秀作青春映画の水先案内人になれていると幸いです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 上映時間的にサクっと観れる! |
個人的推し | 3.5 | この力が抜けた感にどこまで共感できるか? |
企画 | 3.5 | ブロデリックさん一本足打法 |
監督 | 3.5 | 独特な軽快なノリよ! |
脚本 | 4.0 | 良く考えると深い |
演技 | 3.5 | ブロデリックさんの魅力! |
効果 | 3.5 | 特筆すべき点はそれほど・・・ |
このような☆の評価にさせて貰いました。
マシュー・ブロデリックさんのチャーミングな魅力!それに尽きるのかなと。この一本足打法で、軽快なノリでテンポ良く進む脚本が、特に奇をてらわない演出に則って、ユーモアたっぷりに描かれて行くといった感じです。
人を不愉快にする映画ではないと思っているので、この映画独特のノリに身を任せて、100分の上映時間を一気に鑑賞しちゃうのが、この映画の正しい楽しみ方だと思います。
女性ファンが結構多い映画なんですよねぇ(筆者調べ)