この記事でご紹介する「氷の微笑」は、1992年公開のエロティック・スリラー映画。この作品で、シャロン・ストーンの名は一躍世界中にとどろいた。先の読めないミステリーの展開や、過激な暴力描写もさることながら、シャロン・ストーンを軸にした生々しい性描写に牽引されて、1990年代のエロティック・スリラーの金字塔となった作品。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
この作品公開後10年ぐらいの間に作られた同ジャンルの作品は、大なり小なりこの作品を意識せざるを得なくなるほど、エロ・スリラーの基準を作った映画。良い面、悪い面含めて、果たしてどんな特徴、魅力があるのかを一緒に予習しませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始からの29分50秒の時点をご提案します。
ここまでご覧になると、この映画のテースト。事件捜査の発端。そして、主要登場人物の関係性が見えてきます。何より、この映画のテーストが分かるので、この映画が好きか嫌いかご判断頂くのに十分な情報が揃うと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「氷の微笑」(原題: Basic Instinct) は、1992年公開のエロティック・スリラー映画。主演はマイケル・ダグラス、監督はポール・バーホーベン。露骨な性的描写と暴力描写で、本国アメリカ国内で公開された際には、映画協会(MPAA)からR指定を受けた。
後述するように興行的にも大ヒット作であったのは間違いないが、それ以上に公開当時、その刺激的な描写で巷間の話題をかっさらった衝撃作であったことは間違いない。薄暗い取調室で、ノーパンのシャロン・ストーンが取調官を挑発するように足を組み替えるシーンは、あまりにも有名。
当時日本で公開された際は、アメリカ公開版と比較してシーンのカットは無かったものの、一部の描写にボカシ処理が施され”一般映画制限付(R)”(今で言うR15+指定)で公開された。なお、2023年には、公開30周年記念として4Kレストアの”無修正版”が日本でも公開された(こちらは、R18+指定)。
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マイケル・ダグラスのキャリアにおける位置づけ
主演のマイケル・ダグラスにとっては、今振り返ってみると本作が公開された1992年は、1990年代初の出演作公開の年であり、これにより、キャリアの絶頂期となる1990年代の幕開けを告げた年ということになる。本作公開時48歳。
マイケル・ダグラスは、1987年公開の「ウォール街」(原題:Wall Street) でアカデミー主演男優賞を獲得し、1989年「ブラック・レイン」(原題:Black Rain)、1993年の「フォーリング・ダウン」(原題:Falling Down)、1997年「ゲーム」(原題:The Game)、1998年「ダイヤルM」(原題:A Perfect Murder)、2000年「トラフィック」(原題:Traffic) と、この10年強の間に話題作、意欲作で立て続けに主演を果たしている。
特に、1987年の「危険な情事」(原題:Fatal Attraction)、1992年の本作「氷の微笑」(原題:Basic Instinct)、1994年の「ディスクロージャー」(原題:Disclosure) の3作においては、押しが強い女性キャラクター(それぞれ相手役は、グレン・クローズ、シャロン・ストーン、デミ・ムーア)の策略によって”運命に翻弄される男”を演じている。
ブルース・ウィリス(扮するジョン・マクレーン刑事)が、行く先々で何故か銃撃事件に巻き込まれる”世界一運の悪い男”なら、マイケル・ダグラス(が演じるキャラクター)は美人でセクシーな女に命運を左右される”うらやまけしからん男”といったところか。
ポール・バーホーベンとシャロン・ストーンのキャリアにおける位置づけ
相手役のシャロン・ストーン(本作公開時34歳)と監督のポール・バーホーベン(本作公開時54歳)にとっては、本作品はキャリアを飛躍させた大出世作になったと考えられる。
ポール・バーホーベンは、本作直前に「ロボコップ」(1987年)、「トータル・リコール」(1990年) と立て続けにヒット作を撮ってきたが、引き続いて監督を務めた本作「氷の微笑」(1992年) のヒットは前2作と段違いである。
一方のシャロン・ストーンは、バーホーベンに起用された「トータル・リコール」(1990年) の演技で、世間から一定の注目を集めたものの、翌1991年に出演した5本の映画は全てパッとせず。そして、1992年に出演したこの「氷の微笑」で、一躍世界のトップスターの仲間入りを果たしたことを考えると、シャロン・ストーンとポール・バーホーベンは、演者と演出家として非常に相性が良かったことになる。
商業的成功
本作品の上映時間は123分(完全でも128分)と、極めて一般的な長さである。製作費4千9百万ドルに対して、世界興行収入は3億5千3百万ドルと、7.2倍のリターンをもたらす超大ヒットである。
日本国内だけでも19億円の収入を上げていたことからも、いかに当時話題の映画だったのかを感じて頂けるのではないだろうか?
あらすじ (29分50秒の時点まで)
サンフランシスコ市内の大豪邸で、元ロックスターのジョニー・ボズが寝室のベッドの上で惨殺されるという事件が発生する。ボズは全裸のままベッドに両手を縛られ、シーツは血液と精液まみれであった。既に凶器はアイスピックと判明しており、全身31ヵ所を刺されたことが死因と断定される。
捜査を担当するのは、サンフランシスコ市警察のニック(マイケル・ダグラス)とガス(ジョージ・ズンザ)。殺害されたボズは、現在はナイトクラブ経営者で地元の名士。かつ、市長のゴルフ仲間だということもあり、事件は本部長肝入りの重要事案として扱われる。
ニックとガスは、手始めにボズの恋人キャサリン・トラメル(シャロン・ストーン)への聞き込みから捜査を開始する。キャサリンは前夜ボズの経営するナイトクラブから一緒に立ち去るところを目撃されていたからだ。
ニックとガスが訪ねたキャサリンの自宅も瀟洒な屋敷で、応対に出たメイドにより邸内に案内されると、そこには挑発的な若い女性ロキシー(レイラニ・サレル)しかおらず、キャサリンは別邸にいると言う。
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ニックとガスがその別邸へと移動すると、そちらも海岸沿いの断崖に立つ見事な屋敷であった。眺めの良いテラスに佇むキャサリンへ聴取を開始する2人であったが、キャサリンも知的で、ミステリアスな受け答えで彼らを挑発してくるのであった。何ら物的証拠のない2人は、その日は短時間の会話で彼女のもとを去る。
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一方でニック(マイケル・ダグラス)は、過去の捜査中に起きた、一般人も巻き込む死亡事故により、内務調査の対象にされており、精神科医との定期面談が義務付けられている。ところが、ニックと担当の女性精神科医ベス(ジーン・トリプルホーン)とは過去に恋愛関係にあり、現在ではベスの方がニックに未練があるというような状況だ。
捜査本部がキャサリン(シャロン・ストーン)についての情報を整理すると、犯行当夜キャサリンにはアリバイが無いこと、彼女が売れっ子ミステリー作家であること。そして、彼女のある著書で描かれた惨殺シーンと、今回のボズ殺害の様子が酷似していることが判明する。
捜査本部の犯人像の見立ては、キャサリンが裏をかいて自身の小説をなぞる類似殺害を強行した線、偏執的模倣犯が事件をコピーした線、キャサリンに罪を擦り付けようとした怨恨の線が挙げられ、捜査班はキャサリンに対する任意の事情聴取を決定する。
キャサリンを署の取調室に招き、質問を開始する捜査陣。彼女は取り調べに当たる男4人を相手取って、余裕の受け答えをするだけでなく、ミニスカートの足を目の前で組み換え、下着を付けていない下半身をさりげなく見せる等、薄く微笑みながら挑発を繰り返す。
特にニック(マイケル・ダグラス)に対しては、彼が禁煙中であること等、近しい人間しか知らない情報を得ていることを匂わせ、ニックへの興味を印象付けて行く。
果たして、元ロックスター・ボズを殺した真犯人は誰なのだろうか?謎は全く解かれないまま、ニックとキャサリンは急接近していく…
見どころ (ネタバレなし)
この映画見どころ、魅力について、ネタバレなしで幾つか述べてみたいと思います。鑑賞前の予習情報としてお役立てください。
独創的なプロット
まずは、映画の屋台骨となる脚本について考えてみたいと思います。結論を急ぐと、特徴的な企画、言い換えると独創的なプロットが、この映画をここまで魅力的なものにしていると言っても過言ではないと思います。
上記の「あらすじ」にも書きましたが、この映画のプロットは、出版済みのミステリー小説内の殺人事件の描写と、状況が著しく酷似した殺害事件が実際に起きる。ではこんな手の込んだことをする犯人は誰?という発想です。この独創的なアイデアが、この作品の下敷きになっていることで、作品に様々な要素を付け足せる強固な土台になっています。
さらに、その犯行の様子を視聴者に早々に共有してしまう、しかし犯人の顔は映さず誰が犯人なのか断定は出来ないという構成が、明々白々な犯行の手口と特定されない真犯人というギャップを生み、ある意味徹底して具象化された犯人像に劇中の登場人物を当てはめさせるという作業に、他のミステリー作品以上に視聴者をいざなう流れが巧みです。
脚本を担当したのは、ジョー・エスターハス。エスターハスは、「フラッシュダンス」(1983年) で高い評価を得た後、「白と黒のナイフ」(1983年)、「背信の日々」(1988年)、「ミュージックボックス」(1988年) と、非常に緊張感の高い作品の脚本を手掛けた後、この「氷の微笑」(1992年) の脚本を担当しました。
エスターハスは、既に述べた優れたプロットに、アクション要素、ミステリー・サスペンス要素、エロティックな要素を巧みに肉付けして、非常にスリリングなシナリオに本作を仕上げていると思います。
ポール・バーホーベンの演出
ポール・バーホーベンによる演出には、良い面と悪い面があるように思います。
良い面は、全編をとおしてミステリーとして非常に緊張感が高いです。目が行きがちなベッドシーンや、殺害シーンの他にも、詳細は割愛しますが、実はカーチェイスが結構スリリングです。
登場人物を、邸宅の前や、その屋内を歩き回らせ、その背景にその建物や室内の様子を映し出し、その結果その家主の暮らしぶりをさりげなく視聴者に示して行くアプローチは、映画のテンポを落とさず家主のキャラクターを紹介して行く手法として十分に機能しています。
あるいは、登場人物たちがアイコンタクトで会話をするシーンも多く、この演出が無駄な台詞を削り、この映画独特のサスペンス性を高めるのに一役買っているようにも思います。
また、有名な ”シャロン・ストーンのノーパン足の組み換えシーン” を含む取り調べのシーケンスは必見です。それは単にエロティックだからというのではなく、シャロン・ストーンと取調官との対峙が鮮明になるように演者を巧みに配置したり、スクリーン内の構図、カメラのアングル、パーン、ピント、そして演者の動きが、全て緊張感が高まるように設計されています。お見事です。
一方で悪い面ですが、性や暴力の描写をグロテスクに感じるかも知れません。ここまで明示的でなくても良いのではないか?とも思ったりします。品が無さすぎます。ここは好みが分かれるところではないでしょうか?
また、全般的に、カメラとキャラクターとの距離感に変化がなく、少し退屈さを覚えるかも知れません。
皆さんは、この映画をどんな風にご覧になるでしょうか?
シャロン・ストーンの演技
シャロン・ストーンの演技が素晴らしいです。この映画では、Bill Above the Title (=映画のタイトルが表示される前に名前がクレジットされること) 扱いの俳優はマイケル・ダグラスだけです。そういう意味ではこの映画の主演はマイケル・ダグラスただ一人。シャロン・ストーンは、”その他” の俳優陣の筆頭に過ぎない訳です。
しかし、マイケル・ダグラスの演技(というかニック刑事の立ち位置)は、”関係を持ってはいけない相手と…”様や、”やり手の刑事だが内部調査の対象になっている”様は、「危険な情事」(1987年) や「ブラック・レイン」(1989年) からの既視感が否めず、正直演技の新機軸を打ち出しているようには見えません。
一方で、”脇役筆頭” のシャロン・ストーンの演技は、裸体をスクリーンの前に惜しげもなく晒したというのみならず、性に奔放で、好奇心旺盛。そして、全てを見透かしたような余裕、底の知れない不気味さ。単に美人でセクシーな金髪美女というだけでなく、元 IQ150以上の天才児だった知性が滲む、魅惑のミステリー作家像を作り上げています。
彼女は、この映画のメガヒットで1990年代を代表するセックス・シンボルに上り詰めましたが、その演技はもっと評価されて良いと思います。皆さんの目にはどう映るでしょうか?
魅力的な脇役
脇を固める俳優陣も魅力的です。
ニック刑事の相棒となるガス刑事を演じるのはジョージ・ズンザ。脚本上でも、このガス刑事のキャラ設定・描写がシッカリしていて、暴走しがちなニック刑事を、このガス刑事の視座で追うことが出来ることで、映画全体にバランスがもたらされているように思います。
女性精神科医の役を演じるジーン・トリプルホーンの演技からも目が離せません。彼女の体当たりの演技も素晴らしいです。本作品が映画デビューだったとはとても思えません。
そして、忘れてはならないのがウェイン・ナイト。既に繰り返し述べている有名な ”取り調べのシーン” の為だけに投入されたと言っても過言ではない、チョイ役の検事補役で登場します。
シャロン・ストーン扮するキャサリンが、ノーパンで足を組み替えたり、股をちょっと広げたりする度に、ウェイン・ナイトの表情がアップで映し出され、その都度生唾を飲み込んだり、狼狽えたりする描写がなされます。このシンボリックなシーケンスにおける、全ての観客の目線の代表選手であり、反応の担い手であり、彼の演技なくして、このシーケンスのクオリティはここまで高まりません。ホントに楽しいですから、是非このシーンまでは観てください!(ジャッジタイムは、このシーンまで含みます)
ヤン・デ・ボンの撮影
この作品の撮影を担当しているのは、実はヤン・デ・ボンです。ヤン・デ・ボンは、この作品の2年後に「スピード」(1994年) で監督デビューを果たし、見事大ヒットをさせますが、この「氷の微笑」では撮影監督を務めています。
撮影を担った「ブラック・レイン」(1989年) や 「レッド・オクトーバーを追え!」(1989年) と同様、全体的に彩度を落とし陰鬱な色調を強調した撮影技法が、この「氷の微笑」にもハマっていると思います。裏がありそうな影とエロティックな雰囲気が作品全体を包み込んで、ミステリー性を高めていると思います。
ジェリー・ゴールドスミスの音楽
ジェリー・ゴールドスミスのBGMが手堅い仕事をしています。特に奇をてらわず、シーンに合わせて、雰囲気を補足する戦慄がバックで流れます。
ポール・バーホーベン監督からは、彼の前回作「トータル・リコール」(1990年) に引き続く起用で、監督から高い信頼を勝ち取っていた証左だと思います。
脚本、演出、演技、撮影、音楽と、映画を構成する主要要素について順に見どころを述べてみました。皆さんがこの映画をより味わい深く鑑賞するお手伝いが出来ていると嬉しいです。
まとめ
いかがでしたか?
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 1回は観ても良いと思う |
個人的推し | 2.5 | 観ようによっては単なるエロ・グロ |
企画 | 4.0 | ミステリー性が高い |
監督 | 3.0 | 単調…??? |
脚本 | 4.0 | サスペンス性が高い |
演技 | 3.5 | シャロン・ストーンは必見! |
効果 | 3.5 | 見せる工夫より、見せない工夫? |
1990年代を代表するエロティック・ミステリー映画ですので、1回は観た方が良いと思います。
ただ、既に述べたように、カメラと演者の距離感がずーっと一定なような気がします。もっと面白いカットがあった方が、変化が付くように思うのは筆者だけでしょうか?
シャロン・ストーンの演技は素晴らしく、過小評価だと思います。