この記事では、鬼才クリストファー・ノーラン監督に委ねられた、新たなバットマン三部作の第一作目「バットマン ビギンズ」を解説します。過去作品とは異なるバットマン像を、名優クリスチャン・ベールとどう創り上げて行っているのかを中心に書いて行きたいと思います。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作品を観続けるか、それとも中断して離脱するかを決めるジャッジタイムですが、
- 上映開始から32分30秒をご提案します。
ジャッジポイントまでが少し長めですが、ここまで来ないとストーリーの背景情報が像を結ばない。逆に言えば、ここまでご覧になれば、「ああ、こういうことだったのね」と経緯が理解でき、世界観、雰囲気も掴めると思うので、このポイントで判断することをお勧めします。
「これは引き込まれる!」と楽しめるのか、「うーん、ちょっと違うかも」と冷めるのか、ご自身でご覧になってお試しください!
新しいバットマン・シリーズはこうして始まって行きます!
概要 (ネタバレなし)
本作品の位置づけ
「バットマン ビギンズ」は、2005年に公開された、ご存知バットマンを主人公とするヒーロー・アクション物です。バットマンの映画化としては、1943年公開の「バットマン」から数えると9作目。1989年公開のティム・バートン監督の「バットマン」から数えると6作目に当たります。
本作は、クリストファー・ノーランを脚本、監督に迎えてリブートされた新たなバットマン・シリーズ、通称「ダークナイト三部作 (Dark Knight Trilogy)」(あるいは単にノーラン三部作)の記念すべき1作目です。3作通してクリストファー・ノーランが監督と脚本を務め(脚本は3作とも共著)、2作目以降は製作も務めるノーラン作品です。
ただし、もともとバットマンという有名なキャラクターは存在しており、かつ既存の複数の原作から着想を得て作られた作品なので、シリーズを通してノーラン・ワールド特有の難解さは影を潜め、あくまでも”バットマン”を尊重した描き方になっています。
きっとノーラン自身がバットマンが好きなんでしょうね。ノーラン作品にしては珍しく素直に楽しめる(?)と思いますwww
製作費は1.5億ドル。世界興行収入は3.73億ドル。この年の興行収入ランキングの9位に入る成功を収めた。アカデミー賞の撮影賞にノミネートもされていて、ノーランが紡ぎ出す独特の世界観が市場に受け入れられ、2作目、3作目へと繋がったんだと思います。
自身のキャリアにおいて、初めて1億ドル以上の製作品を託されたクリストファー・ノーラン。大金使っても、この暗くて屈折した映画を作るあたりがファンとして堪らないです!
あらすじ (32分30秒まで)
ゴッサム・シティ郊外の大邸宅に8代に渡って住む、超大富豪ウェイン家の一人息子として生まれたブルースは、幼少期に幼馴染のレイチェルと自宅の庭園内で遊んでいる際に、そこにあった古井戸に誤って落下し、井戸の底でコウモリの群れに襲われたことからコウモリがトラウマになってしまう。
父のトーマス・ウェインはウェイン産業という巨大グローバル企業のオーナー社長であるが、経営は専門家に任せ、自身は専ら医者として腐敗したゴッサム・シティを何とか救おうと奮闘している。そんなある日、トーマスとその妻マーサ、そしてブルースの3人は着飾って、ゴッサムの市街地にオペラの観劇に出掛けるが、劇中にコウモリを思わせる描写が出てきたことでブルースが取り乱してしまい、親子は劇を中座し裏口から劇場外に出る。
そこに運悪く富豪狙いの拳銃強盗チルが現れ、トーマス、マーサと揉み合っている内にチルが発砲し、トーマスとマーサはブルースの目の前で殺害されてしまう。ブルースは自身がコウモリを恐れたために両親が殺されたと傷つき、コウモリへの恐怖に加え、深い罪悪感も背負うようになってしまう。
執事のアルフレッドが、孤児となったブルースを何とか立派に育てようとするが、14年後いまひとつ学業に身の入らないブルースは大学を中退してしまう。そんな折強盗チルは市の公聴会に出て証言をすることになった。目的は、ゴッサム・シティを裏から牛耳るマフィアのボス、ファルコーニを有罪にするためだ。この報にブルースは、持参した拳銃でチルを殺害して両親の敵を自らの手で取ろうとするが、ファルコーニが差し向けた殺し屋が一足早く、ブルースの目の前でチルを殺害する。
自分が殺すつもりだった、代わりに正義はなされたと言うブルースを、正義感が強く検事補となったレイチェルは「それは正義ではない復讐だ。お父さまが悲しむ」と強く非難する。ヤケクソを起こしたブルースは、単身丸腰でファルコーニの元に乗り込み面と向かって非難する。しかしそれに対してファルコーニは、両親を殺される悲劇よりも、この街を覆う闇は深い、所詮ブルースは金持ちのボンボンで真理を何も分かっちゃいないと、ブルースをやり込める。手下たちに取り押さえられたこともあり引き下がらざるを得ないブルース。
意を決したブルースは、犯罪者の心理を知ろうと単身放浪の旅に出て、地元の犯罪者と盗みを繰り返す。しかしアジア(←中国風の場所)で警察に捕まり刑務所に収監されてしまう。刑務所内でも他のゴロツキとトラブルを繰り返し独房に収監されたある日、ラーズ・アール・グールの代理を名乗るデュカードという紳士から、悪を倒す実力を身に付けるために、自分たち「影の軍団」に入らないかとスカウトを受ける。
ラーズ・アール・グールに扮するのが渡辺謙。デュガードがリーアム・ニーソンだよ!
自分を見失いかけていたブルースはこの誘いを受け入れ、指示された通りヒマラヤ山脈にあるラーズ・アール・グールの屋敷を探し当てる。僧侶風の大ボス、ラーズが見守る中、日々軍団のNo.2 のデュカードの厳しい手ほどきを受けて、ブルースは心身共にメキメキと力を付けていく。
見どころ (ネタバレなし)
豪華キャスト競演!
この作品は、とにかく豪華キャストが揃い踏みですね。楽しみにしていてください!
まずはブルース・ウェイン/バットマン役に、憑依型俳優のクリスチャン・ベール。ティム・バートン版「バットマン」におけるマイケル・キートンの暗ぁーい感じも良かったですが、クリスチャン・ベール扮するブルース・ウェインがとにもかくにも屈折してて良い感じです。
孤児となったブルースを、執事として、友人として、親代わりとして何とか支えようとする役をマイケル・ケインが手堅く演じてくれますよ。マイケル・ケインは、クリストファー・ノーランの大のお気に入りなんでしょうね。本作で起用されて以降、「ダンケルク」「オッペンハイマー」を除くノーラン監督の7作品に出演することになります。
ブルースの幼馴染であり、成長した後は正義感が強い女性検事補という大変重要な役をケイティ・ホームズが好演しています。残念ながらケイティ・ホームズは、この作品のこの役がキャリアのピークと言われていて、トム・クルーズとの泥沼離婚のせいか、この後女優としては下り坂になってしまい、本シリーズの2作目「ダークナイト」で唯一継続出演しなかった俳優となってしまいます・・・
一癖も二癖もありそうなデュカードの役の、マスター・クワイ=ガン・ジンことリーアム・ニーソンが存在感たっぷりです。こういうストーリーに説得力を増してくれる俳優さんは観ていて安心しますね。期待してください!
渡辺謙さんが謎の坊主ラーズ・アール・グールの役で出て来ます。日本人の目から見たらちょっと謎・・・(笑)。これがこの後「インセプション」のサイト―役に繋がって行く訳ですから、ノーラン的には評価が高いんでしょう。
この他にも、ゲイリー・オールドマン、キリアン・マーフィー、ルトガー・ハウアー、モーガン・フリーマンと、主役級が続々と登場してくるので、楽しみにしていてください!
ゴッサム・シティの撮影箇所
バットマン・ファンの間では、ゴッサム・シティの伝統的なモデルはニューヨークだというのが定番なんですよね。それは何でも、ワシントン・アービングという作家が、「衆愚の町」と名高いイギリスのゴッサムという村の名前で、ニューヨークを皮肉ったことに由来するんですって、「ゴッサム・シティ」と。でも、本作品(と2作目の「ダークナイト」)では、シカゴでロケされたシーンが多いということで、ノーラン監督はどういう効果を狙って撮影地にシカゴを選んだんでしょうね?
固定化されていくノーラン・ファミリー?
マイケル・ケインがこの後ノーラン作品に7本出演する事実は既に書きました。本作「バットマン ビギンズ」には、この他にも本作品をキッカケにノーラン監督と仕事をし続けることになる演者、スタッフがいます。
演者側では、クリスチャン・ベールは「プレステージ」で。キリアン・マーフィーは「インセプション」と最新作の「オッペンハイマー(主演)」で。渡辺謙は既述の通り「インセプション」で。ゲイリー・オールドマンも「オッペンハイマー」で。
一方スタッフ側では、ノーラン監督の妻エマ・トーマスが本作以降全作品で製作に名を連ねます。音楽のハンス・ジマーと編集のリー・スミスが、「インセプション」「インターステラー」「ダンケルク」(リー・スミスは加えて「プレステージ」でも)で、ノーラン監督を支えることになります。
使える!と踏んだ演者やスタッフとは、とことん付き合っていく主義なんですかね?
その他の情報
筆者の本作に対する☆ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 暴力シーンと全体的な暗さは好みの分かれるところかと |
個人的推し | 4.5 | イチオシです! |
企画 | 5.0 | バットマン・シリーズをノーランに任せたやつにご馳走したい |
監督 | 4.5 | 結局このレベルに仕上げちゃう凄さ! |
脚本 | 4.0 | 青年期の放浪にあまり共感できない |
演技 | 4.5 | 豪華キャストの説得力が、ストーリーの説得力に直結! |
効果 | 4.5 | ストーリーの世界観をまさに定義している! |
いつもの如く、暴力シーンがあることは人によって好き嫌いが分かれるので自動的に減点対象。後は、この独特の暗さ、陰鬱な感じが好き嫌いが分かれるところでしょうか。個人的には大好きで超推したいところですが、冷静におススメ度を判断するとこの☆になります。
この「バットマン ビギンズ」は、クリストファー・ノーランが、自身のキャリアで初めて1億ドル以上の製作費を手にした作品です。ここからガンガンとメジャーな映像作家になって行く中興の作品です。
本作→「プレステージ」→「ダークナイト」→「インセプション」→「ダークナイト・ライジング」とサンドウィッチで本シリーズをこなして行った点についてはまた今度書きたいと思います!