この記事でご紹介する映画「ブレイブハート」は、1995年の歴史映画。メル・ギブソンが製作・監督・主演を務め、見事アカデミー賞5部門(作品賞・監督賞を含む)に輝いた超大作。13世紀末にスコットランドに実在したウィリアム・ウォレスの生涯をフィクションも交えて壮大に描く。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
エンターテイメント作品でありながら、後々スコットランドで独立の機運が高まったのに一役買ったとささやかれる本作品。登場人物の誰が実在の人物で、誰が架空の人物なのかなんて情報もある程度把握したりして、より広い視野でこの映画を眺めてみませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかのジャッジタイムですが、
- 上映開始から47分30秒の時点をご提案します。
ジャッジを下すまでに相当な時間を有しますが、全体が3時間弱の超大作であること、それから、英雄ウィリアム・ウォレスが蜂起するまでの経緯が丁寧に描かれることから、話が見えて来るまでに結構時間が掛かるんですよね。腹を括ってこの辺りまでまずは鑑賞されるのはいかがでしょうか?ここで離脱した場合でも2時間以上の時間を損切り出来ます。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ブレイブハート」(原題:Braveheart) は、1995年の歴史映画。13世紀末のスコットランドに実在し、イングランドへの抵抗の英雄となったウィリアム・ウォレスの生涯を描いている。ただし史実では、”Brave Heart”の愛称は、このウィリアム・ウォレスにではなく、本作品にも登場するロバート・ザ・ブルース(Robert the Bruce = ブルース伯ロバート)に付けられたと言われている。
また映画のタイトル(原題)は、Brave Heart と2語ではなく、”Braveheart” と一語(造語)で記述する。これによりタイトルを視覚的にコンパクトにし、”勇敢な心” というメッセージをより端的に表そうと企図していると思われる。
メル・ギブソンが、製作(他2人と共同)、監督、主演を務めており、メル・ギブソンの監督2作目となる(1993年公開「顔のない天使」が初監督作)。ギブソンは、監督2作目にして、後述するように高い芸術的評価を受けたことになる。
商業的な評価
本作品は、上映時間が177分(3時間弱)と長く、かつ大々的にエキストラを使った戦闘シーンが壮観である。その割には、製作費は7千2百万ドルと抑えられており、結果世界興行収入が2億1千3百万ドルを売上げ、3倍近いリターンをもたらした。下記の芸術的評価と相まって、大成功の作品である。
芸術的評価
本作品は、アカデミー作品賞、監督賞、音響効果賞、メイクアップ賞、撮影賞の5部門を受賞している。史実に忠実か否かの議論を脇に避けておいて、広大な草原、山岳地帯(撮影地はアイルランド)で、民兵を含むスコットランド軍と、正規の兵隊から成るイングランド軍とが、それぞれ民族衣装や化粧、軍服に身を包み、悠然と整列・対峙するビジュアルはまことに圧巻である。
登場人物の表情を描写する際はアップのカットを多用し、戦闘シーンでは引きの映像も織り交ぜながら、情勢の変化と登場人物の心理描写をバランスよく織り交ぜて行く構成は、3時間近い上映時間を長いと感じさせない。非常にすぐれた作品だと思う。
あらすじ (47分30秒の時点まで)
1280年にスコットランド王が世継ぎを残さずにこの世を去ると、イングランドのエドワード王が即座にその王位を奪い取った。しかし、地元スコットランド貴族もこれに激しく抵抗し、これは内戦へと発展し、ついにはエドワード王が休戦会談を申し入れるに至る。ところが、これはエドワード王の罠で、会談に臨んだスコットランド貴族とその配下は、納屋の中で一網打尽に首吊りにされてしまう。
残された農夫たちは、貴族に続いてイングランドと戦うべきか、大人しく従うかで激論を交わし、結果武器を集めてイングランドに抵抗することを決意する。農夫の一家の次男坊ウィリアム・ウォレスは、まだ幼いため村に残るが、父マルコム・ウォレスと兄ジョン・ウォレスは戦闘へと出撃する。
しばらくすると、数人の男たちのみが村に戻り、ウィリアム少年は、父と兄の戦死を知らされる。
父の葬儀が済むと、ウィリアムは伯父のアーガイル(ブライアン・コックス)に引き取られることになる。ウィリアムはここから、このアーガイルの下で教養と武芸を身に着けることになる。
一方ロンドンでは、エドワード王(パトリック・マクグーハン)の息子、皇太子エドワードⅡ世(ピーター・ハンリー)が、フランスの王女イザベラ(ソフィー・マルソー)を妃として迎えていた。
皇太子エドワードⅡ世は気弱な男で、一方のエドワード王は益々スコットランドへの征服欲を強める。ついに王は、スコットランド国内で貴族の初夜権(領内の娘が結婚する際に、その初夜を領主の貴族が奪えるという特権)を復活させ、イングランド貴族が競ってスコットランド国内に領土を持ちたがるように焚き付ける。
スコットランド国内では、次期国王の呼び声が高い第17代ブルース伯爵ロバート(アンガス・マクファーデン)を含むスコットランド貴族たちが、エジンバラで会議を開いていた。合意された方向性は、エドワード王には表面上抵抗を示さず、現状維持を目指すという物だった。
伯父の下で、知的で屈強な青年へと成長したウィリアム・ウォレス(メル・ギブソン)は単身故郷の村へと舞い戻り、幼馴染のハミッシュ(ブレンダン・グリーソン)やミューロン(キャサリン・マコーマック)との再会を果たす。一目でミューロンと恋に落ちたウィリアムは、領主の初夜権行使を避けるために、2人だけで秘密の結婚式を挙げる。
しかし幸せは長く続かない。美しいミューロンに目を付けたイギリス兵の1人が彼女を襲おうとする。ウィリアムは間一髪でこれを防ぎ、ミューロンを馬に乗せて森へと逃がそうとする。しかし、ウィリアムがイギリス兵の一団と戦っている間に、逃げ切れなかったミューロンはイギリス兵に捕らえられてしまう。
ウィリアムが、森の待ち合わせ場所でミューロンを待つ間、ミューロンは公衆の面前でイングランドから来た領主に処刑されてしまう。
ミューロンの死を知ったウィリアムは、イギリス兵たちが待ち受ける中、落ち着き払った表情で単騎馬にまたがり悠然と姿を現す。果たしてウィリアムは、この包囲網を突破することが出来るのだろうか?ウィリアムに勝算はあるのか?彼は生き延びることが出来るのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを、4つのポイントで整理してみたいと思います。どれもネタバレなしで書いていきますので、皆さんがこの映画をより味わい深く鑑賞するための予習情報になれると嬉しいです。
フィクション作品である
まず、この作品はフィクションであり、エンターテイメント作品であることを念頭に置き、そのつもりで鑑賞する方が、結果として存分に楽しめると思います。
例えば分かりやすい例で言うと、冒頭のナレーションから史実と異なるということが頻繁に指摘されており、この映画は「スコットランド 西暦1280年 (中略) スコットランド王は世継ぎを残さずに他界 非道で鳴る英国王”長すねのエドワード”がスコットランドの王位を奪った」と始まる。
ところが史実では、当該スコットランド王が亡くなったのは1286年で、かつエドワード王がその直後に王位を奪ったわけでもない(流石に即座に奪えるわけもない)。
また、スコットランドの象徴的民族衣装として、タータンのキルトが当然の如く劇中に登場しますが、肩に掛けるタイプ、スカート状のタイプ、どちらであっても、これらが一般的になるのは17世紀以降の話であり、本作の舞台である13世紀末にキルトを身に着ける風習はなかったものと思われます。
また、戦闘で顔に青い化粧を施す風習については、古代ローマ時代のケルト人が、戦闘の際にウォデ(woad)と呼ばれる植物から得られる青い染料で体を塗った記録はあるものの、13世紀のスコットランド人の風習ではないです。
キルトも青化粧も、スコットランド陣営の一体感や決意を、視覚的にも示す演出であり、時代考証の観点からは正しくない描写ということになってしまいますが、映画の芸術性という観点では非常に見目麗しく、視覚的効果は抜群です!
また、現在のスコットランドのラグビーファンが、母国代表の試合を観戦する際に、顔を青く塗り、そこに白の聖アンドリュー・クロスを施して応援する姿を見ると、この映画の強い影響力を感じざるを得ません。
とにかく、目で、耳で大いに楽しんで鑑賞しちゃいましょう!
死体の描写がリアル
好きか嫌いかは脇によけておいて、死体の描写が非常にリアルですね。監督のこだわりを感じます。言葉で説明するのは野暮なので、ご自身の目でお確かめ頂きたいのですが、上記で「あらすじ」を述べた範囲から、ワンカットだけ興味深いシーンを取り上げます。
それは、幼年時代のウィリアム・ウォレスが、戦場から運ばれてきた父の死体を目の当たりにしても、まだ父(と兄)の死を実感できないでいるシーンです。裸で横たわる父の遺骸の胸に幼きウィリアムが手でそっと触れた際に、恐らく、生前の父の温もりからは想像もできないぐらい冷たかったという演出なんでしょう、胸に当てた手を驚きから慌てて引っ込める演出がなされます。
このシーンからも分かるように、メル・ギブソン監督が死体を描く際に細心の注意を払って演出を付けていたことが想像されます。
ソフィー・マルソーの表情が印象的
シナリオ全般に登場する役どころではありませんが、ソフィー・マルソーの表情がとても印象的です。
時代考証的には、ウィリアム・ウォレスとは同時にイングランドに存在しなかったと指摘されることが多いイザベラ王女ですが、スコットランドとイングランドとの、二国間の真っ向勝負を描いている本作品において、第三国であるフランスから嫁いできた王女という目線が、この作品に新鮮な視座を提供してくれます。
そもそも見目麗しいので、観ているこっちの視線も自ずと釘付けになってしまうのですが、可憐でいて思慮深く、全てを見透かしているような気高い表情が、暴力と復讐の繰り返しに陥りそうになる本作の見事なアクセントとなっています。是非、その辺りも意識してご覧になると、この映画の奥行きを感じられると思います。
実在のキャスト
興味がおありでなければ、この節は飛ばしていただきたいですが、実在のキャストと、フィクションのキャストを仕分けしてみましょう。
- 実在のキャスト
- ウィリアム・ウォレス / ロバート・ザ・ブルース / エドワード王(Ⅰ世)/ エドワード皇太子(2世)/ イザベラ王女
- フィクションのキャスト
- マルコム・ウォレス(ウィリアムの父だが、実在の父はアランと言われる)/ ジョン・ウォレス (ウィリアムの兄だが、名前は不明) / ミューロン(ウィリアムの妻) / ハミッシュ(ウィリアムの幼馴染)/ キャンベル (その父) / スティーブン / モーネイ
となります。
ここまで4つのポイントに絞って、本作品の見どころを整理してみました。この映画をより味わい深く鑑賞するお手伝いが出来ると嬉しいです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
芸術的評価も高い本作品ですが、それ以上に、肩肘を張らずに、エンターテイメント作品として鑑賞する方が、結果的に楽しめるように思います。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 1995年を代表する作品です |
個人的推し | 3.5 | メル・ギブソンのサディストぶりがどうも… |
企画 | 4.0 | スコットランドにフォーカスするという新鮮さ |
監督 | 4.5 | 全般的に表情を読み取らせる演出は流石です! |
脚本 | 3.0 | エンタメ作品ということで… |
演技 | 4.0 | 皆さん素晴らしい演技です! |
効果 | 4.5 | 戦闘のリアリティ、山々の美しさ! |
アカデミー作品賞と監督賞を受賞した、1995年を代表する作品です。優れた芸術性とエンタメ性を兼ね備えています。
ただ、史実無視のエンタメ作品という言い方も出来るので、そこは割り切って鑑賞するのが良いと思います!台詞少な目で、台詞とは裏腹な表情が何かを暗示する演出が秀逸です。それを寄りのカットで抜いて行く。ただし、戦闘シーンでは壮大な引きのカットも含め、バッタバッタと敵をなぎ倒すカットが続くということで、バランスが素晴らしいと思います。
アメリカ生まれのオーストラリア育ちのメル・ギブソンが、スコットランドを題材にしたハリウッド映画を撮るというめぐり合わせ!