「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」は2002年公開の、詐欺師を題材にした物語。若き天才詐欺師をレオナルド・ディカプリオが演じ、それを追うFBI捜査官をトム・ハンクスが演じている。監督・製作はスティーブン・スピルバーグ。
この作品は、フランク・W・アバグネイルの伝記的小説を原作にしており、アバグネイル自身の、8回身分を詐称し、26か国で金融詐欺を働いたとされる実話に基づいている。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
この映画は、人を欺く手口の鮮やかさと、詐欺師と捜査官の逃亡追跡劇に加え、人間なら誰もが持つ、容姿や肩書に騙されるという権威主義に対する皮肉も描かれており、人の本当のアイデンティティって何だっけ?を軽妙なタッチで問いかけて来る秀作です。
141分という長尺作品を観ることをためらっている方は、この記事で予習してから観るかを判断されるのはいかがでしょうか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から29分00秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この作品の、凝った編集とストーリーテリングの巧みさが垣間見えると思います。そして、まだ10代の主人公が、どんな経緯(いきさつ)で幸せな日々からはじき出されてしまうかも掴めると思うので、この先もご覧になるかを判断される最短のタイミングになるかと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(原題:Catch Me if You Can) は2002年公開の映画。詐欺師とそれを追うFBI捜査官の追いつ追われつの逃亡追跡劇を、ユーモラスに、でも動機まで掘り下げて描いた作品。
若き天才詐欺師をレオナルド・ディカプリオが、これを執拗に追うFBI捜査官をトム・ハンクスが熱演している。製作(ウォルター・F・パークス)と監督をスティーブン・スピルバーグが務めている。
スティーブン・スピルバーグとトム・ハンクスがコンビを組むのは、「プライベート・ライアン」(1998年) 以来2度目のことである。
邦題 | 原題 | 公開年 | 監督 | 主演 | 世界興行収入 |
プライベート・ライアン | Saving Private Ryan | 1998年 | スティーブン・スピルバーグ | トム・ハンクス | 4億8千2百万ドル |
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン | Catch me if you can | 2002年 | スティーブン・スピルバーグ | レオナルド・ディカプリオ | 3億5千2百万ドル |
ターミナル | The Terminal | 2004年 | スティーブン・スピルバーグ | トム・ハンクス | 2億1千9百万ドル |
ブリッジ・オブ・スパイ | Bridge of Spies | 2015年 | スティーブン・スピルバーグ | トム・ハンクス | 1億6千5百万ドル |
原作本
この映画には原作本がある。それは、フランク・W・アバグネイルが1980年に出版した半自伝的小説、その名も「Catch Me If You Can」である。この本は、若い頃数年間に渡って本当に詐欺を働いていたフランク・W・アバグネイルの半生を、スタン・レディングというライターが脚色を加えて描いた物語である。
つまり実話ということである。
アバグネイル自身は、身分詐称、小切手詐欺を繰り返し、更に勾留中の逃走を行った実在の犯罪者であることは間違いない。しかし、この小説ではその犯行の回数等は若干盛られて語られていることが既に指摘されている。アバグネイル本人も、『これは物語であって伝記ではない』という主旨の発言をしている。
そういう意味で、「Catch Me if You Can」は、半自伝的小説という位置付けが正しいと思われる。
また、映画化に当たっては、当然のことながら更に一定の脚色がなされている。特にトム・ハンクスが演じたFBI捜査官、カール・ハンラティについて、映画と原作では大きな差異がある。
アバグネイルの追跡にジョセフ・シェイ(Joseph Shea)という実在のFBI捜査官が関わったことは知られているが、シェイ捜査官は映画のように長期にわたってアバグネイル追跡を担当した訳ではない。トム・ハンクス演じるハンラティ捜査官は、複数の実在FBI捜査官を混ぜ合わせて創り出されたキャラクターと言われている。
“Catch Me if You Can” の意味
その原作本と映画のタイトルになっている”Catch Me if You Can”の意味だが、直訳すると「捕まえられるものなら、捕まえてみな!」という意味になる。日本語に該当するのは「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」の意味である。
逃亡犯と捜査官のイタチごっこを端的に表しているタイトルである。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、96%とこの上ない支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”実在の天才詐欺師フランク・アバグネイルに扮した、レオナルド・ディカプリオの強力なパフォーマンスのお陰で、スティーブン・スピルバーグは、スタイリッシュで軽やかに楽しめ、そして驚くことに甘い映画を創り上げた” と、評されている。
商業的成功
この映画の上映時間は141分と、結構ボリューム満点な視聴体験になると思う。そして、5千2百万ドルの製作費に対して、世界興行収入は3億5千2百万ドルと、6.77倍のリターンをもたらした。
絶対額としても特大のヒットであるし、相対的な利益率も相当なものである。観客動員が見込めるレオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスを起用し、スティーブン・スピルバーグがエンタメ作品を作れば、このぐらいの興行成績は当然の結果なのだろうか???
あらすじ (29分00秒の時点まで)
1977年、30歳のフランク・W・アバグネイル(レオナルド・ディカプリオ)は、「To Tell the Truth」というクイズ番組に出演していた。この番組は、特異な経歴を持つ人物を他の一般人2人と混ぜて出演させ、3人全員にその人物に成り切る演技をさせる。回答者は質疑応答をヒントに、3人の内の誰が本物かを当てるというクイズだ。
今日のお題は、『驚異的な頭脳を持つ詐欺師、フランク・W・アバグネイル』。回答者が今回、パイロットのユニフォームで身を固めた3人の中から当てたいのは、かつてパイロットになりすまし、無料で320万キロの空の旅をだまし取った男。
1964年から1967年に、パン・アメリカン航空のパイロット、ジョージア病院の主任小児科医、ルイジアナ州の検事補佐になりすまし、アメリカの50州と世界26か国で、総額400万ドルの小切手偽造を働いた男。しかもそれらは、19歳の誕生日を迎える前に行われた犯行という驚異の天才詐欺師。
時は戻り、1969年のクリスマス・イブ。場所はフランス、マルセイユの刑務所。FBI捜査官、カール・ハンラティ(トム・ハンクス)は、収監中の囚人フランク・W・アバグネイル(レオナルド・ディカプリオ)のもとを訪れていた。目的はフランクの身元を引き取り、アメリカへ移送すること。
フランク(レオナルド・ディカプリオ)は、看守のほんの一瞬の隙も見逃さず脱獄を試みるも、劣悪な収監環境で衰えていた体力のせいで、あえなく捕まり、ハンラティ捜査官(トム・ハンクス)に引き渡されてしまう。
時は更に6年遡り、1963年。場所はニューヨーク州ニューロシェル。フランク(レオナルド・ディカプリオ)の父、フランク・アバグネイル・シニア(クリストファー・ウォーケン)は、ニューロシェルの名士として、地元のロータリー・クラブの58番目の終生会員に選出され、その祝賀パーティーが行われていた。
妻のポーラ(ナタリー・バイ)も15歳の息子フランク・ジュニア(レオナルド・ディカプリオ)もとても誇らしげである。特にフランク・ジュニアは、第二次大戦で出征したフランスで、町一番の美女ポーラと恋に落ち、戦後はニューヨークで商売を営む父フランク・シニアを大変尊敬しており、郊外の大邸宅で暮らす家族は円満そのものであった。
ところが、そんな幸せも長くは続かない。フランク・シニアの会社が国税庁から脱税を指摘され、追徴課税により資金繰りが急速に悪化したのだ。そこでフランク・シニアは、ニューヨーク市内のチェイス・マンハッタン銀行に緊急で短期融資を依頼することにする。
ただし、銀行を訪れるに当たって、まずはフランク・ジュニアを伴って町の紳士服店に行く。そこで、女性店員をネックレスで言葉巧みに買収し、売り物の黒の新品スーツを、無理やり1日だけレンタルさせる。
フランク・ジュニアは、このスーツと帽子で身なりを整え、フランク・シニア自慢の白のキャデラックの運転手の振りをする。親子は銀行の正面にキャデラックを乗り付け、支店長が見ている目の前で、運転手に見送られた企業経営者が銀行に悠然と乗り込んで行く姿を演出する。
しかし結局、残念ながら融資は断られ、アバグネイル一家は生活に困窮するようになる。フランク・シニアは潔くキャデラックと邸宅を売却し、一家は小さなアパートに引っ越し、質素な生活を送ることにする。妻のポーラだけがこの転落劇を受け入れられないようであった。
そんな中、フランク・ジュニアは16歳の誕生日を迎える。フランク・シニアは妻のポーラには内緒で、誕生日プレゼントとしてフランク・ジュニア名義の当座預金口座を開設する。しかも、口座を開設したのは、融資を断ったあのチェイス・マンハッタン銀行だ。
当座の入金額はわずか25ドルであったが、フランク・シニアは息子に小切手帳を手渡しながらこう言い聞かせる。これでお前もチェイス・マンハッタン銀行の立派な顧客だ。ミリオネア・クラブの仲間入りだぞと。手にした50ページの新品の小切手帳を繰りながら、フランク・ジュニアは大人の階段を登ったような夢見心地になる。
生活レベルの切り替えに伴い、フランク・ジュニア(レオナルド・ディカプリオ)は、授業料の高い私立高校から公立高校へと転校する。初登校の日、私学時代の制服のブレザーのまま学校に到着すると、早速筋肉自慢のフットボール部の学生から嫌がらせの洗礼を受ける。
フランク・ジュニアが最初の授業「フランス語」の教室をようやく探し当てると、先程の嫌な筋肉学生が目に入った。彼らの会話に耳を傾けていると、どうやらこの授業には今日から代理教員が赴任してくるらしい。そこで閃いた(ひらめいた)フランク・ジュニアは、とっさにその代理教員に成りすまし、始めた授業で筋肉学生を全員の前に立たせて、大恥をかかせるという反撃に出る。
フランク・ジュニアのこの教員詐称行為は、何とその後も1週間露呈しなかった。しかし、遂に発覚した際には、両親が校長から呼び出しを喰らう。母は驚くと同時に怒ったが、父のフランク・シニアは「してやったりだな!」と一緒にこの離れ業を喜んでくれる。
さて、フランク・ジュニアが新しい生活にも慣れてきた頃、母ポーラは喫煙量も増えて行き、挙動が不審になっていく。ある日フランク・ジュニアが家に帰ると、ロータリー・クラブの会長ジャック(ジェームズ・ブローリン)が、父の不在中に来訪していた。母の態度は妙によそよそしく、この訪問についての口止め料10ドルまで渡してくる始末だ。
更にしばらく日が経つと、今度は弁護士が突然家に現れて、両親の離婚を告げた。母は既にフランスから呼び寄せた自分の母親と共に荷造りを始めており、フランク・ジュニアが父母のどちらに事情を訊いてもまともな返答は得られない。弁護士だけがやたらと話しかけて来て、所定の書類へ署名をするよう求める。
その記入の意味は、養育権を父母のどちらが保持するかの同意書であり、それは同時に、両親のどちらとこれから暮らすかの選択であった。
崩壊していく家族の形。突然の両親の離婚。父母どちらかとの訣別。迫られる決断。16歳のフランク・ジュニアには、この突然の衝撃を受け止めるだけの裁量はまだ無かった。彼は発作的に自宅を飛び出し、鉄道駅へと向かう。そして、ニューヨークのセントラル駅までの切符を購入する。父が贈ってくれた小切手で。
この後、フランク・ジュニア(レオナルド・ディカプリオ)は、どんな経緯を経て、若き天才詐欺師へとなって行くのだろうか・・・?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを、沢山書きたい欲求をグッと堪えて3つに絞って述べてみたいと思います。ハラハラドキドキのこのストーリーにおいて、こんな点にご注目頂くと、より味わい深く鑑賞できるんじゃないかと言うご提案ポイントだとお考え下さい。
どれもネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。
偉大な父性を体現するクリストファー・ウォーケン
この映画は、レオナルド・ディカプリオ演じる若き天才詐欺師フランク・W・アバグネイル・ジュニアの物語です。その鮮やかな詐欺の手口が、次々と描かれていきます。
しかし、この映画の非常に味わい深いところは、彼を単なるトリック・スターとして描くのではなく、何がこの早熟な少年を、身分詐称(=『権威』を身にまとう)や、小切手詐欺(=簡単に『富』を得る)へと駆り立てて行ったのか?その動機も合わせて掘り下げて行く点です。
そして、その謎を解くカギが、父フランク・シニアの存在であり、その父子関係です。
そこでは、オスカー俳優クリストファー・ウォーケンが、ガッツリその父親像を演じ切っている点にご注目です。
上記の「あらすじ」を述べた映画の冒頭でも、フランク・ジュニアが父フランク・シニアを敬愛している様子が丁寧に描かれます。父親は、出征先のフランスから美女を連れ帰った戦争の英雄であり、事業経営者であり、常に身なりも美しく、地元の名士として一目置かれている存在です。
同時に、その優れた知性と大胆さにより、気の利いたアイテムを準備して、他人の心の弱さに付け入る狡猾さも兼ね備えています。
しかし、そんなフランク・シニアも、国税庁という国家権力の前では富も名誉も奪われ、遂には妻にも裏切られるという屈辱を味わいます。
フランク・ジュニア(レオナルド・ディカプリオ)が、何を追い求めて詐欺行為に至るのかを正しく理解するためには、まずこの”父性”の部分をシッカリと押さえておく必要がありそうです。
「2匹のネズミがクリームの中に落ちた。1匹はすぐ諦めて溺れ死んだが、もう1匹はもがき続けている内に、クリームがチーズになって、そのネズミは這い出ることが出来た」
とか
「ヤンキースがいつも勝つのは、相手チームはピンストライプのユニフォームに目を奪われているからだ」
といった、哲学的名言にもご注目ください!
人は見た目が9割?
「人は見た目が9割」なんて本もありますが、この映画でも、人が、服装、振舞い、経歴、肩書といった、目の前の相手が物理的に、あるいは社会的に身にまとうことが出来る外套に、判断を狂わされて行く様が、少しシニカルに描かれます。
単なるコメディでは終わらせないよっていうスティーブン・スピルバーグ監督のイタズラ心が込められているように思います。ご期待ください。
制服って何を象徴しているんだろう、信頼と尊敬って何に対して払われるべきなんだろう、お金や富って何が伴えば心から誇れるんだろう、そして詰まるところ、自信と誇りって何なんだろう?この映画をじーっと眺めていると、この辺りが実はテーマ(主題)なのかな?
物質的に豊かで、見目麗しいけれど、その裏には虚無しか無い男と、
見た目は冴えないし、安月給で侘しい生活を送っているけど、常に本物を追求している男。
追われる者と追う者とで、クッキリとした対比の構図を作り出し、この映画のテーマにフォーカスを当てて行きます。皆さんの目にはどう映りますでしょうか?
ストーリーテリングと凝った編集
本作はご覧になり始めると、そのスピード感に圧倒されるかも知れません。
そして、ワインのエチケット、ダンス、小切手帳、制服、高級スーツに高級車・・・
象徴的なアイテムが要所要所で登場し、多くを語らずとも主旨が伝わる、ストーリー性が高い示唆に飛んだビジュアルが次々と現れます。
また、編集によって時系列が前後入れ替えられる手法も随所で取られており、『先が全く読めない』というより、『どんな経緯でここに至った?』ということに、観客の興味が向くように工夫されています。
エンターテイメント性の高いジェットコースターに乗り込むつもりで、ご覧になると良いんじゃないかと思います。
まとめ
いかがでしたか?
人間大好きスティーブン・スピルバーグが、追う者と追われる者、その周囲で騒動に巻き込まれる者をカラフルに描いた作品だと思います。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | ベタと言えばベタ |
個人的推し | 3.5 | ちょっと長いかな・・・ |
企画 | 3.5 | 当然映画化しますよね |
監督 | 4.0 | このセット、このキャストで5千2百万ドルは驚異的! |
脚本 | 4.5 | 詐欺師を父子関係から深掘る! |
演技 | 4.0 | レオ様の振れ幅が凄い! |
効果 | 4.5 | 編集が秀逸! |
このような☆の評価にさせて貰いました。
当たり前すぎて書き損ねてましたが、レオナルド・ディカプリオの演技が凄いです。公開時28歳。この年齢で高校生役をやって成立させちゃう、ある意味、演技の”詐欺師”ゆえに、この物語に説得力が生まれてきますね。
これだけの豪華キャストと、大掛かりな舞台装置もありながら、5千2百万ドルの製作費で仕上げたスピルバーグって凄すぎません?