この記事でご紹介する「ガタカ」は1997年公開の近未来SF映画。近未来の社会生活においては、先天的に優れた遺伝子を持つ「適正者」と持たない「不適正者」が、ふるいに掛けられた人生を送るという、遺伝子選択差別社会を描いた作品。
主演の「不適正者」を演じるのはイーサン・ホーク。その脇をユマ・サーマンとジュード・ロウが固めます。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
本作は、脚本と監督のアンドリュー・ニコル自らが構想したストーリーで、アンドリュー・ニコルの監督デビュー作。「パルプ・フィクション」(1994年) を見出したことで知られるジャージー・フィルムズが製作会社となっています。遺伝子学の進化が、個人のポテンシャルを定量的に予見してしまい、戦う前から勝ち組と負け組を選別する新たな差別を描いた作品でもあります。
この映画の独特な世界観をこの記事で予習して、この作品を存分に楽しむ準備をしませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から18分50秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この作品の雰囲気、トーン、世界観がつかめると思います。そして、「不適正者」の烙印を押された主人公が、どこから来て、どんな状況に置かれ、そしてどこに向かおうとしているのかが見えてくると思います。
この映画を好きか嫌いか判断する一番早いタイミングとしてご提案します。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ガタカ」(原題:Gattaca) は、1997年公開の近未来SF映画。近未来の人類社会では、生物遺伝子学の劇的な進化によって、人間が誕生するのと同時に、先天的に優れた遺伝子を持つ「適正者」と、持たない「不適正者」とを選り分けられてしまう世界を描く。
この選別データは社会全般で共有され、職業選択にも影響を及ぼす。「適正者」はより条件の良い職業にフリーパスで就業でき、「不適正者」は採用試験すら公平に受けられない。劇中で描かれるこの差別的遺伝子選択社会では、先天的なポテンシャルの高さのみが正義であり、努力や挑戦、限界突破という発想そのものが封殺されている。
現代社会に蔓延(はびこ)る、目や肌や髪の色といった外見属性による差別を飛び越え、その人が誕生時に持ち得た潜在能力属性で人を差別するという、閉鎖的なエリート社会を準備して、そこに「不適正者」の烙印を押された主人公を登場させることで、メッセージ性の高いドラマ映画に仕上げている。
タイトル「Gattaca」の意味
タイトルの「ガタカ」の英語のスペルは ”GATTACA” である。この単語はご覧の通り7つの文字の配列となっているが、良く見るとその構成要素はGとAとTとCの4種類しかない。
これらは、Guanine(グアニン)、Adenine(アデニン)、Thymine(チミン)、Cytosine(シトシン)という、DNAを構成する4つの塩基の頭文字になっており、この映画の主題を示唆するものとなっている。
ジャージー・フィルムズ社による映画化
この作品の製作を担当しているのは、ジャージー・フィルムズ社である。ジャージー・フィルムズは、ダニー・デヴィートとマイケル・シャンバーグにより設立され、後にステイシー・シェアが共同経営に加わった映画制作会社である。
同社は、「パルプ・フィクション」(1994年) を見出した会社として知られ、本作でもダニー・デヴィートが、アンドリュー・ニコルの持ち込み企画に対して、その構想段階でのアイデアの具体性に感銘を受け、この「ガタカ」への投資を決定したという経緯がある。
脚本・監督のアンドリュー・ニコル
本作は、脚本と監督を務めたアンドリュー・ニコルの監督デビュー作である。アンドリュー・ニコルは、「ガタカ」(1997年) 、「トゥルーマン・ショー」(1998年) 、「シモーヌ」(2002年) 、「TIME/タイム」(2011年) で、脚本と監督を務めている(※「トゥルーマン・ショー」では、監督はピーター・ウィアーに交代になった)。
アンドリュー・ニコルの作風には特徴がある。それは、進化したテクノロジーも使い方を誤ると、それに振り回される者、それによって不利益を被る者が出現する危険性を炙りだし、そうした思想的に偏った社会とヒューマン・ドラマを絡めて、情緒的なストーリーテリングをする名手である。
下表で、アンドリュー・ニコルのフィルモグラフィーを整理しておく。
公開年 | 邦題 | 原題 | 原案 | 監督 | 脚本 | 製作 | 製作総指揮 |
1997年 | ガタカ | Gattaca | 〇 | 〇 | |||
1998年 | トゥルーマン・ショー | The Truman Show | 〇 | 〇 | |||
2002年 | シモーヌ | S1m0ne | 〇 | 〇 | 〇 | ||
2004年 | ターミナル | The Terminal | 〇 | 〇 | |||
2005年 | ロード・オブ・ウォー | Lord of War | 〇 | 〇 | 〇 | ||
2011年 | TIME/タイム | In Time | 〇 | 〇 | 〇 | ||
2013年 | ザ・ホスト 美しき侵略者 | The Host | 〇 | 〇 | |||
2015年 | ドローン・オブ・ウォー | Good Kill | 〇 | 〇 | 〇 | ||
2018年 | ANON アノン | Anon | 〇 | 〇 | 〇 |
キャスト(登場人物)
「ガタカ」の主なキャスト(登場人物)は以下の通りである。
そんなに登場人物が多いストーリーではないので、混乱は少ないと思う。
役名 | 俳優 | 役柄 |
ヴィンセント・アントン・フリーマン | イーサン・ホーク | 主人公。「不適正者」として生まれる |
アイリーン・カッシーニ | ユマ・サーマン | ヴィンセントの同僚の女性 |
ジェローム・ユージーン・モロー | ジュード・ロウ | 「適正者」。元エリート水泳選手。 |
アントン・フリーマン | ローレン・ディーン | ヴィンセントの弟。「適正者」 |
ジョセフ | ゴア・ヴィダル | ガタカ航空宇宙局長 |
ヒューゴ | アラン・アーキン | 殺人事件を追う捜査官 |
シーザー | アーネスト・ボーグナイン | ガタカのビル清掃課長 |
レイマー | ザンダー・バークレー | ガタカ航空宇宙局で、血液・尿検査を行う医師 |
遺伝学者 | ブレア・アンダーウッド | 弟アントンの人工授精を受け持った医師 |
ジャーマン | トニー・シャルーブ | 「適正者」の遺伝子を売り買いするブローカー |
マリー | ジェイン・ブルック | ヴィンセントとアントンの母 |
アントニオ | イライアス・コティーズ | ヴィンセントとアントンの父 |
ヴィンセント | メイソン・ギャンブル | ヴィンセントの幼児期 |
アントン | ヴィンセント・ネルソン | アントンの幼児期 |
ヴィンセント | チャッド・クリスト | ヴィンセントの少年期 |
アントン | ウィリアム・リー・スコット | アントンの少年期 |
商業的成果
この作品の上映時間は106分と標準よりやや短め。割と淡々と進んで行くストーリーなので、退屈しないで終わる適性な長さかも知れない。製作費は3千6百万ドルと言われており、世界興行収入は1千3百万ドル程度。完全な赤字映画である。
しかし、この作品は、高いメッセージ性とレトロフューチャリズムと呼ばれる美しい映像により、カルト的な人気を博すに至り、今でもコアな映画ファンのベスト・ムービーにリストアップされることも多い作品であるのは間違いない。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では82%という高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。総評においても「『ガタカ』は知的で科学的に挑戦的なサイエンスフィクションドラマ」として評され、「科学の本質に関する重要な倫理的問いを投げかけている」と捉えられている。
あらすじ (18分50秒の時点まで)
近未来社会。世の中は、先天的な遺伝子の優劣によって「適正者」と「不適正者」を選り分けている。これは法令上は違法行為だが、現実に目を向けると、遺伝子により就業の機会が制限される差別社会を生んでいる。
ジェローム・モロー(イーサン・ホーク)は宇宙飛行士。1週間後には土星に向けた宇宙飛行に出発する。これは彼にとって初の宇宙飛行であり、長年の悲願である。彼は勤務先で、自分本来の遺伝子を特定できる老廃物を一切残さぬよう細心の注意を払い、日々行われる血液検査、尿検査は他人の物をコッソリ提供し、人物証明を詐称している。
毎日10数便のロケットが土星に向けて打ち上げるこの時代にあっても、宇宙飛行士に選抜されることは容易なことではない。幾つもの厳格な適性試験に合格するのはもちろんのこと、何より遺伝的に「適正者」でなければならない。
生まれながらに優れた資質を兼ね備えた「適正者」であるジェローム・モローにとって、それらのハードルをクリアすることはたやすいことであった。ただ彼(イーサン・ホーク)には大きな秘密がある。それは、彼は本当はジェローム・モローではないということだ。
彼の本当の名は、ヴィンセント・アントン・フリーマン(イーサン・ホーク)。両親が妊娠に際し、時代遅れの自然受精を選択したために、慢性的心臓疾患を患って生まれ、推定寿命が30.2歳という、「不適正者」の中でもひときわ不適正な先天資質を持って生まれてきた男だった。
両親はヴィンセント・アントンでの失敗に凝りて、次の子を受胎する時は、遺伝学者の監修の下、厳格に選別した受精卵から、更に劣性遺伝要素を排除して出産した。こうして生まれたのが弟のアントンだ。
弟のアントンが、父アントンや母からの期待を一身に集めるようになるのは当然の成り行きだった。ヴィンセント・アントンが物心つく頃には、2歳下の弟に体格で追い越され、海で行う遠泳競争でも弟に勝てたためしが無かった。
だがヴィンセントはどういう訳か宇宙飛行士になる夢を抱くようになる。両親とも、先天的な心臓疾患を理由に宇宙飛行士は無理だとヴィンセントを説得したが、彼は少ないチャンスに賭けたいと聞く耳を持たなかった。
ところがこの社会の現実は甘くなかった。宇宙開発企業に就職しようにも、偽造した履歴書や適性試験の出来に関係なく、遺伝子検査が行く手を阻むのだ。
だがそんなある日、ヴィンセントは遂にアントンに遠泳競争で勝利する。努力によって体力差を逆転させたのだ。そして、ヴィンセントは家族を捨てて家を出て行く。
果たして、ビンセントはどんな経緯を経て、ジェローム・モローの名を騙る(かたる)ようになるのだろうか?そして、ヴィンセントは、ジェローム・モローとして無事に土星に旅立つことが出来るのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つだけ述べさせてください。こんな目線でご覧になると、より味わい深く本作品を鑑賞できるのではないかというご提案です。
全てネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。より良い鑑賞のお役に立てると嬉しいです。
レトロフューチャリズム
この映画で真っ先に目に付く特徴は、その映像美だと思います。画面は全体的に色彩が抑えられ、暖色系のトーンに色合いが統一されていて、どことなく懐かしさを覚えます。
そして、近未来を描いた作品のはずなのに、劇中に登場する自動車、機械、家屋、制服、スーツは全てクラシック・スタイルのものばかりです。近未来感はありません。
こうした、未来(フューチャー)を20世紀中盤ぐらいの過去からの未来予想図で描くアプローチを、レトロフューチャリズムと言います。
この映画はディストピア映画(悲惨な未来を描く映画のジャンル)だと思いますが、レトロフューチャリズムを採用することで、観客が劇中の世界観に親近感を覚え、劇中の問題提起を遠い未来のことではなく、自分事(じぶんごと)として捉えてくれることを狙っているのではないでしょうか?
未来のことではなくて、身の回りで起きていることのように感じるから不思議
遺伝子選択に対する倫理的な問い
この映画の最大の見どころは、遺伝子選択社会の是非ではないでしょうか?
持って生まれた先天的な遺伝子で、その人の将来や、社会的な地位が決定付けられてしまう社会。そんなバカなことはあるか!倫理的に許されてたまるかって直感的には思いますよね。
でも劇中では、長男ヴィンセントで苦い思いをした両親は、次男アントンには遺伝子操作を施します。生まれて来る我が子には、なるべく恵まれた環境を与えてあげたい。これって、どんな親御さんも思う偽らざる親心ですよね。
そう考えると、遺伝子選択社会というのは、私たちが根源的に持つ善意と紙一重なのかも知れない。そんな倫理的な危険性を、この映画は私たちに訴えかけているんじゃないでしょうか?皆さんの目にはどう映るでしょうか?
立場の違い
この映画は、遺伝子エリート社会を描いていることは再三お伝えしてきました。そんな社会を劇中では、画一的で無個性で、みなパッと見は似たような容姿の人が、軍隊のように行儀よく整列している社会を、ビジュアル面で強調して描いていきます。
ところがストーリーが進むにつれて、微妙な立場の違いによる悲哀も、少しずつ明らかになって行きます。ここも大きな見どころです。
主人公は、遺伝子選択社会で「不適正者」の烙印を押されたものの、何とか逆転を狙います。その為のパズルの最後のピースが身分の詐称です。
その他にも、「適正者」なのに「不適正者」に敗北を喫してプライドが傷つく者。「適正者」同士のエリート競争に敗れて挫折する者。ほぼ完璧な「適正者」なのに、たった一つの欠点で劣等感を覚える者。
丁寧に描写されて行くこうした細かな感情の機微を、皆さんはどんな風にご覧になるでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?
公開時の興行成績は決して褒められたものではなかった本作ですが、公開から25年以上を経て、依然として根強いファンを持つカルト的作品。この記事を読んで、是非観てみたいな!と思って頂けると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.5 | 総合的戦闘力が高い作品! |
個人的推し | 4.5 | 一度は観て頂きたい! |
企画 | 4.5 | 遺伝子選択社会というアイデア! |
監督 | 4.0 | レトロフューチャリズムの美しさ |
脚本 | 3.0 | ちょっと一本調子かも… |
演技 | 4.0 | 主役3人の演技が見もの! |
効果 | 4.0 | 美しく趣のあるビジュアル! |
このような☆の評価にさせて貰いました。
「見どころ」にも書きましたが、レトロフューチャリズムによるビジュアル面の美しさに引き込まれます。そして、イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウの演技が素晴らしいこと!
ヒューマンドラマもあり、社会的メッセージもあり、スリルもありで、珠玉の一作になっています。アンドリュー・ニコル、デビュー作から凄いぜ!
20年近く前は、この作品をVideo iPodに入れて持ち歩いていました!