この記事でご紹介する「或る夜の出来事」は、1934年公開のコメディ・ロマンス映画。大富豪の令嬢としがない新聞記者が、たまたま乗り合わせた長距離バスで出会い、次第に惹かれ合っていくロマンチックな物語。
後述するように、1953年の「ローマの休日」にも多大な影響を与えている普及の名作。1935年の第7回アカデミー賞で、主要5部門を独占した史上初の作品!
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
クラーク・ゲーブルとクローデット・コルベールという、当時の2大スターを招聘してコロンビア・ピクチャーズが制作した古き良き名作。クラシック映画への登竜門として、食わず嫌いせずに覗いてみるのはいかがですか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から17分30秒のタイミングをご提案します。
この辺りまでご覧になると、この映画の世界観、テースト、ストーリーのテンポがつかめてきます。そして、主人公2人の置かれている状況も見えてくるので、この先も観るか否かを判断する最短のタイミングだと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「或る夜の出来事」(原題:It Happened One Night) は、1934年公開のコメディ・ロマンス映画。原題の ”It Happened One Night” は直訳すると、”それは一晩で起きた” あるいは ”それはある晩起きた” という意味である。この一文からも推察できるように、他人同士だった男女がある晩の出来事を境に惹かれ合っていく様を描くラブストーリーである。
主演のクローデット・コルベールが大富豪の令嬢を演じており、自身が選んだ結婚相手を認めない、大銀行家である父親の元から逃げ出し、ニューヨーク行の長距離バスに身分を隠して潜り込むというのが物語の発端である。父親は金とコネとを駆使して、各種交通機関に大捜索網を張り巡らせて娘を探す。
昼夜を問わず走り続けるこの長距離バスに偶然乗り合わせるのが、クラーク・ゲーブル演じるしがない新聞記者。世間知らずでジャジャ馬娘のお嬢様に手を焼きながらも、危なっかしくてどこか憎めない彼女から目が離せなくなってしまう。
時代の代表作
映画の歴史において、この1930年代初頭というのは、サイレント(無声映画)からトーキーへと映画フォーマットが移行した大転換期であり、切れ目のないシーケンス、小気味良い会話劇というのは、サイレントにはないトーキーならではの魅力であった。
本作で、(共同)製作と監督を務めたフランク・キャプラは、トーキーのこうしたスピード感あふれる構成に、登場人物によるハチャメチャな言動、次から次へと降りかかってくる騒動、そして、身分の違いを超えた恋愛要素を加え、本作「或る夜の出来事」を完成させた。
後述するように、この映画が芸術面でも興行面でも大成功したことで、本作を代表作とする「スクリューボール・コメディ」(=話のオチが読めないコメディ) というジャンルが成立したと言われている。
「ローマの休日」へと繋がる系譜
1940年代以降も、箱入り娘だが、物怖じしない天真爛漫な若い女性と、世間の酸いも甘いも知りながらも、その女性の魅力に次第に惹かれていく男性とが、ドタバタ劇を共有しながら身分の違いを乗り越えて恋に落ちるストーリーは、ハリウッド映画の王道ラブコメ・パターンの一つとなって行く。
「ローマの休日」(1953) も、元々はフランク・キャプラが1940年代後半に製作していた脚本で、当初はキャプラ本人が監督をする予定であった。
この制作体制は諸事情によって解散してしまうが、スクリューボール・コメディの代表作「或る夜の出来事」と、映画史上最高のラブストーリーの呼び声も高い「ローマの休日」との間に、類似性、共通点が認められるのは、こうした背景があるからである。
芸術的評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、98%とこの上ない支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”スターたちと監督が最高のパフォーマンスを見せた『或る夜の出来事』は、この作品にインスパイアされたその後の無数のロマンチック・コメディたちを抑えて、未だに比類なき存在である。” と、賛辞を贈られている。
本作は、第7回アカデミー賞において、
- 作品賞(フランク・キャプラ、ハリー・コーン)
- 監督賞(フランク・キャプラ)
- 脚色賞(ロバート・リスキン)
- 主演男優賞(クラーク・ゲーブル)
- 主演女優賞(クローデット・コルベール)
と主要5部門(ビッグ・ファイブ)を独占した(脚本部門は、脚色賞かオリジナル脚本賞のどちらかを勘案する)。
この主要5部門独占は、長いアカデミー賞の歴史の中で、
- 「或る夜の出来事」- 第7回 1935年
- 「カッコーの巣の上で」 – 第48回 1976年
- 「羊たちの沈黙」 – 第64回 1992年
の3作品しか成し遂げていない快挙である(2024年5月現在)。
ある意味当然と言えば当然だが、本作品は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
商業的成功
この映画の上映時間は105分と、標準よりかなり短めであり、ダレることなく観通すことが出来てしまう。制作費32万5千ドルに対して、世界興行収入は250万ドルと報じられており、7.69倍のリターンである。
絶対額の観点からも、相対額の観点からも大ヒットを記録したと言える。
あらすじ(17分30秒の時点まで)
大富豪の一家で、父親の手で育てられた一人娘のエリー(クローデット・コルベール)は、父との仲は決して悪くはなかったが、自身が結婚相手に選んだ飛行士、ウェストリーを父親が認めなかったため、二人は言い争っていた。父のアンドルーズは、プレーボーイでいけ好かないウェストリーをどうしても気に入らなかったのだ。
アンドルーズは、使用人や船員を大勢乗せた豪華クルーザーにエリーを強引に同乗させ、マイアミ洋上へと出航してしまう。この監禁措置に猛反発したエリーは、着の身着のまま海中へ飛び込み泳いで逃げるという強硬手段に踏み切り、手持ちの物を質屋に入れて僅かながらの現金を作り、ウェストリーがいるニューヨークへ向け、長距離バスで逃亡してしまう。
一方、上司の編集長と電話で大喧嘩をし、半ば失業状態となった新聞記者のピーター(クラーク・ゲーブル)も、何はともあれニューヨークへと戻るべく、このニューヨーク行の長距離バスへと乗り込んでいた。
エリー(クローデット・コルベール)とピーター(クラーク・ゲーブル)は、ちょっとした行き違いから、着席する座席を巡って言い争うという最悪の初対面を経験する。令嬢育ちのエリーにとっては、この庶民的な長距離バスの何もかもが初体験なのだ。
最初の休憩の停車地点では、隙だらけのエリーは、足元に置いた荷物を置き引きされてしまう。ところが、そのコソ泥を善意から必死に追ったピーターにろくに感謝の意も表さず、自身の身元が周囲にバレないようにすることをとにかく優先させてしまう。
次の休憩の停車地点では、エリーは30分の休憩時間に20分も遅刻して停車場に戻り、その結果バスに置いて行かれたことに憤る(逆切れ!)。座席に落ちていたエリーの乗車券と共に停車場で待っていてくれたピーターに対しても、エリーは再度ろくに感謝の意を伝えない。
エリーが戻るのを待つ間、新聞で大富豪の令嬢エリー・アンドルーズが父親の元から逃走中である報に触れていたピーターは、エリーの高慢で自己中心的な振る舞いに、半ば納得するのであった。
果たして、2人はこの後どのような道筋を辿るのであろうか?二人の仲はどのようになって行くのだろうか・・・?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。どれもネタバレなしで書いていきますので、皆さんがこの作品をより味わい深く鑑賞する一助となれると嬉しいです。
ロマンティック・コメディのパイオニア
既に述べたように、1934年に登場した本作品は ”スクリューボール・コメディ” のパイオニアであり代表作です。そして、こちらも既に述べたように、この系譜は「ローマの休日」(1953年) へと続いていきます。
生まれ育ったバックグラウンドがまるで異なる男女が、長距離バスという密閉空間の中で、様々な経験を共有し合う中で、相手の魅力に魅せられて行くというプロットは、長距離バスを豪華客船に置き換えれば、これは「タイタニック」(1997) にも通じてしまう訳です。
こうした時代的背景・系譜を差っ引いたとしても、本作品が持つインパクトは全く古臭いとは感じないと思います。21世紀に生きる私たちが鑑賞しても、素直に「面白いな!」って鑑賞出来ちゃうと思うんですよね。
今から90年も前に作られた映画、画面も白黒。そんなノイズにとらわれてしまうと、食わず嫌いを起こしてしまうかも知れません。そういった先入観は捨てて、この映画の世界観に飛び込んでみてください!
主人公2人の演技
このドタバタ劇を、芸術作品に昇華させている最大の功労者は、主演のクラーク・ゲーブルとクローデット・コルベールの2人だと思うんですよね。
その存在感と演技力があってこそ、このちょっとバカバカしいお話に、リアリティと安心感、そして感情的な深みをもたらしてくれていると思います。
コメディをオチャラけて演じるのではなく、真剣に演じてくれるからこそ、観ているこちら側も安心して笑えるし、本気で苛立ったり、感動したりできるんですよね、流石です。
是非オスカー受賞の2人の演技を満喫してください。皆さんの心には何が残るでしょうか?
ストーリーテリングの妙
テンポの良い会話劇と別に、日常のちょっとしたコトやアイテムが象徴的な役割を果たします。これらが触媒となって、主人公2人の生活感の違いを浮き彫りにし、見事なストーリーテリングの役割を果たします。見どころです!
朝食の卵、朝のシャワー、就寝時のパジャマ、そういった劇中に散りばめられた”鏡越し”に、私たちはピーターとエリーの人柄を知ることが出来ます。こういった、彼らに感情移入する仕掛けが、物語の中に準備されているんですよね。
そして有名な「ジェリコの壁」(エリコの壁)という、ヘブライ聖書に出てくる城壁の名を冠した”間仕切り”が劇中に登場します。
映画万歳!って感じです。
まとめ
いかがでしたか?
クラシック作品ではあるけれども、古いようで古くない。古臭さを全く感じさせない本作品の魅力が少しでも伝わっていると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 映画ファン必見だと思います |
個人的推し | 4.0 | 映画の素晴らしさが満載! |
企画 | 4.5 | ロマンティック・ラブコメの先駆者 |
監督 | 4.0 | 象徴的なカットやシーンが目白押し |
脚本 | 3.5 | コンパクトでスピード感のあるシナリオ |
演技 | 4.5 | 主演2人の存在感と演技が流石! |
効果 | 4.0 | 映像の美しさが絶品 |
このような☆の評価にさせて貰いました。
映画ファン必見の名作だと思います。食わず嫌いせずに、是非観てみてください!サイレントを卒業してトーキーへと移行した90年前に、既に映画の基本的な骨格は完成していたということに驚かれると思います!
こんな往年の素晴らしい作品が、Prime Video や U-NEXT といった配信サービスでサクッと視聴出来ちゃうんだから良い時代ですよね!(2024年5月現在)