この記事でご紹介する「マイ・ルーム」は1996年公開のドラマ映画。寝たきりの父と天然ボケの叔母の世話をして暮らす未婚の姉と、警察沙汰を起こすほど反抗的な長男に手を焼くシングル・マザーの妹が、20年ぶりに再会する姿を描く。
ダイアン・キートン、メリル・ストリープ、レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロと、4人のオスカー級俳優が共演する、何故だか不思議と心温まるストーリー。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ブロードウェイでも上演されている戯曲を原作としていることもあり、映像的な演出よりも、人物配置やキャラクター描写に重きが置かれ、ギュっと中身の詰まった上映時間98分にグイグイと引き込まれる秀作。
名俳優そろい踏みの隠れたこの名作の世界を、この記事で少しだけ覗いていきませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から19分30秒のタイミングをご提案します。
この辺りまでご覧になると、この映画のテーストがつかめると思いますし、主要登場人物たちの置かれた状況も見え始めます。この先もご覧になるか判断する最短のタイミングとしてご提案します。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「マイ・ルーム」(原題:Marvin’s Room) は、1996年公開のドラマ映画。中年姉妹(ダイアン・キートンとメリル・ストリープ)と、その甥/長男の少年(レオナルド・ディカプリオ)を軸に、家族の愛情と反発、確執と絆、距離感の難しさ、そして、人生の選択を静かに、でも、どこか面白おかしく描いていく作品。
原題にある Marvin(マーヴィン)とは、姉妹の父親の名前で、認知症が進んだ寝たきりの老人のことである。すなわち Marvin’s Roomとは、”マーヴィンの部屋” ≒ ”姉妹にとっての実家” を指し示している。
姉(ダイアン・キートン)が父親と叔母と暮らす実家に、長男(レオナルド・ディカプリオ)と次男を連れた妹(メリル・ストリープ)が、20年ぶりに帰省することでストーリーが進んで行くので、こういうタイトルなんだと思う。
原作との関係
本作品は、脚本のスコット・マクファーソン自身が書いた戯曲を原作としている。なお、この戯曲は1990年に初演され、その後2017年に至るまでに、ブロードウェイを含む各地の舞台で何度も上演されている。
そもそもその戯曲は、マクファーソンのフロリダに住んでいた年長の親戚との間の経験に基づいている。また、マクファーソンは、パートナーをエイズで亡くしており、マクファーソン自身も1992年に33歳の若さでエイズで亡くなっている。
整理すると、マクファーソン自身がその目で見た、フロリダで暮らす年配者の生活や、病気で苦しむ最愛の人を看取る経験に基づき書かれた舞台用の脚本を、本人が映画用に書き直した脚本である。そのせいもあってか、映像技術を駆使するというよりも、人物造形やその関係性、そして会話劇によって、物語が掘り下げられていく作風になっている。
オスカー俳優揃い踏み
その、登場人物を中心としたこの映画には、ダイアン・キートン、メリル・ストリープ、レオナルド・ディカプリオの3人に、ロバート・デ・ニーロが加わる形で物語は進む。
この4人の俳優をオスカー受賞歴の観点で眺めてみると、
- ダイアン・キートン(1946年生まれ)
- 主演女優賞 – アニー・ホール(1977年)
- メリル・ストリープ(1949年生まれ)
- 助演女優賞 – クレイマー、クレイマー(1979年)
- 主演女優賞 – ソフィーの選択(1982年)
- 主演女優賞 – マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙(2011年)
- レオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)
- 主演男優賞 – レヴェナント:蘇えりし者(2015年)
- ロバート・デ・ニーロ(1943年生まれ)
- 助演男優賞 – ゴッドファーザー PART Ⅱ(1974年)
- 主演男優賞 – レイジング・ブル(1980年)
となる(太字が、本作「マイ・ルーム」(1996年) 公開前の受賞歴)。実に豪華キャストであることが分かる。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、84%と非常に高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”『マイ・ルーム』は、メリル・ストリープ、ダイアン・キートン、レオナルド・ディカプリオを含む非の打ちどころのないキャストのお陰で、数ある機能不全に陥った家族を描いたドラマの中でも、頭一つ抜けている” と、評されている。
商業的結果
この映画の上映時間は98分と、標準よりもかなり短めである。制作費は2千3百万ドルを要したと言われ、世界興行収入は3千万ドルを売り上げたと報じられている。1.3倍のリターンである。興行的に成功したとは言えない。
正直、この作品内容で2千3百万ドルの制作費は使い過ぎなのでは?と直感的には感じるが、これは豪華キャストへの出演料なのだろうか?
共同製作にも名を連ねているロバート・デ・ニーロさん、どうなんでしょうか?
キャスト(出演者)
この映画のキャストを下の表にまとめてみる。
登場人物が交錯するような群像劇ではないので、鑑賞する上で混乱は起きないと思う。
役名 | 俳優 | 役柄 |
リー | メリル・ストリープ | オハイオで息子2人を育てるシングル・マザー。今は美容師の免許を取得するために美容学校に通っている。 |
ハンク | レオナルド・ディカプリオ | リーの17歳の長男。大好きだった父親と離婚した母親に対して極度に反抗的な態度を示す。 |
チャーリー | ハル・スカーディノ | リーの小学生の次男。賢く、素直な良い子 |
シャーロット | マーゴ・マーティンデイル | ハンクを担当する精神分析医 |
ベッシー | ダイアン・キートン | マイアミで認知症の父と、天然ボケの叔母の世話をして暮らしている独身女性 |
マーヴィン | ヒューム・クローニン | ベッシーとリーの姉妹の父親。認知症で寝たきり |
ルース | グウェン・ヴァードン | ベッシーとリーの叔母。善人だが生活力に乏しく、殆ど頼りにならない |
ウォーリー医師 | ロバート・デ・ニーロ | ベッシー一家が長年世話になっているクリニックにやって来た新任医師 |
ボブ | ダン・ヘダヤ | ウォーリー医師の兄で、クリニックの受付に従事し始める |
あらすじ(19分30秒の時点まで)
ベッシー(ダイアン・キートン)は、フロリダに暮らす独身中年女性。長年寝たきりで認知症も進む父マーヴィンと、生活力に乏しく腰痛を患っている叔母ルースと3人で、実家暮らしを続けている。
ただしベッシーは、持ち前の明るい性格により、同居する親世代の2人に対し常に親切に接し、柔和な表情を向けている。
そんなベッシーだが、長年家族がお世話になっているクリニックで受けた検査により、どうやら白血病を患っていることが判明してしまう。
リー(メリル・ストリープ)は、オハイオに暮らすシングルマザー。現在は、美容師の免許を取得すべく、美容学校に通っており、あと数か月のカリキュラムをこなせば、晴れて美容師の資格が得られるところにまで漕ぎ着けている。
リーには、ハンク(レオナルド・ディカプリオ)という17歳の長男と、チャーリーという小学生の次男がいるが、リーの最大の悩みはハンクである。
思春期のハンクは大変反抗的で、マイペースでガサツな性格のリーとは折り合いが悪く、2人は顔を合わせれば喧嘩をする毎日である。特に、プロ・カーレーサーである憧れの父親と離婚したことで、母親リーに強い反発を示している。
そんなハンクは遂に、家族が住む一軒家に放火をするという暴挙に出て、家屋を全焼させてしまう。そして本人は更生施設に強制収容され、精神科医の監修の下、施設内で生活を送ることになる。
果たして、ベッシーが白血病を患うという家族の大ピンチに、リーやハンクは、どのような反応を示し、どんな支援をするのだろうか・・・?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。なるべく言わずもがなな視点は避け、こんな楽しみ方も出来るよ!というご提案に努めてみたいと思います。
どれもネタバレなしで書いていきますので、皆さんが本作品をより味わい深く鑑賞する一助になれると嬉しいです。
カメレオン女優・ダイアン・キートン
皆さんは、カメレオン俳優というと誰を思い浮かべますか?本作にも出演しているロバート・デ・ニーロですか?クリスチャン・ベールですか?ダニエル・デイ=ルイスですか?
筆者は、ダイアン・キートンもカメレオン俳優と認定して良いのではないか?と思っています。
というのも、ダイアン・キートン女史は、作品によってオンナを前面に出したり引っ込めたりと、振りまくフェロモン量の調節が自由自在だからです。カメレオンというより、華麗に舞う美しい蝶のような存在なのかも知れません。
本作では、徹底してオンナの部分を消し去り、リーの姉、ハンクの伯母として、中年のオバサン役に徹しています。
そんなの、この映画が撮影されたときには既に49歳だったんだから当然だろ?と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、例えば、本作の7年後に公開された「恋愛適齢期」(2003年) では、恋愛対象となるオンナをガッツリと演じ切ったことで「恋愛適齢期」という映画は成立しました。
既に述べたように、オスカー級俳優がズラリと並んだ本作においても、ダイアン・キートンさんの役作りがキラリと光ります。是非ご注目ください!
ルース叔母さんと受付のボブ
この映画は一言で言うと、家族に病魔が忍び寄った時に、家族の機能不全がいよいよ顕在化するという話です。つまり、めちゃくちゃモチーフが暗いんですよね。
ところが実際にご覧になると、意外と陰鬱な気持ちにはならないと思います、意外と。
では、その秘密はどの辺りにあるかというと、姉妹の叔母であるルース叔母さん(グウェン・ヴァードン)と、ウォーリー医師(ロバート・デ・ニーロ)の兄で、クリニックの受付を務めるボブ(ダン・ヘダヤ)が、次から次へと天然ボケの演技を繰り出してきて、これが一服の清涼剤になっているように思います。
あくまで ”天然ボケ” なので、本人たちの演技は至って真剣。真面目に何かに取り組めば取り組むほど、そのズレがが面白くなってくるというパターンです。
これは、脚本、演出、演技の3つが揃って初めて成立しうる妙技だと思んです。この辺りのクオリティの高さも、映画の本筋と合わせてお楽しみいただくと、本作品がより味わい深くなると思うんですよね。
人生の普遍的なテーマ
この物語はザックリ言うと、家族の距離感の難しさを描いて行く話なんですけど、こんな見方も出来るのかな?と思います。
それは、
- 姉(ダイアン・キートン)
- 親元を離れず、
- 特に何者にもなろうとは望まず、
- 愛する親世代の介護をしてきた
- 妹(メリル・ストリープ)
- 実家を飛び出し、
- この年齢になっても何者かになろうと葛藤し、
- そして愛する子世代に手を焼く
という対比の構図です。
すごく特殊な状況にある6人家族(父、叔母、姉妹2人、息子2人)を描いているように見せて、実は姉妹が生きる姿の本質的な部分は、私たちの人生の重要な部分と共通するように思います。
というのも、親のことも考えないといけないし、子供のことも考えないといけないし、そもそも自分自身のことも考えないといけないし。この映画を観る私たちが置かれている境遇、環境は当然それぞれ異なる訳ですが、姉妹が抱える悩みのどれか一つ、あるいは複数は、「あっ、私と一緒一緒」と共感できるんじゃないでしょうか?
そう!人生の普遍的なテーマを扱っているんだと思います。
ユーモアを交えて陰鬱になり過ぎないように工夫しつつ、皆が共感するテーマを扱う。これがこの映画の最大の魅力だと思います。皆さんの心には何が残るでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?
名俳優4人を揃えつつ、深刻になり過ぎずにサラリとした印象を残す隠れた名作の魅力をなるべく言語化したつもりです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 元気な時に観た方良いかも |
個人的推し | 3.5 | 是非機会を見つけて観てみてください! |
企画 | 4.0 | この戯曲を映画化しようと思ったことが凄い |
監督 | 3.5 | 独特なタッチが美しく、素晴らしい! |
脚本 | 3.5 | 100分未満のシナリオに人生の機微が濃縮 |
演技 | 4.0 | 流石の一言! |
効果 | 3.5 | 衣装とメイクが素晴らしい! |
このような☆の評価にさせて貰いました。
再三書いてきましたが、映像技術を駆使した大作を志向したのではなく、登場人物一人ひとりを掘り下げて、その会話劇を通して人生の普遍的なテーマを浮き彫りにした名作。是非機会を見つけて観てみてください!