話題の記事続編なのに1作目の質を超えた映画5選

【ネタバレなし】映画「マネーボール」(あらすじ、実話、原作との違い)

この記事でご紹介する「マネーボール」は、2011年公開の野球に関する映画。オークランド・アスレチックスのチーム編成を決める立場にあるビリー・ビーンが、「セイバーメトリクス」と呼ばれる統計学を駆使して、2002年のシーズンに一大旋風を巻き起こす実話に基づく物語。

この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。

もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。

この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。

この映画を観るかどうか迷っている人観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人ことも考え、ネタバレしないように配慮しています。

現在のメジャーリーグ・ベースボールでは常識になっている統計学的選手分析「セイバーメトリクス」。財政面では大都市球団に太刀打ちできないアスレチックスが、GM (ジェネラル・マネージャー) のビリー・ビーンを筆頭に、これを他球団に先駆けて導入し、どう球団運営を刷新したかを描いた作品。

スポコン、お涙頂戴感動ポルノとは一線を画しつつ、ベースボールの固定概念を覆そうと奮闘する関係者の情熱の世界を、少しだけ予習してみませんか?

目次

ジャッジタイム (ネタバレなし)

この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、

  • 上映開始から24分40秒のタイミングをご提案します。
24分40秒

ここまでご覧になると、この映画のテーストが掴めると思います。そして、球界の常識や主人公が置かれている状況が把握でき、主人公が変革を渇望する中で、何に希望の光を見出すのかが見えてきます。

好き嫌いを判断するのに必要十分なタイミングだと思いますが、いかがでしょうか?

概要 (ネタバレなし)

この作品の位置づけ

「マネーボール」(原題:Moneyball) は、2011年の野球を題材にした映画。主演はブラッド・ピット。

と言っても、ブラピがスター野球選手に扮して大活躍するスポコン感動ストーリーではない。本作は、ブラッド・ピットが、カリフォルニア州オークランドに本拠地を置く、アスレチックスという実在メジャーリーグ球団の、ビリー・ビーンという実在GM (ジェネラル・マネージャー)に扮して、球団改革に奮闘する姿を描く。

背景情報

MLB (メジャーリーグ・ベースボール) の各球団は、一部の全国的な人気球団を除いて、良くも悪くも地域密着型であるため、地元都市の人口が、その球団の商業的マーケットの大きさに直結する。

ヤンキース、レッドソックス、ドジャース等は、それぞれ、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルスを本拠としているのでマーケットが大きく、一方のアスレチックスはオークランドが本拠地なのでマーケットは小さい。

都市人口
ニューヨーク市約880万人
ボストン市街地約420万人
ロサンゼルス市約400万人
オークランド市約44万人
オークランドのマーケットは小さい

有体に言うと、アスレチックスは貧乏球団なのである。

カリフォルニア州オークランドのメリット湖

ドラフト制度、ウェイバー制度、サラリーキャップ制度と、戦力の均衡を図るルール作りはリーグ全体で取り組まれて来てはいるものの、実力証明済みのスター選手を高年棒で集めることが出来る金満球団には太刀打ちできない。

すなわち、ベースボールは、財力で勝負する不公平な闘い、すなわち ”マネーボール(≒ お金の球技)” だ!というのが、このストーリーの下敷きとなる。

そこで、アスレチックスの選手編成の責任者であるビリー・ビーンは、選手の評価方法(価値算出方法)を大胆に刷新すべく、まだあまり知られていない統計学「セイバーメトリクス」を導入して、見落とされがちだが有効な戦績指標を示す、低年俸の掘り出し物選手を集め始める。

セイバーメトリクス:統計学を駆使した新たな選手評価・選定方法

映画の舞台となる2002年より少し前、1999年からアスレチックス内で実際に起こされたこの改革を、映画風にドラマティックに描いたのがこの作品だ。

原作本との違い

この映画には、「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」という、2003年にアメリカで、2004年に日本で出版された原作本が存在する。この本は、マイケル・ルイスという人が書いたノンフィクション書籍であって、いわゆる小説物語ではない。原題は “Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game” という。原題と邦題とでは、大分受ける印象が違うと思う。

原作本は、2000年代初頭、貧乏球団アスレチックスが、レギュラーシーズンで毎年のように好成績を納めている(=高い勝率を記録している)秘密に迫る、ドキュメンタリーの体裁を取っている(=情緒的な物語ではない)。

そして、その主旨は、強さの秘密は「セイバーメトリクス」と呼ばれる新しい価値観に基づく統計学であると述べることにある。従来野球選手は、打者なら安打数、打率、ホームラン数。投手なら勝利数、セーブ数等が活躍の指標であり、それらが年棒に直結してきた。

しかしセイバーメトリクスでは、打者なら四死球を含めた出塁率を、投手なら与四球数の少なさという、一見すると地味だが(=年棒に反映されにくいが)、勝利の確率を高める選手特性を重要視している。アスレティックはこうした掘り出し物選手を低年棒で集めて、チーム全体で試合に勝つ ”確率を高めていた” と解明している。

要は、アスレチックスが如何にコスパが良いかの実態を見事に詳らかにした取材本である。

映画「マネーボール」では、アーロン・ソーキンとスティーヴン・ザイリアンが、この原作を、ビリー・ビーンを軸にした改革の物語として映画脚本に仕立て上げ、ベネット・ミラー監督がそれを映像化したわけだ。

実話との違い

ビリー・ビーンの婚姻状況

劇中では、ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、前妻と離婚後、独身でいるように描かれていますが、本物は実際には該当の時期には再婚済みです。

補佐役の実名とキャラクター

ビリー・ビーンGMに「セイバーメトリクス」を説き、GM補佐役となるピーター・ブラント(ジョナ・ヒル)は架空の人物です。モデルはポール・デポデスタという人物ですが、映画内の当該キャラクターがオタク気質のデブ・キャラという描かれ方だったので、実名使用を拒否したと伝えられています。

なお、ポール・デポデスタはバーバード大学出身。ピーター・ブラントはイエール大学出身という設定になっている。

戦略変更の時期

劇中では、下記の「あらすじ」にも示すように、アスレチックスがピーター・ブラント(ジョナ・ヒル)を雇用し、「セイバーメトリクス」へと一気に舵を切るのは2001年シーズンオフと描かれる。しかし、実際にポール・デポデスタがアスレチックスに雇用されたのは1999年である(1999年から5年間ビリー・ビーンを支えた)。

そして、「セイバーメトリクス」指標に沿った選手(ジェレミー・ジアンビやチャド・ブラッドフォード)の採用も、デポデスタの雇用に合わせ、2002年シーズン以前から始まっていた。

写真は、スコット・ハッテバーグ選手と、彼を演じたクリス・プラット

芸術的評価

本作「マネーボール」は、第84回アカデミー賞6部門にノミネートされている。しかし結果として、一部門も受賞を果たせていない。専門家からおしなべて高い評価を受けたが、どこかの観点で突き抜けるところまでは行かなかったということなのだろうか。

商業的成功

この映画の上映時間は133分。全体的にちょっと長めの印象だ。製作費は5千万ドルで、世界興行収入は1億1千万ドル。2.2倍のリターン。ヒット作ではあるが、大きな収益を生んだ作品とまでは言えないというのが正直なところだろう。

2.2倍のリターンに留まる

あらすじ (24分40秒の時点まで)

物語は2001年10月15日から始まる。この日は、MLB アメリカン・リーグのディヴィジョン・シリーズ(ア・リーグ優勝決定プレーオフ・トーナメント)の準決勝で、東地区優勝のニューヨーク・ヤンキースと、ワイルドカード進出のオークランド・アスレチックスが2勝2敗同士で決勝進出を懸けて戦っていた。

結果はヤンキースの逆転勝ち。アスレチックスの2001年シーズンはここで終了となる。両チームの総年棒はそれぞれ、$114,457,768 と $39,722,689 とその差は歴然。やはり貧乏球団は金満球団に勝てないのだろうか?

翌2002年シーズンに向けて、チームの更なる強化を図りたいGMのビリー・ビーン(ブラッド・ピット)であったが、オーナーからは追加予算は貰えず、主力3選手(ジェイソン・ジアンビー、ジョニー・デーモン、ジェイソン・イズリングハウゼン)のFA流出も決定的であった。

スカウトたちとの編成会議でも、彼らが重要視するのは、選手の立ち振る舞いや、ガールフレンドの美醜、挙句の果てにはチ〇コのデカさまでが会議で取り沙汰される。古参のベテラン・スカウトたちは、選手の実力は選手の自信と表裏一体であり、そこを嗅ぎ分けるのがスカウトの力量だと、勘と経験に頼り切った議論に終始する。

実は、ビリー・ビーン本人もかつてはメジャー・リーガーであった。走攻守三拍子揃った大型高卒新人としてドラフト1巡目指名を受け、スタンフォード大学への奨学生入学を蹴ってまで、ニューヨーク・メッツと契約した過去がある。

2002年シーズンに向けて精力的な活動を続けるビリー・ビーンは、クリーブランド・インディアンズ(現ガーディアンズ)の球団事務所を訪れる。インディアンズのGMマーク・シャパイロと、選手トレードを直接交渉するためだ。

その会議でビリーは奇妙な光景を目にする。ビリーが欲しい選手名を挙げる度に、先方のGMや編成スタッフが、場違いなスーツ姿の男からのアドバイスに耳を傾け、その上で是非を回答しているのだ。

会議後このスーツ姿の男を捕まえて事情を聞き出すビリー。曰く、男はピーター・ブラント(ジョナ・ヒル)といい、マーク・シャパイロGMの特別補佐で、選手の分析を担当しているという。

二人きりになると、イエール大学で経済学を専攻したというピーターは、多くのメジャーリーグのチームが重用すべき選手を誤っている。これまでとは異なる指標で選手を分析し、もっと直接的に”勝利”に寄与する選手を統計的に洗い出すべきだと主張する。

どれだけ背伸びをしても、財政面では金満球団には勝てないことを知っていたビリーは、ゲームチェンジャーを渇望していたので、ピーター・ブラントをインディアンズから引き抜き、新しい指標と統計学、そして選手獲得資金の新しい使い方に賭けることにした。

こうして、2002年シーズンに向けて、野球界の将来に向けて、2人は、球界の全ての人を敵に回すかもしれない大改革に着手することになる。

見どころ (ネタバレなし)

この映画の見どころを3つの観点に絞って述べてみたいと思います。どれもネタバレなしで書いておきますので、皆さんがこの作品をより味わい深く鑑賞するための予習情報になれると嬉しいです。

圧倒的リアリティ

この映画の見どころで、最初に思い付くのは、何と言ってもその圧倒的なリアリティです。

映画用にストーリーに脚色が入っているとは言え、劇中で起きていく出来事は事実に基づいているので、その説得力には揺るぎないものがあります。

加えて、原作のドキュメンタリー・タッチとは異なり、メジャーリーグ球団の内情が物語として語られていきます。GM とオーナーの関係、GM と監督の関係、GM とスカウト陣の関係、そして、GM と選手の関係。

あるいは、シーズンが始まっても、トレード期限ギリギリまで繰り広げられる、球団対球団のGM 同士の虚々実々のトレードの駆け引きは、非常にスリリングです。球団スタッフの一人になったような没入感でこれらを観察することができるので、是非お楽しみください。

変革者を待ち受けるもの

プロスポーツ界は意外と保守的なもの。特に21世紀初頭まではそうでした。

そんな世界に風穴を開けようと孤軍奮闘するビリーとピーターの二人には、当然の如く抵抗勢力が立ちはだかります。

反対する者たちも、意地悪がしたくて反対意見を述べるのではなく、彼らだって自分の仕事をやり遂げたいだけ。そんな一筋縄では行かない変革の様子が、この映画ではつぶさに描かれて行きます。

これは、ベースボールだとか、セイバーメトリクスだとかとは関係なく、多くの人が、過去の人生で多かれ少なかれ似たような経験をされているんじゃないでしょうか。

更に言うと、GMとその補佐は、自分たちの野望を実現するために不必要になった人材は放出し、新たに必要になった人材は手練手管を用いて手に入れるという、編成作業も行う必要があります。

その辺りのためらい、不安、葛藤、苛立ち。そういったエモーショナルな部分も存分に味わえる作品となっているので、単なるスポーツ映画だという先入観は持たずに、是非期待してください。

ブラッド・ピットの演技

相変わらずブラッド・ピットの演技が素晴らしいです。

残念ながら、ノミネートだけで、アカデミー主演男優賞の受賞には至りませんでしたが、ブラピの演技により、この物語は厚みを増して行きます。

プロ野球選手としての挫折、そして前妻との離婚。一度や二度、人生で失敗を経験している男が、優勝を目指して戦う姿を、そして、優勝しないと意味が無いとこだわる姿を、抜群のバランス感覚で演じて行きます。

カッコいいだけでもなく、打ちひしがれているだけでもなく、底抜けに明るいわけでもなく、金の亡者なわけでもなく、この複雑なキャラクターを、ブラッド・ピットが安定の演技で肉付けして行ってくれるお陰で、私たちはストーリーに集中することができます。

あわわっち

陳腐な表現ですが、名演技です!

まとめ

いかがでしたか?

単なるスポーツ根性ものの映画でもないし、内情を皮肉るような風刺映画でもない。舞台裏をリアルに描写しながらも、そこに節妙な加減で感情を差し挟んでくる映画だと思います。そんなバランス感覚の良さの、ほんの一端だけでもお伝えできていると嬉しいです。

この作品に対する☆評価ですが、

総合的おススメ度 3.5そもそもプロスポーツに興味が無いと流石に厳しい
個人的推し 4.0 旧態依然となりがちな世界の風穴の理想と現実
企画 4.0 ストーリーとして企画したことが凄い!
監督 4.0 様々なカメラアングルで飽きが来ません
脚本 4.5 あの原作がここまで”物語”に仕立て上がるなんて!
演技 4.0 全員役作りの段階から素晴らしい
効果 4.0 実映像との混合等、リアリティが高い
こんな感じの☆にさせて貰いました

このような☆の評価にさせて貰いました。

俳優さんたちの演技が素晴らしいのですが、演技云々の前に役作りが素晴らしいです。どの登場人物も、それぞれ劇中の役職っぽいキャラクターとして登場してくるので、これを観る我々は、全く違和感なくこの映画の世界に没入することができます。

そんな中で、ベネット・ミラー監督が様々なカメラアングルから場面を切り取ります。時折見せる俯瞰のカットが、私たちに状況を客観視する”間”を与えてくれるので、これが良い息継ぎになって、またストーリーへと戻って行くことが出来ます。

あの原作本が、ここまで”物語”に仕立て上がるなんて、本当にプロの仕事って凄いなーと思います。

あわわっち

アカデミー賞は6部門ノミネートで受賞ゼロ。何が悪かったのでしょうか・・・?

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次