この記事でご紹介する「ナポレオン」は、2023年12月1日に日本で公開された伝記映画。リドリー・スコットが監督、脚本(共同)、製作(共同)を、ホアキン・フェニックスが主演、製作(共同)を務めている。
筆者はIMAX環境の映画館で鑑賞済みで、その実感を含めて本記事を書きたいと思います。
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概要、見どころといった予習情報を*ネタバレなし*で書いていきますので、この映画を観るか観ないか迷っている方、この作品のBlu-rayを購入するかしないか迷っている方のお役に立てると嬉しいです。
概要 (ネタバレなし)
本作品の位置づけ
「ナポレオン」(原題: Napoleon) は、2023年に公開された伝記映画。実在したナポレオン・ボナパルトが職業軍人になってから以降の、彼の生涯を描いている。
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(共同)製作、(共同)脚本、監督を務めるのはリドリー・スコット。スコット監督は意外にも(?)、「1492 コロンブス」(1992年)、「グラディエーター」(2000年)、「ロビン・フッド」(2010年) と、過去にも歴史上の人物を題材にした映画を4度制作しており、筆者の理解では5回目の試みということになる。
主人公のナポレオン・ボナパルトを演じるのは、「ジョーカー」(2019年) でアカデミー主演男優賞に輝いた、ホアキン・フェニックス。相手役のジョゼフィーヌ・ド・ボアルネを演じるのはヴァネッサ・カービー。本作品はこの一癖も二癖もある2人のキャラクターを中心に物語は進んで行く。
伝記映画
本作品はナポレオン・ボナパルトという人物の伝記映画だと言って差し支えないと思う。何故こう言い切れるか?
それは、ナポレオンの51年間の生涯の内で、今回の映画化対象となっている30年弱の半生を、監督が必要だと考えたと思しき最低限の抑揚のみで、あとは淡々と描き切っているからだ。
そして、その30年間に起きる出来事は、美しく・迫力のある映像を用いて次から次へと私たちに提示されて来るが、そこでナポレオンが起こす個々の行動への賛否や歴史的評価は一切なされない。
当然のようにそれらは、他の登場人物の台詞、ナレーション、字幕のどこにも出てこない。すなわち、ナポレオンに対する歴史的な審判は、全て鑑賞している我々に委ねられていると考えられる。
整理すると、上映時間という制約条件の許す範囲で、ナポレオン・ボナパルトの半生を映画化してはいるが、そこでは、余分な先入観無しで”ナポレオン”を検証する機会を我々観客に提供してくれていることになる。そういう意味において、本作は伝記映画だと考える。
国内配給のキャッチフレーズ
国内の配給においては「英雄か、悪魔か」という文言を広告媒体で頻繁に目にするが、劇中でナポレオン・ボナパルトを”英雄か、悪魔か”と投げかける、もしくは糾弾する論点は(少なくとも明示的には)示されない。これは商業的に避け得ない行為なんだろうが、ある意味ミスリードであるかも知れない。
上述した監督のコンセプトに基づく伝記映画としては、何に着目して、それをどう評価するか?はあくまでも観客に任せられているので、この点は注意が必要だ。
商業的成果
本作品の上映時間は158分で、体感的にも正直かなり長く感じる。製作費は残念ながら現時点で公開されていないため不明。ただし、8,000人のエキストラが動員されたことが頻繁に報道されており、相当な製作費が費やされたであろうことは容易に想像が付く。
全米公開された2023年11月22日のオープニング興行収入は7,880万ドルで、順調な滑り出しを記録したと報じられている。
キャスト
役 | 俳優 |
ナポレオン・ボナパルト | ホアキン・フェニックス |
ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ | ヴァネッサ・カービー |
ポール・バラス | タハール・ラヒム |
テレーズ・カバリュス | リュディヴィーヌ・サニエ |
アルマン・ド・コランクール | ベン・マイルズ |
マリア・レティツィア・ボナパルト | シニード・キューザック |
ルイ=ニコラ・ダヴー | ユセフ・カーコア |
ジャン=アンドシュ・ジュノー | ジュノー:マーク・ボナー |
ルイ18世 | イアン・マクニース |
あらすじ (冒頭のみ)
物語は1789年から始まる。
フランスではこの年フランス革命が勃発し、その象徴としてマリー・アントワネットもギロチン台で斬首刑に処された。こうしてブルボン王朝の王族、貴族がフランス国家の中枢から一掃された。
しかし、革命派と反革命派との争いは続き、イギリスやスペインといった周辺諸国が反革命派を支援したこともあり、この内戦は長期化していく。
1793年、ブルボン王朝に縁故がある士官は軍隊から一掃されていたため、ナポレオン・ボナパルト(ホアキン・フェニックス)は24歳の若さで大尉に昇進していた。ある日ナポレオンは、有力政治家ポール・バラス(タハール・ラヒム)に直訴して、イギリス軍に占拠されているフランス海軍の地中海の要衝トゥーロン港を奪還すべく、攻撃部隊の指揮を自分に任せるように願い出る。
フランス南方軍は、元画家のカルト―が指揮していたこともあり苦戦を強いられており、ポール・バラス(タハール・ラヒム)はこの人事を承認。ナポレオンは、自身の足でトゥーロンの街の様子を視察。建物の位置関係、イギリス軍艦の正確な位置の把握。そして、フランス軍の捨て置かれていた大砲を回収し、これを鋳造し直して臼砲を製造する。
ナポレオンは、トゥーロン港に停泊するイギリス海軍の軍艦を直接攻撃するのではなく、港を見下ろす高台に築かれた要塞に夜襲を掛ける。守備隊の油断を突きつつ、鋳造し直した臼砲で火力を発揮し、見事にこれを奪取。そのままその余勢をかって要塞に設置されていた大砲を用いてイギリス海軍の軍艦を次々と大破させて行く。遂にはトゥーロン港の奪還に成功する。
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一方パリでは、革命軍を率いていたロベスピエールの急進的な施政は、次第に恐怖政治へと発展していき、王党派は次々と処刑されるか投獄されるかしていった。この頃になると、革命派と反革命派との内戦は一段落の様相を呈していたために、民衆の心は次第にロベスピエールから離れ、ついに1794年には、テルミドールのクーデターと呼ばれる反乱が起きて、ロベスピエールは失脚。投獄されていた王党派数万人が釈放される。
1795年、パリにて王党派の残党がヴァンデミエールの反乱と呼ばれる蜂起を起こすが、ポール・バラスからこの掃討戦の指揮を一任されたナポレオンは、民衆に容赦なく大砲を打ち込むという大胆な手法でこれを鎮圧して見せ、26歳の若さで将軍職に昇進する。
この時期にナポレオンは、ボアルネ子爵の未亡人で、現在はポール・バラスの愛人であったジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ(ヴァネッサ・カービー)に一目惚れする。
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1796年、ナポレオン(27歳)はこのジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)と結婚する。しかしジョゼフィーヌは、結婚早々他に愛人を作るなど、勝ち気で奔放な性格は結婚生活に収まり切らない。嫉妬の炎もあって、妻ジョゼフィーヌへの想いをさらに募らせて行くナポレオン。
フランス総裁政府の総裁の一人となっていた盟友ポール・バラスの後ろ盾もあり、フランス軍の中枢にまで上り詰めたナポレオン・ボナパルト。果たして彼の野望はどのような形で顕在化していくのであろうか。ナポレオンとジョゼフィーヌとの屈折した愛憎関係は、どのような道を辿って行くのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この深遠な芸術作品の見どころを3つの観点に絞ってご紹介してみたいと思います。ネタバレなしで書いているので、安心して読んで頂きたいですが、ある程度踏み込んだ内容になっていることはご容赦ください。
皆さんが初見からこの映画を、より味わい深く鑑賞する一助になれると嬉しいです。
リドリー・スコット監督が仕掛けた主題
この映画の主題は判りにくいです。より正確に述べると、主題が難解だと言っているのではなくて、リドリー・スコット監督がこの映画を通して何を伝えたかったのかが ”見えにくい” のです。もしかして無いの?ぐらいの勢いです。
というのも、158分の上映時間の中で、”ここがクライマックスだったね!”というピークは感じられず、全編を通してナポレオンの半生が淡々と描かれて行きます。そして、劇中でナポレオン本人やその偉業を評価するような台詞、字幕、ナレーションも見かけないからです。
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筆者が一晩考えて到達した結論は、スコット監督が目指したのは、
- ナポレオン・ボナパルトという人物を映像で描写する(詳細は後述)
- ただし、そこでの解釈を陳腐な言葉に言語化して提示するような野暮なことはしない
- その作業はこの映画を観る者に委ねる
これこそが伝記映画の正しい在り方である。というようなことを考えているんじゃないでしょうか。
この意趣に付き合えるかどうかが、この映画を好きになれるかの分水嶺であり、この余白こそが本作品の最大の見どころだと思います。
ナポレオンを知る3つの切り口
とは言え、この映画を理解するためのヒントはあって、それはナポレオン・ボナパルトの最期の言葉です。死に際して最後に発した言葉は、
「フランス!…軍隊!…軍隊のかしらに…ジョゼフィーヌ!」
だったと伝えられています(Wikipediaより)。
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要は、今わの際に彼の口を突いて出たのは、
- フランス(という国家)
- 軍隊およびその頭(というナポレオンのアイデンティティ)
- ジョゼフィーヌ(という最愛の女性)
という三者だった訳です。
革命により民主化されたのに帝位を創設したフランスという国家。自身の才能を最大限発揮出来る器である軍隊。そして、共依存関係といっても良いような愛憎劇を繰り返すジョゼフィーヌ。
これら三つの鏡を通して、ナポレオンという実像に迫るというのが、この映画独特の切り口であり見どころだと思います。
再定義されたナポレオン象
ナポレオンを、悪魔どころか英雄としても描いていません。
せっかちで嫉妬深くて、小心者で傲慢で、下品で好色な男として描いちゃっています。低身長だったと伝えられるナポレオン象を再現するために、劇中でもホアキン・フェニックスが小さく映るような工夫も何度も繰り返されます。
ジョゼフィーヌとの愛憎劇を中心にして、ナポレオン・ボナパルトという男の息遣いまでが聞こえてくるような描写がこれでもかと続きます。そこでは、オスカー俳優ホアキン・フェニックスの演技はもとより、ヴァネッサ・カービーの存在感がエグイです。
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タイトルが『ナポレオン』なので、ナポレオン一辺倒かと思いつつ主役は2人、フェニックスとカービーの両者です。”私なんて取るに足らない存在です” 的屈辱的な言葉を相手に言わせる精神的凌辱プレーは、まさにSM です。期待して良いんじゃないでしょうか!
まとめ
いかがでしたか?
ナポレオン像を再定義するという大胆な試みをしつつ、その解釈は観客に大いに余白を残すという斬新なアプローチであるこの映画の独自性が、この記事でちょっとでも伝わっていると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 伝記映画が好きじゃないとキツイ |
個人的推し | 4.0 | 2時間半均質な緊張感の映画って凄い |
企画 | 4.5 | 大胆過ぎる試み |
監督 | 3.0 | 観ている方は辛い |
脚本 | 3.5 | この尺でも良くまとまった方だと思う |
演技 | 4.5 | 主演の2人が圧巻! |
効果 | 4.5 | 幾ら掛かったんだろう? |
このような☆の評価にさせて貰いました。
企画、演技、特殊効果全てが超一級品です。2時間半の長尺で、これだけ一定の緊張感を保って駆け抜けて、何かを我々に突き付けてくるのは圧巻です。
ただし、観る側としてはいささかシンドイです。考えさせられる余地が多く、筆者はWikipediaでナポレオンの生涯を復習してから鑑賞しましたが、それが無かったらもっと混乱に陥っていたと思います。
観る人というか、観る姿勢のようなものを選んじゃう作品ですね。