話題の記事続編なのに1作目の質を超えた映画5選

【ネタバレなし】映画「パーフェクト・デイズ」(ロケ地、あらすじ、音楽、サントラ)

この記事でご紹介する「パーフェクト・デイズ」は、2023年公開のドラマ映画。東京下町のボロ・アパートで一人ひっそりと暮らすある中年男性。公衆トイレの清掃員として生きる彼の淡々とした日常の中の、ささやかな喜び、周囲の人間の変化、過去に繋がる哀しみを通して、人生の機微を温かく優しい目線で描く。

筆者は、2023年10月に行われた、東京国際映画祭に合わせた先行上映、2023年12月の本公開にて、合計2回本作を劇場鑑賞済みで、そこで得られた感触も含めてこの記事を書いています。

この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴あらすじ(序盤に限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。

この映画を観るかどうか迷っている人観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人ことも考え、ネタバレしないように配慮しています。

全編通して舞台は東京で、言葉も日本語。しかし監督・脚本は、「ベルリン・天使の詩」(1987年) のヴィム・ヴェンダース。このドイツ人監督がオリジナル脚本を下敷きに、東京の生々しい生活感を美しい映像で切り取って行く。

観る者の心を静かにゆさぶるこの叙情詩の世界に、この記事で少しだけ足を踏み入れてみませんか?

目次

概要 (ネタバレなし)

この作品の位置づけ

「パーフェクト・デイズ」(原題:Perfect Days) は、2023年公開、日独合作のドラマ映画。スカイツリーを望む東京の下町(=江東区)にある木造のボロ・アパートに独りひっそりと暮らす、平山という中年男性の生活を温かい目線で描いた作品。

監督と脚本を務めるのは(脚本は高崎卓馬と共同)、「パリ・テキサス」(1984年)、「ベルリン・天使の詩」(1987年) のドイツ人監督ヴィム・ヴェンダース。主演の平山を演じるのは役所広司。

劇中における平山の職業は公衆トイレの清掃員という設定。映画では、平山が早朝に自宅を出発し、シフトで割り当てられた複数のトイレを丹念に清掃して周る姿を中心に、主観と客観を織り交ぜながら情緒豊かに平山の日常を描き出して行く。

ただし、ここで言う公衆トイレとは、後述する「THE TOKYO TOILET 」プロジェクトという実在する事業体が管轄する個性的なトイレの数々であり、劇中平山も ”THE TOKYO TOILET” とバックプリントされた青いつなぎを着用している。

THE TOKYO TOILET

「THE TOKYO TOILET」 プロジェクトは、2018年に開始された実在する事業。具体的には、16人の建築デザイナーが設計した、機能性と芸術性を兼ね備えた渋谷区内の17の公衆トイレを、施工・維持・運営するプロジェクトのことである。

トイレの設計施工は大和ハウス工業、トイレ器機の提案はTOTO、トイレの維持管理は日本財団・渋谷区・一般財団法人渋谷観光協会の三者によって担われており、2020年から2023年にかけて合計17ヵ所が順次設置された。映画は、これらの実在するトイレでもロケーションを行っており、物語の重要な舞台装置となっている。

物語の着想

カンヌ映画祭期間中に行われたヴィム・ヴェンダース本人のインタビューでは、企画の発端は、上述のデザイナーズ・トイレを題材にした映像企画がヴィム・ヴェンダース・サイドに持ち込まれたこと。そして、この”公衆トイレ”という施設を描くには、これと深くかかわる人物を登場させ、このキャラクターを通して掘り下げる必要があると考えたことが述べられている。

加えて、そこで創造されたのが”平山”というキャラクターであり、彼を起点にして物語を発展させたと説明してくれている。

その”平山”役に白羽の矢が立ったのが役所広司で、役所広司はヴィム・ヴェンダース作品への出演依頼は、40年の役者人生におけるご褒美であると快諾。結果的に本作の製作総指揮も担当することになった。

芸術的評価

この映画は、第76回カンヌ国際映画祭のコンペディション部門に出品され、結果、役所広司が主演男優賞を受賞した。

これは日本映画界にとっては、19年前(2004年)の第57回に「誰も知らない」で若干14歳の柳楽優弥(やぎら・ゆうや)が受賞して以来の快挙で、役所広司本人もインタビューで「やっと柳楽君に追いついた」とジョークを飛ばしている。

劇場公開日

この作品は、2023年の東京国際映画祭のオープニング作品であり、これを記念して2023年10月24日(火)~10月30日(月)の1週間に限ってTOHOシネマズ日比谷で特別先行上映を行った(予約は通常上映と同様TOHOシネマズのサイトから行えるが、特別上映のため全席種2,000円)。

国内の一般公開は2023年12月22日(金)~で、劇場情報等の詳細はこちらのウェブサイトで確認できる。

本作品の上映時間は124分で、鑑賞の体感時間はやや長め。この手の芸術色が強い映画が好みで、雰囲気をシミジミと味わうことが好きな人におススメの作品である。

あらすじ (序盤に限定・聖地情報も)

※ 聖地となるロケ地情報も載せます。

時は2023年。スカイツリーを望む東京下町の木造ボロ・アパートで独り暮らしをする平山(役所広司)は、毎朝近所の神社(亀戸七福神・福禄寿と思われる)前の掃き掃除の音で目が覚める(下記のGoogle Mapはアパートのロケ地)。

目を覚ますと即座に布団を畳み、歯を磨き、口ヒゲを切り揃え、電気カミソリでその他のヒゲを剃るのが朝のルーティン。それから、霧吹きで室内に並べた鉢植えの数々に水をやるのも重要なその一部だ。

身支度を整えると、”THE TOKYO TOILET”と背に書かれたつなぎを着て、まだ日が昇らない薄暗い屋外へと出て、自宅前に止めてある軽ワゴン車に乗り込み職場へと出かける。この車にはトイレ清掃に必要な道具が所狭しと積み込まれており、平山はその日の気分に合う古いカセッテテープを車中で流しながら、シフトで割り当てられた公衆トイレへと出かけて行く。

朝日を浴びながら最初の公衆トイレに到着すると、平山は利用者の邪魔にならないように、トイレの室内、そして洗面台、便器の隅々までを慣れた手つきで清掃して行く。時にシフトで一緒になる職場の後輩タカシ(柄本時生)の「平山さんはやり過ぎだ(=仕事が丁寧過ぎるの意)」という声には耳を貸さず、平山は一切の無駄口を叩かず丹念に丹念に設備を磨き上げて行く。

昼食時には、いつもの公園のいつものベンチに腰掛け、コンビニで買ったサンドイッチを牛乳で流し込みながら、生い茂った樹々の葉を見上げ、長く使い込んだオリンパス製のフィルムカメラで、その木洩れ日を撮影する。

幾つものトイレを清掃した後、午後その日の仕事を終えると、一旦自宅に戻り私服に着替え、今度は自転車で近所の銭湯へと開店のタイミングを狙って出かけ行き、広々とした大浴場で、顔馴染みの他の常連客と一番風呂を楽しむ(ロケ地は恐らくこの「電気湯」さん)。

その日の汗と汚れをサッパリと洗い流すと、今度は自転車で隅田川を渡って、浅草まで足を延ばす(劇中何度も登場する個性的な橋は、隅田川に架かる桜橋)。

浅草の駅前に着くと、地下街にある行きつけの飲み屋でチューハイを飲み夕食を済ます(下の地図は劇中登場する浅草駅前と地下通路にある『やきそば福ちゃん』)。

帰りはまた自転車で桜橋を通って隅田川を渡り帰宅する。家に戻ると、布団を敷き、眠くなるまで小説を読みふける。

こうして平山の毎日は、いつの間にか出来上がったルーティンワークに沿って淡々と過ぎて行く。しかし、彼の表情を見ていると、決して多くを語らないものの、いつもどこか楽しげだ・・・

見どころ (ネタバレなし)

この映画の見どころを、沢山書きたい欲求をぐっとこらえて、3つの観点に厳選して述べてみたいと思います。どれもネタバレなしで書いてきますので、皆さんがこの作品をより味わい深く鑑賞する一助になれると嬉しいです。

名優、役所広司

この映画では、役所広司扮する主人公”平山”の行動を通して物語が綴られて行きます。ただしそこでは、平山目線の主観と平山を眺める客観が織り交ぜられていて、我々観客は”平山目線”に常に閉じ込められるような息苦しさは感じません。

そして、平山という人物の肌の温もりを、カメラを通して何とか映し出そうとするヴィム・ヴェンダース監督の優しさが伝わって来ます。特に平山の微笑ましい行動は、みなさんをほのぼのとした気持ちにさせてくれると思います。

ただし、この”平山”というキャラクターの台詞は極端に少ないです。平山は仕事の大半を独りでこなす設定であり、加えて寡黙な人物として描かるので、ストーリーや心情を理解するには、俳優・役所広司の無言の表情を読み取るしかありません。

ここに役所広司の多才な表現力が込められています。このある種の顔芸のお陰で、知らず知らずのうちにこの作品に没入して行くことになると思います。これが何を差し置いてもこの映画の最大の見どころです。カンヌ国際映画祭の主演男優賞は、本当に納得です!

あわわっち

横顔。時に後頭部の描写が凄く多いような気がするんだよなぁ。

美しい映像

ヴィム・ヴェンダース監督の映像がとにもかくにも美しいです。

朝陽が昇る東京の街、夕陽を浴びる隅田川の桜橋、平山が自転車を走らせる東京の夜景、そして樹々の緑と木洩れ日。そのどれもが美しくて、ハッと息を呑むようです。これを筆者の陳腐な語彙力でこれ以上書き記すのは野暮と言うものなので、こちらの予告編をご覧になる、もしくは本編でご確認ください。

ただ一つ言えるのは、ヴェンダース監督は徹底して引き算をしているということです。画面に、カットに、そして台詞に。スクリーンに色んな要素を詰め込むのではなく、そこから極限まで引き算をして、本当に伝えたいことだけを役所広司の表情と美しい映像で表現しているんだなぁと感じます。

ヴィム・ヴェンダース監督、直近10年の最高傑作の呼び声が高いようですが納得です。

あわわっち

ヴェンダース監督は、光の魔術師なんでしょうか・・・

BGM(サントラ)

この作品では、音楽がとても重要な役割を占めます。

しかしそれは全編に渡って音楽が流されるという意味ではなく、むしろBGMが無いシーンの方が圧倒的に多いです。ただし、ここ一番というシーケンスにおいては、とても情感的なメロディがそっと挿入される。そんな位置づけで音楽が使われています。

劇中で平山は、その日の気分に合わせてアナログのカセットテープを、仕事用の車のカーステレオ、もしくは自宅の古いラジカセで再生します。そのフォーマットや再生装置が旧式なだけでなく、そこで再生される音楽も ”アニマルズ”、”ベルベット・アンダーグラウンド” や ”ザ・キンクス” といった、何世代も前のサウンドばかりです。

台詞が少ないだけに、音楽の醸し出す趣きが際立って行きます。この映画のタイトルの基にもなっており、主題歌でもあるルー・リードのパーフェクト・デイも登場します。

まとめ

いかがでしたか?

もしこの記事を読んで、このひっそりとした、でも強烈な個性を放つこの傑作を、ちょっとでも観てみたいと思って貰えたら凄く嬉しいです。

この作品に対する☆評価ですが、

総合的おススメ度 4.5 是非観て頂きたいな
個人的推し 5.0 強く推薦します!
企画 4.5 日常を題材とする勇気
監督 4.5 目線の優しさ、バランス感覚
脚本 4.0 細かな所作の積上げの素晴らしさ
演技 5.0 全員素晴らしい!
効果 4.0 照明、音楽、編集どれも素敵
こんな感じの☆にさせて貰いました

このような☆の評価にさせて貰いました。

過去の経験から言って、鑑賞前の期待を上回る作品というのは、いい意味で内容に対する想像を裏切る作品だったんですよね。でもこの映画は、鑑賞前に想像していた通りの内容だったのに、期待以上の感動があるという、非常に稀有な経験をさせてもらいました。「こんなことってある?」というのが偽らざる感想です。おススメです。

あわわっち

Blu-rayが出たら絶対買います。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次