この記事でご紹介する「フォーン・ブース」は、2002年のサスペンス映画。舞台はニューヨーク8番街と53丁目の角。ショービジネスの世界で口八丁手八丁で生きている男が、街角の電話ボックスに突然掛かってきた着信を取ってしまったところ、電話の相手の男から、自身の弱みを盾に極限まで追い詰められる話。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
脅迫される男をコリン・ファレル、脅迫する電話の声をキーファー・サザーランドが演じている。ビジュアル的には、映画のほぼ全てが、電話ボックス内のコリン・ファレルの独り芝居という構成。それでも、この異色の展開に、観ているこちら側はハラハラドキドキする珠玉の81分。
この記事で、このワン・シチュエーション映画の世界をちょっと覗いてみませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から22分40秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画のスピード感がつかめると思います。そして、主人公がどういうキャラクターで、電話の主にどのような手口で脅迫されるのかも見え始めます。この辺りが、この先も観るか判断できる最短の箇所だと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「フォーン・ブース」(原題:Phone Booth) は、2002年のサスペンス映画。ニューヨークのショービジネスの世界で、頭の回転と口先の上手さだけで生き抜いている芸能マネージャーが、いつも使う8番街の電話ボックスに掛かってきた着信に思わず応答する。すると、いつ調べていたのか、電話相手はこちらの個人情報に恐ろしいほど詳しく、それを武器に極限までこちらを追い詰めてくるという話。
電話ボックスで追い詰められる男をコリン・ファレルが熱演し、冷静な声色で追い詰めて行く電話の男をキーファー・サザーランドが怪演している。
ビジュアル的には、映画のほぼ全編が街角の電話ボックスでのコリン・ファレルの描写という異色の作品。いわゆるワン・シチュエーション映画。タイトルの「フォーン・ブース」(Phone Booth = 電話ボックス)というのは、まさに言い得て妙な題名。
商業的成功
そのお陰もあってか、この映画はわずか1千3百万ドルの製作費で作られている(上映時間は81分)。世界興行収入は、9千8百万ドル売り上げたとされ、実に7.5倍のリターンとなる。
アイデア次第では、限られた場面転換でも優れた作品を撮ることができ、かつヒットも望めるという素晴らしい好例。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では72%の支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして「クイックなペースとファレルの演技が、この映画を緊迫したスリラーにしている」と評されている。
登場人物(キャスト)
物語は電話ボックス中心に進むので、登場人物は多くない。下のリストを見るとパッと見は多い様に見えるかも知れないが、混乱するようなことは無いと思う。
役名 | 俳優 | 役柄 |
スチュワート・”スチュ”・シェパード | コリン・ファレル | 主人公。電話ボックスで脅迫される |
電話の主 | キーファー・サザーランド | 電話越しにスチュを脅迫する謎の男 |
アダム | キース・ノッブス | スチュに弟子入りしているアシスタント |
マリオ | ジョシュ・パイス | スチュが通っているバーのオーナー |
パメラ・マクファーデン | ケイティ・ホームズ | スチュが口説こうとしている若い女性 |
ピザ屋の配達員 | デル・ヨウント | 電話ボックスにピザを配達してきた男 |
ケリー・シェパード | ラダ・ミッチェル | スチュの妻 |
エド・レイミー | フォレスト・ウィテカー | 包囲する警官を指揮する警部 |
コール巡査部長 | リチャード・T・ジョーンズ | レイミー警部の補佐する警官 |
フェリシア | ポーラ・ジャイ・パーカー | 街の娼婦 |
コーキー | アリアン・アッシュ | 街の娼婦 |
エイジア | ティア・テクサーダ | 街の娼婦 |
レオン | ジョン・イーノス3世 | 娼婦の元締め |
あらすじ(22分40秒時点まで)
スチュワート・”スチュ―”・シェパード(コリン・ファレル)は、ニューヨークで活動する自称メディア・コンサルタント。イタリア製のスーツや靴、高級腕時計で身を固めた芸能マネージャーといった仕事をしている。
立ち振る舞いは f*** word を連発する尊大なもので、決して上品とは言えないが、彼のことを師と仰ぎ、そのスキルを学ぶために無給でアシスタントを務める若者を従えている。
誰かから何かをエサに裏情報を入手し、その裏情報をエサに他の人間を思惑通りに動かそうとする。こうして、ニューヨークのエンタメ業界の片隅で、頭の回転の速さと口先の上手さで生き抜いている。いつもただ酒を飲んでいるバーのオーナーにツケを払えと言われれば、有名ミュージシャンの内輪のパーティー開催をエサに逆に恩を売る。そんな毎日だ。
そんなスチュには毎日のルーティンがある。それは、アシスタントを用事に行かせて一人になったタイミングで、8番街と53丁目の角の電話ボックス(フォーン・ブース)に籠ること。目的は、市内のレストランでアルバイトをする女優志望のパメラ(ケイティ・ホームズ)に電話をし、若く美しい彼女を、芸能支援をエサに口説こうとしているのだ。
ところが今日は、電話ボックスに居るスチューのところに突然宅配のピザ屋が現れる。なんでも配達員によると、支払いが既に済んだこのピザを、この電話ボックスに配達するよう明確に指示されたと言うのだ。スチュ―は、この状況に驚いたとは言え、この配達員が気分を害するほど口汚く罵って追い返す。
レッスンで忙しいパメラの誘い出しが不発に終わると、スチュ―は通話を切って電話ボックスから外に出る。
すると、その公衆電話が突然鳴りだす。深い考えも無く思わずこの着信を取ってしまうスチュー。すると、電話の相手は声に聞き覚えの無い男で、先程のピザの注文主だと名乗る。そして、今日のスチューの服装を正確に言い当てた上で、スチュ―に対して今からは自分の指示に従い、電話ボックスから出るなと命じる。更に男は、スチュのフルネームや住所、そしてパメラの存在も言い当て、スチュ―を精神的に揺さぶり始める。
スチュ―は、冷静な口調ながら一方的に指図をしてくる電話の相手に対して腹を立て、強い口調で応戦するが、電話の相手は、それなら妻のケリーに電話をすると言って通話を切る。スチューが、不安と共に電話ボックスの傍らに佇んでいると、再度公衆電話が鳴る。
スチュ―は今度は、電話の相手の正体を探り、妥結点を探ろうと交渉を試みるが、相手はスチューとの通話を繋ぎながら並行してパメラ(ケイティ・ホームズ)に電話をかけ、パメラを巻き込んで行く。そしてパメラに、スチュ―は既婚者であり、彼が申し出ている支援も全てパメラの体目当てだと、スチュ―の手の内を明かしてしまう。
男はパメラとの通話を切ると、今度は自分との通話を繋いだまま、スチュ―自身に携帯電話で妻のケリー(ラダ・ミッチェル)に並行で電話を掛けるよう命じ、今度はケリーを巻き込んで行く。男の指示は、スチュ―のパメラとの浮気未遂を、スチュ―自身の口から妻のケリーに告白させることであった。スチュ―はケリーに電話を掛けるものの、パメラの話など出来る筈もなく、不審に思って怯えるケリーを必死になだめて通話を切る。
すると、こうして電話ボックスを長時間占拠するスチュ―に対して、この電話ボックスを使って常連客に営業をかけたい8番街の娼婦たちが、ボックス内のスチュ―に電話ボックスを譲るように不平不満をぶつける。スチュ―は思わず、彼女たちにも不遜な態度で臨み、汚い言葉を投げかけて追い返してしまう。
スチュ―も電話の男との通話を切り上げようとするが、男は、電話を切ったらスチュ―を殺すと宣言する。これをハッタリだと高をくくっていたスチュ―であったが、男が宣言通りに、スチュ―の足元にあったブリキのオモチャを狙撃して見せたことで、スチュ―の置かれた状況は、単なる脅迫を越え、いよいよ身体的な危険性へと発展していく。
スチュ―は、この状況を無事に切り抜けることが出来るのだろうか?電話の男は一体何者だろうか?そして、男の狙いは何なのだろうか…?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。フォーン・ブース(電話ボックス)のみでストーリーが展開して行くワン・シチュエーション作品なのがこの映画の売りですから、実際に観て頂くのが一番だと思います。
よって、野暮な言葉での説明を排し、”何を観て!”じゃなく、”ココに注目して!”と、見どころの”ポイント”だけ述べるように心がけます。
全てネタバレなしなので、安心してお読みください。
電話ボックスというアイデア
とにもかくにも、この映画の凄いところ、最大の見どころは、映画の舞台が実質的に電話ボックスだけということです。ワン・シチュエーションでストーリが完結する。このアイデアが凄いです!
これまでも”密室劇”の傑作作品というのはあったけれども、この映画は(厳密にいうと密室ではないけれど)実質的に電話ボックス(フォーン・ブース)の中だけで物語が進むという、極小区間が舞台です。こんな映画それまで無かったんじゃなかろうか?
ココにご注目ください!
コリン・ファレル、キーファー・サザーランド、フォレスト・ウィテカーという主役級の俳優を3人揃えても、製作費が1千3百万ドルに抑えられているのは、このアイデアのお陰でしょう。
アイデアのお陰で低予算!という好例ですね!
コリン・ファレルの演技
上述のように電話ボックス(フォーン・ブース)で物語は展開していきます。そして、その電話ボックスに籠るのはコリン・ファレルただ一人。電話の相手(キーファー・サザーランド)とは声のやりとりだけです。
よって、ビジュアル的にはコリン・ファレルの独り芝居なんですよね、この映画。
整理すると、ストーリーの状況説明、主人公の心理状態、電話の声の主から受ける恐怖感、こういった本作を構成する要素は全て、コリン・ファレルの表情を鏡にして映し出されて行く訳です。
コリン・ファレルの演技は、皆さんの目にはどう映りますか?
巧みなストーリーテリング
そもそも上映時間全体が81分と、非常にコンパクトに仕上がっている作品です。
上記で「あらすじ」を書いたのが22分40秒の時点までですが、この時点で主人公は電話ボックス(フォーン・ブース)に入っています。つまり、早々に電話ボックス主体の舞台設定に入っている訳ですね。
でも、映画を成立させるためには、主人公のスチュ―と言う人物のキャラクターや、人間関係を描写しないと”物語”にはならない訳です。その辺りは巧みにストーリーテリングがなされていると思います。
電話ボックスに入る前、入った後。主人公のスチュ―という人間が、周囲の人間をどう扱うのか。自分にとって大切な人、そうでない人にどう接するのか。こういったストーリーテリングの機会を適切に配することで、この究極の密室劇を成立させている点も、見どころとしてご注目ください。
まとめ
いかがでしたか?
低予算で、短い上映時間でコンパクトにまとまった低予算サスペンスの秀作。なるべく簡潔に見どころポイントを述べたつもりです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | サスペンス好きは是非一度は! |
個人的推し | 3.5 | コリン・ファレルの演技が… |
企画 | 4.5 | アイデアが凄すぎる! |
監督 | 4.0 | ダレずにスピード感あり! |
脚本 | 3.5 | 前半のストーリーテリングはお見事! |
演技 | 3.0 | 後半もう少し深みが欲しかった… |
効果 | 4.0 | ビジュアル的なスリルが素晴らしい! |
このような☆の評価にさせて貰いました。
総合的に独創的で素晴らしい作品なので、サスペンス作品がお好きな方は、是非一度は絶対にご覧になっていただきたいです!
一方で、後半に行くに従って、コリン・ファレルの心理描写が今一つ分からないというか、精神状態の見せ方の解像度が上がらなかったというか、もうちょっとその辺を色々と味わいたかったというのが本音です。
いずれにせよ、メチャクチャ面白い映画なのは事実です!