この記事でご紹介する「真実の行方」は1996年公開の法廷スリラー。1993年発表の同名小説の映画化作品。主演の刑事法廷弁護士をリチャード・ギア、依頼人の少年をエドワード・ノートンが演じている。
カトリック教会の大司教殺害事件において、教会の介添え役を務めていた19歳の少年が裁判に掛けられる。大人たちの私利私欲も絡む審理が進むにつれ、様々な背景的な事実が明らかになるが、”真実の行方” は混迷を極めて行く。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
映画デビュー作となったエドワード・ノートンの少年役の演技が高く評価され、アカデミー助演男優賞にノミネート。こうした出演者たちの迫真の演技もあって、物語は非常にスリリングな展開となって進んで行きます。
登場人物も多い本作品。この記事の予習情報で少し整理してからご覧になることで、思う存分この映画を楽しむお手伝いが出来ると幸いです。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から29分30秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画の雰囲気、トーン、スピード感がつかめると思います。また、主要な登場人物もほぼ出揃い、どういう争点で法廷闘争が開始されようとしているのかも見え始めます。この先も観続けるかを判断する最適なタイミングだと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「真実の行方」(原題: Primal Fear) は、1996年公開の法廷スリラー。1993年に発表された同名小説「Primal Fear」を原作としている。映画化に当たって、観客がストーリーをより理解しやすいように、シナリオの一定の簡略化はなされてはいるものの、基本の骨格となる部分について映画は小説を踏襲している。
プロットは、シカゴのコミュニティの重鎮である、カソリック教会の大司教が残忍な手口で殺害され、教会で手伝いとして働いていた19歳の少年(エドワード・ノートン)が起訴される。裁判の原告は女性検事(ローラ・リニー)が担当し、弁護人は野心家の弁護士(リチャード・ギア)が務めることになる。しかし、この検事と弁護士は元恋人関係。
事件の背景も複雑で、市内のある土地の再開発で一儲けを企む街の有力者と、それに反対してきた被害者の大司教との対立の構図も見え隠れする… 裁判が進んでも、事件の真相究明は二転三転していく。
主演の目立ちたがり弁護士を演じるのは、本作出演時に既に映画俳優キャリア20年を数えていたリチャード・ギア。1980年代から「アメリカン・ジゴロ」(1980年) 、「愛と青春の旅立ち」(1982年) 、「プリティ・ウーマン」(1990年) と、常に主役を張ってきたスター俳優が、本作でも自信満々の演技を見せる(撮影時46歳)。
相手役の被告人の少年を演じるのは、本作が映画デビューとなったエドワード・ノートン(撮影時26歳)。このエドワード・ノートンが、デビュー作とは思えない圧巻の演技で、ナイーブな少年を演じ切ったことで、この作品の真実味が増して行く。
商業的成功
この映画の上映時間は130分と標準的な長さ。製作費3千万ドルに対して、世界興行収入は1億3百万ドルを売り上げた。3.42倍のリターンである。
狙い通りに十分のヒット作となったと言えるのではないだろうか。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、77%の支持を受けている(Rotten Tomatoesでは、60%以上が新鮮、60%未満が腐っているという基準)。同サイトの共通的な批評は「『真実の行方』は、エドワード・ノートンの見事な演技によって昇華され、ストレートな内容でありながら面白いスリラーである」となった。
そのエドワード・ノートンは、アカデミー助演男優賞こそノミネート止まりであったが、ゴールデングローブ賞では見事に映画部門の最優秀助演男優賞を受賞した。
キャスト
この物語は登場する関係者が多く、正直言うと初見では、理解が中々追い付かないかも知れない。キャストを下の表にリスト化しておく。
役名 | 俳優 | 役柄 |
マーティン・ベイル | リチャード・ギア | 刑事弁護士。大司教殺害事件の弁護人を務める |
アーロン・ルーク・スタンプラー | エドワード・ノートン | 大司教殺害事件の被告人の少年。時々記憶が飛ぶ |
トマス・グッドマン | アンドレ・ブラウアー | ベイルの事務所に勤める調査員。元刑事 |
ナオミ・チャンス | モーラ・ティアニー | ベイルの事務所に勤める助手 |
モリー・アーリントン博士 | フランシス・マクドーマンド | ベイルの依頼で被告の精神鑑定を担当する精神科医 |
アレックス | ジョン・セダ | アーロンと共に教会でラシュマン大司教の手伝いをしていた少年 |
リンダ | アザレア・ダヴィラ | アーロンと共に教会でラシュマン大司教の手伝いをしていた少女 |
ジャック・コネルマン | レッグ・ロジャース | ベイルを密着取材する記者 |
ジョーイ・ピネロ | スティーヴン・バウアー | ベイルの依頼人。地元ヤクザのボス。マルティネスとも懇意 |
マルティネス | トニー・プラナ | 街の有力者。宅地開発の反対派 |
ジャネット・ヴェナブル | ローラ・リニー | 大司教殺害事件を担当する検事。ベイルの元恋人。 |
ジョン・ショーネシー | ジョン・マホーニー | 州検事。宅地開発の推進派 |
バド・ヤンシー | テリー・オクィン | ジャネット検事の上司 |
アデル・スティンナー警部 | ジョー・スパーノ | 殺害事件を担当する警部 |
ワイル | ケネス・ティガー | 殺害事件を担当した検視医 |
ミリアム・ショート判事 | アルフレ・ウッダード | 大司教殺害事件を担当する判事 |
ラシュマン大司教 | スタンリー・アンダーソン | 殺害される大司教 |
レスター・ホルト | レスター・ホルト | ニュースアンカー(本人役) |
あらすじ (29分30秒の時点まで)
マーティン・ベイル(リチャード・ギア)は、シカゴ市内で弁護士事務所を構えるやり手の刑事弁護士。元は検事局に勤めていたが、将来的なキャリアの展望を考え、弁護士業に鞍替えをしたのだ。その結果、今日も地元ヤクザ、ピネロの弁護を務め、司法取引に絡めて州から150万ドルの補償金をせしめることに成功するなど、ビジネスは順調だ。
ある朝、地元コミュニティの最大の有力者の一人である、カトリック系教会のラシュマン大司教が、聖ミカエル教会内の自室で惨殺される。死体は両目玉がくりぬかれ、全身に刃物で切られた無数の切り傷と、胸に”B32.156”という文字が刻まれた凄惨な状態だった。
現場周辺では、返り血を浴びたような服装をした19歳の少年、アーロン・スタンプラー(エドワード・ノートン)が逃走しており、警官たちがこれを追跡し、何とか身柄を拘束することに成功する。
状況からアーロン少年(エドワード・ノートン)が殺害犯のように見えたが、野心家のベイル弁護士(リチャード・ギア)は、これを売名のチャンスと捉え、即座にアーロンの弁護に名乗りを上げる。ベイルが、国選弁護人より遥かにやり手の自分が無償で弁護すると申し出たため、アーロンもこのオファーをそのまま受け入れた。
アーロン(エドワード・ノートン)はベイル(リチャード・ギア)の質問にも素直に応じた。大司教が、ケンタッキー出身でその日暮らしだったアーロンを教会の”救いの家”に招き入れたこと、以来1年半の間、教会の聖歌隊やミサ等で大司教を手伝ってきたこと。そして、ラシュマン大司教はアーロンにとって父親のような存在であったこと等を話す。
また大司教殺害時の状況についても述べる。用事があって教会に行ったら、司教の寝室から物音が聞こえ、中を覗くと司教が血だらけで倒れ、何者かがそこに覆いかぶさっていた。ただし、そこで ”時を失って(=意識を失って)”、意識を取り戻した時には自身の服は血だらけで、警察のサイレンも聞こえたので怖くなって逃げたと、告げる。
ベイルは事務所に戻るとスタッフを集めて、別の容疑者の可能性を立証し、アーロンへの嫌疑は不完全であるという線で弁護を展開すべく、そのスタッフたちに細かな指示を与えて行く。
一方の検察側は、州検事のショーネシー(ジョン・マホーニー)、上司ヤンシー(テリー・オクィン)の指示で、ジャネット(ローラ・リニー)が担当することになった。検察側も鼻息が荒く、まだ細かな調査も開始していないにも関わらず、ジャネットに極刑を勝ち取るように厳命する。なおジャネットは、半年ほどベイルと交際していた過去を持つ。
こうして、元恋人同士が、検察側、弁護側に分かれてラシュマン大司教惨殺事件を法廷で争うことになって行く。
果たして、真犯人は誰なのだろうか?裁判は、その事実を詳らかにすることが出来るのだろうか?真実の行方は…?
見どころ (ネタバレなし)
法廷スリラーである本作にの見どころを4つの観点に絞って書いてみたいと思います。
この映画は、殺害事件をめぐるスリラーで、誰が真犯人なのか?が焦点になって行きます。そして、それを法廷で決着を付けようじゃないか?という流れになる訳です。しかし、そこに関わるのは全て血肉の通った”人”です。
社会があり、制度があって、そこに人がいる。そんな見どころを以下の文章でちょっと予習しておくと、より味わい深くこの作品を楽しめると思います。全てネタバレなしで書いていくので、安心してお読みください。
アメリカの訴訟大国らしい価値観
冒頭からさりげなくこの映画のトーンを設定してきますので、見逃さないようにしましょう。
具体的には、訴訟大国アメリカを体現するような、ちょっとショッキングな台詞が並びます。その一部を予習しておきませんか(いきなりブッ込んでくる感じが楽しいです!)。
- 真実とは12人の陪審員の頭に形作られるもの
- 母親が「愛してる」と言ってもその言葉を疑え
- 人はその行為に関わらず最高の弁護を受ける権利を有する
お伝えしたいのは、ここでキッチリご自身の意識の位相合わせをしておくことが地味に重要だということです。是非冒頭からお見逃しなく!(お聞き逃しなく!)
良くも悪くもアメリカは陪審員裁判制度の先進国ですよね。
自信満々な色男キャラ(常時ちょっとニヤけている)
この映画でも、(常時ちょっとニヤけている)リチャード・ギアの自信満々なキャラクターが炸裂です!そうです!いつでも堂々とした立ち振る舞いの色男ぶりを発揮してくれるんです。
「アメリカン・ジゴロ」(1980年) 、「愛と青春の旅立ち」(1982年) 、「プリティ・ウーマン」(1990年) と、その時代、その時代で(常時ちょっとニヤけている)セクシーな二枚目の役を演じてきたリチャード・ギアさんですが、本作では野心的でイケイケドンドンの法廷弁護士役で登場します。
一見するとただの目立ちたがり屋に見えるこのキャラクターが、何を想い、何を欲し、そして何に葛藤し、最後には何を得るのか?
そして何より、そんな心情の変化を(常時ちょっとニヤけている)リチャード・ギアさんがどう演じるのか、期待してご覧ください!
常時ちょっとニヤけてるんですよね。
法廷闘争劇
この映画は上質な法廷闘争劇と言えます。その辺りも注目ポイントだと思います。
裁判開始時の罪状認否にいきなり黙秘したり、裁判所以外で検事と弁護士が接触して場外戦を展開したり。
本当の裁判はもっと堅苦しいものだと思うんですけど、映画の中の法廷闘争劇としては、論点を先読みしたり、敢えてそれをズラしたり、敵方を心理的に揺さぶって出方を伺ったり、そんな駆け引きが見ていて楽しいです。
19歳の大人しそうな被告を、12人の陪審員にどう印象付けるか?なんて議論も、とてもアメリカらしい法廷闘争劇です。
これが映画デビュー作?
リチャード・ギアさんの存在感も凄いですが、相手役のエドワード・ノートンの演技力が素晴らしいです。これがホントに映画デビュー作なの?と見紛うばかりです。
撮影時若干26歳。台詞回しが素晴らしいのはもちろんのこと、台詞が無いカットでも、その目の動き、表情の作り方、その一つ一つに引き込まれてしまいます。
泣いたり叫んだりの足し算の演技って比較的誰でも出来ると思うんですよね。でも、こういう抑えた引き算の演技って、演技プランがシッカリしていて、そこに自信を持って臨まないと貫徹できないと思うんですよね。
目立ちたがり屋弁護士キャラクターを、色男のリチャード・ギアがボディ・ランゲージ込みで伸び伸びと演じて、その隣で(二重の意味で)緊張した表情の少年被告人をエドワード・ノートンが抑えた表情で演じる。この動と静の対称性が、このスリラーのスリルをより色濃いモノにして行ってくれます。
まとめ
いかがでしたか?
これからこの作品を初見でご覧になる方を強く意識して、ネタバレをせず、それでいて初回でもスッキリとストーリーが頭に入るように、予習情報だけを整理したつもりです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | バランスの取れた良作 |
個人的推し | 3.5 | エドワード・ノートンすげぇ! |
企画 | 4.0 | 良質の法廷ものを定期的に観たい |
監督 | 3.5 | 良くも悪くもシンプルな演出 |
脚本 | 3.5 | 原作の複雑さを綺麗に簡素化してる |
演技 | 4.0 | 主なキャストの素晴らしい演技 |
効果 | 3.5 | もっと怖くても良いかな… |
このような☆の評価にさせて貰いました。
全般的にバランスの取れた良作で、十分楽しめると思います。特筆すべきはエドワード・ノートンの演技。それ以外は良くも悪くも期待通りといった感じかも知れません。
繰り返しになりますが、十分楽しめると思います。