この記事でご紹介する「テンダー・マーシー」は1983年公開のドラマ・ミュージック映画。日本では、劇場未公開であったこともあり知名度は低いが、第56回アカデミー賞では主要2部門(主演男優賞・脚本賞)に輝く名作。
特に、主演男優賞を獲得したロバート・デュヴァルが、落ちぶれたカントリー歌手を静かに熱演。その演技と歌声で人生の悲哀を奏でる様は映画ファン必見。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ゴッドファーザーのトム・ヘイゲンが歌とギターの腕前も披露してしまう、上映時間92分の隠れた名店的な本作品。たまにはこのような物静かな映画を、腰を据えてご覧になるのはいかがでしょうか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から13分00秒のタイミングをご提案します。
この辺りまでご覧になると、この映画の世界観がつかめると思います。そして、主人公2人のバックグラウンドが見えてくる頃だと思います。この映画の続きを観るか否かを判断する最短のタイミングとしておススメします。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「テンダー・マーシー」(原題:Tender Mercies) は1983年公開のドラマ・ミュージック映画。売れっ子カントリー歌手だった男が、音楽活動から離れ、落ちぶれて酒浸りになる。そんなある日、宿泊したテキサスの郊外のモーテルで、心優しい若い未亡人との出会いをキッカケに、人生をやり直そうとする物語。
この落ち目のカントリー歌手を、ロバート・デュヴァルが物静かに演じ、アカデミー主演男優賞を獲得した。
ストーリーや映像に決して派手さはないが、中年男が少しずつ自分を取り戻していくストーリーは、ロバート・デュヴァルの確かな演技に裏打ちされて、観る者の心を静かに、しかし確実に揺さぶる情感が込められている。このオリジナル脚本も、この年のアカデミー脚本賞を受賞している。
芸術的評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、82%とかなり高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”ロバート・デュヴァルの巧みで控えめな演技に支えられた『テンダー・マーシー』は、永続する感情的な影響を残す、静かなキャラクターの研究である” と、評されている。
要は、ロバート・デュヴァルの物静かな演技が、観る者の心にいつまでも余韻を残すということなんだと思う。
その高い演技力は、第56回アカデミー賞で主演男優賞に輝く(ロバート・デュヴァルはキャリアを通して7回アカデミー賞にノミネートされている)。
また、本作品のオリジナル脚本は脚本賞も受賞している(ホートン・フート)。
商業的成果
この映画の上映時間は92分とかなり短めである。制作費は4.5百万ドルだったと言われており、世界興行収入は8.4百万ドルだったと報じられている。リターンとしては1.87倍である。
記録よりも記憶に残る映画と言えるかもしれない。
キャスト(出演者)
この映画の出演者は非常に少ないので、ストーリーを追う上でキャスト情報で混乱することは無いと思う。素直に出演者を追って行けば良い。
役名 | 俳優 | 役柄 |
マック・スレッジ | ロバート・デュヴァル | 主人公。有名なカントリー歌手であったが、今は酒浸りで落ちぶれている |
ロザリー | テス・ハーパー | テキサス州郊外の道路脇のモーテルの経営者。ヴェトナム戦争の未亡人 |
ソニー | アラン・ハーバード | ロザリーと戦死した夫の間に生まれた息子 |
ディキシー | ベティ・バックリー | マックの別れた妻。活躍中のカントリー歌手 |
ハリー | ウィルフォード・ブリムリー | ディキシーのマネージャーで、マックとも旧知の仲 |
スーアン | エレン・バーキン | マックとディキシーの18歳になる娘 |
ロバート | レニー・フォン・ドーレン |
あらすじ(13分00秒の時点まで)
マック・スレッジ(ロバート・デュヴァル)は、かつては売れっ子カントリー歌手であった。しかし、妻との離婚等もあり、音楽活動からも遠ざかり、今ではすっかり酒浸りの日々を送っている。
ある晩、テキサスの田舎のロード脇の小さなモーテルに宿泊していたが、酒が原因で同行者と大喧嘩をし、そのまま置き去りにされてしまい、朝目覚めると部屋の床に横たわっていた。
一文無しで、車もないマックは、モーテルのオーナーに、宿泊代の代わりにそのモーテルでしばらく働かせて貰えないかと頼み込む。
そこのオーナーは、ロザリー(テス・ハーパー)という若い女性で、夫がヴェトナム戦争で戦死してしまい、今はこの小さなモーテルを切り盛りしながら、小学生の息子ソニー(アラン・ハーバード)を女手一つで育てている。
心優しく信心深いロザリーは、マックの困っている姿を見て、彼に救いの手を差し伸べることにする。食事付の時給2ドルでマックを雇い、空いている部屋に住まわせることにしたのだ。ただし条件は、仕事中はお酒を飲まないこと。
元来は真面目で手先が器用なマックは、この日を境に一切の飲酒を辞め、男手が必要な大工仕事等をしてロザリーのモーテル経営を助ける。決して口数は多くないが、少しずつ身の上話をするマックとロザリーは、徐々に打ち解けて行く。そして、日曜日になるとマックは、ロザリーとソニーが通う教会に、一緒に礼拝に通うようにもなる。
そんな日々が2か月ほど過ぎたある日、一緒に家庭菜園の畑を耕しながら、マックはロザリーに静かにプロポーズをする。これを受け入れるロザリー。
カントリー歌手からはすっかり離れ、モーテルのオヤジになったマック、これを脇で静かに見守るロザリー。この男女にソニーを加えた3人の生活はどうなって行くのだろうか・・・?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを2つの観点に絞って書いてみたいと思います。作品の概要説明だけではどんな映画なのかまるで想像が付かないという方もいらっしゃるかも知れません。もちろん、ネタバレは避けますが、すこーしだけ踏み込んで、こういう主旨の映画ですよというご説明を加えることで、見どころのご紹介にさせて貰おうと思います。
多才なロバート・デュヴァル
言うまでもなく、この映画の最大の見どころはロバート・デュヴァルの演技です。ただ、その物静かな演技と、控えめな表情に忍ばせた豊かな感情表現といういぶし銀の演技は、これはもうご覧いただくしかないと思うので、これ以上書きません。
一点だけ付け加えるとすると、その多才さです。
本作では落ちぶれたカントリー歌手の役を演じているわけですが、実際にデュバルさん本人がアコースティック・ギターを弾きながらカントリー・ソングを歌うシーンが出てきます。その歌声が味があって凄く染みてくるんですよね。是非楽しみにしてください!
再生の物語の丁寧な描写
本作は、ロバート・デュヴァル扮するマック・スレッジという人物の再生の物語です。そして、その再生の段階は、プロの社会学者の目から見ても理にかなったステップを踏んでいると評されています。
つまり、映画として、人の再生のプロセスを丁寧に描写しているということです。見どころとして、ここにご注目頂くのが良いと思います。
もう少し具体的に述べると・・・
そもそもマック・スレッジが落ちぶれた要因は、飲酒という悪癖が問題だったのか、プロとしての音楽活動が神経をすり減らしたのか、あるいは前妻との結婚生活が悪かったのか、主たる要因は明確には描かれません。おそらく、世の中で身を持ち崩す多くの人と同様に、複数の要因が混然一体となって影を落とした様をリアルに再現しているのだと思います。
一方で、一文無しでロード脇のモーテルに放り出された朝を境に、キッパリと酒を辞め、規則正しい生活を心がけ、日中は(肉体)労働に従事します。この新しい生活様式により、身も心も持ち直して行きます。
ここでポイントとなるのは、生活様式の大転換もさることながら、過去の自分を清算し、手探りながらも新しい自分を作り上げて行くんだ!という精神的な旅が伴っている点です。
そしてそれを、ロザリー(テス・ハーパー)という信頼できる人が支えてくれます。
アルコール依存症って、一筋縄では行かないんじゃないの?と思ったりもしますが、自分と向き合うという点においては、非常にリアルな描き方をしているなと感じます。皆さんの目にはどう映るでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?
物静かな演技の中に、微妙な感情の機微を織り込んでいる本作品を、観てみたいな!と思って頂けると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | たまにはこういう作品もいかがでしょうか? |
個人的推し | 4.0 | 地味なのともちょっと違うんだよなぁ |
企画 | 3.5 | エンタメ性は低いかも・・・ |
監督 | 3.5 | 素材の味をそのまま引き出すアプローチ |
脚本 | 4.0 | 鑑賞後の余韻が凄い |
演技 | 4.5 | ロバート・デュヴァルの演技が凄い! |
効果 | 3.5 | BGM の統一感が素晴らしい |
このような☆の評価にさせて貰いました。
派手さは全く無いですし、奇をてらった演出とかも全くないですが、静かに、静かに主人公たちの感情を追うストーリーに好感が持てます!アカデミー主要2部門に輝く隠れた名作、是非時間を見つけて観てみてください!