話題の記事続編なのに1作目の質を超えた映画5選

【ネタバレなし】映画「愛を読むひと」(あらすじ、原作との違い)

この記事でご紹介する「愛を読むひと」(原題:The Reader) は米・独合作の2008年公開の映画。1995年出版のベルンハルト・シュリンクの小説「朗読者」(原題:Der Vorleser) の映画化作品である。主演のケイト・ウィンスレットが、その繊細かつ大胆な演技で、悲願のアカデミー主演女優賞を獲得している。

この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。

もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。

この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。

この映画を観るかどうか迷っている人観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人ことも考え、ネタバレしないように配慮しています。

この映画を、そのほんの一面である(官能的な)恋愛ドラマだと想定してご覧になる方は、今すぐUターンして他の映画をご覧になることをお勧めします。何故なら、この作品は、壁に空いた穴を覗いたら、その奥には驚くほど深遠な空間が広がっていた、という類いの物語なので、視聴にはそれなりの覚悟が必要だからです。

筆者が実際にそうであったように、この映画は最小限の予習情報で鑑賞いただいた方が良いと思うので、今回の記事はいつも以上に必要最低限の情報に絞って書いてみたいと思います。

目次

ジャッジタイム (ネタバレなし)

この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、

  • 上映開始から30分00秒のタイミングをご提案します。
30分00秒

ここまでご覧になると、主人公の2人がどんな風に出会い、どんな風に仲を深めて行くのかが見えると思います。この作品のテイストがお嫌いでなければ、是非この先もご覧になってみてください。

概要 (ネタバレなし)

この作品の位置づけ

「愛を読むひと」(原題:The Reader) は、2008年公開のアメリカ・ドイツ合作の映画。1995年にベルンハルト・シュリンクが出版した小説「朗読者」(原題:Der Vorleser) をスティーブン・ダルドリー監督が映画化した作品。

原作小説の映画化

”Der Vorleser” というドイツ語は、英訳すると ”The Reader” となる。これは日本語に直訳すると ”読むひと” ということになる。頭に付いている ”Der” は、ドイツ語の男性定冠詞なので特定の”男性の読む人”を指していることになるが、内容に鑑みて原作小説の ”(その)朗読者” は妥当な翻訳だと思うし、映画の日本国内公開時に配給会社が付けた ”愛を読むひと” も理解できる。

監督を務めたスティーブン・ダルドリーは、前作「めぐりあう時間たち」(2002年)に引き続いて、そして次回作「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(2011年)、次々回作「トラッシュ!-この街が輝く日まで」(2014年)へと、原作小説の映画化という流れが続いて行く。

原作小説の映画化と言ったらスティーブン・ダルドリー監督!

映画の舞台と言語

この映画の舞台は全編ドイツである。しかし劇中で話されている言語は(原則的に)英語である。よって、映画の鑑賞者である我々は、現地の言語として英語が使われていると脳内で読み替えて視聴する必要があるので、あしからず。

ドイツが舞台だけど言語は英語

原作との違い

この映画と原作との違いですが、筆者が調べた限りにおいては、プロットについて総論大きな違いは無いと考えている(上述の言語の違いは別)。

マイケルの年齢設定が原作の方がもう少し上などの若干の設定の違いがあるのと、キャラクターの属性や心情の掘り下げ方が原作の方がより明示的(映画ではビジュアルを使ってより示唆的に描いている)というのがあるものの、総じて原作と映画とで大きな差異がある作品ではないと考えている。

芸術的評価

主演のケイト・ウィンスレットが、本作の演技でアカデミー主演女優賞を受賞している。

キャリア全体でのアカデミー賞のノミネート歴は、

  • 「いつか晴れた日に」(1995年、助演女優賞)
  • 「タイタニック」(1997年、主演女優賞)
  • 「アイリス」(2001年、助演女優賞)
  • 「エターナル・サンシャイン」(2004年、主演女優賞)
  • 「リトル・チルドレン」(2006年、主演女優賞)
  • 「愛を読む人」(2008年、主演女優賞)
  • 「スティーブ・ジョブス」(2015年、助演女優賞)
6度目のノミネートで見事受賞!

と、6度目のノミネート(主演として4度目のノミネート)であったので、悲願の受賞と言って差し支えないのではないか。

あわわっち

その繊細かつ大胆な演技が、この物語の説得力の根源です!

商業的成功

この映画の上映時間は124分で極めて標準的な長さである。しかし、その奥深いテーマにより、サクっと鑑賞した!という感想にはならないと思う。製作費は3千2百万ドルで、世界興行収入は1億9百万ドルを売り上げたとされる。実に3.4倍のリターンである。

3.4倍のリターン!

エンタメ作品でないこの作風で、これだけの売上とリターンを上げるって、凄いことだし素晴らしいと思う。

あらすじ (30分00秒の時点まで)

1995年のベルリン。50歳を過ぎたマイケル・ベルク(レイフ・ファインズ)は、弁護士としても成功しているし、若い恋人もいるが、バツイチで既に独立した娘がいる。そして、常に悲し気な目をして人を寄せ付けない。そんなマイケルの頭を駆け巡るのは、15歳の夏の思い出ばかりだ。

マイケルは、1958年、15歳の時、家族と共に西ドイツのノイシュタットいう町に住んでいた。

あるドシャ降りの日、町を走るトラム(路面電車)に乗っていたマイケル(ダフィット・クロス)は、突然吐き気をもよおし、慌ててトラムから降りる。そのまま雨に濡れながら町を歩こうとするが、あるアパートの入り口で遂に嘔吐をしてしまう。

そのままそこ座り込み途方に暮れていると、通りかかったそのアパートの美しい住人のハンナ(ケイト・ウィンスレット)が、見かねて助けくれ、そのまま自宅近くまで送り届けてくれる。

マイケル(ダフィット・クロス)は猩紅熱(しょうこうねつ)という流感にかかったことが判明し、両親、兄、姉、妹と暮らすマイケルは、そのまま数か月、自宅内で隔離生活を送ることを余儀なくされる。彼の家は裕福で、マイケルを当分の間隔離する空き部屋があるような広い家に住んでいた。

数か月後病気から回復すると、マイケルは花束を片手に、世話になった礼を告げようとハンナ(ケイト・ウィンスレット)のアパートを訪ねてみる。幸運にもその時ハンナは在宅であったが、マイケルは彼女の素っ気ない応対に戸惑う。ただし、この時ハンナが着替える様を覗き見てしまい、20歳も年上だが、美しいハンナを女性として強く意識してしまう。

ハンナは、マイケルも利用しているトラムの車内検札員で、トラムの中ではマイケルの目はハンナに釘付けだ。意を決したマイケルは、再度ハンナのアパートを訪ねてみる。

トラムの検札員をしている美しいハンナ

マイケルの姿を見たハンナは、表面上は迷惑そうなそぶりを見せたが、アパートの公共施設である石炭置き場から、バケツ2杯分の石炭を自室に運び込む手伝いをマイケルに頼み、アパートの自室に招き入れてくれる。そして、ススで真っ黒になったマイケルの顔を見て2人は笑い合い、打ち解けていく。

そんな汚い顔では自宅には返せないと、ハンナは浴槽に湯を張り、マイケルを風呂に入れる。そして、互いの身体に興味があった二人は、そのまま男女の関係を持つ。

それからというものマイケルは、連日、学校が終わると、一目散にハンナの家に駆け付け、関係を持つ生活を送り始める。

そんなある日、ハンナはマイケルに授業の教材になっている本を音読するように頼む。朗読は苦手だと言いながらも、手持ちの戯曲を読んで聞かせると、ハンナが大変喜んで褒めてくれるので、マイケルも嬉しくなって一生懸命本を読んだ。こうしてハンナとマイケルにとって、セックスの前に物語の朗読をするのが2人の儀式になっていく。

ハンナは、マイケルが朗読するギリシャ神話には胸を躍らせ、悲恋の物語には涙を流し、喜劇には声を出して笑い、「チャタレイ夫人の恋人」はワイセツな描写だと非難し、そして「タンタンの冒険」のような漫画をも朗読させた。とにかく朗読を心から楽しんでいたのだ。

朗読が2人の儀式になって行く

そんなある日マイケルは、一泊二日の自転車旅行に出掛けようとハンナに提案する。

果たして、15歳の少年の夢のような恋は、このままこのままことも無く続いて行くのだろうか・・・愛し合う2人の仲はこうして楽しく続いて行くのだろうか・・・

見どころ (ネタバレなし)

この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。既に宣言したとおり、この映画は予備情報を最小限にしてご覧になった方が楽しめると思うので、余分なことは書かないように心がけます。

ケイト・ウィンスレットの演技

とにもかくにも、この映画の最大の見どころはケイト・ウィンスレットの演技です。ハッキリ言ってこれに尽きます。

この映画が公開された時、ケイト・ウィンスレットは33歳。劇中では36歳の役どころとなるので、ほぼ実年齢のキャラクターを演じたことになります。

カメラの前で裸体を晒すシーンも出てきますが、15歳の少年目線で描かれる訳ですから、正直若々しいという映され方ではありません。しかし、品があって慈愛に満ちていて、”物語”に興味津々。でも、何か人を寄せ付けないような距離感もあり、どこか寂し気です。

クールで無表情のようでいて、雲間からのぞく日差しのように、時折パッと明るい表情がはじけて来て、主人公のマイケルじゃなくても、男女問わずこのキャラクターのことは好きになっちゃうんじゃないでしょうか?

こうした大胆かつ繊細な演技が、「あらすじ」を書いた30分以降も出てきますので、是非是非お見逃しなく!

あわわっち

これでオスカー獲れないなら、何が獲るの?って演技です!

折り重なる重厚なテーマ

「あらすじ」を述べた冒頭の30分間だけ予習すると、何だか、年齢の壁を越えた、10代の甘酸っぱい(官能的な)恋愛のように聞こえると思います。実際そういう描かれ方もしていますし。

しかし物語は、読書や学習を通して”知”を得ること。倫理観、道徳心、法治国家。信念、誇り、恥。そして、人を愛するといったテーマを、投げかけてきます。

これ以上は申しませんので、ご自身の目と耳でお確かめください。

あわわっち

ちょっくらチラ見してみるか?ってゆーのには適さないかも・・・

情緒的な映像

撮影を担当したクリス・メンゲスの映像が、情緒的で非常に美しいです。監督のスティーブン・ダルドリーは、次回作の「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」でも、連続してクリス・メンゲスを採用しているので、恐らくその映像に手ごたえを得たのだと思います。

2000年代の映画なのに、まるでフィルムで撮影されたかのような角が取れた質感で、町並みや草原、室内や俳優たちの表情、そして裸体の肌が映し出されて行きます。非常に品が良い色合いなので、観ていて大変落ち着くし、その分俳優さんたちの演技に集中することができます。隠れた殊勲賞だと思います。

まとめ

いかがでしたか?

予習情報を少なく絞るというのは、当ブログの存在意義を自己否定しているような気もしますが、本当に最小限必要な情報だけお伝えしたつもりです。

この作品に対する☆評価ですが、

総合的おススメ度 3.5 好き嫌い別れると思います
個人的推し 4.5 断然ご覧になって頂きたい!
企画 4.0 これを映画化した勇気!
監督 4.0 原作小説映画化の名手!
脚本 4.0 示唆的な描写が多いので要集中力
演技 4.5 ケイト・ウィンスレット様!!
効果 4.0 映像のシックリ感!
こんな感じの☆にさせて貰いました

このような☆の評価にさせて貰いました。

ちょっくら観てみるかというエンタメ作品ではないので、総合的なおススメ度は低めに設定してみました。

ただし、個人的には断然推しです。こういうミルフィーユのように折り重なる重厚なテーマの作品を観て、自身が何を感じるか、何を想うかを反芻できるのが、映画の醍醐味だと思うので、そういう意味では最高の作品だと確信しています。

ご興味あれば是非ご覧になってみて下さい!

あわわっち

書きたいことを沢山我慢したので欲求不満です(笑)

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