この記事でご紹介する「ターミナル」は2004年公開のドラマ映画。東欧の自国からニューヨーク・JFK空港まで国際線で到着した男が、偶発的に起きた母国の政変によりパスポートも入国ビザも無効になり、合衆国の入国も出国も出来ず空港ターミナルでの生活を余儀なくされる物語。
この行き場を失う悲運の男をトム・ハンクスが演じ、監督と共同製作をスティーブン・スピルバーグが務める。このコンビによる三作目の映画作品。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
この嘘のような物語には、後述するようにモデルとなった実在の人物がおり、この記事では本映画作品がその実話をどのようにエンタメ作品に昇華させているかを軸に述べてみたいと思います。
そうすることで、この映画をより味わい深く鑑賞するお手伝いが出来ると嬉しいです。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から23分00秒のタイミングをご提案します。
この辺りまでご覧になると、この映画の世界観が完全につかめると思います。そして、主人公の男の不遇の端緒が分かると思うので、この先も観るか否かの判断が付く最短のタイミングになると思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ターミナル」(原題:The Terminal) は、2004年公開のドラマ映画。東欧にあると思しきクラコウジア共和国(=ストーリー上の架空の国)を出発し、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に降り立った男が、フライト中に母国政府が軍事クーデターで消滅したため、入国ビザもパスポートも無効になり、合衆国への入国も合衆国からの出国も出来なくなる物語。
行き場を失ったこの不遇の男が、仕方がなく生活の場として居ついたのが空港のターミナルであったため、映画のタイトルが ”ターミナル(The Terminal)”となっている。
この国を失った主人公をトム・ハンクスが安定の演技で好演し、監督と製作をスティーブン・スピルバーグが務めている(製作は、ウォルター・F・パークス、ローリー・マクドナルドと共同)。下表のようにトム・ハンクスとスティーブン・スピルバーグがタッグを組むのは、本作で三度目である。
邦題 | 原題 | 公開年 | 監督 | 主演 | 世界興行収入 |
プライベート・ライアン | Saving Private Ryan | 1998年 | スティーブン・スピルバーグ | トム・ハンクス | 4億8千2百万ドル |
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン | Catch me if you can | 2002年 | スティーブン・スピルバーグ | レオナルド・ディカプリオ | 3億5千2百万ドル |
ターミナル | The Terminal | 2004年 | スティーブン・スピルバーグ | トム・ハンクス | 2億1千9百万ドル |
ブリッジ・オブ・スパイ | Bridge of Spies | 2015年 | スティーブン・スピルバーグ | トム・ハンクス | 1億6千5百万ドル |
元ネタの実話
この映画には元ネタになった実話がある。それは、1988年から足掛け18年間パリのシャルル・ド・ゴール空港で暮らしたマーハン・カリミ・ナセリというイラン人に起きた出来事である。
ナセリは、イラン革命以前の1970年代初頭に、母国イランからイギリスの大学に留学した。その頃から彼は、母国のモハンマド・レザー・パーレビ国王の圧政を批判し始める。その結果ナセリは、1975年の帰国時に秘密警察サバクから拘束・拷問を受け、その後国外追放される。
そこで再度ヨーロッパに渡ったナセリは、複数の国から入国を拒否された後、ベルギーからようやく難民認定を受けベルギーに入国する。ところが、ベルギーよりも慣れ親しんだイギリスへの移住を希望し、これを半ば強引に行動に移す。
しかしイギリスへ渡るも、(詳細は諸説あるが)書類の不備によりイギリスへの入国は認められず、出国により難民の地位を放棄したと見なしたベルギーにも戻れなくなり、イギリスから唯一移動出来そうだったのがパリのシャルル・ド・ゴール空港であったため、そこに移動しそのまま住み着いたという顛末である。
ナセリが当時書き綴った日記が後にライターの手によって編集され「ターミナルマン」という自伝として出版され、この本の映画化権が、本映画の制作時に買い取られて映画化された。
芸術的評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、61%とあまり芳しい支持率を得ていない(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。総評においても、”『ターミナル』は、大衆受けするメッセージの純粋な美徳と、トム・ハンクスの安定した演技を通して、その欠陥を超越している” と、評されている。
要は欠点だらけだが、どストレートなメッセージと名優トム・ハンクスの演技で何とか体裁を保っているとでも言いたいのだろうか。
商業的成功
この映画の上映時間は128分と、標準的な長さである。そして、製作費6千万ドルに対して世界興行収入は2億1千9百万ドルを売り上げている。これは3.65倍のリターンである。
絶対額の観点でも相対額の観点でも、十分なヒット作であるが、トム・ハンクス、スピルバーグのコンビと聞くともっと大きなヒットを期待してしまうのは筆者だけだろうか。
キャスト(登場人物)
下表が本作の主な登場人物である。これ以外の人物も含めてそれなりの人数が登場するが、色んな人が入り乱れるようなストーリー展開ではないので、混乱は起きないものと思う。一応グループ毎に色分けをしておいた。
役名 | 俳優 | 役柄 |
ビクター・ナボルスキー | トム・ハンクス | クラコウジア人の中年男性。JFK空港到着と同時に母国政府が消滅してしまう |
アメリア・ウォーレン | キャサリン・ゼタ=ジョーンズ | ユナイテッド航空のファーストクラス担当のフライトアテンダント |
サルチャック | エディ・ジョーンズ | JFK空港の国境警備局長。ディクソンの上司。退任間近。 |
フランク・ディクソン | スタンリー・トゥッチ | JFK空港の国境警備局主任。サルチャックの後任として局長に昇進すると思っている |
レイ・サーマン | バリー・シャバカ・ヘンリー | JFK空港の警備員。ディクソンの部下 |
ウェイリン | コリー・レイノルズ | JFK空港の警備員。サーマンの部下 |
ドロレス・トーレス | ゾーイ・サルダナ | JFK空港の入国係官 |
ジョー・マルロイ | シャイ・マクブライド | 空港の職員(貨物輸送担当) |
エンリケ・クルズ | ディエゴ・ルナ | フード・サービス勤務。スペイン語圏出身のヒスパニック |
グプタ・ラハン | クマール・パラーナ | JFK空港の清掃員。インド・マドラス出身 |
ミロドラゴビッチ | ヴァレラ・ニコラエフ | 物語中盤に登場するロシア人 |
あらすじ (23分00秒の時点まで)
ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港。毎日10万人以上の旅客が飛行機を乗り降りする。しかし、このマンモス空港においても、入国審査を含めて警備には余念がない。
今日もビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)という、クラコウジア共和国から合衆国に入国しようとしてる中年男性が、入国審査のカウンターで足止めを食らっていた。
入国審査官がこの男のパスポートを所定の装置でスキャンしたところアラートが出て、彼を別室に案内するよう指示が出たのだ。
ビクター(トム・ハンクス)は、別室で国境警備局主任フランク・ディクソン(スタンリー・トゥッチ)から事情説明を受ける。曰く、ビクターの母国クラコウジア共和国は、ビクターがニューヨークに向かうフライト中に、突如軍事クーデターが発生して政府が実質的に消滅したというのだ。
これにより、ビクター(トム・ハンクス)が持つクラコウジア政府が発行したパスポートは国際社会において効力を失い、それに紐づく入国ビザも無効。よって、ビクターはアメリカ合衆国への入国が許可されないというのだ。更に悪いことに、ビクターは有効なパスポートを持たないので出国も叶わない。すなわち、彼が滞在を許されるのは、この空港の中(=ターミナル)だけだと。
英語を解さないため、依然として事態を正確に把握できていないビクターを、警備主任のフランク(スタンリー・トゥッチ)と部下の空港警備員のレイ(バリー・シャバカ・ヘンリー)は、無常にもそのまま空港ロビーに放置する。
空港の至る所に設置されているテレビに映し出される、クラコウジア共和国の軍事クーデターの惨状を見て、ようやく母国の政府転覆を理解するビクター(トム・ハンクス)。
事態が飲み込めたところで、出入国の問題は全く解決しない。ターミナルの中をうろつくビクター。
その日の晩は、ターミナル内の工事中のエリアに侵入し、椅子を並べて何とか就寝する。
翌日は、空港内の入国申請のカウンターに出向き、英語が解らないなりに一日かけて見よう見まねで申請書類に必要事項を記入して提出するも、パスポートが無効であるため、申請は検討されることもなく敢えなく却下されてしまう。どうにもならない状況に途方に暮れるビクター。
果たして、この前進も後退もできないビクターは、ターミナル内でどのような運命を辿って行くのだろうか・・・???
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点で書いてみたいと思います。本作は、観て、笑って、浸って、楽しんでという作風だと思うので、ここでクドクドと何かを解説するのではなく、着眼点としてこの3つはお見逃しなく!という簡潔なご提案に挑んでみたいと思います。
どれもネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。
憎めない男、ビクター・ナボルスキー
トム・ハンクスが演じる東欧から来た男、ビクター・ナボルスキーがとにかく憎めないキャラクターなんですよね。脚本にどのぐらいトム・ハンクスのアイデアが反映されたのかは分かりませんが、外観的人物造形、セリフ回し、挙動が、非常に親しみやすい人物像となっています。
こういう役をやらせたら、トム・ハンクスの右に出る者はいないんじゃないでしょうか?この馴染みやすさから、我々観客はこの男に感情移入せざるを得なくなると思います・・・
存分にこの悲運な主人公の目線に同調して、その喜怒哀楽を一緒に楽しんじゃいましょう!
通過点である空港に長期滞在する
言うまでもなく、本来は人々にとって単なる通過点に過ぎない空港という場所に、長期滞在を余儀なくされるという意外性が、この「ターミナル」という映画の最大の特徴なわけです。
物語の舞台はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港。しかし実際の撮影は別の場所の巨大な格納庫の中に、空港(っぽい事務所やテナント)を完全再現して行われたという。そのため、吉野家やバーガーキングといった、いかにも空港にありそうな店舗の数々が実名で登場します。
そして、是非ご注目頂きたいのは、国際空港特有の、多様な人が忙しなくごった返している情景を、スピルバーグが完璧に演出しているところです。映画冒頭から、その雑然とした臨場感に私たちはすっぽりと包み込まれてしまうと思うので、没入しちゃってください!
ビクターのキャラと空港の情景で、この映画はジャンプスタートが決まります!冒頭からお見逃しなく!
人々が行き交う雑踏は、スピルバーグ監督とスコセッシ監督がホントに見事に撮りますね!
映画オリジナルの登場人物達
この映画にはモデルになった実在の人物はいますが、ストーリーとしては完全なオリジナル作品ですね。そして、その個性的で突拍子もないシナリオを支えるのは個性的な登場人物達です。
官僚主義的な国境警備局主任を演じるスタンリー・トゥッチや、情感豊かな警備員を演じるバリー・シャバカ・ヘンリー、そして何より相手役の女性を演じるキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。
この映画は、国際空港という広大な舞台装置の上で展開されて行きますが、そこで描かれているのは、人、人、人。一癖も二癖もある登場人物たちが織り成す物語は、皆さんの心に何を残しますでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?
実在の人物をモデルに、生き生きとしたドラマ映画に仕上がっているこの作品の見どころを、効率良くお伝えできていると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 人って理屈通りには動かないのよね |
個人的推し | 3.5 | 手離しに楽しめば良いと思う |
企画 | 4.0 | 密閉空間でドラマを展開するアイデア! |
監督 | 4.0 | 空港の臨場感は流石としか言いようがない |
脚本 | 3.0 | 恋愛要素がやや不自然??? |
演技 | 4.0 | トム・ハンクスにお任せ! |
効果 | 4.0 | 空港の再現度の高さ! |
このような☆の評価にさせて貰いました。
空港という密閉空間を準備し、そこに登場する人物達の独特の連帯感を演出し、「人って結局理屈どうりには動かないよね」ってドラマを観るのは非常に心洗われる体験だと思います。おススメです!
それにしても空港のセットが凄い!