この記事では、1994年に公開された「男が女を愛する時」の解説をします。一見すると単なる大人のラブストーリーに見えますが、扱っている題材は実はアルコール依存症。この一筋縄では行かない問題を通して、夫婦が、男女が、愛し合う形、相手を思いやることの難しさ、そしてもどかしさを丁寧に描き上げる秀作です。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ラブコメ女王、メグ・ライアンが、一皮も二皮も剥けた演技を披露してくれるこの美しい作品。ハンカチ・ティッシュを準備してご覧になる覚悟がある方は、この記事で一緒に予習しませんか?この作品をより深く味わうお手伝いをしますので。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から34分30秒のタイミングをご提案します。
少し長めですが、125分の上映時間の1/4 程度の箇所。物語が動き始める箇所でご判断頂きたいと考えると、この辺りまでの長さが必要かと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「男が女を愛する時」(原題: When a Man Loves a Woman) は、1994年公開の恋愛ドラマ。アルコール依存症を題材としており、お酒が手離せなくなってしまった妻と、その彼女を何とか救おうとする夫との心の葛藤を描く。互いに愛し合いながらも、伴侶に対する自身の存在意義が揺らいで行く苦悩を、妻役のメグ・ライアンと夫役のアンディ・ガルシアが繊細に演じる。
監督は「僕の美しい人だから」(1990年) などで知られるルイス・マンドーキ。脚本は「レインマン」(1988年)「愛がこわれる時」(1990年) 「ベスト・フレンズ・ウェディング」(1997年) などで知られるロナルド・バス(本作ではアル・フランケンと共著)。両者とも、近しい間柄なだけに一筋縄では行かない男女や兄弟の関係を、丁寧な描写で紐解いて行くことに長けているストーリーテラーだ。
主演のアンディ・ガルシア。1987年の31歳時に「アンタッチャブル」の若手刑事役で一躍名を上げ、本作に至るまでも、「ブラックレイン」、「ゴッドファーザー PARTⅢ」、サイコサスペンスもの、コメディものに出演し、順調にキャリアを積み重ね、本作公開時には38歳。若くてイケメンなだけの俳優から脱皮し、大人の男としての演技を披露している。
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一方のメグライアン。アメリカを代表する”ラブコメ女王”、”ネクスト・ドア・ガール(近所にいそうな親しみの持てる女の子)”の名声を欲しいままにしてきたが、前出演作「フレッシュ・アンド・ボーン」(1993年) 辺りから、単に可愛いだけのアイコン的存在からの転換を図り、本作では複雑な内面を抱える妻役を見事に演じている。
名曲「男が女を愛する時」との関係
「男が女を愛する時」と聞くと、特定の年齢層以上の方は、ある楽曲のことを思い浮かべると思う。そう、その名も「男が女を愛する時 (When a Man loves a Woman)」。甘く切ないメロディーが特徴の王道バラード。ただし、1966年リリースのパーシー・スレッジによるオリジナル版を思い浮かべるか、1991年リリースのマイケル・ボルトンによるカバー版を思い浮かべるかは、これまた年齢層によって分かれそうだ。
この映画でフィーチャーされているのは1966年のオリジナル版の方だ。劇中で流れるのも、(今は廃盤になってしまった)オリジナル・サウンド・トラックに収録されていたのもオリジナル版だ。ただし、歌詞の内容にはあまり引きずられない方が良い。この歌では ”男が女を愛する時、女がたとえ悪女でも男は気付かない。男は心を全て捧げてしまう” 的な、恋は盲目路線の世界観になっているが、映画の方はそんなに単純な話ではないからだ。
あらすじ (34分30秒の時点まで)
アリス(メグ・ライアン)は、幼い娘ジェス(ティナ・マジョリーノ)を抱えたシングルマザーだが、マイケル(アンディ・ガルシア)と熱烈な恋に落ち再婚をする。二人の間には次女ケイシー(メイ・ホイットマン)も生まれ4人は何の問題も無く暮らしているように見えた。
マイケルは旅客機のパイロットで、国内線担当とは言え、家を留守にしがち。アリスは小学校の職員として正規雇用をされており、ベビーシッターを駆使しながらも、幼い娘2人の子育て、家事、そして仕事に追われ、悪戦苦闘していた。
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夫のマイケル(アンディ・ガルシア)はイケメンで頼りになり、優しく寛容で、心から自分を愛してくれているのが分かる。そんな彼に比べて、母として、妻として、自分のやるべきことをこなせていないという自己嫌悪を感じていたアリスは、マイケルに心の内を打ち明けられないまま、次第にお酒へと逃避するようになってしまう。
結婚記念日のディナーに2人で出掛けたマイケルとアリス。楽しい夜だったが、アリスは悪酔いするまでお酒を飲んでしまう。アリスには日常生活を離れ気晴らしが必要だと感じたマイケルは、2人きりのメキシコ旅行を計画し、子供たちをアリスの両親に預け、彼女を連れ出す。しかしアリスは、旅先でも深酒をして失態を犯す。マイケルは、戸惑いながらアリスにしばらく酒を控えるように諭す。これを自らに誓うように了承するアリス。
ところが日常生活に戻ると、アリスは酒量を抑えることができず、マイケルの仕事に支障を来す日も。そんなある日アリスは、職場帰りに日中から泥酔するまで酒を飲み、千鳥足で家に戻る。母親の様子を心配した長女のジェシーが声を掛けると、アリスは問答無用でジェシーの頬を叩き、そのままシャワーを浴びる。ところが、シャワールームで意識を失い倒れてしまう。
アリスはお酒を辞めることができるのか?そして、立ち直ることが出来るのか?マイケルはアリスをサポートすることが出来るのか?そして親子4人はまた幸せに暮らすことが出来るのか…?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころは、大きく分けると以下の3つかと思います。結構考えさせられるような内容ばかりなのですが、これからこの映画をご覧になる方の邪魔をしないように、あくまでも予習情報として書いてみたいと思います。
アルコール依存症 ≠ アルコール中毒 の難しさ
この映画の1番目のテーマは、”アルコール依存症”だと思います
最近でこそ、アルコール依存症のことを”(慢性的) アルコール中毒”という呼び方をしなくなりましたが、かつてはそんな認識が一般的でしたね。何を言ってるかと言うと、お酒を飲み続けてしまう人は、”単に中毒だ”という認識が一般的だったってことです。
その当時の理解は、アルコール中毒の人は禁断症状が邪魔してお酒を断つことが出来ない。逆に言えば、その禁断症状さえ乗り越えてしまえば、酒を欲しないクリーンな身体に戻り、もう酒に手を出さなくなると考えられてました。
でも実態は違いますよね?そんなに単純な話ではないですよね?
なぜなら、アルコール依存症は、身体という生理的な問題よりもむしろ、お酒に逃避したくなる精神的な問題ですよね。そして、辞めようとしているのに、ついまた酒に手を出してしまった自分に嫌気がさす、そんな自己嫌悪からも逃避したくて、より一層酒を飲むという悪循環。
この映画は、ある夫婦関係を通して、そんな精神の問題にリアルに切り込んでいる訳です。是非、その辺りの難しさ、もどかしさ、そして物悲しさを真正面からご覧になってみてください。これが、この映画の最大の見どころです。
他人目線の描写
”アルコール依存症” という最大のテーマの主体は、メグ・ライアン扮するアリスですね。でも、アリスの表情や動き、そして心情の変化は、アリスの主観として描かれるのではなく(=描かれるシーンは少なく)、周囲の人間の目線として描写されます。
この演出上のアプローチによって、アルコールに溺れて行くアリスを目の当たりにしながらも、彼女をどうサポートして良いか分からず、困惑する周囲の人間の心情がリアルに映し出されて行きます。序盤は、ベビーシッターや子供たちという、アリスと日常生活を共にする彼女たちの視座が中心に据えられます。
役名 | 俳優 | メモ |
マイケル・グリーン | アンディ・ガルシア | アリスの夫、パイロット |
アリス・グリーン | メグ・ライアン | マイケルの妻、アルコール依存症 |
ジェス・グリーン | ティナ・マジョリーノ | グリーン家の長女、アリスの連れ子 |
ケイシー・グリーン | メイ・ホイットマン | グリーン家の次女、父母の実子 |
エイミー | ローレン・トム | グリーン家のベビーシッター |
ゲイリー | フィリップ・シーモア・ホフマン | |
エミリー | エレン・バースティン | |
ウォルター | ユージン・ロッシュ | |
パム | ゲイル・ストリックランド | |
ジャネット | スザンナ・トンプソン |
特に出色の出来なのが、長女ジェシーの目線で母親アリスを映し出すシーケンスです。カメラのアングルを少女の目線まで大胆に下げ、酔った母親が得体の知れない存在になってしまう様が描かれます。これは「あらすじ」を書いた34分30秒までにも出てくるので、その辺りの描写も見どころです。
こういうアプローチもひっくるめて、ジャッジタイムで観続けるか判断されると良いんじゃないかと思います。
愛するとは何なのか?
「あらすじ」以降は、夫のマイケル目線でアリスを描くことにシフトして行きます。既に示唆した様に、酒を断てば、ハイ!解決と行かないのがアルコール依存症の難しさです。
寛容で決断力もあり、優しくロマンティックでユーモアも持ち合わせているマイケルが、その魅力を総動員しても今のアリスに手を差し伸べることが出来ない。むしろその魅力が仇となって…
誰かを”愛する”って何なんだろう?どうあるべきだったんだろう?そして、どうしていくべきなんだろう?って考えさせられるのが、この映画の2番目のテーマです。
ここまでの3つの見どころを総じて言えば、気付いたら妻が ”アルコール依存症” に陥っていたという、特殊な環境下において、心から彼女を愛する夫に残された道は何なんだろう?って話です。
だからタイトルが 「男が女を愛する時」なんです。
まとめ
いかがでしたか?
「男が女を愛する時」という、主題歌の歌詞とは全く異なる世界線である”アルコール依存症”をテーマに、男と女が葛藤して行くストーリーの、さわりの部分だけ解説させて貰いました。
キャスト情報、あらすじについても触れました。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.5 | こういう作品もたまにはいかがでしょうか? |
個人的推し | 4.5 | 美しいメグ・ライアンが居ることで整理するドラマ |
企画 | 4.5 | こういった深くて重いテーマを人気俳優で実現するなんて! |
監督 | 4.0 | 一貫した意図のもと演出されてる! |
脚本 | 4.0 | 涙ポロポロ。要所要所のセリフが素敵! |
演技 | 4.0 | ティナ・マジョリーノの演技が抜群! |
効果 | 4.0 | 絵が美しいです |
このような評価にさせて貰いました。
男女としてお互いのことが好きっていうだけでは、人は生きていけないなんて、どんだけ重いテーマなんだよ!って感じですよね。でも、そこに目を背けるのではなく、真正面から掘り下げているところに、ハリウッド映画のそこ力を感じます。邦画だったら、エロ・グロという不要な要素が入って来るでしょうから。
ネタバレになるから詳しくは書けませんでしたが、ルイス・マンドーキ監督の、全体を見渡して逆算したと思しき演出が、めちゃくちゃメリハリが効いていて素晴らしいです。泣けます!
演技では、長女ジェシーを演じたティナ・マジョリーノが天才子役過ぎます!一番の敢闘賞でしょう。
美しい映像で、登場人物たちの心の機微を丁寧に描いたこの秀作を、是非ご覧になって頂きたいです!
メグ・ライアンが美しいから、凄く儚く映るんですよねぇ…