この記事でご紹介する「ベルリン・天使の詩」は、1987年公開のファンタジー・ドラマ。名匠ヴィム・ヴェンダース監督の代表傑作の一つ。有史以前より何百万年もの間人類を見守ってきた天使の1人が、街のサーカスに所属する美しい女性に魅かれ、天使の地位を捨てようとする話。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
この映画は、天使が人間の女性に静かに恋をする話であるのと同時に、ベルリンの壁崩壊前夜の西ベルリンの街の息遣いを切り取るような作品にもなっています。
この叙情詩の雰囲気を、ちょっとだけこの記事で予習しておきませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から27分30秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画の世界観が見え、その中で天使がどのように存在しているかがつかめると思います。そして、主人公の天使がどのようにサーカスの女性を見つけるか、ほんのさわりまで掴めるので、この先もご覧になるかを決められると思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ベルリン・天使の詩」(原題:Der Himmel über Berlin、英題:Wings of Desire、仏題:Les Ailes du désir)は、1987年公開のフランス、西ドイツ合作のファンタジー・ドラマ作品。ヴィム・ヴェンダースが、監督、脚本(3人で共著)、製作(2人で共同)の三役を務めている。
永遠の命を持ち、それ故に”時”という概念が希薄な天使が、有史以前から人類を見守り続けてきた存在として描かれている。ただしその天使は、背中に羽を生やしたステレオタイプ的な姿形ではなく、ロングコートに身を包んだ寡黙な男性として描かれる。唯一の特徴は、長髪を後ろで束ねていることぐらい。
物語の舞台は撮影当時(1986年~1987年?)の西ベルリン。ベルリンの壁が撤去されたのは1989年の11月であるので、結果的にこの作品は、東西に区切られた西側ベルリンの、ベルリンの壁崩壊前夜の様子を記録した格好になっている。
当時の西ベルリンは、四方を東ドイツに囲まれ、「赤い海に浮かぶ自由の島」と呼ばれていた。劇中では、随所に残る第二次世界大戦の爪痕、そこはかとなく漂う閉塞感、退廃的なアングラ・カルチャーが描かれていて、少なくとも開放的な街という雰囲気ではない。
天使の存在と白黒映像
本作は、全編白黒映像の作品と思われがちだが、実はそうではない。結論を急ぐと、天使の目線で世界を捉えた時には白黒映像、人間の目線で世界を捉えた時はカラー映像となっていて、今映し出されている映像が誰目線の描写なのかが一目で分かるようになっている。
そして、天使には人間の姿が見えるが、人間には天使の姿が見えない。更に、天使は人間の心の声まで聞くことができ、好きな場所に移動できるので、電車の中で乗客一人一人の心の苦悩に耳を傾けたり、度々建物の天辺から地上を行き交う人々を見下して(みおろして)いる。
かように天使は、永遠の時を生きる、人類を超越した特別な地位を与えられている。しかしその代償として、有限の時のありがたみや、人間が持つ喜怒哀楽を味わうことは出来ない。そして何かを渇望する欲望(=Desire)も無い。
整理すると、白黒映像のモノトーンと相まって、天使の生きざまには無味乾燥な印象を受ける。
タイトルの意味
この映画のドイツ語原題は、Der Himmel über Berlin という。これは英訳するとThe Sky Over Berlin (=ベルリンの上空)という意味である。フランス語のタイトルは、Les Ailes du désir で、これは英題のWings of Desire と同じ意味である。
整理すると、”ベルリンの上空に居る天使が欲望を抱いた”という感じだろうか。
永遠の命なんて要らない。そんなものは放棄する。その代わりに、泣いたり笑ったり、怒ったり悲しんだりする方がずっと良い。痛いものは痛い、熱いものは熱い。そう感じた方が生きている実感が得られる。たとえそんな時間が有限であったとしても…
評価
ヴィム・ヴェンダース監督は、この作品で、カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞している。
ちなみにヴィム・ヴェンダースは、本作の続編である「時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!」(1993年)で審査員グランプリ賞、共同製作した「セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター」(2014年)で特別賞を受賞する等、カンヌ国際映画祭ではここから長期間に渡って高評価を得ていく。
また、製作した「ことの次第」(1982年)では第39回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を、監督した「ミリオンダラー・ホテル」(2000年)では第50回ベルリン国際映画祭で審査員賞を受賞しており、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの三大国際映画祭全てでの受賞歴を誇る(アカデミー賞ではノミネートまで)。
商業的成果
この映画の上映時間は127分で、標準的な長さである。しかしどうだろうか、淡々とした描写により、体感的にはちょっと間延びした印象を受けるかも知れない。製作費は500万ドイルマルク。これは当時のレートで2.78百万ドルに相当する。世界興行収入は、3.48百万ドルだったと報じられている。
キャスト
この作品の主要な登場人物は数が限られるので、そこに難しさはない。
役名 | 俳優 | 役柄 |
ダミエル | ブルーノ・ガンツ | 主人公の天使 |
カシエル | オットー・ザンダー | 天使 |
ホメーロス | クルト・ボイス | 街の様子を憂う老人 |
マリオン | ソルヴェーグ・ドマルタン | サーカスの看板パフォーマー |
ピーター・フォーク | ピーター・フォーク | 本人役。西ベルリンで撮影をするアメリカ人俳優 |
ニック・ケイヴ | ニック・ケイヴ | 本人役。バックバンドと共にライヴハウスでライブを行う |
あらすじ (27分30秒の時点まで)
ダミエル(ブルーノ・ガンツ)とカシエル(オットー・ザンダー)の2人は天使。人知れず西ベルリンの街を見守っている。
建物の天辺から街を見渡し、図書館や電車の中で、人々の心の声に耳を傾ける。
西ベルリンには、まだ第二次世界大戦の爪痕が残るこの街を悲観するホメーロス(クルト・ボイス)のような老人もいる。
ピーター・フォーク(本人役)は、映画の撮影のために西ベルリンを訪れている。
そんなある日、ダミエルは、経営が立ち行かなくなった町のサーカス団の様子を見守っている。そして、そのサーカスで曲芸を披露する看板パフォーマーの娘マリオン(ソルヴェーグ・ドマルタン)に心を奪われる。
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点で書いてみたいと思います。
この作品は、ストーリー性よりも映像作品の色が強い映画なので、筆者がくどくどと説明するよりも、ポイントだけお伝えして、後は本編をご覧になるのが良いと思います。
いずれにせよ、ネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。
詩
この作品は、映画を観ると言うより、詩を読むようなつもりで臨んだ方が良いと思います。起伏のあるストーリー性を期待して鑑賞すると、正直ちょっと退屈してしまうかも知れません。
ただし、ヴィム・ヴェンダース監督が強く望んだとされる、ドイツ語での製作の甲斐もあってか、あらゆる台詞が詩の調べのように聞こえる気がします。
ゆったりとした気持ちで、その旋律を胸一杯に吸い込んでみてください。
引き算された白黒の映像
既に述べたように、天使目線の世界は白黒の映像で描かれます。天使は人の心を読み取れるほどの洞察力がありますが、天使が見る世界はどことなく人々に活力が感じられません。
おまけに舞台は東西冷戦時代の、冷戦の象徴である西ベルリンです。
監督は、映像から色彩を引き算して白黒にするのと同時に、人々の生活の彩(いろどり)も敢えて間引いているように思います。
それが後に出て来るカラー映像とのギャップを際立たせますので、楽しみにしていてください。
正直 ”振り” が長い作品なので、面白くなるまで辛抱が必要かも・・・
特異点ピーター・フォーク
ピーター・フォークが本人役で出演しています。作中では、刑事コロンボで有名なあのアメリカ人俳優が、ベルリンを撮影で訪れているという設定です。
そのピーター・フォーク扮するピーター・フォークが、味のある”特異点”のような役割を演じてくれますので、期待してお待ちください。
まとめ
いかがでしたか?
非常に作家性の強い作風なので、手離しに楽しめるというエンタメ作品ではないかも知れません。結構覚悟を決めて鑑賞する必要があると思います。
見どころを予めある程度押さえて鑑賞し、迷子になる確率を下げましょう。この記事が予習情報になると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 好き嫌いは分かれるかも |
個人的推し | 3.0 | いかんせん前半が長い… |
企画 | 3.5 | ファンタジー x リアルライフ |
監督 | 3.5 | 人々の生活感を見事に描写 |
脚本 | 3.5 | 台詞一つ一つの旋律が美しい |
演技 | 3.0 | 静かな演技に生きる喜び |
効果 | 3.0 | カラー映像の美しさ |
このような☆の評価にさせて貰いました。
いつかは観た方が良い作品だとは思いますが、今すぐ観た方が良いと手放しにおススメするまででもないような気がします。いかんせん作家性を前面に押し出してくる感じなので、心身共に整った状態で臨んでください。