この記事では、鬼才クリストファー・ノーランが贈るバットマン・ダークナイト三部作の第2弾「ダークナイト」の解説をします。本三部作においては、一作目ではなく、なぜこの二作目( “ダークナイト = Dark Knight”) から名を取って” Dark Knight Trilogy” と呼ばれるようになったかも、シッカリとお伝えします。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作品を観続けるか、それとも中断して離脱するかを決めるジャッジタイムですが、
- 上映開始から、21分50秒のタイミングをご提案します。
詳細は後述しますが、ここまで観て頂けると、本作品はこういうこと描きたいんだろうなーという、視聴者に対する投げかけがボンヤリと見えてくるように思います。
「こういうの面白い!」と前のめりになるのか、「こういうの無理!」って引くのか、是非ご自身でご判断ください!
ジャッジタイムまでも、是非是非集中して観てください!ゾクゾクします。
概要 (ネタバレなし)
本作品の位置づけ
「ダークナイト」は、2008年に公開された、ご存知バットマンを主人公とするヒーロー・アクション物です。バットマン映画としては、1943年公開の「バットマン」から数えると10作目。1989年公開のティム・バートン監督の「バットマン」から数えると7作目に当たります。
このバットマン映画の長い歴史の中で、史上初めてタイトルに “Batman” という単語が入らない作品となりました。そして「ダークナイト」は英語の”Dark Night (暗い夜)” の方ではなく、”Dark Knight (暗黒の騎士)” です。ここにクリストファー・ノーランの覚悟にも似た強烈なメッセージが込められていて、前作「バットマン ビギンズ」、本作、次作「ダークナイト ライジング」の3作が「Dark Knight Trilogy (ダークナイト三部作)」と呼ばれるのもこの辺りに所以があるんだと思います。
なお本作では、クリストファー・ノーランが、原案(デヴィッド・S・ゴイヤーと共同)、製作(他2人と共同)、脚本(弟、ジョナサン・ノーランと共著)、監督の4役を務めている、まさにノーラン作品です。
クリストファー・ノーランは、バットマンが大好きなんでしょうね!
製作費は1.85億ドル。世界興行収入は10億ドルを突破する特大ヒットになり、公開時は世界歴代興行収入4位に位置付けられた。上3つは「タイタニック」「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」なので、いかに大ヒットだったか実感頂けるんじゃないでしょうか?作家性と商業性を両立させる魔術師クリストファー・ノーランの面目躍如です!
芸術的評価
この映画は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
あらすじ (21分50秒まで)
道化師のマスクを被った5人の強盗がゴッサム・シティの銀行を用意周到に襲う。どうやら全員ジョーカーというボスに雇われているようだ。5人は手際よく行員を制圧し金庫を破るが、それと同時に1人、また1人と同士討ちが進み、最後に残った1人がマスクを外すと、それは何とジョーカー(ヒース・レジャー)本人だった。ジョーカーはとてつもない大金を独り占めして銀行から逃走するが、その金はロンダリング済みのマフィアのプール資金だった。
バットマンとしてブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)は、引き続き夜な夜なゴッサム・シティを巡回し、体を張って犯罪者を倒して回るが、近頃はバットマンに扮した偽物が自動小銃を振り回すなど、ブルースに掛かる肉体的な負担は増すばかりであった。
ブルースの幼馴染レイチェル・ドーズ(マギー・ジレンホール)は立派な検事補に成長し、新任の地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)と公私ともにパートナー関係にある。2人は組織犯罪撲滅に尽力するが、ゴッサム・シティの腐敗は根深く、デントは命を狙われるなど、その進捗は一進一退だ。
ハービーは、ゴッサム市警の警部補ジム・ゴードン(ゲイリー・オールドマン)が、実は裏でバットマンの支援を受けながら犯罪組織に少しずつダメージを与えていることを知っていて、自分もその仲間に入れるように頼むが、ゴードンはこれをやんわりと断る。ゴードンは汚職警官がはびこるゴッサム市警において、清濁を併せ呑む微妙なバランスの上で捜査を進めており、秘密を保持する人間を増やすリスクは取りたくないようだ。
ブルースは、ウェイン産業の会長という立ち場を利用し、社長のルーシャス・フォックス(モーガン・フリーマン)とも協同し、犯罪の匂いがする中国のラウ・ファンド社への内偵を進める。
ある夜、高級レストランでデートをするハービーとレイチェルに、これまた有名プリマドンナ・ナターシャとデートをするブルースが遭遇し、4人は1つのテーブルで食事をすることにする。そこでナターシャが無邪気に投げかけた世間話が徐々にブルースの心の核心を突く内容になって行く、
- 自警市民に過ぎないバットマンを英雄視することは正しいのか?
- 正当な選挙で選ばれた地方検事こそが正義を振りかざすべき
- 巨悪な犯罪を抑止するバットマンは必要悪だが民主主義に反する
- 古代ローマでは、民主主義を超越した存在シーザーが後に独裁者になった
ハービーがバットマンの責務を引き継ぐ覚悟があることをほのめかすと、限界を感じていたブルースはハービーこそが脚光を浴びるべきだと内心覚悟を決め、地方検事再選に向け資金集めを支援することを約束する。
なお、筆者としてはブルース、レイチェル、ハービーの三角関係にイーライラします(笑)
見どころ (ネタバレなし)
本作の主題
腐敗があらゆる層にまで食い込んでいるゴッサム・シティにおいて、理想を追い求めるだけで悪を一掃できるのだろうか?そんな一筋縄では行かないテーマが、本作では投げかけられているように思います。
そんな中で、選挙で選ばれた正当な執政者である”光の騎士 (White Knight)”ハービー・デントと、素性を隠し実力行使で自警を続ける”暗黒の騎士 (Dark Knight)”ブルース・ウェインとの対照的な構図が、上述の通りジャッジタイムまででも十分に浮き彫りになってきます。
そこにレイチェルとの三角関係が絡むは、人の心の闇を厭らしく突き、人の良心をすり減らさんとジョーカーが忍び寄ってくるのが、本作の最大の見どころです!
ああジョーカーは、何て嫌な奴なんだ!
ヒース・レジャーの演技
ヒース・レジャー扮するジョーカーが、ただただおぞましいです。見た目や動きもさることながら、仕掛けてくる心理戦がホントに厭らしくて、観る者に対して投げかけられる屈折した難題が、この作品を名作たらしめているんだと思うと、ちょっと複雑な気持ちになります。是非、その辺りを存分に堪能してください!
アカデミー助演男優賞を受賞したのも頷けます。そして、これが遺作になってしまうなんて・・・ブロークバック・マウンテンでのピュアな青年の演技とこのジョーカーぶり。これだけの振り幅を出せる名優さんを若くして失うなんて映画界の損失です・・・
マギー・ジレンホールのレイチェル
レイチェル役が、ケイティ・ホームズからマギー・ジレンホールに交代になっています(ダークナイトで唯一役者が交代したキャラクター)。マギー・ジレンホールは、ブロークバック・マウンテンでヒース・レジャーと共演したジェイク・ジレンホールのお姉さんですね。新登場の彼女の演技を皆さんはどんな風にご覧になりますか?
ケイティ・ホームズとマギー・ジレンホール。どっちのレイチェルの方がキャラクターにシックリ来ますか?
アーロン・エッカートの存在感
アーロン・エッカート扮するハービー・デント地方検事が、自信満々でウザいんですよ。マジでムカつく(←エッカートがムカつくんじゃなくて、デントというキャラクターがムカつくんです、あしからず)。これだけ観る者(=少なくとも筆者)を苛立たせるってことは素晴らしい演技ってことですよね。
どうしてもアーロン・エッカートのアゴに目が行っちゃう・・・
上映時間152分
本作の上映時間は152分です。前作「バットマン ビギンズ」が141分。続作「ダークナイト・ライジング」が165分ですから、徐々にクリストファー・ノーランが本領発揮して、長尺展開して行く感じですよね。皆さんは、この152分を長いと感じるかな?短いと感じるかな?
その他の情報
筆者の本作に対するおススメ度合いは、
総合的おススメ度 | 4.0 | 暴力シーンと全体的な暗さは好みの分かれるところかと |
個人的推し | 5.0 | 超イチオシです! |
企画 | 5.0 | ヒーローとは民衆とアイコンとの信頼の証であり、その民衆が操られた時・・・ こんな切り口の主題を描こうと思うなんて・・・ |
監督 | 5.0 | テーマ、ストーリー、キャラの活かし方、世界観。全てにおいてパーフェクトじゃないですか? |
脚本 | 4.5 | ところどころに安易な演出があるような・・・ |
演技 | 4.5 | ああヒース・レジャー・・・ では、脇を固める演者は? |
効果 | 4.5 | 言うことないでしょう? |
いつもの如く、暴力シーンがあることは人によって好き嫌いが分かれるので自動的に減点対象。後は、この独特の陰鬱な世界観が好き嫌いが分かれるところでしょうか。うーん、個人の好みとは別に皆さんの為に冷静に☆を付けようとすると、やっぱりこうなっちゃう。そして、言ってること「バットマン ビギンズ」と全く同じ。
個人的には大大大好きで推したい作品です!
ところでノーランは、「バットマン ビギンズ」と「ダークナイト」の間に、「プレステージ」を撮っていて、こちらでも製作、脚本、監督を務め、キッチリとヒットさせています。
バットマン ビギンズ | プレステージ | ダークナイト | |
公開 | 2005年 | 2006年 | 2008年 |
製作費 | 1.5億ドル | 0.4億ドル | 1.85億ドル |
世界興行収入 | 3.73億ドル | 1.1億ドル | 10.1億ドル |
相対的に少ない製作費でも、それに見合ったヒットを生む。そのサジ加減が凄いです!
作家性が強い職人と思いきや、とんでもないプロフェッショナルってことなんでしょうかね?