この記事でご紹介する「ボディガード」は、1992年に公開されたサスペンス映画。正体不明の人物から脅迫を受けた人気女性歌手(ホイットニー・ヒューストン)が、個人経営のプロ・ボディガード(ケビン・コスナー)に警護を依頼し、反発し合いながらも行動を共にするというストーリー。
このプロットにより、暴力的な脅迫者に実力行使をするというアクション要素と、身辺警護をしている内に2人に恋心が芽生えるというラブストーリー要素も加わり、厚みのある物語に仕上がっています。これが時代のターニングポイントにもマッチして大ヒットに繋がった背景を解説します。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
映画初出演のホイットニー・ヒューストンが歌った主題歌「I will always love you」も世界中で大ヒット。本作品は映画史に刻み込まれるラブ・ストーリーとなりました。今でもこの切ないメロディーを聴くと、本作のことを即座に思い出すオールド・ファンは少なくない筈。これからこの映画を観ようという方、もう一度観ようという方、この記事でちょっとだけこの映画の世界に足を踏み入れてみませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
の映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から23分00秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、ストーリーの中で主人公の2人が置かれた立場と性格、作品のテーストが見えて来ると思います。本作がお好きかどうかは判断できるだけの情報はある程度揃うと思うので、この辺りでご判断頂くのが良いと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ボディガード」(原題:The Bodyguard) は、1992年公開のサスペンス映画。映画初出演のホイットニー・ヒューストンが、劇中でも人気歌手であり、姿の見えない脅迫者から殺害予告を受ける独身女性役を演じる。依頼によりこれを守るのが、ケビン・コスナー扮する、フリーランスのプロ・ボディガードである元シークレット・サービスの男。
脅迫者の真の狙いは?黒幕は?というサスペンス要素。脅迫者に実力で対抗するアクション要素。そして、殺害予告の対象者と守護者との2人が、反発し合いながらも惹かれ合うという恋愛要素が掛け合わさり、これらが厚みのある物語となって展開され、これが世界中で大ヒットした。
両主演の立ち位置
本作品で、Billed Above the title (映画のタイトルの前に名前がクレジットされる主役級の俳優) は、ケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンの2人である。
本作劇中で、シークレット・サービス上がりの個人プロ・ボディガード、フランク・ファーマー役に扮するケビン・コスナーは、「アンタッチャブル」(1987年) で大スターの仲間入りを果たし、「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年) で更なる二段ロケットを打ち上げた。
しかしそれらと並行して、「追いつめられて」(1987年) や「リベンジ」(1990年) 等、ヒット作の合間にもコンスタントに興行的ハズレ作にも主演し続ける元祖二刀流俳優であった。
ところが、「ダンス・ウィズ・ウルブス」(1990年) 以降は、何故か(?)主演作が立て続けにヒットするという快挙を成し遂げ、この「ボディガード」(1992年) は、そんなキャリア絶頂期に出演した映画なので、コスナーさん(本作公開時37歳)は、カッコイイし、演技は上手いし、キャラクターに奥行きはあるしで大変見応えがある。
なお、この確変状態は、本作の2年後の魔が差したとしか思えない「ワイアット・アープ」(1994年) を撮っちゃうまで続く。
一方のホイットニー・ヒューストンは、映画公開時29歳。デビュー作の「そよ風の贈りもの」(1985年、原題:Whitney Houston) 以来、歌姫としてスター街道を驀進(ばくしん)する大スターで、「誰の指図も受けない。自分のことは自分の意思で決める」という劇中のレイチェル・マロン役は、正に本人を地で行くようなキャラクターであった。
また、一族の中で、自身だけが歌手として商業的に突出した成功を収めるという状況も、劇中のレイチェルと酷似しており、総じてこの役柄にホイットニー・ヒューストンは自身を投影しやすかったようだ。それが奏功して、映画初出演にも関わらず女優ホイットニー・ヒューストンが本作で成功した要因だったと考えらえる。
ちなみに、20世紀にレコード・CDを売り上げた女性歌手トップ5は、バーバラ・ストライサンド、マドンナ、マライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストン、セリーヌ・ディオンだと言われており、ホイットニーさんは5本の指に入る格好になっている。
商業的成功
本作品の上映時間は130分と、若干長めの構成・編集となっている。製作費は2千万ドル~2千5百万ドルと言われ、世界興行収入は4億1千1百万ドル。16倍以上の大きなリターンをもたらした、超ドル箱作品である。
あらすじ (の時点まで)
フランク・ファーマー(ケビン・コスナー)は、フリーランスで働く凄腕のプロ・ボディガードだ。金持ちの実業家から専属ボディガードの誘いもあるが、今はフリーランスで仕事をする方が性に合っている。
そんなフランクの元に、大人気黒人女性女優・歌手レイチェル・マロン(ホイットニー・ヒューストン)のマネージャー、ビル(ビル・コッブス)が現れ、レイチェルの護衛を依頼する。ビル曰く、レイチェルは半年ほど前から偏執的な脅迫が続いており、送られて来る手紙には殺害を示唆するような内容も書かれている。
ビルに頼み込まれる形で、差し当たりレイチェルとの面談と、レイチェル邸の視察を引き受けたフランクだが、レイチェルが住む豪邸は、撮影スタジオを兼ねていることもあり、関係者の出入りも多く、警備システムも老朽化していて、とても警護に責任を持てるような状況ではなかった。
側近のスタッフも、過去数か月の脅迫や、一度は邸内に親友された痕跡があったことをレイチェルには共有しておれず、レイチェル本人に危機感が皆無なため、フランクはこの依頼を一旦は断る。
しかし、マネージャー、ビルの”必要な物は何でも揃える”という条件に押し切られる格好でフランクは、週給3,000ドルの高給で、レイチェル邸に住み込みで警護を開始する。フランクは、監視カメラを各所に設置したり、庭木を刈り込んで死角を減らして見通しを確保したり、運転手を助手として訓練することで、少しずつ警備体制を強化する。
同時に、古巣のシークレット・サービスを訪れ、脅迫者からの手紙などの物的証拠の調査を依頼し、犯人像の割り出しにも努める。
レイチェルの周囲には、フランクに協力的な者も居る一方で、レイチェル本人も含めて事態を軽視する者、軽視はしないが自身の力を過信する者が居て、レイチェルの警備体制はなかなか一枚岩にならない。
果たして、フランクはレイチェルを守ることが出来るのだろうか?脅迫者は誰なのだろうか?その目的・動機は何なんだろうか?この状態はいつまで続くのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを4つの観点で述べてみたいと思います。ネタバレなしで書いておりますので、この作品をより味わい深く楽しむための足しにしていただければと思います。
白人男性と黒人女性の恋愛
この映画の一つの側面は、白人男性と黒人女性の静かな恋愛模様だと思います。じつはこの脚本は、もともとローレンス・カスダンによって1970年代に執筆されたオリジナル脚本だったのです。
ローレンス・カスダンは、スター・ウォーズ のエピソード 5(1980年)、6(1983年)、7(2015年) や、インディ・ジョーンズ・シリーズの1作目、「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(1981年) の脚本を執筆するなど、ジョージ・ルーカス主導の数々の冒険活劇のストーリーを創作しています。
一方で、「偶然の旅行者」(1988年) のような、静かに人の心の奥底に迫るような隠れた名作の監督・脚本・製作を務めるような、才能あふれるフィルムメーカーでもあります。
そんなローレンス・カスダンが、1970年代に書き上げたのがこの「ボディガード」の脚本でした。当時、スティーブ・マックイーンとダイアナ・ロスを主演にして、本脚本の映画化プロジェクトが進行しましたが、
- 白人と黒人の恋愛がヒットしそうな時代ではなかった
- 後述するサスペンスxアクションxラブストーリーの掛け合わせジャンルが無かった
- そもそもスティーブ・マックイーンとダイアナ・ロスが不仲だった
といった要因があり(あったと噂されている)、実現は果たせませんでした。
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1990年代を迎えて、このようなエポック・メーキングな作品が生まれたことを、頭の片隅に置いてご覧になると、より味わい深いかも知れません。
ケビン・コスナー
ケビン・コスナーが、愛想は悪いが仕事キッチリ男を熱演しています。コスナーさんが演じるフランク・ファーマーは、元々ロナルド・レーガン大統領を担当する優秀なシークレット・サービスであったが、自身が非番の日に大統領暗殺未遂事件が起き、それに責任を感じて依願退職をしたという経歴を持つキャラクターです。
そんなこんなもあって、警護対象者に不必要な私的感情を持たないというプロに徹した姿勢を貫くボディガード像を、静かな演技によって形作って行きます。コスナーさんのキャリアを振返ってみると、「アンタッチャブル」(1987年)、「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年)、「ダンス・ウィズ・ウルブス」(1990年) と、名作映画に主演する度に、足し算ではなく、引き算で役作りをする技を磨いていったように思います。
こうした朴訥(ぼくとつ)な演技の振りが効いているからこそ、その後の主役の男女の心の揺れがジワジワと沁みてきます。是非、その過程を画面を通して楽しんで頂ければと思います。
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なお、本作でのケビン・コスナーの短髪は、スティーブ・マックイーンを意識しての役作りなんだそうな。
サスペンス x アクション x ラブストーリー
1980年代は、サスペンス、アクション、ラブストーリーを掛け合わせたような作品は意外と少なく、サスペンスはサスペンス、アクションはアクション、そしてラブストーリーはラブストーリーとして、別個にジャンルが確立していました。あったとしてもそれら2つの掛け合わせ。
1950年代から1960年にかけては、「泥棒成金」(1955年)、「北北西に進路を取れ」(1959年)といったアルフレッド・ヒッチコック作品や、オードリー・ヘップバーンとケーリー・グラントが主演した「シャレード」(1963年) のように、サスペンスとラブロマンス、そして要所要素でアクション要素が挿し込まれて来る秀作は比較的メジャーでした。
しかし、それ以降はジャンルの分化が進行、定着していたところに、本作のサスペンス x アクション x ラブストーリーの掛け合わせがブッ込まれてきたので、新鮮に受け止められたと思われます。
要素が大渋滞しがちな、サブスク事業者製作映画が市場に溢れている昨今は、余り珍しくないかも知れませんが、当時は斬新でした。
主題歌
とにもかくにも、主題歌の「I will Always love you」が最高です。
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筆者個人としては、「ボディガード」は、「映画の主題歌なんじゃなくて、映画がこの曲のMV (Music Video) なんじゃないか?」3大作品の1つだと思っています(他の2つは「タイタニック」(1997年) と「アルマゲドン」(1998年) )。
もーとにかく観てください!
4つの観点で、見どころを述べてみました。皆さんの鑑賞のお手伝いが出来れば幸いです。
まとめ
いかがでしたか?
一見すると、単なる甘い恋愛ものに片付けられる危険性もある本作ですが、実は時代の潮目を呼んだエポック・メーキングな作品であったことが、大ヒットの裏付けとして存在していたことが、少しでも
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | とにかく1回観てみても損はありません! |
個人的推し | 4.5 | 全盛期のケビン・コスナーさん最高です! |
企画 | 4.5 | 公開当時は時代の最先端の映画 |
監督 | 4.0 | 素晴らしいバランス感覚 |
脚本 | 4.0 | スティーブ・マックイーンでも観てみたかった! |
演技 | 4.0 | 主役2人に牽引された安定のクオリティ |
効果 | 4.0 | 劇中の演奏シーンがスターとしてのリアリティを高める |
このような☆の評価にさせて貰いました。
ケビン・コスナーの渾身の演技。ホイットニー・ヒューストンの地を行く役作り、2人の演技に牽引されて、出演者のクオリティが高いです。
劇中に登場するTVに、ホイットニー・ヒューストン扮するレイチェル・マロンのMusic Videoが流れるなど、要所要所の効果が奏功して、レイチェルが今をときめくポップ・スターである演出がキッチリ効いて、その結果、それを守り抜くボディガード役の困難さや使命感がリアルに高まって行きます。
とにかく騙されたと思って1回観てみてください!