この記事では、ドル箱三部作の2作目「夕陽のガンマン」について解説します。セルジオ・レオーネ(監督)、クリント・イーストウッド(主演)、エンニオ・モリコーネ(音楽)の「マカロニ・ウェスタン」トリオがどんな世界を紡ぎ出すのか?日本国内でも根強い人気を誇るこの作品を掘り下げて行きます。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作における、そのまま見続けるのか、見るのを止めるのかのジャッジタイムですが、
- 上映開始から24分00秒をご提案します
ここまで行けば、本作を理解するための情報がある程度出揃って「あっ、こういう話なのね」というのが見えるので「この映画好きだわー」か「やっぱりこういうの無理かも・・・」の判断が付くかと思います。まずは24分間観てみてください。
概要 (ネタバレなし)
マカロニ・ウェスタンの中核 – ドル箱三部作
夕陽のガンマン(原題:For A Few Dollars More)は、1960年代にイタリアで盛んに製作された西部劇映画 (通称マカロニ・ウェスタン) の中核をなすドル箱三部作の2作目で、1965年に製作された。
※ マカロニ・ウェスタンとドル箱三部作については、以下の記事でまとめてみました。
本作品でも他のドル箱三部作と同様、主演のクリント・イーストウッドが、無口で粗野で皮肉ばっかり言う流れ者の役を演じる。そして、同三部作ではお約束となる、同じ形の帽子、大分くたびれている革のベスト、模様の付いたポンチョ、細身のジーンズに、口の左端に咥える葉巻というスタイリッシュなファッションで登場する。
二極化
本作、夕陽のガンマンの特徴としては、リー・ヴァン・クリーフ扮するダグラス・モーティマー大佐という相手役が登場し、イーストウッド扮する主人公のモンコと揃って、どちらも賞金稼ぎ、どちらも一匹狼の流れ者というキャラクターを演じる。主人公と同じような重みで扱われる人物がもう1人登場することで、ストーリーの焦点が二極化する。果たして2人の関係がどうなって行くのか・・・という楽しみ方ができるのが本作だ。
イーストウッドが演じるモンコという主人公は、三部作共通の描写として上述のような固定化されたファッションで登場し、無口で無骨な言動とも相まって個性的なキャラクター像を確立させて行くが、「モンコ」はあくまでもニックネームであり、その本名や素性は明かされず、どこからやって来てたのか、何故賞金稼ぎをやっているのか等の背景情報は与えられない。ただただ、劇中の小さなエピソードを積み上げて、皮肉屋で刹那的なキャラクターとして丁寧に描き上げられていく。
一方のクリーフが演じるモーティマー大佐も、ピシッと折り目正しい服装に身を包み、様々な銃器、一風変わった拳銃を使いこなすことで、そのキャラクターに色付けがなされていく。ただし、モーティマー大佐の何やら重大な過去がありそうな雰囲気がモンコの描かれ方とは対照的で、その辺りのストーリーが「モンコ」の目線中心で描かれて行くのが、この夕陽のガンマンの特徴だ。
流れ者の一匹狼の2人が、目的のために一時的に手を組むバディものと思って観て貰えれば良いと思うんだ!
見どころ (ネタバレなし)
アウトロー・一匹狼・賞金稼ぎ
とにもかくにもまずは、イーストウッドが演じる主人公のキャラクターに注目だ!本名なんて、どこの誰かなんて細かいことはどうでも良い。お約束のファッションに身を包み、ニヒルに今を生きる「名無しの男」のカッコ良さをまずは楽しもう!オールド・ファンにとっては後のダーティー・ハリーのハリー・キャラハンの原型を、若い映画ファンにとっては昨今は映画監督のイメージが強い巨匠イーストウッドのキャリア創成期の姿を、まずは色眼鏡なく眺めてみよう。
目が慣れてきたら、そのアウトローぶりに目を配ろう!聖人君子と呼ぶには程遠いが、どこかで最終的には善悪の区別に一線を引いているような、ブレない賞金稼ぎの姿に、例えば「ミッドナイト・ラン」のロバート・デ・ニーロの姿や、「スター・ウォーズ」シリーズの人気キャラクター、ボバ・フェットを重ね合わせてしまうのは筆者だけだろうか。
絵の空気感
絵の空気感というか色が独特です。乾燥して荒涼とした西部の雰囲気を、フィルムにも色として焼き付けようとしたんでしょうか。登場人物達の衣裳の色も、暖色系で地味なものが多く、そんな中でイーストウッドが着ているヨレヨレの青いシャツだけが寒色系で妙に目を引きます。「この人が主人公なんだよ」と視覚的にも印象付ける演出なのかな?
とにかくセルジオ・レオーネ監督は、黒澤明の「用心棒」が大好きだったんだろうね!
クリント・イーストウッドの西部劇の系譜
このドル箱三部作を始め、若かりし頃に西部劇作品で銃を撃ちまくるアウトローの姿を印象付けているからこそ、後年1992年に公開された「許されざる者」で、イーストウッドが演じた「足を洗った元悪党」というキャラクターの説得力が増したんだと思う。もちろん作品をまたがっているのでストーリーに相関性は無いわけだけど、観る側としては一連の系譜として頭の中で勝手に相関付けちゃうよね。
クリント・イーストウッドは、「許されざる者」はセルジオ・レオーネ監督に捧げるって名言してるよね
各種効果
銃撃シーンの特殊効果も見逃せない。60年も前の作品なので銃弾が飛んで行く過程の描写は無いのだが、飛んだ先で色んな物が銃弾に弾かれるシーンが実にリアルである。どうやって撮影したんだろう?楽しんで欲しい。
エンニオ・モリコーネのオリジナル楽曲
エンニオ・モリコーネのオリジナル楽曲の数々が素晴らしい!口笛で奏でられる独特のメロディーは、西部劇に馴染むというよりは、西部劇の音楽を定義づけたと表現した方が正しいんだろうね。
ドル箱三部作の1作目「荒野の用心棒」では「ダン・サヴィオ」名義で音楽を担当していたモリコーネだが、本作では吹っ切れたのかエンニオ・モリコーネ名義でクレジットされている。
テーマ曲と並んで、いやそれ以上に印象的なのが”あのオルゴールの曲”ですよね。劇中何度も奏でられるから刷り込まれてしまう。「夕陽のガンマン(2)」ってタイトルらしいんですよね。
その他の情報
筆者の本作に対するおススメ度合いは、 3.5/5.0 です。
減点対象は、
- 上映開始から50分程が経過するまでの映画前半のテンポが、現代の目線から言うと正直ちょっとダレちゃいますね
- それから、銃撃でこんなに人が撃たれて良いの?というのを、当時の西部劇としてと割り切って観られるか?
- あと、このドル箱三部作のお約束の1つなんですが、主人公たちがボコボコに袋叩きに遭うという暴力シーンが、手放しではおススメできません
それでこの☆にしました。
良くも悪くも60年前の作品です。ネイティブ・アメリカンを一方的に野蛮な悪者として描いてた時代のハリウッド製西部劇よりは、遥かにまともと思って、素直にご覧になるのがおススメです!