この記事でご紹介する「フォレスト・ガンプ / 一期一会」は、1994年公開のヒューマンドラマ。トム・ハンクス扮する主人公の ”フォレスト・ガンプ” が、知的障害など全く苦にせず、周囲の人間に支えられ、周囲の人間に幸せをもたらしながら、シンプルに人生を楽しむ姿を描いた作品。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
アカデミー賞6部門に輝いたこの名作は、決して感動をゴリ押ししてくるような作風ではなく、主人公”フォレスト・ガンプ”の身に起こる様々な出来事をユーモアたっぷりに描くことで、生きること、死に直面するということ、誰かを守るということ、そして誰かを愛するということを、一緒に前向きに考えさせてくれる物語。
次は心が温まる作品が観たいと思っている方、一緒にこの記事でこの名作映画を予習して、より味わい深く本編を鑑賞しませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から22分30秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画の全体構成、テイストが掴めると思います。そして、主人公フォレスト・ガンプの人物像、置かれた境遇、人柄が見えて来て、この先を見たいと思うかをご判断出来る頃だと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「フォレスト・ガンプ / 一期一会」(原題:Forrest Gump) は、1994年公開のヒューマンドラマ。トム・ハンクス扮する知的障害を持つ男性が、母譲りの前向きな気持ちを胸に、20世紀後半のアメリカの激動の歴史の中を逞しく生き抜いていく様を、ユーモアたっぷりに描いた作品。
ウィンストン・グルームが書いた同名原作小説を、バック・トゥ・ザ・フューチャー・シリーズでお馴染みのロバート・ゼメキス監督が映画化。脚本を担当したエリック・ロスは、後に「ベンジャミン・バトン」(2008年)や「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(2011年)でも証明して見せた様に、原作ドラマ小説を大胆に映画脚本に膨らませる才能を本作でも遺憾なく発揮している。
芸術的評価
この映画は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
アカデミー賞では、作品賞・監督賞・脚色賞・主演男優賞・編集賞・視覚効果賞の6部門に輝いている(その他にも、助演男優賞・撮影賞・作曲賞・美術賞・メイクアップ賞・音響編集賞・録音賞にノミネート)。
ちなみに、この1995年開催(1994年公開作品が対象)の第67回アカデミー賞は、本作「フォレスト・ガンプ」の他にも、「ショーシャンクの空に」と「パルプ・フィクション」という、後々までに人々に記憶される名作が公開された豊作の年度で、そんな激戦の年でも「フォレスト・ガンプ」は最多13部門にノミネートされる、頭ひとつ抜きん出た存在であった。
また、トム・ハンクスの本作における主演男優賞受賞は、前年の「フィラデルフィア」(1994年)に引き続く2年連続の主演男優賞受賞であった。これはスペンサー・トレーシー(1937年、1938年)以来の快挙であった。
商業的成功
この映画の上映時間は142分と長尺である。よって、全編通して楽しく鑑賞は出来るが、サクッと鑑賞するという風には行かない。
そして、制作費5千5百万ドルに対して、世界興行収入は6億7千8百万ドルの特大ヒットを記録した。実に12.3倍のリターンをもたらしている。
この事実からも、いかに世界中の人々から支持された作品かを窺い知ることが出来る。
あらすじ (22分30秒の時点まで)
アラバマ州グリーンボウの町から半マイルほど離れた家に生まれたフォレスト・ガンプ(生まれたのは1945年頃と推定)。父はおらず母子家庭であったが、一家が代々引き継いできた、この郊外型の家は比較的大きく、空き部屋を旅人にホテル代わりに貸すことで、一家は生計を立てていた。
南北戦争の英雄だがKKK(クー・クラックス・クラン)の創始者でもある、ネイサン・フォレストから名付けられたというこのフォレスト少年は、生まれつき背骨が歪んでいるために自力歩行が困難であった。しかし、医者で装着して貰った脚装具を付けることで、不格好ながらも自由に歩くことが出来るようになる。
フォレスト少年にはもう一つ問題があり、それは IQが80に満たない(75)という知的障害があることだ。しかし、母は息子のフォレストに対して、”お前は他の子から見劣りするところは何もない” と言い聞かせて育て、小学校も普通学級に入れるために、校長に直談判をする。
何とか小学校の普通級に入学したフォレストであったが、脚の装具と一風変わった受け答えにより、残念ながら小学校で友達が一切出来ない。しかし、ジェニーというどこか寂し気な美しい少女とは意気投合して仲良しとなる、そして、フォレスト曰く、”豆と人参のように”いつも一緒に過ごす。
学校が終わると、二人で木登りをしたり、本を読んだり、星を眺めたり。何故か家に帰るのを嫌がるジェニーとは、時間の許す限り二人で過ごす。
ある日、学校の帰り道で苛めっ子3人組に石を投げ付けられるフォレスト。ジェニーの「走って!フォレスト、走って!」という声に背中を押され、自転車で追いかけて来る苛めっ子たちから逃れようとフォレストが走ると、彼の足から脚装具が外れ、驚くべき速さでフォレストは道を駆け抜け、難を逃れる。
一方で、ジェニーが自宅を嫌がる理由が判明する。それは、妻(ジェニーの母親)に先立たれた父親が、ジェニーに性的虐待を行っていたからだ。”鳥になって、この家から逃げたい”と必死に願うジェニーとフォレストの祈りが届いたのか、ジェニーの父は虐待のかどで逮捕され、ジェニーは祖母に引き取られることになる。
祖母の家(トレーラーハウス)は、フォレストの家にこれまで以上に近く、夜になるとジェニーはコッソリとフォレストの寝室を訪れ、そのままフォレストに抱き着いて眠ることも多くなる。
中学、高校でも親友であったフォレストとジェニー。苛めっ子たちは相変わらずフォレストの帰路を狙って嫌がらせをしてくる。質が悪いことにこの歳になると、自転車ではなくて自動車で追いかけて来る。ジェニーの「走って!フォレスト、走って!」という声を背に、何とフォレストは、アメフトの試合中のフィールドを駆け抜け、チーム一の俊足の選手を追い抜かす快足を披露する。
これがキッカケでスカウトされたフォレストは、1963年に何とアラバマ大学への推薦入学を果たし、そのままフットボールチームで大活躍をする。細かな頭脳プレーは苦手だが、ボールを持たせて走らせると、誰も追いつけないスピードを披露していたからだ。
こうして、フォレスト・ガンプは、決して賢い人物とは言えないが、目の前にあることに一生懸命取り組むことで、少しずつ運が開けて行く・・・
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを、4つの観点に絞って書いてみたいと思います。全てネタバレなしで書きますので、皆さんがこの映画をより味わい深く鑑賞するためのお手伝いが出来ると嬉しいです。
主人公 ”フォレスト・ガンプ” の魅力
この映画の最大の見どころは、映画のタイトルにもなっている ”フォレスト・ガンプ” という主人公の魅力に尽きると思います。アカデミー主演男優賞の面目躍如です!
既に書いたように、このキャラクターは、IQが75程度しかない知的障害を抱えているため、複雑なことは判別できません。しかし、芯の強い母親の影響を強く受けているためか、物事を難しく考え過ぎず、良い意味でシンプルに、そして前向きに捉えることで、次第に運を引き寄せて行きます。
この難しい役柄、絶妙なバランスを、本作撮影時37歳だった名優トム・ハンクスが見事に演じ切ってみせます。
私たちは、この等身大のキャラクターに共感し、物語に没入して行っちゃうと思います。
このキャラクターが嫌いって方とは、ちょっと友達になれないかも・・・
無駄のない脚本と演出
映画全体の上映時間は142分と、娯楽作としては長編の部類に入りますが、エリック・ロスの脚本とロバート・ゼメキスの演出には一切の無駄が無いので、映画はテンポ良く進んで行きます。油断していると置いてきぼりを喰いそうなぐらいの勢いです。
ただし、それは雑な描写が繰り返されるという意味ではなく、ストーリーテリング巧みだからこそ為せるスピード感なんだと思います。本作で、それぞれアカデミー脚色賞、監督賞を受賞したのは、まんま正当な評価だと素人目には映ります。
というのも、一つ例を挙げると、映画の冒頭でトム・ハンクス扮するフォレストが、バス停でたまたま居合わせた他の乗客(看護師と思しき黒人女性)に「ママが言ってた。靴で人が分かる。どこから来て、どこへ行くか。僕も沢山の靴をはいた」と一方的に話しかけるシーンがあります。
この女性は、フォレストと一定の距離を取り、訝しがる態度を取りますが、女性の靴は真っ白で、看護師としての仕事を懸命に全うしている人物像が示唆されます。そして、一方のフォレストは、態度に不審さや嫌味はなく、ただただ人懐っこい性格であることが、トム・ハンクスの名演技により印象付けられて行きます。
そして、身なり全般に清潔感のあるフォレストも、例外的にスニーカーだけは泥だらけで、ここに至るまでに色んな経験を経てきたことが、さりげなく示唆されます。こうしてこの映画の物語は幕を開けて行くのです。
「細部に神が宿る」とよく言いますが、この例のように、ロバート・ゼメキスが思い描いた一つ一つの構図にストーリー性があり、ストーリーは様々な情緒を巧みに盛り込みつつも、テンポ良く進んで行きます。この豊潤な味わいを存分に楽しんで頂ければと思います。
ロバート・ゼメキス監督のストーリーテラーとしての才能に脱帽です!
脇役陣
当然のことながら、トム・ハンクスの演技に目が行きますが、脇を固める脇役陣も素晴らしいです。
トム・ハンクスと実年齢では10歳しか違わない、母親役のサリー・フィールド(撮影時45歳)。
一本ビシっと筋が通った強い母親役を熱演しています。この力強い演技があるからこそ、フォレストが母の教えを忠実に守る姿に説得力が生まれます!
ダン中尉役のゲイリー・シニーズ。
物語の後半で登場しますが、このどこか憎めないキャラクターが、やはりストーリーに説得力を与えてくれます。トム・ハンクスとは翌年の「アポロ13」(1995年)でも共演を果たすことになります。
フォレストの無二の親友ジェニーを演じるのがロビン・ライト。
ロビン・ライトが醸し出す、幸の薄そうなジェニー像が、フォレストの天真爛漫さとの間で化学反応を起こし、この作品に多面的な魅力をもたらしているように思います。
名言に込められたメッセージ
この映画のメッセージの多くは、フォレストの口から飛び出す「ママは言ってた・・・」に存分に込められて行きます。
映画の冒頭から飛び出すのは、「人生はチョコの箱みたいなもの。食べてみるまで味は分からない」。
原語では、”Mama said Life was like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get” です。とにかく、映画冒頭から飛び出すこの2つの文章に、この映画の一番のメッセージが込められているように思います。
「ママは言った・・・(Mama said)」が、沢山出てきますが、どれも含蓄があって、心にしみると思うんです。お楽しみにして下さい!
あー、言いたいけど、ネタバレになっちゃうので、我慢、我慢。
まとめ
いかがでしたか?
豊かな味わいのするこの作品を、これから観ようとされている方のために、水先案内人のような役目が少しでも出来ていると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.5 | ちょっと上映時間が長い |
個人的推し | 5.0 | 疑いの余地なし |
企画 | 4.0 | 3万部の本を誰が映画化しようと思った? |
監督 | 4.5 | 演出凄すぎ! |
脚本 | 4.5 | 素晴らしい脚本 |
演技 | 4.5 | 何か文句思い付きますか? |
効果 | 4.5 | 特殊撮影も素晴らしい! |
このような☆の評価にさせて貰いました。
流石に全部満点にしてしまうとメリハリが付かないので差し控えましたが、ハッキリ言って、全項目満点に近いです!
僅か3万部しか売れていなかったいう原作本を映画化しようとした先見の明。作品を膨らました脚本。そして、それをユーモアたっぷりにテンポ良く演出した監督。制作陣の意図に見事に応えた出演陣と特殊撮影。何もかもが素晴らしいです。
でも一番素晴らしいのが、映画に込められたメッセージだという。”映画” という芸術の素晴らしさがこんなに発揮されている作品って他にどれだけあるかしら???