この記事では「ジョー、満月の島へ行く」(1990年) の解説をします。実はこの作品、トム・ハンクスとメグ・ライアンの初共演作品なんです。2人は「めぐり逢えたら」(1993年) が初共演と思われがちですが、実はその3年も前にこの作品で共演してたのです。この映画は、ラブコメの中でもちょっぴりファンタジー色が強い可愛らしい作品で、メグ・ライアンの1人3役も楽しめます!
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ちょっぴり初々しいトム・ハンクスとメグ・ライアンの演技と、ちょっぴり奇想天外なストーリー!ロマンティック・ラブ・コメディ界の隠れた秀作である本作品。どんな映画なのか、ちょっとだけ覗いてみませんか?
ジャッジタイム(ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から36分00秒のタイミングをご提案します。
かなり長めですが、この辺りまで観ないとストーリーが見えてこないんですよね。お試し視聴であっても、是非、この辺りまでお付き合いください。
概要(ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ジョー、満月の島へ行く」(原題:Joe Versus the Volcano) は、1990年に公開されたロマンティック・ラブ・コメディ。一言でラブコメと言っても、その中には「メリーにくびったけ」(1998年) のようなブラック・ジョークが強い作品もあれば、「恋人たちの予感」(1989年) のように男女のリアルに迫る作品もある。
そんな中で、ちょっぴりファンタジー色の強い不思議系ラブコメなのが本作だ。その分、終始リラックスして鑑賞できるかも知れない。
脚本と監督を担当したのは、ジョン・パトリック・シャンリ。彼はもともと劇作家として名を馳せていたが、本作の3年前(1987年)に「月の輝く夜に」でアカデミー脚本賞を受賞。そして本作では監督デビューを飾る。つまり、映画人としてのキャリアにおいて、着実に活躍の場を広げていた時期に制作した意欲作が、この「ジョー、満月の島へ行く」だ。ストーリー展開がちょっぴり奇想天外なのは、脚本・監督シャンリの戯曲家としての顔が出たように思う。
特筆すべきは、本作品の製作総指揮がスティーブン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディ、フランク・マーシャルのトリオであること。彼らは、バック・トゥ・ザ・フューチャー三部作(1985年~1989年)の製作総指揮を務めた3人組である。1980年代に大ヒット作を連発させていた、この最強トリオのバックアップを受け、この一風変わった「ジョー、満月の島へ行く」は制作されたことになる。
何で「ジョー、満月の島へ行く」は、日本では劇場公開されなかったんだろう?
あらすじ (36分00秒の時点まで)
ジョー・バンクス(トム・ハンクス)は、アメリカン・パナスコープ社の宣伝部に勤める、独身、恋人無し、常に体調不良の冴えないサラリーマンだ。この会社は、絵に描いたような劣悪な職場環境で、上司の課長も傲慢で威圧的な男だ。そのせいもあってか、ジョーは仕事にやりがいを感じず、常に陰鬱な表情を浮かべている。
ある日、いつものように昼休みを利用して予約してあった主治医の外来診察に行くと、精密検査の結果 ”脳に雲がかかっている (Brain Cloud)” 状態で、余命は半年だと突然の宣告を受ける。ただし、それ以外は至って健康だとのお墨付きも貰い、旅行にでも行けと勧められる。
ジョーは、この知らせにむしろ、急激に生きることへの感謝が生まれ、町の犬や花や、小さな命に目が向き出す。社に戻ると、口うるさい課長に昼休みが長すぎると詰問されるが、既に退職を決意していたジョーは、今日ばかりはと課長に徹底反論してやりこめる。そして、ずっと密かに想いを寄せていた同僚女性のディーディー(メグ・ライアン)を思い切って誘い、夕食の約束を取り付けた上で、会社を後にする。
レストランで、これまでの暗い表情が嘘のように生き生きと快活に話すジョーに、すっかり心惹かれたディーディーは、そのままジョーのアパートまでついて行く。情熱的なキスを交わす2人だったが、ジョーが余命半年だという話を聞いた瞬間にディーディーは態度を翻し、逃げるように帰ってしまう。
翌朝、ジョーが服も着替えず部屋でダラダラと過ごしていると、身なりの良い老紳士グレイナモア(ロイド・ブリッジス)が訪ねて来て、言葉巧みにジョーにある提案をする。それは、南太平洋の島(ワポニ・ウー)にある火山口に2週間半以内に飛び込む代わりに、それまでの間はグレイナモアの金で、好きな物を好きなだけ買って良いという取引だ。
背景はこうだ。グレイナモアが経営する世界シェアナンバーワンの超伝導体メーカーは、生産に”ブブルー”という希少鉱物を必要としているが、これは世界中でワポニ・ウー島でしか採れない。ワポニ・ウー島では100年に1回誰かが自主的に火山口に飛び込まないと神の怒りが静まらないと信じられているが、その100年の期限が切れるまで残り二十日を切った今現在、島民からは飛び込む者が現れない。
ワポニ・ウー島からの”ブブルー”採掘を続けたいグレイナモアは、蓄えも無く、余命幾ばくもなく、かつ、消防士としてかつて比類なき勇気を示したジョー・バンクス(トム・ハンクス)なら最適の人物だと目論み、金は幾らでも差し出すから、その代わり華々しく火山口に飛び込めと言うのだ。曰く、”王のごどく生きて、男らしく死ぬ” と。
退職したものの金の当ても無く、残り半年の過ごし方に何のヴィジョンも無かったジョーは、この申し出を引き受ける。
果たしてジョーは、この残り2週間半ぐらいの時間をどんな風に過ごすのか?そして無事(?)火山口に飛び込めるのか…?
見どころ(ネタバレなし)
この映画の見どころについて、幾つかの観点で掘り下げてみますね。総じて言うと、とっても個性的な作品です。
独特の雰囲気
既に書いたように、この映画はジョン・パトリック・シャンリィによって脚本が書かれ、そのシャンリによって監督されています。そして、これも既に述べたようにシャンリのバックグラウンドは劇作家です。よって、この映画も、舞台劇的なテーストが随所に出ていて、それが独特な雰囲気を醸し出しています。
ただしそれは、決してわざとらしいとか、鼻に付くといった類のものではなく、ストーリーの全体設定がそもそもズレている、ある種の”ボケ”になっている感じで、このファンタジーを大らかに楽しめば良いんだと思います。
冒頭から、ト書き的な説明が字幕で出たり、アメリカン・パナスコープ社に向かう従業員たちが、陰鬱な表情で行進しているような演出がなされたり、まずはジャッジタイム(36分00秒)までご覧になって、この舞台風演出をお好きかどうかご判断頂くのが良いと思います。
3つの舞台でシンプルにキュートなメグ・ライアン
この物語は、ジャッジタイムまでご覧になると見えて来るように、ニューヨーク、ロサンゼルス、南太平洋と舞台を移して行きます。メグ・ライアンがそれぞれ別の役で登場するので、1人3役となる訳です。その3役の振り幅を楽しんで頂きたいというのが一義にありますが、どの役柄を演じている時でもシンプルにチャーミングなのも見逃せません!
「恋人たちの予感」(1989年) のサリー役では、劇中で21歳時、26歳時、31歳時と3つの時期を演じることで、人間として角が取れつつ、都会生活の中で”少しずつ”洗練されて行く女性を見事に演じていましたが、本作(1990年)では、1人3役を演じることで、猫の目のようにコロコロと表情を変えながら、彼女の素の魅力が画面に映し出されて行くようで、大変興味深いです。
どこか薄暗いニューヨーク、あっけらかんとしたロサンゼルス、そして燦燦と太陽が輝く南太平洋。それぞれの舞台でメグ・ライアンがどんな表情を見せてくれるのか注目です!
アイコニックな登場人物達
上で書いたように、総じて舞台劇のような演出がなされます。その一環で、アイコニックな登場人物たちが脇を固めます。非常に分かり易いキャラ付けと、演出がなされるので、観ているこちら側は素直にそれに身を委ねれば良いと思います。
独善的で威圧的な上司(ダン・ヘダヤ)。淡々と余命宣告をする医師(ロバート・スタック)。資本家にありがちな、人当たりは柔らかいが、必要なモノ必ず手に入れるタイプの老紳士(ロイド・ブリッジス)。
その他にも、特徴的なキャラクターが続々と登場しますし、既に述べたようにメグ・ライアンもお色直しをして登場してくるので、カラフルなキラキラ感が楽しいです。
トム・ハンクスの抑えた演技
では、主役のトム・ハンクスも、同調して浮かれた演技をするのかと言うと決してそんなことはなくて、特に序盤は物静かで、内省的なキャラクターを淡々と演じて行きます。この周囲とのギャップが、コメディとして逆に上質な笑いを提供してくれていて、作品の品を高めてくれます。観ているとジワジワと面白味が増して行くんじゃないかな?
これは、ジョン・パトリック・シャンリのコンセプトだったのか、トム・ハンクスの提案だったのかは分かりませんが、この作風にこういうアプローチをしちゃうところが、トム・ハンクスがコメディ俳優としてただ者ではないことの証左だと思います。この延長線上に、アカデミー賞受賞の「フォレスト・ガンプ」(1994年) が出現してくるんだと思います。
スタンダード・ナンバー揃いのBGM
バックで流れる音楽が、奇をてらうことなく、素直に選曲されていて、こちらも素直にそのノリに乗って行けば良いだけなので、リラックスして楽しめると思います。スタンダード・ナンバーが揃い踏みという感じですが、大変カラフルな印象を受けます。
Spotify で、サントラそのものは見つけられませんでしたが、プレイリストはありました。
まとめ
いかがでしたか?
劇場公開されなかった隠れた秀作の魅力を、なるべくネタバレしないようにお伝えしたつもりです。トム・ハンクスとメグ・ライアンの初共演。でも、2人ともその魅力を既に遺憾なく発揮していて、ファンタジー要素の強いこのラブコメにリアリティのある息吹を吹き込んでくれていると思います。少しでもその魅力が予習教材として伝われば嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 品が良いので一度は観ていただきたいな |
個人的推し | 4.5 | 個人的には大、大、大好きな作品です! |
企画 | 4.0 | メグ・ライアンの一人3役が嬉しい |
監督 | 3.5 | 可も無く不可も無く |
脚本 | 4.0 | 癖のあるキャラクターが諸々登場! |
演技 | 4.5 | 主役の2人の演技が素晴らしいです! |
効果 | 4.0 | 十分素晴らしいです |
色んな箇所を、いろんな目線で評価するというよりは、作品トータルとして、整合性が取れているか?それでいて楽しめる仕上がりになっているか?という観点で☆を付けさせて頂きました。
そういう意味では、本当に楽しい作品です。上映時間も102分として短いので、サクッと楽しんで頂きたいです!