この記事でご紹介する「LOOPER/ルーパー」は、2012年公開の近未来SF映画。いわゆるタイム・トラベル物であり、同時にバイオレンス・サスペンスでもある。舞台は2044年のカンザス州で、タイムマシンによって繋がる2074年との因果関係を巡って、主人公たちが自分と家族の人生を守るために銃を片手に戦う姿が描かれる。
出演は、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ブルース・ウィリス、エミリー・ブラントとなっている。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
タイム・トラベルに関する独創的な設定と、それによって複雑に絡み合う世界線が特徴で、その難解さが本作の好き嫌いを分けるところ。
この記事で、その辺りをスッキリと整理した上で、この作品を存分に楽しみませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から28分00秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画のテーストがつかめてきます。そして、主人公の生活環境が理解できる一方で、何か問題が起きる前兆のようなものも感じられます。
この作品を好きか嫌いかを判断する最短のタイミングとしてご提案します。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「LOOPER/ルーパー」(原題:Looper) は、2012年公開の近未来SF映画。2044年のカンザス州を舞台にしている。ただし、この映画はいわゆるタイム・トラベル物であり、タイムマシーンを介して繋がる2074年の世界との因果関係が、登場人物達の人生を歪めて行く。彼らが自分の人生を取り戻せるかがストーリーの焦点になっていく。
作品の全体的なトーンは、バイオレンス・サスペンス作品なので、暴力描写が苦手な方は注意が必要だ。
解説:本作品におけるタイムトラベルの設定
この作品のタイム・パラドックスの設定はかなり独特で、これが作品の独創性を高める一方で、ここが飲み込めないとどうにも消化不良な視聴体験になってしまう。以下に、なるべく簡潔に解説してみるので、是非ご一読いただきたい。
結論を急ぐと、この映画の基本設定は、
- 運命 ”非” 決定論の立場
- パラレル・ワールド(並行世界)が存在
- タイムトラベルは、その並行世界にも飛べる
と、風変わりな世界観を持つ。
どういうことか?順に紐解いて行く。
運命”非”決定論
運命”非”決定論とは、運命決定論の逆である。運命決定論とは、「現在において、気が変わって別の行動を選択した結果、未来が変わったように見えても、その一連の因果関係全てが予め運命として決定していた」と捉えるスタンスである。一言で言うと、「運命の道筋(世界線)は、どう足掻いても一本しか存在しない」という発想だ。
この世界観に従うと、”未来人がタイムマシンで過去に行き、過去の出来事に干渉して未来を変えたように見えても、その一連の干渉行為全てが、予め運命として予定されていた行動だ”という捉え方になる。これを前提とした代表作は「TENET」(2020年) 。ハッキリ言って映画の世界では少数派だと思う。
一方の運命”非”決定論は、「現在の行動を変えれば、未来は変わる」。言い換えると、”頑張れば、別の世界線へと飛び移れる” という発想だ。こちらの方が、我々には馴染みやすいと思う。何故なら、バック・トゥ・ザ・フューチャー・シリーズも、ターミネーター・シリーズも、多くのタイムトラベル物がこのスタンスで制作されているからだ。
では、本作「LOOPER/ルーパー」はどうかと言うと、同じく運命”非”決定論のスタンスなので、ここは慣れ親しんだ発想であり、何の問題もなく飲み込めると思う。
パラレル・ワールド(並行世界)
問題はここからである。本作「LOOPER/ルーパー」には、パラレル・ワールド(並行世界)の概念が存在する。
登場人物が、あるタイミングでAかBの選択を迫られたとしよう。Aの結果生じる世界線と、Bの結果生じる世界線とは、一般的にどちらか一方しか発生しない。ところが、この映画では、選択しなかった世界線も(潜在的に)存在していたという発想になっている。その結果パラレル・ワールド(並行世界)が生まれて行く。
まあ、この程度なら、「天使のくれた時間」(2000年) で観たこともあるので、飲み込むのにそんなに苦労はしない。本格的に難解なのはここからである。
タイムトラベルは並行世界にも飛べる
この「タイムトラベルは並行世界にも飛べる」という設定が、本作「LOOPER/ルーパー」を難解にし、そして個性的にしている要因である。
ここからの説明は、一切のネタバレなしの解説を読むか、多少のネタバレを含む解説を読むかを選択いただきたい。
この物語では、ある登場人物にとって、重要な ”運命の分かれ目” が2044年と2074年のそれぞれに登場する。
そして、「本来の時間軸」上に存在する、2044年の『好ましくない出来事』と、2074年の『好ましくない出来事』は、それらの間の「(本来の)タイムトラベル」を介して、相互に依存関係になっている。言い換えると、片方が起こると他方も起こる ”無限ループ” となる世界線であり、これが「本来の時間軸」である。
ところが、その登場人物は、2074年で『好ましい出来事』の並行世界へと世界線を変え、その上で2044年の並行世界(『好ましい出来事』)にタイムマシーンで飛ぶという離れ業を演じる。この映画では、繋がっていない並行世界にもタイムトラベルできる設定だからだ。
こうした難解な世界観については、現段階では、この映画では『不連続な時系列にもタイムトラベルできる世界観』なのだと覚えておけば良いと思う。
ライアン・ジョンソン監督
本作の脚本と監督を務めるのは、ライアン・ジョンソン。同監督は、2005年に「BRICK ブリック」で監督デビューを飾り、2作目が「ブラザーズ・ブルーム」(2009年) 、そして3作目の監督作品が本作である。
なお、ライアン・ジョンソンは、この「LOOPER/ルーパー」で高く評価され、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年) の監督・脚本に採用されている。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、93%と非常に高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”スリリングで観客に思考を促してくる。未来的なSFと古典的なアクションの大胆で独自の融合を成し遂げている” と、高い評価を得ている。
商業的成功
この映画の上映時間は119分。極めて標準的な長さである。そして、製作費3千万ドルに対して、世界興行収入は1億6千7百万ドルを売り上げた。実に、5.57倍のリターンである。
この配役、この内容で製作費が3千万ドルに抑えられたことも驚きだが、キッチリと1億5千万ドル以上売り上げ、絶対額、相対額共に高い興行的成果を成し遂げたことが素晴らしい。
あらすじ (28分00秒の時点まで)
2044年のカンザス州。ジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)はLOOPERという職業に就いていた。
LOOPER とはプロの殺し屋である。ただし、殺しの標的は未来から現在にタイムマシンで転送されて来る人物。手足を拘束され、顔も隠されたまま送り込まれてくるので、LOOPER は決められた時刻に決められた場所に行き、標的が目の前に出現した瞬間に引き金を引くだけでよい。
あとは、標的の背中に同梱されている報酬の銀塊を受け取り、素性も知らないその標的を焼却炉に運んで燃やし尽くせば作業は終了である。ジョーは、来る日も来る日もこの作業を繰り返した。いつか足を洗い、蓄えた銀塊と共にフランスに移住することを夢見て。
この殺しのスキームを考え出したのは未来の犯罪組織である。
彼らは将来発明されるタイムマシーンを独占し、敵対する人物を次から次へとタイムマシンで過去に送り込む。こうすれば死体は絶対に見つからないので、完全犯罪が成立する。一方のLOOPERは、現在には存在すらしない時代の人物を、その死体もろとも消し去るので、殺害行為自体が存在しない。Win-Win の手口だ。
2044年の現在で、LOOPER を仕切るのはエイブ(ジェフ・ダニエルズ)。
エイブは犯罪組織の指示に従い、タイムマシンで未来から送り込まれて来た男で、現在で LOOPER を集めて組織し、この犯罪スキームを完成させた男だ。孤児だったジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)をスカウトし、銃の使い方を仕込み、一人前のLOOPER に育てたのもエイブだった。
LOOPER にはある掟があった。それは、引退したくなったらエイブにその旨を宣言すること。すると、30年後から標的として未来の自分が送られて来るので、これをいつも通りに射殺し、いつも通りにその死体を綺麗に処理する。こうすることで、この完全犯罪の秘匿性が保たれる訳だ。
この際に、自分自身には銀塊ではなく金塊が同梱されて来る。LOOPER は、この金塊を手切れ金として受け取り、この日からピッタリ30年間の余生を楽しむことになる。
そんなある日の真夜中に事件が起きる。
LOOPER 仲間のセス(ポール・ダノ)が、怯えながらジョーの家に逃げ込んできたのだ。
訊けば、セスはまだ引退宣言をしていないのに、30年後の自分が送り込まれてきたという。怯んだ(ひるんだ)セスはこれを取り逃してしまい、その結果、現在のセスも、30年後のセスも、エイブの配下の者たちに追われている。だから匿って(かくまって)欲しいと言うのだ。
2人のセスは、結局エイブたちに捕まり処刑されてしまう。
そんな中、ジョーがいつもの時刻にいつもの場所に向かい、銃を片手にいつものように待ち構えていると、標的が予定の時刻になっても現れない。
数分の後に現れたのは、拘束も覆面もされていない男で、金塊をジョーに投げ付け、ジョーが狼狽えている間にジョーを気絶させ逃走してしまう。
ジョーが意識を取り戻した時には、「貨車に乗って街から逃げろ」というメモだけが残されていた。
30年後から送られてきたこの男は何者だろうか?この男が現代に現れた目的は何で、一体どこに向かったのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点で書いてみたいと思います。何かを高飛車に解説する意図はなく、こんなところに注目すると、もっともっとこの作品が面白くなりそうですよというご提案のつもりです。
どれもネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。
SFと古典を融合させるビジュアル
この映画の最初に目に付く魅力は、Rotten Tomatoes にも評されているように、未来的なSFと古典的なアクションの融合だと思います。
それはどこに現れてくるかと言うと、ハッキリとビジュアルに現れます。
時折、近未来的な機械が登場するシーンもある一方で、多くのシーンでは、画面は現代の我々の身の回りにある物で埋められて行きます。特に、ネクタイに革ジャンでキメた主人公が赤いオープンカーを乗り回すなど、これは完全にクラシックなスタイルですよね。
そして、出て来る家屋も見慣れた様式ばかり。登場人物が手にする銃器も古典的なライフルやリボルバー拳銃。未来的な真新しさが無いどころか、むしろ古典です。
あくまで筆者の理解ですが、この意図は、ストーリーがタイムマシンを絡めた突拍子もないものなので、作品全体のトーンを落ち着かせ、ヒューマンドラマの味わいも滲ませて行くため、ライアン・ジョンソン監督は、ビジュアル面は渋くまとめたかったんじゃないでしょうか。
実際のところ、このコンセプトのお陰で、私たちはストーリーの本筋とは関係ないアイテムに目を奪われることなく、物語に没入できるので、このクラシック・スタイルはありがたいです。皆さんの目にはどんな風に映るでしょうか?
独創的な世界観
既に「解説:本作品におけるタイムトラベルの設定」で述べたように、本作品は時間軸に関する設定が大変独創的です。
繰り返しになりますが、
- 運命”非”決定論
- 並行世界の存在
- 自由度の高いタイムトラベル
の3つの掛け合わせは、理解の難易度が高い反面、この作品を他のタイムトラベル物と完全に切り離す、大変独創的な世界観を作り上げます。
皆さんはお好きになるでしょうか?
一体何と戦っているのか分からなくなります…
重厚な主題
この記事では、ネタバレを避けるために、上映開始から28分00秒の時点の内容にしか触れないようにしてきました。この物語は、その後もどんどんと広がりを見せて行きます。エミリー・ブラントも登場しますし。
この作品は実は、単なる近未来SF作品と片付けられない、重厚な主題を内包しています。この辺りは、監督としてではなく、脚本家としてのライアン・ジョンソンの面目躍如じゃないでしょうか?
ほんの少しだけ予告をしておくと、物語は ”個人の正義” に焦点を当てて行きます。これは個人的な事情と言い換えても良いかも知れません。登場人物たちは、自分や、自分の家族の人生という、個人的な事情のために戦って行くことになります。
そんな時に、自分を優先させて、もし誰かを傷つけることになったら?
そんな命題が示唆されます。
この映画は、タイムトラベル物なのに(=タイムループ物ではないのに)、”Looper” というタイトルが付けられています。人を傷つけると、その報いは必ず自分に返って来る(=ループしてくる)。そんな哲学的な投げかけが、このタイトル、そして映画には込められているような気がします。
皆さんはどんなことをお感じになるでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?
ホントは、もっともっと書きたいことが沢山あるのですが、ネタバレになっちゃうので、その衝動を抑えて範囲を絞って書いたつもりです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 暴力シーンがあるのでこの点数 |
個人的推し | 4.5 | 唯一無二の作品 |
企画 | 4.0 | R・ジョンソンは過小評価 |
監督 | 4.0 | 徹頭徹尾シリアスに映った |
脚本 | 4.5 | 独創的なシナリオ |
演技 | 3.5 | B・ウィリスが足を引っ張ってる? |
効果 | 4.5 | 世界観の映像化に成功 |
このような☆の評価にさせて貰いました。
この映画の素晴らしさは散々述べて来たので、もうこれ以上は必要ないでしょう。
暴力シーンが結構ドギツイので、その分総合点から減点としています。ライアン・ジョンソン監督は、映画人としてもっと評価されて良いと思っています。
B・ウィリスが、ちょっとインパクトが弱かったかなというのが少し気になるところです。
個人的には超おススメ(☆4.5)です!