この記事では、2012年公開、北野武監督の「アウトレイジ ビヨンド」の解説をします。前作「アウトレイジ」(2010年)から2年後に制作されたシリーズ第2作目。代替わりした山王会の抗争は、西の雄、花菱会も巻き込んだ大混戦に!監督、脚本家北野武は、続編の “アウトレイジ” 度合いをこういう風にパワーアップさせたんだ!と感心します。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
虚々実々の駆け引き、野心、友情。そんな悪党たちの心の揺れを、監督16作目の名匠北野武が暴力を通してどう描くのか?主演級俳優に加えて、話題になった加瀬亮(石原役)、高橋克典(ヒットマン役)の演技にも触れたいと思います。一緒にアウトレイジな世界に少しだけ足を踏み込みませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画で、観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムは、
- 上映開始から24分40秒の時点をご提案します。
ここまでご覧になると、「なるほど!本作はこういう風に進んで行くのか!」というのが掴めてくると思います。おそらくこのタイミングで好き嫌いの判断が付くと思うので、この情報をご活用ください。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「アウトレイジ ビヨンド」(英題:Outrage Beyond) は、2012年公開のヤクザ映画。北野武映画作品16作目である。本作はアウトレイジ三部作の第2作目であるが、公開当時は”完結”と謡っており、最終章として制作された色が強い。また、北野武自身初の”続編”制作であり、現時点(2023年4月時点)で19作品が制作された北野映画の中で、続編が作られたのは、本作とこの続編の「アウトレイジ 最終章」のみである。
本作でも、北野作品の常である、脚本・監督・編集も担っている(プラスして製作総指揮も)。アウトレイジ・シリーズの制作体制は下の表の通り。
邦題 | 英題 | 公開年 | 監督 | 脚本 | 製作 | 編集 | 製作総指揮 |
アウトレイジ | Outrage | 2010 | 北野武 | 北野武 | 森昌行 吉田多喜男 | 北野武 太田義則 | 北野武 |
アウトレイジ・ビヨンド | Outrage Beyond | 2012 | 北野武 | 北野武 | 森昌行 吉田多喜男 | 北野武 太田義則 | 北野武 |
アウトレイジ 最終章 | Outrage Coda | 2017 | 北野武 | 北野武 | 森昌行 吉田多喜男 | 北野武 太田義則 | – |
”outrage” とは、「アウトレイジ」の記事でも述べたが、”抑えきれないぐらいの激しい怒り”というニュアンスだ。そこに “beyond” が付いている訳なので、”更にそれを越えて来る怒り”を意味していると捉えれば良いと思う。詳細は後述するが、本作でも全面的に暴力を描いている。
暴力を題材にした映画がお好きでない方には、ホントにお勧めしません!
商業的評価
本作品の上映時間は112分(前作は109分)と、今回もコンパクトにまとまっている。興行収入は14.5億円と、国内市場をターゲットにした邦画ヒット作の目安である10億円を突破した。これは前作からの倍増(前作は7.5億円)であり、R15+指定として素晴らしい成果だと思う。
あらすじ (24分40秒の時点まで)
海から引き上げられた高級車に男女の死体。男はマル暴の刑事山本(貴山侑哉)で、先輩刑事片岡(小日向文世)から山王会とのパイプ役を引き継いでいた者だった。女は小清水大臣の愛人ホステス。山本とホステスは、それぞれ山王会と大臣に疎まれ、山王会石原(加瀬亮)が、口封じに2人をまとめて始末したのであった。
堂々と役所を訪れる石原に対して、小清水大臣の秘書官が、この職場来訪と強引な口封じに苦情を申し立てるが、この秘書官も殺されてしまう。組織犯罪対策本部(マル暴)では、国交省、ゼネコン、山王会のスキームに、殺された山本刑事まで絡んでいたとなると、内閣総辞職級のスキャンダルだと、緊急対策を現場に厳命する。
山王会とのパイプ役に復帰したマル暴の片岡(小日向文世)は、早速に山王会を訪れ、若頭石原(加瀬亮)、幹部舟木(田中哲司)を従える会長加藤(三浦友和)に、上述のホステス殺しの懲役お勤め役を差し出すように進言する。
片岡は、ホステスの部屋を事前に偽装工作した上で、出頭してきた山王会組員の供述を強引に誘導し、殺害現場と証言の辻褄が合うように仕立て上げてしまう。この不正を目の当たりにしていた後輩刑事の繁田(松重豊)は、片岡の姑息なやりかたに不満をぶつけるが、片岡はこれもマル暴の手練手管だと取り合わない。
山王会の内部抗争が、前会長関内の殺害で幕を閉じてから5年。新会長加藤(三浦友和)の強いリーダーシップの下、組織は新しい方向へと進んでいるかのように見えた。しかし実態は、加藤会長が子飼いの石原(加瀬亮)、舟木(田中哲司)、岡本(菅田俊)を厚遇しているに過ぎず、体を張ってきた古参の幹部たちは不満を募らせていた。
特に、三次団体に過ぎない大友組出身で、若頭に抜擢されて”山王会の金庫番”と称されるまでになった石原(加瀬亮)は、ビジネス優先の典型的なインテリヤクザで、金融の知識を持ち合わせない富田(中尾彬)、白山(名高達郎)、五味(光石研)を名指しで罵倒する。加藤会長もこれを「実力主義だ」と追認したので、山王会の亀裂は鮮明になっていく。
外様の石原(加瀬亮)の言動に憤懣やるかたない富田(中尾彬)、白山(名高達郎)、五味(光石研)の3人は、密会をした際に、富田が白山と五味に対し、先代の会長関内殺害の真相と、その真犯人が現指導体制(加藤・石原・舟木)である仮説を話したことから、現体制打倒へと話が進んで行く。
この密会現場に、マル暴片岡(小日向文世)がアポ無しで現れ、警察も過度に台頭した山王会を組織的に潰しに掛かる。これでは自分も動きにくい。よって、加藤会長引退で、この動きの幕を引きたい。ついては、関西の花菱会の後ろ盾を得て、富田体制(富田会長、白山若頭、五味若頭補佐)を作ろうとこの3人を焚き付ける。富田は、花菱会若頭西野(西田敏行)ともともと兄弟分であったので、片岡の随行を条件に花菱会訪問の提案に乗り気になる。
片岡を伴い花菱会を訪れる富田。花菱会側からは、会長布施(神山繁)、若頭西野(西田敏行)、幹部中田(塩見三省)が応対する。片岡が、マル暴としてもこの連携に賛成だと後押しするが、山王会内部での富田派の支持固めが判然とせず、結論が詰められないまま、この密談は終了する。
片岡(小日向文世)は、今度は刑務所に服役中の大友(ビートたけし)の面会に訪れる。これまで、片岡が流した噂によって、大友は木村(中野英雄)に刑務所内で殺されたと思われていた。片岡はこの意図について「大友を山王会から守るためだった」と述べるが、いよいよ生かしておいた大友の出番だとばかりに、大友が内心恨みを抱いている筈の山王会がシャバで隆盛を極めている。大友はこれに復讐したいのでは?と大友を焚き付け始める。
あらゆるステークホルダーに餌をチラつかせながら、言葉巧みに焚き付けるマル暴の片岡。現状に不満を抱きこれに飛びつく山王会の古参幹部。冷静に状況を見極めようとする花菱会側。そして、死んだと思われていたが実は生きていた大友。
それぞれの思惑が交錯する中、この後、悪人たちはどういう動きに出て行くのだろうか?引退同然の大友はどういうアクションを取るのだろうか…?
見どころ (ネタバレなし)
悲劇と喜劇は紙一重
前作「アウトレイジ」の解説でも書きましたが、北野武という映画人が描きたいのは、”喜劇と悲劇は紙一重”というラインなんじゃないかと筆者は勝手に解釈しています。
当事者に被害が及ぶような衝撃的な出来事は、当人やその関係者として間近でそれを眺めると悲劇として映るが、高いところからそれを達観すると喜劇になるという意味です。
前作「アウトレイジ」は、山王会という”村社会”内部のゼロサムゲームを、どれだけ達観して眺められるか?で、この映画を”喜々として”観られるかが決まってきたように思うけど、本作「アウトレイジ ビヨンド」では更に、花菱会という第三者の視座が加わることで、より “beyond に(達観した)” 目線でこれを楽しめば良いんじゃないかなと思う。それが一番の見どころかと思います。
悪党どもが、それぞれの思惑で動く、他人を自分の想い通りに駒として扱いたがる。でも、なかなか想定した結果は出ない。もがく。暴れる。傷つけあう。そんな姿を高みの見物を決め込んじゃってください。そういう大勢の輩の虚々実々の駆け引きのために沢山の俳優がキャスティングされています。下の表を参考にしてください。
役名 | 俳優 |
大友(元大友組組長) | ビートたけし |
関内(前山王会会長・写真のみ) | 北村総一朗 |
加藤稔(山王会会長) | 三浦友和 |
石原秀人(山王会若頭) | 加瀬亮 |
富田(山王会幹部) | 中尾彬 |
白山広(山王会幹部) | 名高達男 |
白山の若衆 | 佐々木一平 |
五味英二郎(山王会幹部) | 光石研 |
舟木昌志(山王会幹部) | 田中哲司 |
舟木付き運転手 | 中村祐樹 |
舟木のボディーガード | 八田浩司 |
岡本(山王会幹部) | 菅田俊 |
山王会幹部 | 池ノ内孝 |
山王会組員 | 斎藤歩 |
山王会組員 | 四方堂亘 |
山王会組員 | 山中アラタ |
山王会組員 | 山中崇 |
山王会組員 | 曽根悠多 |
山王会組員 | 三溝浩二 |
山王会組員 | 岡田正典 |
山王会組員 | 光宣 |
山王会組員 | 龍坐 |
山王会組員 | 中村英児 |
布施(花菱会会長) | 神山繁 |
西野一雄(花菱会若頭) | 西田敏行 |
西野の若衆 | 中野剛 |
中田勝久(花菱会幹部) | 塩見三省 |
城(花菱会組員) | 高橋克典 |
花菱会組員 | 國本鍾建 |
花菱会組員 | 井坂俊哉 |
花菱会組員 | 本田大輔 |
花菱会組員 | 阿部亮平 |
片岡(組織犯罪対策部刑事・悪徳) | 小日向文世 |
繁田(組織犯罪対策部刑事) | 松重豊 |
山本(組織犯罪対策部刑事) | 貴山侑哉 |
刑事(組織犯罪対策部長) | 中原丈雄 |
刑事(公安部長) | 深水三章 |
刑事(課長) | 中村育二 |
木村(元村瀬組若頭) | 中野英雄 |
嶋(木村を慕う若造) | 桐谷健太 |
小野(木村を慕う若造) | 新井浩文 |
木村組組員 | 黒石高大 |
木村組組員 | 阪田マサノブ |
張大成(韓国フィクサー) | 金田時男 |
李(張組織幹部) | 白竜 |
張に派遣される娼婦 | 月船さらら |
張組織若衆 | 石塚康介 |
国土交通省役人 | 西沢仁太 |
役人の秘書 | 徳光正行 |
役名不明 | 平井真軌 |
役名不明 | 永倉大輔 |
役名不明 | 江見啓志 |
役名不明 | 石井浩 |
役名不明 | 山本修 |
役名不明 | 武井秀哲 |
役名不明 | 西條義将 |
役名不明 | 石賀浩之 |
役名不明 | 児玉貴志 |
役名不明 | 安部賢一 |
役名不明 | 塚原大助 |
役名不明 | 中村浩二 |
役名不明 | 佐々木卓馬 |
役名不明 | 原圭介 |
役名不明 | 伊東篤志 |
役名不明 | 光山文章 |
役名不明 | 西沢智治 |
役名不明 | 五刀剛 |
役名不明 | ヘイデル龍生 |
役名不明 | 七枝実 |
役名不明 | 浜田大介 |
役名不明 | 福津けんぞう |
役名不明 | 赤池高行 |
役名不明 | 三洲悠暉 |
役名不明 | 江藤大我 |
役名不明 | 保科光志 |
役名不明 | クラ |
役名不明 | 酒井貴浩 |
役名不明 | 堺沢隆史 |
役名不明 | 三浦英 |
役名不明 | 高久ちぐさ |
役名不明 | 筒井奏 |
役名不明 | 岩下やね |
役名不明 | 金守珍 |
暴力という表現の自由
とは言え、どこまで”暴力”の描写を楽しめるかは、個人によって感度とキャパが違うと思うので、そこは上述の”ジャッジタイム”情報も参考にしながら、見極めて頂ければと思います。
なお、本作に出てくるあるシーンが1つの試金石になると思います。それは劇中で、ある一般人(堅気の素人)の3人組が、とある遊技場でややクレーマー気味にサービスにケチを付けると、応対しに出て来た従業員がヤクザ者で、そのペーパーヤクザから”お仕置き”をされるというくだりがあります。
この一連の流れが”ああヤバい地雷踏んじゃったよ”というノリで非常にコケティッシュに描かれています。安全地帯から観ているこっち側はゲラゲラ笑ってしまう。でも、当人たちにはとんだ災難ですよね。
表現の素材としての暴力って、コインの裏表のように悲劇と喜劇を同時に作り出す。狭い檻の中で、個性豊かな動物達が、悪知恵を働かせて一生懸命隣の子の餌を奪おうとする。それをちょっと離れたところからの漁夫の利を狙って見てる子もいる。こちらは、飼育員が研究員にでもなったつもりで、檻の外からこの生態の動物日記を付ければ良いんです。
そういう暗黙の協定がある中で、撮る方も、観る方も、暴力という表現の自由を楽しめるかが全てなのかなと。
関西弁のネイティブ度合い
本作では、大阪を拠点とする広域暴力団花菱会が出てきます。大阪生まれ、関西生まれのネイティブの方の耳にどう聞こえるのか分かりませんが、舞台が関西にも広がり、音やリズムとして、関西弁の言い争いが混ざり込んできて、より表現の幅が広がっています。
以前にも、北野作品とクエンティン・タランティーノ作品は暴力をテーマにしているという点で共通点があると書いたことがあります。加えて、“アウトレイジ・シリーズ”とタランティーノ作品は、どちらも英語を聞いているような(←タランティーノ作品側は当然ですが)、リズミカルな言い合いが心地よく、病みつきになる要素かも知れません。
アウトレイジ・シリーズは、北野作品に通底する静と、この「バカヤロー」「コノヤロー」の動のギャップが堪らないんですね。
高橋克典と加瀬亮
そういう意味では、本作品では、高橋克典扮する寡黙無口の殺し屋が醸し出す静と、加瀬亮扮する饒舌さでその場を制しようとする若頭の動とが、象徴的かも知れません。
あんまり書くとネタバレになっちゃうので控えますが、組織っていろんなスキルを持った人が集まってこそ、初めて機能するんだな、でもトップが文化をどう作るかを誤ると変な方向に行っちゃうんだななんて、妙に会社員らしいことを思っちゃいました。
新しい方向性を打ち出す役目。それを言語化して周囲に伝える役目。そのために必要な実働を担う役目。依頼された仕事を黙々と遂行する役目。
とにかくお二人のの演技は、その後色とりどりの象徴的存在で、出色の出来です!お楽しみください!
無駄なシーンがない
相変わらず、無駄なシーンが無いです。北野脚本、監督の理想である、”1枚1枚の絵柄にストーリーが込められている”ことで、無駄なカットが極端に少ないです。上記で”あらすじ”を書いた24分40秒の中でも、小清水大臣の秘書官なんて、ナレ死(ナレーションの言及で”死”が片付けられること)どころか、写真1,2枚だけで死が表現されてました(笑)
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事では、1作目の「アウトレイジ」の魅力をベースに、続編としての差分にフォーカスしてご紹介したつもりです。
特に、悲劇と喜劇の境界線の話、そこに新たな第三者目線(花菱会)が加わることで生み出される、更なる滑稽さに踏み込んだつもりです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.0 | 暴力描写が相変わらずエグイです |
個人的推し | 4.0 | 暴力の暴力によるの暴力ための映画? |
企画 | 4.0 | 続編のお陰で暴力の必然性が増しました |
監督 | 4.0 | 芸術性高いです! |
脚本 | 4.5 | 「コノヤロー」「バカヤロー」が病み付きです |
演技 | 3.5 | 出演者によってバラツキありますね… |
効果 | 4.5 | 色んな工夫がなされています |
北野武監督本人も認めているように、暴力ありきの映画ですよね。暴力の暴力による暴力のための映画ですよね。ただし、前作からの因縁をストーリー的に引きずっているので、暴力を振るわないといけない必然性が増して、その分素直に楽しめるようになっているかも知れません。
相変わらず芸術性は流石の一言!リアリティをスクリーンの枠で鮮やかに切り取りながら、”情” を描いて行ったところに大ヒットの要因があるんじゃないでしょうか?
演者のクオリティが、出演者が多いだけにバラツキがあります。
無理に観なくて良いかも知れません。R15+指定です。