この記事でご紹介する「スナッチ」は、2000年に公開された犯罪コメディ映画。鬼才ガイ・リッチーの第2回長編監督作品。ブラッド・ピット、ジェイソン・ステイサム、ベニチオ・デル・トロらを出演陣に迎え、二転三転して行くスリリングなストーリーを紡ぎ出して行く。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
どいつもこいつもワルだけど、どこか憎めない個性的なキャラクターが次から次へと現れ、意図しない悪影響をお互いに及ぼし、物語は思わぬ方向へと転がって行きます。ハラハラドキドキ、そして笑いが絶えない104分。
この記事で、この映画の独特な世界にちょっと足を踏み入れてみませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から27分50秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、ようやく登場人物たちが一通り出揃います。逆に言うと、この辺りまでご覧にならないと、この群像劇がどのように転がり始めるのかが分かりません。
作品のテースト、キャラクターの面白さ、そしてストーリー。この作品が好きかどうかを、この時点までご覧になってから判断されることをオススメします。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「スナッチ」(原題:Snatch) は、2000年公開の犯罪コメディ。ガイ・リッチーが脚本と監督を担当している。物語は、ジェイソン・ステイサム演じる裏ボクシングのプロモーターの目線で語られるが、ストーリー展開は、大粒のダイヤモンドを巡る、何人もの個性的な荒くれ者が入り混じる大騒動・群像劇である。
タイトルになっている ”Snatch” は、”サっとつかみ取る” という意味の英単語で、劇中では86カラットの大粒のダイヤモンドを誰がSnatch(スナッチ)するのか?が焦点となって行く。
本作のもう一つの側面として、この2年前の1998年に公開されたガイ・リッチー長編デビュー作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(原題:Lock, Stock and Two Smoking Barrels) の半リメイク的作品という一面もある。
というのも、このデビュー作で同じく脚本と監督を担当し大成功に導いたガイ・リッチーは、本作では7倍以上の製作費を獲得し、ブラッド・ピットをも招聘して、一作目のストーリーの骨格をある程度流用しつつ、登場人物とサイドストーリーを付け足しスケールアップさせたのが本作だ。
ガイ・リッチーの基本スタイル
この長編1作目と2作目の作風は、この後20年に渡ってガイ・リッチー作品の”基本スタイル”となっていく。具体的には、複数の登場人物(のグループ)が、意図せぬ形で互いに影響し合い、物語を想定外の方向に押し流して行くという世界線だ。
そこには、見るからにマヌケな人物、自分は賢いと思っているがマヌケな人物、本当にズル賢い人物らが、まくしたてるように喋り倒したり、知恵を凝らして敵を出し抜こうとする様子が、イギリス人らしい皮肉を込めてコケティッシュに描かれて行く。 →→→ 詳細は下記の「見どころ」にも書きます。
商業的成功
この映画の上映時間は104分と短めだ。だが、ドタバタが続くのでそんなに短いとは感じないかも知れない。製作費は1千万ドルで、世界興行収入は8千4百万ドルを売り上げた。実に8.4倍のリターンである。
当時既に大スターだったブラッド・ピットが、破格に安いギャラで出演したお陰でこの製作費に抑えられたと噂されているが、映画が世界中でスマッシュヒットを飛ばしたのは間違いない。
この作品で高い名声を博したガイ・リッチーはこの後、毎年のように精力的に映画を制作して行くことになる。
あらすじ (27分50秒の時点まで)
ベルギーの都市アントワープで、”フォー・フィンガー”ことフランキー(ベニチオ・デル・トロ)率いる強盗団4人組は、ユダヤ教のラビの変装で宝石卸業者に潜りこみ、86カラットと超大粒な物を含む大小様々なダイヤモンドの強奪に成功する。
フォー・フィンガーことフランキー
フランキー(ベニチオ・デル・トロ)は、自身のボスである、ニューヨークのギャング、アビー(デニス・ファリーナ)の指示に従い、ロンドンに移動して小粒のダイヤモンドは売りさばき、その後86カラットのダイヤはニューヨークに運び込む手筈になっている。
左がNYのギャングのボス、アビー
ロンドンで裏ボクシングのプロモーターをするターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)とトミー(スティーヴン・グレアム)の2人は、幼馴染であり仕事の相棒だ。今はゴージャス・ジョージ(アダム・フォーガティ)というボクサーをプロモートしている。
ターキッシュとトミー
2人は不本意ながらも、裏ボクシングの総元締めブリックトップ(アラン・フォード)と、ゴージャス・ジョージを起用した八百長試合を仕込むことになってしまう。
血も涙もないブリックトップ
というのも、ブリックトップは何人もの手下を抱える血も涙もないギャングのボスという顔も持ち、ターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)とトミー(スティーヴン・グレアム)は、彼の意向に従わざるを得なかったのだ。
また、ロンドンには「弾丸をくぐる男」という異名を持つ、ボリス(ラデ・シェルベッジア)という名のロシア人武器商人がいる。
ロシア人武器商人ボリス
実はアントワープのダイヤモンド強盗団4人組の1人はボリスの弟で、兄弟はフランキー(ベニチオ・デル・トロ)を裏切り、ロンドンでフランキーから86カラットのダイヤをだまし取る計画を立てる。ボリスはフランキーがギャンブル中毒である情報を得て、フランキーがノミ屋に向かうよう巧みに誘導する。
トミー(スティーヴン・グレアム)は相棒のターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)の指示に従い、パイキー(=ジプシー、放浪移民)からキャンピングカーを買おうとするが、リーダー格のミッキー(ブラッド・ピット)に見事にカモられ、故障中の不良車を売りつけられてしまう。
ミッキーとパイキーの一団
用心棒代わりにトミーに付き添ってきたボクサーのゴージャス・ジョージが、ミッキー(ブラッド・ピット)を素手で痛めつけてカタを付けることになったが、逆にミッキーに一撃で返り討ちにされ、そのまま病院送りにされてしまう。この結果、ブリックトップと約束した、ゴージャス・ジョージを使った八百長試合が開催不可能の事態におちいる。
ゴージャス・ジョージを病院送りにしたミッキー
フランキー(ベニチオ・デル・トロ)は、ボスのアビー(デニス・ファリーナ)の指示通りに、アビーの従弟で、ロンドンで宝石商を営むダグ(マイク・リード)の元へ盗んだ小粒のダイヤモンドを持ち込む。
しかし、ロシア人武器商人ボリスに焚き付けられたギャンブル中毒のフランキーは、ボスの言い付けに背き、86カラットのダイヤを収めたブリーフケースを片手に、裏ボクシングのノミ屋へと向かってしまう。
質屋を営む黒人三人組(ソルとヴィニーとタイロン)は、自分の手を汚したくないロシア人武器商人ボリスに金で雇われて、ノミ屋を襲撃することにする。ボリスの指示内容は、ノミ屋に現れる ”4本指の男” からブリーフケースを奪うこと。
ボリスの口車に乗せられたソルとヴィニーとタイロンの三人組
ところが運転手役のタイロンの運転技能が酷かったため、路上駐車してあった、内部が見えないバンに激しく衝突してしまう。そして、その路駐バンの荷室には偶然フランキーが乗っていて、フランキーはその衝撃で気絶してしまう。
目当ての”4本指の男”(フランキー) がいつまでも現れないので、黒人三人組は痺れを切らし、代わりにノミ屋自体に強盗に入るが、その襲撃自体が失敗に終わるどころか、どうやらそのノミ屋のオーナーは、あの血も涙もない・・・
果たして、
ターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)とトミーは、ゴージャス・ジョージを失った今、ブリックトップとの八百長試合の約束を果たすことができるのだろうか、彼らの身の安全は・・・?
気絶した”フォー・フィンガー”フランキーが持つ86カラットのダイヤモンドの行方はどうなるのだろうか・・・?
ノミ屋に強盗に入った黒人3人組は無事でいられるだろうか・・・?
見どころ (ネタバレなし)
ガイ・リッチーの才能が、この映画でどんな風に炸裂しているかを3つの観点で述べてみます。それを本作品の見どころ情報とさせてください。
すべてネタバレなしで書いていきます。あくまでも皆さんの予習情報としてお役立て下さい。
ガイ・リッチー独特のスタイル
既に上記の「ガイ・リッチーの基本スタイル」でも少し触れましたが、とにもかくにもこの監督さんの独特のスタイルが一番の見どころだと思います。
まず登場人物。癖が強いエキセントリックなキャラクターが次から次へと出てきます。「あらすじ」を述べた序盤の範囲だけでも、やたらと好戦的なギャングのボス、ブリックトップ(アラン・フォード)であったり、狡猾なロシアの武器商人ボリス(ラデ・シェルベッジア)であったり。
こうした登場人物たちは、大変こだわりが強く趣味が偏っているので、とんでもなくクレイジーな行動パターンを取ります。見ものです!
またガイ・リッチー作品では、一部の寡黙なキャラクターを除けば、登場人物達は決まってマシンガントークを繰り出してきます。キャラクター同士のブリティッシュ・イングリッシュ(イギリス人らしい英語の発音)による毒舌や罵倒の応酬も楽しんでください。
それから、出てくる奴らは程度の差こそあれ基本的にワルばっかりです。そして(凶悪度の差こそあれ)判を押したように犯罪を企みます。企むということは目論見がある訳です。そして、その目論見と目論見が作中で複雑に絡みあって、見事に当てが外れて行きます。
この当てが外れてドツボにハマって行く様子が実に滑稽で、エンターテイメント化されて行きます。ワルの登場人物たちも、どこか憎めないキャラクターに描かれるので、個々の独特の愛嬌と、ドツボにハマって行く転落劇が、渾然一体となって一級のコメディに昇華して行く訳です。
ガイ・リッチーの大出世作!これを是非お楽しみください!
ブラッド・ピットの存在感
個性的でエキセントリックなキャラクターが次々と登場する本作においても、ブラッド・ピットが放つ異彩は別格です。
強烈なアイルランド訛りの英語を話すという設定で、とにかく何を言っているのかよく聞き取れないパイキー(=ジプシー、放浪移民)のリーダー格ミッキーに扮します。この摩訶不思議なつかみどころのないキャラクターが、複雑に絡み合う犯罪の目論見を、更に複雑なものにして行っちゃいます。
「12モンキーズ」(1995年) 、「ファイト・クラブ」(1999年) でも、相当奇怪な役どころを演じたブラッド・ピットですが、本作「スナッチ」でも個性的な役回りで、この物語をかく乱していきます。お楽しみに!
視覚と音楽の効果
ここまで、登場人物たちに焦点を合わせて述べてきましたが、ガイ・リッチー作品は、アングル、コマ割り、編集、そしてBGMも大変個性的です。
エキセントリックなキャラクター達の表情を存分に引き出す角度で彼らを映し出したり、時系列を細かく切り刻み、それを前後させる編集を施すことで、コトの重大性を面白おかしく描いたり。そして、そこに不釣り合いなほど明るく軽快なBGMを当て込んだりと、とにかくこの犯罪コメディをエンタメ作品に昇華させるためのありとあらゆる工夫が施されて行きます。
BGMですが、当時ガイ・リッチー監督が交際していたマドンナの ”Lucky Star” が挿入歌に使用されています(2人は2000年に結婚)。また、オアシスの ”F***in’ In The Bushes” が非常に印象的な挿入のされ方をします。
物語に没入しつつも、ちょっとこんな効果に気を配って頂くと、このエキサイティングな作品をより楽しめるかも知れません。
まとめ
いかがでしたか?
ガイ・リッチーの大出世作「スナッチ」が、皆さんのハートを”スナッチ”するであろうポイントを、ネタバレなしの予習情報としてお伝え出来ていると幸いです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 暴力が強烈なので好き嫌いが・・・ |
個人的推し | 4.5 | ガイ・リッチー最高傑作では? |
企画 | 4.0 | 前作を大幅にスケールアップ |
監督 | 4.0 | 皮肉っぽい笑いが待ち受けています |
脚本 | 4.0 | 複雑に絡み合うストーリー |
演技 | 4.0 | 各自の個性! |
効果 | 4.0 | スリリングな編集 |
このような☆の評価にさせて貰いました。
暴力の描写が結構強烈なので、この辺りは好き嫌いが分かれると思います。万人におススメできる作品ではないです・・・
ただ個人的には大好きです。企画、脚本、監督の演出、そしてそれに応えた俳優陣の演技。どれも素晴らしく、ガイ・リッチーのキャリア最高傑作なんじゃないかと、個人的には考えています。
「犯罪コメディ」というジャンルにアレルギーが無い方は必見の作品です!