この記事でご紹介する「アジャストメント」は、2011年公開のSF恋愛サスペンス映画。世界をあるべき姿へと導くためなら、個人の意思に背いてでも運命を修正する「運命調整局」と、これに抗う男女を描いた物語。
その運命と戦う男女をマット・デイモンとエミリー・ブラントが演じる。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
数々の名作映画の原作・原案に採用されてきたフィリップ・K・ディックの小説。本作ではディックの短編小説「調整班」が原案として採用されている。サイエンス・フィクションとヒューマンドラマとサスペンスを見事に融合したヒット作。
この記事でしっかりと予習をして、この名作映画を存分に楽しみませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から28分00秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、主人公の男女がどんな人物で、2人がどんな出会いを果たすのかが分かります。そして、2人の周辺をうろつく謎の組織の存在も見えてきます。
この作品を好きか嫌いか判断する、最短のタイミングとしてこの時点をご提案します。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「アジャストメント」(原題:The Adjustment Bureau) は、2011年公開の恋愛サスペンス映画。フィリップ・K・ディックの短編集「悪夢機械」に収められている「調整班」(1954年) を原案としている。監督・製作 (他3名と共同)・脚本はジョージ・ノルフィ。
映画の内容は、世界には ”運命調整局” という秘密組織が存在しているというサイエンス・フィクション。この組織は、世界を定められた姿に導くために、人々が予定通りの人生を送っているかを日々監視している。
運命調整局はその任務達成に当たっては、自分達だけが持つ特殊な能力を用い、往々にして個人の意思に反する ”調整” を行い、その一環で惹かれ合う男女の仲を引き裂くことも辞さないというお話。
マット・デイモンが政治家として将来有望な男性を演じ、エミリー・ブラントがバレリーナとして将来有望な女性を演じている。
The Adjustment Bureau の意味
原題の”The Adjustment Bureau” に含まれる Adjustment とは、”調整”という意味で、Bureau とは”局”という意味だ(例:FBI は Federal Bureau of Investigation の略)。よって、The Adjustment Bureau は”調整局”、少し意訳を加えてこれは運命調整局という意味になる。
フィリップ・K・ディック作品
既述のように、本作はフィリップ・K・ディックの短編小説「調整班」(1954年) が原案となっている。
フィリップ・K・ディックは、独創的なSF小説を書くことで知られ、数々の映画の原作・原案になってきた。それらを下の表にまとめる。
映画作品 | 公開年 | 原作本 | 監督 | 主演 |
ブレードランナー | 1982 | アンドロイドは電気羊の夢を見るか? | リドリー・スコット | ハリソン・フォード |
トータル・リコール | 1990 | 追憶売ります | ポール・バーホーベン | アーノルド・シュワルツェネッガー |
トゥルーマン・ショー | 1998 | 時は乱れて (※アイデアの転用程度) | ピーター・ウィアー | ジム・キャリー |
マイノリティー・リポート | 2002 | マイノリティー・リポート | スティーブン・スピルバーグ | トム・クルーズ |
ペイチェック 消された記憶 | 2003 | 報酬 | ジョン・ウー | ベン・アフレック |
スキャナー・ダークリー | 2006 | 暗闇のスキャナー | リチャード・リンクレイター | キアヌ・リーヴス、ウィノナ・ライダー |
NEXT -ネクスト- | 2007 | ゴールデン・マン | リー・タマホリ | ニコラス・ケイジ |
アジャストメント | 2011 | 調整班 | ジョージ・ノルフィ― | マット・デイモン |
トータル・リコール | 2012 | 追憶売ります | レン・ワイズマン | コリン・ファレル |
「ブレードランナー」(1982年) を筆頭に、錚々たる映画化のリストである。
ジョージ・ノルフィ監督作品
本作品は、ジョージ・ノルフィが監督、脚本、製作(他3名と共同)を務めており、ジョージ・ノルフィの監督デビュー作である。
公開年 | 邦題 | 原題 | 監督 | 脚本 | 製作 |
2003年 | タイムライン | Timeline | 〇 | ||
2004年 | オーシャンズ12 | Ocean’s Twelve | 〇 | ||
2006年 | ザ・センチネル/陰謀の星条旗 | The Sentinel | 〇 | ||
2007年 | ボーン・アルティメイタム | The Bourne Ultimatum | 〇 | ||
2011年 | アジャストメント | The Adjustment Bureau | 〇 | 〇 | 〇 |
2016年 | バース・オブ・ザ・ドラゴン | Birth of the Dragon | 〇 | 〇 | |
2020年 | ザ・バンカー | The Banker | 〇 | 〇 |
上の図でご確認いただけるように、脚本家としてヒット作を手掛けてきたジョージ・ノルフィが、「オーシャンズ12」(2004年) 、「ボーン・アルティメイタム」(2007年) で一緒に仕事をしたマット・デイモンを主演に迎え、監督・脚本・製作の3役をこなした意欲作が、この「アジャストメント」(2011年) である。
実績からも分かるように、その脚本において、スリリングな展開を描写することについては折り紙付きの映画人と言える。
評価
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、72%と好意的な支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして論評は、”初監督となるジョージ・ノルフィは、映画を一貫したトーンに保つことに苦心しているが、スター達の、強力で信頼に足る化学反応を引き出すことに成功している” と、何か応援メッセージのような内容になっている。
商業的成功
この作品の上映時間は106分と標準よりやや短めとなっている。製作費5千万ドル強に対して、世界興行収入は1億2千8百万ドルを売り上げた。2.55倍のリターンである。
興行的にはまずまず満足な結果を得られたと言って良いのではないだろうか。
キャスト(登場人物)
この作品の主要登場人物はとても限られており、ストーリーが進行しても人の出入りは少ないので、特に混乱はないと思う。
役名 | 俳優 | 役柄 |
デヴィッド・ノリス | マット・デイモン | 平民出身の元下院議員。上院議員を目指している。エリ―スと出会い惹かれる |
エリース・セラス | エミリー・ブラント | バレエダンサー。デヴィッドと出会い惹かれる |
ハリー・ミッチェル | アンソニー・マッキー | 運命調整員。デヴィッドの運命担当 |
リチャードソン | ジョン・スラッテリー | 運命調整員。ハリーの上司で、デヴィッドに干渉してくる |
チャーリー・トレイナー | マイケル・ケリー | 会社経営者。デヴィッドの親友で、上院議員選では彼の選挙参謀も務める |
トンプソン | テレンス・スタンプ | 運命調整員。やり手 |
マクレディー | アンソニー・ルイヴィヴァー | 運命調整員 |
メイズ警官 | ブライアン・ヘイリー | 警察官 |
ドナルドソン | ドニー・ケシャワルツ | 運命調整員。リチャードソンの上司 |
ジョン・スチュワート | ジョン・スチュワート | 本人 |
あらすじ (28分00秒の時点まで)
デヴィッド・ノリス(マット・デイモン)は、ニューヨーク州のスラム出身の孤児。史上最年少でブルックリン選出の下院議員に当選し、以来任期を8年間勤め上げ、今度はニューヨーク州選出の上院選に出馬する。ノリスは、若くて勢いがあり、何よりその親しみやすいキャラクターもあって、選挙戦では老練な対立候補を大きくリードする。
ところが、選挙戦も佳境に入ったある日、大学の同窓会で調子に乗って下半身を露出した写真が新聞で報じられ、これが致命傷となって上院選は敗色濃厚となる。
投票日の夜、芳しくない開票速報を受けて、ノリスはホテルのフロアの男性トイレで敗北宣言のスピーチを練習する。まだまだ将来性のあるノリス候補にとっては、次回に繋げるためには今回の選挙にどう負けるかも重要となる。ノリスは男性トイレに他に誰も居ないことを確認した上で、声に出しながら敗北宣言を練り上げていく。
ところがしばらくすると、その男性トイレの個室の1つから、シャンパンボトルを片手に若くて美しい女性(エミリー・ブラント)が出て来る。誰も居ないことを確認したはずなのにと驚くノリス。
何でも聞くところによるとその女性は、自身の度胸試しのために、ホテルで行われていた赤の他人の結婚パーティーに潜り込んだがバレてしまい、追っ手の警備員から逃れるために男性トイレに逃げ込んだとのこと。ノリスが入って来た時に出るタイミングを失ってしまい、ずっと個室に籠っていたのだ。
ノリス自身も、高校時代に結婚パーティー潜入は経験済みなこと、おかげで警察の留置場で一晩過ごしたことを告白し、女性の率直で飾らない性格もあって、二人はスッカリ意気投合する。そして、互いに何か強烈に惹かれ合うものを感じ、思わず抱きしめ合ってキスをする。
しかし、二人には邪魔が入る。ノリス(マット・デイモン)は選挙参謀のチャーリー(マイケル・ケリー)に呼ばれ、女性(エミリー・ブラント)は警備員に見つかってしまう。ノリスが女性の名前も聞けないまま、2人は別れる。
その晩のノリスの敗北宣言は、予定した内容から即興で大きく変更された。政治家特有の美辞麗句は一切省かれ、選挙戦の裏事情を、率直で飾らない言葉で述べるものとなった。
後日ノリスは、選挙参謀を務めていたチャーリー・トレイナー(マイケル・ケリー)が経営する、全米有数のベンチャーキャピタルに役員待遇で迎えられることになった。
ノリスがチャーリーの会社に出勤する朝、運命調整局の調整員ハリー(アンソニー・マッキー)は、7時5分に公園でノリスの通勤を数分間足止めするよう指示を受けていた。しかし、ハリーがベンチでうたた寝をしている間に、ノリスは予定通り市営バスに乗り込む。
すると何とそのバスには、あのホテルのトイレにいた女性(エミリー・ブラント)が乗り合わせていた。2人は、ここでもほんの数分間でも会話を大いに楽しみ、再度意気投合し、ノリスは女性の名前(エリース)と電話番号をメモして貰う。
エリース(エミリー・ブラント)はバスを先に降りて去り、ノリスは勤務先に出勤する。
オフィスに着くと、ノリス以外の人間は全て静止して固まっていた。そして、怪しい武装集団がチャーリーに何かの処置を加えていた。身の危険を感じだノリスはオフィスビル内を逃げ回るが、遂には武装集団に力ずくで取り押さえられ、薬で気絶させられてしまう。
目が覚めると、そこは地下駐車場のような場所で、コトの顛末を説明される。
曰く、ノリスは、彼らのミスにより一本前のバスに乗った。その結果、チャーリーの意識の書き換え作業を目撃してしまった。よって、ノリス本人には、自分達 ”運命調整局” と ”調整員” の存在を告白するが、もし局の存在を口外したら、ノリスの脳を削除し、記憶、感情、人格を奪って廃人同然にすると宣告される。
更に、理由も告げられないまま、問答無用でエリースと再会することを禁じられ、財布に入れておいたエリースの電話番号のメモをその場で燃やされてしまう。
運命調整局は、何故デヴィッド・ノリスの運命に固執するのだろうか?何故エリ―スとの出会いを阻もうとするのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点に絞って書いてみたいと思います。この秀作をより味わい深く鑑賞するために、是非ご注目頂きたいポイントを3つ挙げてみました。
どれもネタバレなしで書いてありますので、安心してお読みください。
主演俳優2人の説得力
この映画を観初めて、最初に目に付くのは、主演俳優2人の魅力ではないでしょうか?マット・デイモンとエミリー・ブラント。
彼らの存在感と演技が、この物語に最大の説得力を与えてくれているように思います。これが本作の一番の見どころです。
この映画は、彼の運命を軸にストーリーは展開されて行きます。そして、そのノリスは同時に、謎の組織 ”運命調整局” に、どういう訳か執拗に粘着され続ける存在でもあります。
では、なぜ彼なのか?
この疑問に対する答えは、ストーリーを追うごとに明らかになっていくのですが、私たち観客も、そのストーリーに沿ってノリスに着目し続けるだけの意義が、劇中のマット・デイモンにあるかと言うと、それは存分にあります。
なぜなら、彼の役作りは、ノリスという主人公に人懐っこい魅力と、助けてやりたくなる危なっかしさを与え、我々は目が離せなくなるからです。これが一番の見どころだと思います。
また、一方のエミリー・ブラントは、デヴィッド・ノリスが運命の人と一目惚れする相手、エリースを演じます。では、その電撃的恋愛に説得力があるか?というと、これも存分にあります。
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というのも、彼女の持って生まれた美しさはもちろんのこと、エリースと言うキャラクターの率直で飾らない人柄が、エミリー・ブラントの表情やしぐさから滲み出て来て、”あぁ、この人となら、ずっとお喋りしてたいなぁ”と私たち観客も彼女のことが大好きになってしまいます。こちらも合わせて一番の見どころです。
整理すると、主演俳優2人の演技力とその化学反応が、この映画の説得力の源泉になっていて、この映画の最強の見どころだと思います。
ビジュアルの強さ
この物語は、運命調整局という絶対的権力を持つ組織が、個人の人生に干渉、介入してくるというフィクションです。これは考えようによっては、非常に荒唐無稽なお話です。
しかしそれを、 ”あり得る” レベルにまでリアリティを高めているのが、ビジュアルの強さです。
調整員たちをスタイリッシュな衣装で固め、有無を言わせぬ威圧感を演出したり、各種特殊映像技術を駆使することで、神出鬼没な調整員の機動力をリアルに描写したりと、監督と撮影監督の力量が存分に発揮されています。これが映像作品としての大いなる見どころです。
監督デビュー作となったジョージ・ノルフィは、遺憾なくその才能を発揮したのではないでしょうか。
なお、撮影監督を務めたジョン・トールは、「レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い」(1994年) と「ブレイブハート」(1995年) で、2度アカデミー撮影賞に輝いている名手で、本作でもリアルな映像が見ものとなります。
運命は誰のもの?
この映画を、じーっと見入って行くと、結局運命って誰のものなんだろう?ということを考えさせられます。そして、その運命を操るのは誰なの?とも考えちゃいます。
運命調整班に介入される人生なんて嫌ですよね。
ラブストーリーとサスペンスを楽しみながら、そんな深いテーマもじっくりと振り返らせてくれるのも、この映画の忘れてはならない見どころだと思います。
皆までは申しません。じっくり楽しんでみてください。
まとめ
いかがでしたか?
サイエンス・フィクション x サスペンス x ラブストーリー が見事に有機的に掛け合わされたこの秀作について、背景情報と見どころについて書いてきました。皆さんの予習情報としてお役に立てると嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | お得感のあるエンタメ作品 |
個人的推し | 4.5 | かなり好きな作品です! |
企画 | 3.5 | この原作に着目したことが凄い |
監督 | 3.5 | 恋愛比重がちょっと過多? |
脚本 | 4.0 | 原作を重厚な物語に発展 |
演技 | 4.0 | エミリー・ブラントは過小評価 |
効果 | 4.5 | 運命や特殊能力の可視化が素晴らしい |
このような☆の評価にさせて貰いました。
総論として、複数の要素が盛り込まれた非常にお得感のあるエンタメ作品だと思います。それでいて重すぎもなく、軽すぎもなく、胃もたれしません。
「見どころ」でも触れましたが、映画化に当たって、恋愛要素や、運命調整局の具象化が見事で、観客は引き込まれてしまいます。
一方で、冷静に振り返ってみると、恋愛比重が若干過多で、キャリアと恋愛のどちらを優先するか?私人として生きるか公人として生きるか?という構図が、いつの間にかどこかに置き忘れられてしまっているのが玉に瑕です。
個人的に大好きな作品で、おススメです!