この記事でご紹介する「ハート・ロッカー」は、2009年公開の戦争映画。イラク戦争(第二次湾岸戦争)下のバグダッドにおいて、テロリストが仕掛けた爆弾を処理するアメリカ陸軍爆弾処理班の苦闘を描いた作品。アカデミー賞6部門に輝き、史上初めて女性監督にアカデミー監督賞をもたらした。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
イラク戦争の戦局全体でもなく、大部隊の様々な人間模様を描くでもなく、ただただ爆弾処理班に所属する3名の兵士の実像を、ドキュメンタリータッチで描いていく作品。
手離しに楽しめる娯楽作品ではないので、この記事で事前に予備情報を仕入れて行きませんか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から18分30秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、この映画の作風が見えます。そして、主人公たちがイラク戦争の真っただ中でどんな日々を送っているのかは分かってきます。
この作品を興味深く観続けられるか、やっぱりイイやとなるか、最短の判断のタイミングとしてこの時点をご提案します。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ハート・ロッカー」(原題:The Hurt Locker) は、2009年公開のイラク戦争(第二次湾岸戦争)を題材にした戦争映画。舞台は2004年のイラクの首都バグダッド近郊。戦況は既に大規模戦闘後のフェーズに入っており、 イラク駐留アメリカ陸軍は平和維持活動に腐心している。そんな状況下で、反米テロ組織が仕掛ける爆弾の処理に苦闘する爆弾処理班の姿を描いている。
イラク戦争全体の戦局を描く訳でもなく、飛行機、戦車、機関銃によるド派手な戦闘シーンがある訳でもない。ただただ3名の隊員から構成される爆弾処理班が、日々姿の見えないテロリストを警戒しながら、ギリギリの精神状態で爆弾を解除して行く等身大の姿を、ドキュメンタリータッチの映像で映し出して行く。
監督は、キャスリン・ビグロー(本作では製作にも名を連ねている)。ビグローは、監督作「ハート・ブルー」(1991年) でスマッシュヒットを達成した後、「ストレンジ・デイズ/1999年12月31日」(1995年) 、「K-19」(2002年) でとんでもない大赤字を経験したが、本作「ハート・ロッカー」(2009年) では、高い芸術的評価と商業的収益性を両立させた。
芸術的評価
アカデミー賞では9部門でノミネートされ、作品賞、監督賞(キャスリン・ビグロー)、オリジナル脚本賞(マーク・ボール)、編集賞(ボブ・ムラウスキー、クリス・イニス)、音響効果賞、録音賞の6部門を受賞した。
この年までの82回のアカデミー賞の長い歴史の中で、史上初めて女性監督が監督賞を受賞する快挙を成し遂げた。
Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、97%とこの上なく高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”優れた演技、緊迫感のあるショット、アクションに満ちた戦争叙事詩である、キャスリン・ビグローの『ハート・ロッカー』は、それゆえに、イラク戦争の最近のドラマ化の中で群を抜いた最高の作品である” と、評されている。
商業的成果
この映画の上映時間は131分と、標準より少しだけ長目。体感的には、緊張感の高い作風だけに結構疲れる印象。製作費はわずか1千5百万ドルで、世界興行収入は4千9百万ドルを売り上げた。3.28倍のリターンである。
このシリアスな作風で、芸術的評価も得つつ3倍強のリターンを得たのであれば、十分に商業的に成功したと言えるのではないだろうか。
キャスト(登場人物)
この映画の登場人物は以下の表の通りである。絶対数が少ないので、容易に把握できると思う。
役名 | 俳優 | 役柄 |
ウィリアム・ジェームズ一等軍曹 | ジェレミー・レナー | 主人公。爆弾処理担当兵士。歴戦の勇士 |
J・T・サンボーン三等軍曹 | アンソニー・マッキー | ブラボー中隊の兵士。ジェームズとの関係に悩む |
オーウェン・エルドリッジ特技兵 | ブライアン・ジェラティ | ブラボー中隊の兵士。精神的なストレスを抱えている |
マシュー・“マット”・トンプソン二等軍曹 | ガイ・ピアース | ブラボー中隊の先代の爆弾処理担当兵士 |
ジョン・ケンブリッジ軍医中佐 | クリスチャン・カマルゴ | 駐屯基地に配属されている軍医 |
PMC分隊長 | レイフ・ファインズ | 私設軍務契約会社(Private Military Contractor)の兵士 |
リード大佐 | デヴィッド・モース | 駐屯基地の最高司令官 |
コニー・ジェームズ | エヴァンジェリン・リリー | ジェームズ一等軍曹の(別れた)妻 |
あらすじ (18分30秒の時点まで)
2004年イラクの首都バグダッド。イラク戦争(第二次湾岸戦争)においては、前年にフセイン政権は崩壊し、イラクには暫定政府が樹立され、現地に駐留するアメリカ陸軍は平和維持活動に入っていた。
しかし、黒幕が分からない反米ゲリラの無差別攻撃は増える一方で、現地の統治を行っているアメリカ軍は、日々仕掛けられる時限爆弾や遠隔起爆爆弾に悩まされていた。郊外では遠隔爆破処理で片が付く爆弾も、市街地では丁寧に解除するほかなく、爆弾処理班は、爆弾が発見される度に出動する毎日を送っていた。
この日もトンプソン二等軍曹(ガイ・ピアース)が率いるブラボー中隊の爆弾処理班は、市街地の道路上に仕掛けられた爆弾を慎重に処理しようとしていた。
リモコン操作のロボットによる爆破が不調に終わったため、爆弾防護服を着用したトンプソン軍曹(ガイ・ピアース)が慎重に爆弾に近付いて行く。
トンプソン二等軍曹をバックアップするのは、サンボーン三等軍曹(アンソニー・マッキー)の役目だ。
サンボーン(アンソニー・マッキー)は、トンプソン(ガイ・ピアース)と無線で常時連絡を取りながら、周囲に障害となる物や人物が居ないかをチェックして、トンプソンの爆弾解除作業を連携支援する。
爆弾処理班には更にエルドリッジ特技兵(ブライアン・ジェラティ)も帯同しており、エルドリッジは更に周囲に警戒の目を配り、作業の障害を取り除く専任となる。チームは3人一組で行動するのだ。
トンプソン(ガイ・ピアース)が爆弾の傍らで作業をしている正にその時に、少し離れた場所で現地の人間が携帯電話を操作しようとしていることにエルドリッジ(ブライアン・ジェラティ)が気付く。
エルドリッジは、その男に走り寄りながら携帯電話を捨てるよう命じる。サンボーンは、エルドリッジのその男を射殺するように指示を出すが、エルドリッジには撃てない。
異変に気付いたトンプソンも、全速力で爆弾から遠ざかろうと必死に走るが、男が携帯電話を操作した瞬間に作業中だった爆弾が爆発する。
残念ながら逃げ遅れたトンプソン二等軍曹(ガイ・ピアース)は、そのまま帰らぬ人となってしまう。
この殉職もあり、若く多感なエルドリッジ特技兵(ブライアン・ジェラティ)の精神は限界に近付き、軍医のカウンセリングを受けている。トンプソンと特に仲が良かったサンボーン三等軍曹(アンソニー・マッキー)は悲しみを噛み殺している。
そんなブラボー中隊の爆弾処理班に、補充としてウィリアム・ジェームズ一等軍曹(ジェレミー・レナ―)が着任する。
ジェームズ一等軍曹は、アフガニスタンにも従軍していた歴戦の勇者である。
バグダッド市街地でまた新たな爆弾が発見され、ブラボー中隊に出動命令が下される。今のイラクの状況下で爆弾処理班に休んでいる暇はない。
現場に到着すると、ジェームズ(ジェレミー・レナ)は自信満々の態度で待機していた通常兵たちを安心させ、ロクに周囲の状況も確認しないまま、防護服の着用を指示してスタスタと爆弾に近付いて行ってしまう。
サンボーン(アンソニー・マッキー)はジェームズ(ジェレミー・レナ)と無線を介して情報をやり取りしながら、慎重にことを進めようとするが、ジェームズはこれを一切無視する。それどころか、携行していた発煙筒のピンを抜き、周囲を煙だらけにしてしまう。
サンボーンは、ジェームズから情報を得られないどころか、視界も遮られ、狼狽えると同時に怒りを覚える。
果たして、このジェームズの蛮勇にも似た行動は、周囲にどういう影響を及ぼして行くのだろうか?ブラボー中隊は、この不安定な状況下のバグダッドを生き抜き、無事に本国に帰還することが出来るのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
この映画の見どころを3つの観点で書いてみたいと思います。こんなところに目を配って本作をご覧になると、より味わい深くご鑑賞できるのでは?というご提案だとお考え下さい。
どれもネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。
ハンドヘルド・カメラによるドキュメンタリー映像
本作を鑑賞し始めると、最初に目に付くのは映像のテーストだと思います。
低予算(1千5百万ドル)でこの映画を仕上げる必要があったキャスリン・ビグロー監督は、常に4台以上のカメラを回しっぱなしにして、その映像を編集で細かく繋ぎ合わせることで、製作費に直結する撮影期間を大幅に短縮することに成功するのと同時に、映像の緊張感を強烈に高めています。
特に多くの撮影がハンドヘルド・カメラ(手持ちのカメラ)で行われたことは、その手ブレ映像から一目瞭然で、この常時細やかに揺れるフレームと、全く滑らかでない雑なズームインが、ニュース映像、もしくはドキュメンタリー映像のような臨場感を醸し出し、爆弾処理班の周囲に漂う緊迫感を煽っていきます。是非ご注目ください!
アカデミー賞に輝いた編集技術が凄いです!
徹底したヒューマン・ドラマ
この作品は、ブラボー中隊の爆弾処理班の兵士3人の、等身大の姿を徹頭徹尾掘り下げて行きます。
そこにはイラク戦争の戦況説明も無ければ、派手な戦闘シーンも無く、安易なお涙頂戴シーンもありません。3人の兵士のごくごく個人的な事情、個人的な感情と反応、そして個人的な疲弊と憤りを丁寧に描写していきます。
コンバットシーンを付随する戦争映画というより、たまたま舞台装置が戦場だったヒューマン・ドラマと言った方が、表現としては近いのかも知れません。皆さんはどんな風にお感じになるでしょうか?
女性監督の目線
既述した通り、この映画の監督はキャスリン・ビグローという女性監督です。そして、アカデミー賞の80年以上の歴史で、女性として初めて監督賞を受賞した監督となりました。
男だから、女だからという議論そのものがナンセンスになりつつある現代ですが、それでも本作品において、女性ならではの視点とはどこなんだろうか?と探してしまう筆者がいます。
「男ってこういう風にバカみたいにじゃれ合うのが好きなんでしょ?」と言われているような気が、ちょっとだけしましたが、皆さんの目にはどのように映りますでしょうか?
まとめ
いかがでしたか?
この名作のありのままの姿をお伝えすることで、是非興味を持って頂きたいですし、正しい予備知識の下存分に楽しんで頂ければと考えています。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | ある程度のグロ注意 |
個人的推し | 4.5 | ヒリヒリする緊張感が癖になりそう |
企画 | 4.0 | 爆弾処理班にフォーカスする英断 |
監督 | 4.0 | 臨場感、緊迫感が凄い |
脚本 | 3.5 | 若干長いか・・・ |
演技 | 3.5 | 個人技よりも総合演出が光る作品 |
効果 | 4.5 | 編集が凄い |
このような☆の評価にさせて貰いました。
製作費の少なさを逆手に取って、ハンドヘルド・カメラで短期間で撮影するアプローチは、時としてとんでもない化け物映画を生みますね、「ダラスバイヤーズ・クラブ」(2013年) しかり、本作しかり。
大赤字連発だった監督が、こんな特大な逆転ホームランを打つなんて、監督のキャリアにもドラマがあるなと思います。