この記事では、クリストファー・ノーランがヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールを主演に迎えて製作した摩訶不思議なイリュージョン作品「プレステージ」について解説します。生涯を懸けてトリックを追求したマジシャンの役を、2人の俳優がどう練り上げて行ったか?またそこにノーラン監督が、どう二重、三重のトリックを仕掛けて行ったのか、ネタバレしない絶妙なラインで考察します。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作における、観続けるか、中断して離脱するかを判断するジャッジタイムは、
- 上映開始から33分10秒のポイントをご提案します。
ここまでご覧になると、本作品のストーリーが転がり始めるのをご確認いただけるのと同時に、本作の雰囲気(=残酷さ)が見えると思います。「何々?どういうこと?どうなって行くの?」と興味をそそられるのか、「キモチワルイ、無理」となるのか、この時点だと判断付き易いと思います。
概要 (ネタバレなし)
本作品の位置づけ
「プレステージ」は、2006年に公開されたサスペンス映画。クリストファー・ノーランが
- 製作
- 脚本(弟ジョナサン・ノーランと共著)
- 監督
の3役を務めている。この作品以前も監督、脚本の2役を務めることがあったクリストファー・ノーラン。本作品以降は手掛ける作品全てで、製作、脚本、監督の3役を必ず務めるようになっていく。
ノーラン本人が、自分の構想を映像化するために必要な役回りは何でもこなす、ノーラン作品の真骨頂はこの「プレステージ」が起点となっているようだ。
本作品は、1995年に発表されたクリストファー・プリーストという人の「奇術師」という小説を映画化したものである。ヒュー・ジャックマンと、クリスチャン・ベール(本作の前後「バットマン ビギンズ」(2005年) と「ダークナイト」(2008年)でもノーランと仕事をすることになる)が、因縁により互いに激しくいがみ合う2人のマジシャンを演じている。
本作品の特徴としては、現在から過去、過去から過去を回想する構成により、細かに切り貼りされる時系列。張り巡らされる伏線。マジックに対する執拗なまでの哲学。それを象徴する数々のシーン。アカデミー賞を受賞した撮影と美術。上映時間も128分と標準的な長さである。なのでもしかすると、一度目より、二度、三度と観た方が楽しめる類の作品かも知れない。
なお、原題の Prestige とは、英語で”名声”という意味だ。本作品では後述するように”偉業”の意味でも使われている。
マジシャンにとっての名声とは何か?その名声を得る、維持するために必要なことは何か?を掘り下げて行く感じです。
あらすじ (33分10秒の時点まで)
ジャッジタイム33分10秒までのあらすじの”ざっくり”版と”詳しく”版を準備しましたので、お好みの方をお読みください。
19世紀末のロンドン。互いを敵対視する2人のマジシャン、ロバート・アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とアルフレッド・ボーデン(クリスチャン・ベール)。
大盛況のアンジャーの瞬間移動マジックの謎を解き明かしたいボーデンは、まさにその瞬間移動マジックの真っ最中に舞台下に忍び込む。しかしそこで目にしたのは、大きな水槽に落下し、そのまま苦しみながら溺れ死ぬアンジャーの姿。
2人は何年にもわたっていがみ合ってきた経緯があり、この死はボーデンによって仕掛けられたものとして、殺人の罪でボーデンは裁判を経て刑務所に入れられてしまう。
時は2人の若手時代に遡る。2人は同じ師匠ミルトンの下で修業を積んでいた。ミルトンのマジックの舞台において、サクラとして観客席から舞台上に上がり、予め打ち合わせた段取りでマジックの手伝いをするのが彼らの日課だった。ショーの目玉は、師匠ミルトンの助手を務める、アンジャーの美人妻ジュリアによる水中縄抜けである。
ある日、ジュリアの手首のロープを、ボーデンがこれまでの一重結びではなく二重結びにしたことで、ジュリアは水槽からの脱出に失敗し、そのまま溺れ死んでしまう。葬儀で怒りに震えるアンジャーが縄結びの真相をボーデンに問うも、ボーデンはその問いにまともに答えずその場を立ち去る。
細々とマジックで生計を立てるボーデンは、銃弾掴みのマジックを観客に披露するが、そのトリックを見破った上で観客の振りをして銃を撃つ役目を得たアンジャーは、こっそり銃弾を装填し直し、観客の目の前でボーデンの指2本を撃ち抜く。
こうして妻ジュリアを殺された恨みを晴らそうとするアンジャーと、釈明をせぬ内にマジシャンの命とも言える指を撃ち抜かれたボーデンの、因縁の物語が続いて行く。
見どころ (ネタバレなし)
2大スターの文字通りの競演
ヒュー・ジャックマン扮するロバート・アンジャーは、”グレート・ダントン(偉大なるダントン)”という芸名を前面に押し出すように、背が高くハンサムで容姿が栄えるので、マジックをショーのレベルに昇華させる演出力を持つ。よって集客力も高く興行的にも成功している”スーパーマジシャン”タイプ。
一方のクリスチャン・ベール扮するアルフレッド・ボーデンは、”プロフェッサー(教授)”という異名を持つ。「日々の生活を犠牲にしてこそ初めて素晴らしいトリックは成し遂げられる」と考えるような、ストイックで人生の全てをマジックに捧げている”奇術師”タイプ。興行面では苦心しているので決して裕福ではない。
この2人が上述の因縁によりいがみ合いを続けていく様を、随所にキャラクターの色を出しながら演じて行きます。2人の名優の演技と、意趣の異なる葛藤、怒りの様、そしてせめぎ合いをまずは素直に楽しんでいただくのが良いんだと思う。
皆さんは、二人のどちらに肩入れしてご覧になるかな?
象徴的な絵柄
本作品は、アカデミー賞の撮影賞と美術賞を受賞しているんだ。だから、筆者のような素人の目から観ても、絵柄に凝っていることが一目瞭然だ。
例えば映画冒頭、”Prestige” の映画タイトルと共に現れてくる最初のシーンは、森に打ち捨てられた無数のシルクハットである。こういった何気ない絵柄が、結構後から意味を成してくるので、初見でその辺りにどのぐらい目を配れるのか挑むのも楽しいかも知れない。サブスクの恩恵を最大限生かして、要所要所で一時停止→10 or 30秒戻しを繰り返しながら鑑賞するのもアリかも知れない。
いぶし銀の働き – マイケル・ケイン
2005年の「バットマン ビギンズ」でタッグを組んで以来、本作「プレステージ」、バットマンの三部作・・・と、今現在実に7つのノーラン作品にマイケル・ケインは出演している。
本作でも、いがみ合う2人のシナリオ展開において、要所要所でマイケル・ケイン扮するハリー・カッターが映画のナビゲーター役を務めてくれるお陰で、本作はスムーズに前に進んで行く。
通常、こういう説明臭い台詞を述べる役は俳優に嫌がられると言うが、こういう難しい難しい(損な?)役回りを卒なくこなせるところが、必要不可欠な存在とクリストファー・ノーランに高く評価されているのかな?
したり顔で、淡々と仕事をこなすお爺ちゃん。こんな祖父がいたら楽しいだろうなと思っちゃいました
その他の情報
本作品に対する☆ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | ちょっと残酷なシーンが目立つかも |
個人的推し | 3.5 | 初見時にあまり興奮しなかったんだよな |
企画 | 5.0 | このストーリーを実写化しちゃうんだ! |
監督 | 4.5 | 解るかな?とチャレンジしてきやがる! |
脚本 | 4.0 | テーマに対して必要以上に複雑? |
演技 | 4.0 | ヒュー・ジャックマンの演技をどう評価するかですよね・・・ |
効果 | 4.5 | 映画に説得力を持たせる十二分な働き |
総合的なおススメ度合いは、正直ちょっと微妙なラインですね。少し残酷なシーンが目立つかも。凄く好みが分かれるところだと思うんですよね。推し具合ですが、初見時は何故かあまり興奮出来ず、2回目観たら随所の伏線が見えて来て「なるほど、なるほど」と膝を叩き続けることに。こういう作品を広くあまねく手放しで推薦して良いものなのか非常に悩みます。
他のノーラン作品に比べて、素晴らしい点を説明したくなる映画というより、好きか嫌いかとにかく観てみてと言いたくなる作品かも。
上映時間も128分とノーラン作品にしてはお手頃なので、筆者のような小難しいことは考えずに、素直に楽しむのが正解なのかな?
既述のように、アカデミー賞、撮影賞、美術賞を受賞しています。