話題の記事続編なのに1作目の質を超えた映画5選

【ネタバレなし】トラウマ級に怖い映画「セッション」(あらすじ、評価)

この記事でご紹介する「セッション」は、2014年公開のドラマ映画。ニューヨークのエリート音楽院を舞台に、ジャズドラマーとして大成することを夢見る少年と、学生を限界まで追い込む指導こそ最上のコーチング法と疑わない教授との対決を、過剰なまでの音楽演出と共に描いた映画。

この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。

もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。

この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。

この映画を観るかどうか迷っている人観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人ことも考え、ネタバレしないように配慮しています。

アカデミー賞三部門に輝いた名作ではあるが、見ようによってはかなり胸糞の悪い側面も持つこの作品。「観なきゃ良かった」とならないように、この記事で鑑賞前に予習して行きませんか?

目次

ジャッジタイム (ネタバレなし)

この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、

  • 上映開始から28分00秒のタイミングをご提案します。
28分00秒

ここまでの段階で、「無理だ」とお感じになる場合は、即座に離脱することをおススメします。ここまでご覧になると、どのような経緯で主人公の少年が教授に師事して行くことになるかが見えます。

この映画に興味が湧くか否かはこの段階で見えていると思います。

概要 (ネタバレなし)

この作品の位置づけ

「セッション」(原題:Whiplash) は、2014年公開のドラマ映画。ニューヨークにあるアメリカ最高峰のエリート音楽学校、(架空の)シェイファー音楽院を舞台に、己の才能を信じて偉大なジャズ・ドラマ―になることに邁進する少年と、学生を限界まで追い詰めて潜在能力を引き出すことこそ最高の指導法だと疑わない教授との、精神的な対決を描いた作品。

これだけ聞くと、厳しい指導の裏に将来を見据えた愛がある教授と、未熟で世間知らずで粗削りな若者とが、反発し合いながらも次第に心を通わせ、遂には・・・みたいな、昭和の青春ドラマのようなストーリーを想像されるかも知れないが、この映画は全くそんな話ではない。

この映画は、青臭さの抜けないウブな正義の味方が、極悪非道な悪役との対決を繰り返す内に、良くも悪くも徐々に手練れて行き、その悪役と次第に伍していく的なストーリーだと思った方が良い。というのも、J・K・シモンズが演じる教授は、ヒーロー物作品のヴィラン並みに狡猾である。この様子を楽しめるか否かで、この作品への評価が分かれると思う。

中学や高校時代の教科や部活の横暴な教師、もしくは社会人になってからの高慢な上司、そんな過去の嫌な思い出をお持ちの方は、この映画を「こんな奴自分の人生にも居たわぁー」と笑って懐かしめるか、トラウマが蘇って嫌な(怖い)思いをするか、その辺りのご自身の精神状態も重要なポイントだと思う。

原題 ”Whiplash”の意味

”Whiplash”とは、英語でムチ打ち症の意味である。X Japanのヨシキに代表されるように、ドラマーは職業病として首を痛めがちで、ムチ打ち症もその一つだ。そして、有名なジャズナンバーのタイトルでもある。劇中でも一番フィーチャーされるのがこの『Whiplash』という曲である。

チャゼル・ワールド全開の作品

脚本、監督を務めるのはデイミアン・チャゼル、制作時若干28歳。本作品は、デイミアン・チャゼルが初めて監督した、かつ初めて自身の企画に基づき脚本を執筆した、商業的長編作である。

というのも、チャゼルの長編監督デビュー作は「Guy and Madeline on a Park Bench」(2009年、上映時間84分) である。しかし、この作品はハーバード大学の卒業制作の一環として撮られた映画であり、製作費もわずか6万ドル。そして、2013年に脚本を担当した2作品は、プロ脚本家として外注を受けて執筆したもので自身の企画ではない。

監督と脚本を務めた2013年の「Whiplash」は、この記事で取り上げている「セッション」(2014年、原題:Whiplash) と同名作品で、自身の企画作ではあるが、こちらの2013年版は2014年版の製作費を稼ぐために、2014年版の脚本の一部を先出して制作した短編映画である。

よって、この「セッション」(2014年) こそが、正真正銘デイミアン・チャゼルの商業的長編作の監督・脚本デビュー作という位置付けになる。

なお本作は、チャゼル本人がプリンストン高校在学時に、実際にジャズ・ドラムに夢中になって打ち込んでいた時期に、担当の音楽教師から受けた厳格な指導の経験に基づいている。

そんな若かりし頃の経験を経てもなお、音楽をこよなく愛するデイミアン・チャゼルは、この作品で”音楽を魅せる”ために徹底してこだわり抜いた演出を全編に散りばめている。

この「セッション」(2014年) でデイミアン・チャゼルは、批評的にも商業的にも認められ、「ラ・ラ・ランド」(2016年) 、「バビロン」(2022年) の超大作へとその創作の系譜は繋がっていく。

芸術的評価

この作品は、第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、助演男優賞、編集賞、録音賞に輝いた。

本編をご覧になると当該3部門について、その受賞に納得されると思う。

Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では、94%とこの上なく高い支持率を得ている(Rotten Tomatoesでは60%以上が『新鮮』、60%未満が『腐っている』という評価)。そして総評においても、”緊迫感があり、刺激的で、見事な演技がある『セッション』は、デイミアン・チャゼル監督の見事な第二学年(※)の努力であり、J・K・シモンズとマイルズ・テラーにとって素晴らしい乗り物であった” と、評されている。

※ 第二学年 = 第二作目。言語の英語では、sophomore というアメリカ特有の『大学二年』という言い回しと引っかけた表現をしている。学校が舞台の映画なので。

商業的成功

この映画の上映時間は106分とやや短めで、体感的にも一気に視聴できてしまう感じである。製作費は3.3百万ドル。これは短編作品「Whiplash」(2013年) で稼ぎ出されたものと言われる。世界興行収入は4千9百万ドルと言われ、実に13.2倍のリターンである。

13.2倍のリターン

批評家からも高く評価され、商業的にも大成功を収め、デイミアン・チャゼルの名を一気に轟かせる結果となった。

あらすじ (28分00秒の時点まで)

ニューヨークにある、全米ナンバーワンの音楽学校、シェイファー音楽院。アンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)は、今年この音楽院に入学した1年生、19歳である。彼はバディ・リッチに憧れ、偉大なジャズ・ドラマ―として大成することを夢見ている。

アンドリューが、今日も学院で一人ドラムの個人練習をしていると、学院の名物教授テレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)がフラッとその様子を見に来る。

高名なフレッチャー(J・K・シモンズ)の高圧的な態度に気圧されたアンドリュー(マイルズ・テラー)は、緊張のあまりまともな会話を交わせない内に、フレッチャーは姿を消していた。

アンドリューは父子家庭で育ったが、教師の父との関係は良好で、度々2人で映画を観に行くのが離れて暮らす親子の良いコミュニケーションになっている。そしてアンドリューは、いつも父と行く映画館の売店でアルバイトしている女子大生のニコル(メリッサ・ブノワ)に密かに想いを寄せている。

後日音楽院で、アンドリューが自身が所属する初等クラスのバンドでレッスンを受けていると、そこにフレッチャーが突然現れる。そして、初等クラスの各パートの奏者に1小節ずつ演奏をさせて行く。誰の音もお眼鏡に叶わないようであったが、初等クラスでもサブ・ドラマーの立場であるアンドリューにも短い小節だが演奏のチャンスが与えられる。

そして、何故かそのアンドリューに、翌日から自身が指揮する最上位のクラス(スタジオ・バンドチーム)のレッスンに参加することを命じてフレッチャーは去っていく。アンドリューは、スタジオ・バンドに引き抜かれたのだ。

翌朝、アンドリューがスタジオ・バンドの部屋に行き、勝手が良く分からないまま上級生たちと一緒に待機していると、午前9時ピッタリにフレッチャーが現れる。アンドリューは、このバンドに引き抜かれたとは言え、サブ・ドラマーのポジションなのでメイン・ドラマ―の楽譜をめくるだけの役割である。

フレッチャーはおもむろにバンドに演奏をさせ始める。しかし、少しでも気に入らない箇所があると容赦なく演奏を止めて、その要因となる学生を詰問していく。

しかも、その言葉は演奏技術への指摘にとどまらず、奏者の人格否定やその家庭環境への中傷も含まれる罵詈雑言そのものであった。そして、気に入らない者には直ちに退去を命じるという横暴な指導。

程なくして、フレッチャー(J・K・シモンズ)はバンドに10分間の休憩を命じ、休憩後はアンドリュー(マイルズ・テラー)に試しにドラムを叩かせてみると宣言する。そして、休憩中には気さくにアンドリューに話しかけてくる。

そこでは、フレッチャーはこんなことまで話す。かつてチャーリー・パーカーは駆け出しの頃、その未熟な演奏に対してジョー・ジョーンズにシンバルを投げ付けられた経験がある。しかし、それが転機となって己の技術を磨き、遂に”バード”と呼ばれるまでの偉大な奏者になったと。どうやら、こういう反骨心の刺激こそが彼の教育哲学のようだ。

休憩後、演奏指導が再開される。初めはアンドリューのドラム演奏に満足げなフレッチャー。しかし、しばらくするとテンポが合ってないと注意する。「もっと速く」。「もっと遅く」。アンドリューが、その微妙な違いに合わせても合わせても満足しないフレッチャー。次第に訳が分からなくなり混乱するアンドリュー。

ついにフレッチャーはキレてアンドリューに椅子を投げつけ、さらにアンドリューの両頬をはたきながら「1、2、3、4、1,2、3,4」と身体にリズムを直接叩きこもうとする。このフレッチャーの豹変ぶりに戸惑い、屈辱で俯くことしか出来ないアンドリューは、思わず一滴(ひとしずく)の涙を流す。

果たして、こんな暴君のような前時代的な指導は功を奏するのだろうか?アンドリューの偉大なドラマーになるという夢は、このスパルタ指導で花開くのだろうか・・・?

見どころ (ネタバレなし)

この映画の見どころを3つの観点で書いてみたいと思います。どれも解説を加えると言うより、こんな点にご注目頂くと、もっとこの映画を楽しめると思いますというご提案のつもりです。

どれもネタバレなしで書いていきますので、安心してお読みください。

悪役フレッチャー教授

この映画で、否が応でも最初に目が行くのは、独善的なフレッチャー教授に扮するJ・K・シモンズの演技でしょう。見どころというか、ちょっと胸糞が悪くなるぐらいです・・・

J・K・シモンズは、本作以前の出演作でも、一癖も二癖もある名脇役という印象は、皆さんもお持ちでしょう。例えば、トビー・マグワイア主演のスパイダーマン・シリーズにおける新聞編集長役とか。

それが本作「セッション」では水を得た魚のように、執拗なまでに厳格な音楽教授のキャラクターを迫真の演技で具現化して行きます。

それもそのはず、J・K・シモンズの父親は大学教授。そして本人は、大学で作曲を専攻したという、正統な音楽教育のバックグランドを持つ音楽家なのです。つまり、そもそもこのフレッチャー教授役に必要となる基礎的な素養を持っていた俳優さんなんですね。

そこへ、キャリアを通じ習得してきた渋み(エグ味?)のようなものを苛烈にブツケテきたわけです。

アカデミー助演男優賞受賞も納得です。ただし、この演技を見て過去の嫌な思い出が蘇る人は逃げましょう。

音楽を”魅せる”編集

この映画における、ジャズ・ミュージックの演奏シーンは圧巻です。これも大きな見どころです。

というのも、劇中の演奏は、アカデミー録音賞(トマス・カーリー/ベン・ウィルキンス/クレイグ・マン)を受賞したほどの折り紙つきのサウンドです。文句の付けようがありません。

この映画が更に凄いのは、そこにファストカット(一瞬一瞬の短いカットを編集で次々と繋ぎ合わせる手法)をぶつけてきたことです。このアプローチにより、演奏されるジャズの一拍一拍と同期して、楽譜やシンバルの映像が次々と切り替わって行きます。

この演出により、ジャズ・ミュージックのスウィングを、グルーブを、ダイナミズムを、私たちは耳で聴くだけでなく目で”見る”ことも出来ます。若きチャゼルは、音楽を”魅せる”ためのこうした工夫を施すことで、観客を虜にして行きます。

本作で編集を担当し、アカデミー編集賞を受賞したトム・クロスは、本作以降もチャゼル監督と「ラ・ラ・ランド」(2016年) 、「ファースト・マン」(2018年) でタッグを組んで行きます。

皆さんの目、耳にはどのように響くでしょうか?

マイルズ・テラーの演技

言うまでもなく、マイルズ・テラーの演技も素晴らしいです。

撮影時26歳だったテラーは、本作でナイーブな19歳の少年を見事に演じています。

そして、圧巻なのはそのドラムの演奏です。高校時代からドラム演奏の経験はあったようですが、本作の役作りのために撮影前に2か月に渡って毎日3時間以上特訓を積んだとのこと。劇中でも演奏シーンは自らこなすほどの腕前。その血の滲むような努力は、差し替えでは得られないリアリティに昇華し着実に私たちに伝わってきます。

皆さんは、これをどのようにご覧になるでしょうか?

まとめ

いかがでしたか?

間違いなく印象的な映画ですが、皆さんがより精緻な作品選びをしていただけるように、ありのままの情報をお伝えしたつもりです。

この作品に対する☆評価ですが、

総合的おススメ度 3.5 チャゼル監督らしいバランスの悪さ
個人的推し 3.0 手段が目的化している
企画 3.5 新たな分野の発見
監督 3.0 趣味的過ぎる・・・
脚本 3.0 何が言いたいのか・・・
演技 4.5 凶悪なヴィランの演技
効果 4.5 圧巻の演奏シーン
こんな感じの☆にさせて貰いました

このような☆の評価にさせて貰いました。

J・K・シモンズの強烈な個性、成長していく少年を演じ切ったマイルズ・テラー、そして、圧巻のジャズ演奏シーン。これらは手離しに素晴らしいです。

ただ、「バビロン」(2022年) でも感じましたが、演奏シーンを過剰に演出することによって、物語全体のバランスが崩れるというか、手段が目的化するというか、結局何が言いたいがための演奏シーンなんだっけ?と、作品の主題がボヤケて来るんですよね。

この、チャゼル監督らしいバランスの悪さは、凄く好みの分かれるところだと思います。

あわわっち

尾を引く余韻とモヤモヤは紙一重なのかも・・・

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