この記事では、2002年の映画「ボーン・アイデンティー」について解説します。マット・デイモン扮する記憶喪失の男が、正体不明の敵の攻撃をかわしながら、少しずつヒントを手繰り寄せ、自分探しをするサスペンス・スパイ・アクション。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
この後大ヒット・シリーズへと成長する記念すべき第1作目。色々語って行きますので、是非この作品の世界に足を踏み入れてみてください!
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作品において、観続けるか、中止するかを判断するジャッジタイムは、
- 上映開始から、18分25秒のタイミングをご提案します。
ここまで観て頂くと、これから始まる主人公の葛藤が垣間見え、かつ置かれた状況は安全で好ましいものではない緊迫感を感じ取って頂けると思います。
この雰囲気がお好きなら見続けて頂き、ちょっと違うと感じたら離脱しちゃってください。
BGM による演出もあり、既に危険な香りがプンプンすると思います!
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ボーン・アイデンティー」(原題:The Bourne Identity) は、2002年公開のサスペンス・アクション映画。主演はマット・デイモン。上映時間は、119分で、非常に標準的。製作費は6千万ドルと比較的リーズナブルで、結果2億1千4百万ドルの世界興行収入を生み出す大ヒットとなった。
”ボーン・アイデンティティ”の”ボーン”は、”Born” ではなく”Bourne” とつづる。英語圏で普通に良くある苗字らしい。よって、何故”Bourne”なのか?の意味は、筆者が知る限り語られていないと思う。”アイデンティティ”は、普通に”Identity”だ。
本作品が、ボーン・シリーズの記念すべき第1作目で、デイモンはこの後シリーズ全5作の内4作(1作目、2作目、3作目、5作目)の主演を務めて行く(第4作目の「ボーン・レガシー」は、同じ世界線ながら題材が若干異なり、よって主演も異なる)。
原作は、ロバート・ラドラムが書いた同名スパイ小説「The Bourne Identity」(1980)。本シリーズの2作目、3作目である「ボーン・スプレマシー」(2004)「ボーン・アルティメイタム」(2007)も、それぞれラドラムの原作「The Bourne Supremacy」(1986)「The Bourne Ultimatum」(1990)に基づいている。
# | 映画タイトル | 公開年 | 主演 | ロバート・ラドラムの原作 | 出版年 |
1 | ボーン・アイデンティティ | 2002 | マット・デイモン | The Bourne Identity | 1980 |
2 | ボーン・スプレマシー | 2004 | マット・デイモン | The Bourne Supremacy | 1986 |
3 | ボーン・アルティメイタム | 2007 | マット・デイモン | The Bourne Ultimatum | 1990 |
4 | ボーン・レガシー | 2012 | ジェレミー・レナ― | The Bourne Legacy ※ | 2004 |
5 | ジェイソン・ボーン | 2016 | マット・デイモン | 原作無し | – |
※ エリック・ヴァン・ラストバダー(Eric Van Lustbader) がLudlum Brand の下で執筆。
※ 内容は、原作と映画で全く異なる
監督を務めたダグ・リーマンは、1980年の高校生の時に、この原作本「The Bourne Identity」が出版された時からファンであり、その内容は非常に先進的だと感じていた。また、スパイ小説の新しい分野”ラドラム・ボーン・スタイル”を生み出したという評価にも賛同している。
# | 作品名 | 公開年 | 製作 | 脚本 | 監督 |
1 | ボーン・アイデンティティー (主演:マット・デイモン) | 2002 | ダグ・リーマン パトリック・クローリー リチャード・N・グラッドスタイン | トニー・ギルロイ ウィリアム・ブレイク・ヘロン | ダグ・リーマン |
2 | ボーン・スプレマシー (主演:マット・デイモン) | 2004 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ポール・L・サンドバーグ | トニー・ギルロイ ブライアン・ヘルゲランド | ポール・グリーングラス |
3 | ボーン・アルティメイタム (主演:マット・デイモン) | 2007 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ポール・L・サンドバーグ | トニー・ギルロイ スコット・Z・バーンズ ジョージ・ノルフィ | ポール・グリーングラス |
4 | ボーン・レガシー (主演:ジェレミー・レナ―) | 2012 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ベン・スミス ジェフリー・M・ワイナー | トニー・ギルロイ ダン・ギルロイ | トニー・ギルロイ |
5 | ジェイソン・ボーン (主演:マット・デイモン) | 2016 | フランク・マーシャル マット・デイモン ポール・グリーングラス グレゴリー・グッドマン | ポール・グリーングラス クリストファー・ラウズ | ポール・グリーングラス |
リーマンは、プロの映画監督となった後、本作品の映画化権を手に入れ、脚本家のトニー・ギルロイ、ウィリアム・ブレイク・ヘロンと脚本を練った(クレジットには後者の2人が脚本として挙げられている)。主役のジェイソン・ボーン役には、ラッセル・クロウ、シルヴェスター・スタローンの名前も挙がったが、最終的にマット・デイモンが配役された。
こうしてマット・デイモンが配役されたことで、傍から見るととても好青年に見える若者が、自分の中に潜む圧倒的な戦闘力、知性に怯えながら、自分探しをしていくという独特のキャラクター、ストーリーが出来上がっていくことになる。
結果論ですが、ラッセル・クロウやシルヴェスター・スタローンの筋肉ジェイソン・ボーンなんて観たくないですぅー ><
あらすじ (18分25秒の時点まで)
地中海の大しけの夜、漁船が海面に浮かぶ男(マット・デイモン)を見つける。
漁師たちが力を合わせ男を引き上げ、船内で船医が手当てを施そうとすると、背中に数発の弾痕が見つかる。また、マイクロカプセルが背中に縫い込まれていて、それを取り出した船医がカプセルのボタンを押すと光が投影され、チューリッヒ相互銀行の口座番号を映し出した。
男は息を吹き返すが、自身が何者で、どういう経緯でこの場に来たかが思い出せない。
2週間も経つと男はすっかり元気になり、漁師仕事を手伝えるようになるまで回復する。また男は、数カ国語を話せ、海図が読め、ロープワークにも長けている。
ただし、記憶は一向に戻らない。
漁船が立ち寄った港で、船を降りる男。賃金代わりに受け取った幾ばくかの金で特急電車に乗りスイスへと急ぐ。スイスに着いても目にする景色は見覚えがない。
身分証も無く、仕方がなく公園のベンチで野宿をしていると、運悪く警邏中の制服警官2名に退去を命じられてしまう。フランス語のやりとりで押し問答をしている内に、警官の一人がこん棒で男を小突いたことを引き金に、男は反射的に身体に染み付いた防御術で警官2名を制圧してしまう。
慌ててその場から逃げ去る男。
CIAの本部では幹部会議が開かれ、2週間前にCIAに暗殺されかけたと公言する、アフリカ某国の指導者ウォンボシ(アドウェール・アキノエ=アグバエ)への対応が協議される。
部下を放任していたアボット(ブライアン・コックス)が、部下のコンクリン(クリス・クーパー)に事情を問い質すと、工作員が2週間ほど消息不明だと言う。
男は、翌日チューリッヒ相互銀行に出向き、口座番号を伝えて受付を無事に通過する。地下階での掌紋認証も無事に通り、カーテンで仕切られた個人ブースで貸金庫のボックスを受け取る。
ボックスを開け、見つけたアメリカ合衆国のパスポートには、”Jason Bourne(ジェイソン・ボーン)”1969年生まれと書かれており、一安心したのも束の間。ボックスの奥から、多額の現金と、何か国、何種類もの指名の複数のパスポートと拳銃を見つけてしまう。
とっさにその場にあったゴミ箱に設置されていた布袋を取り出し、貸金庫の中身を全て移す男。拳銃だけは貸金庫に残す。大慌てで貸金庫を受付に渡し、自身の最期の訪問を問いただすと、3週間前だとの回答を得る。
慌ててその場を立ち去る男の姿を見つけ、傍らにいた一人の行員が携帯電話を取り出し、男の来訪を誰かに報告しようとしている・・・
この後、記憶を失ったこの男を、どんな事件が待ち受けているのか…?男は記憶を取り戻すことが出来るのか…?
見どころ (ネタバレなし)
自分探しの旅のスリル
「ボーン・アイデンティティ」は、「あらすじ」でも述べたように、主人公のジェイソン・ボーンが自分自身について何も覚えていない状態で目覚め、自分の正体や過去を探すために行動して行く物語です。彼が過去に何をしていたのか、どんな仕事をしていたのか、そして何故そんなに能力が高いのか、何も分からない状態からボーンは旅をスタートしなければなりません。
この謎めいた過去や、自己のアイデンティティを巡るストーリー展開が、なによりミステリアスでスリリングです。この背骨の部分がこの映画の最大の魅力だと思います。「あらすじ」以降も、分かってくることや、かえって謎が深まることが、続々と出てくるので、このスリルを是非味わってください!
ボーン・”アイデンティティ”ですからね!
ジェイソン・ボーンというキャラクター
謎めいたキャラクターであるジェイソン・ボーン。過去の記憶を失いながらも、驚異的な戦闘技術や知性を持ち合わせた寡黙な青年として描かれています。冷静かつ迅速に状況に対応する顔をみせつつ、なかなか戻らない記憶に苛立ちを隠せない表情も見せます。
上述の自分探しの旅と合わせて、彼は孤独の旅を続けて行くことになります。葛藤する姿、奮闘する姿。そんなジェイソン・ボーンを見ていると、観ているこっちもハラハラ、ドキドキ。気付くと彼の味方をしている自分に気付きます。
そして同時に、巨大な権力とリソースをもった醜悪なオジサン・キャラクターが、ちょいちょい挿入で登場してきて、我々はすっかり怒れる応援者になっていること請け合いです!
この当時のマット・デイモンが特に爽やかなんですよねぇー
マット・デイモンの役作り
マット・デイモンは撮影に入る前の3か月間、各種格闘技と武器の扱いについての本格的な訓練を積んだと聞きます。また、フランス語やドイツ語を流暢に喋るシーンも出てきます。元々持っていた高い能力もあるんでしょうが、しっかりとした準備、周到な役作りによって、マット・デイモンがこの属性を作り上げたことは想像に難くないです。
最終的にマット・デイモンは、本作品でスタントを使わず自分でこなしたシーンも結構あったとか。
「インビクタス」で見せたラガーマン役といい、彼は肉体派?
トニー・ギルロイ監督の演出手腕
本作は、全編通してスリルが続くので安心して楽しんでください!それを裏打ちする物は何なのか?と要素に分解してみると、
- ハンドカメラによる撮影
- ハンドカメラを多用して、敢えて揺れを加えることで没入感を演出
- 寄りの映像
- 登場人物の表情に大胆に”寄る”ことで、キャラクターの心情をストレートに表現しています。
- 特にジェイソン・ボーンの表情に注目です!
- 色合いへのこだわり
- シーンによって、色合いが結構変わっていきます。
- 「あらすじ」の範囲でも嵐の漁船のシーンとか臨場感が高いです!
- アクションシーンの迫力
- アクションその物とカメラワーク。そして編集技術によって、コンバットシーンの迫力が凄いです!
が挙げられるんじゃないでしょうか?「あらすじ」の20分弱でもこれらを十分に確認できるので、あまり乗り気でない方も、まずはジャッジタイムまでお試しでご覧になってみるのが良いと思います。
効果的な音楽
本作品では、劇中の音楽が、物語の雰囲気を盛り上げるのに大きな役割を果たしていますね。音楽はジョン・パウエルが担当していますが、機械的な音楽を採用することで、2000年代の新感覚スパイ・ムービーという印象を観客に植え付けるのに成功してますね。
ジェイソン・ボーンが静かに息を潜めているシーンと、一気に動きを見せるシーンとで、音楽の雰囲気を見事に使い分けているので、この辺りも注目しながら観て頂けると面白いかも知れません。
鑑賞後のお楽しみになるかも知れませんが、主題歌の「Extreme Ways」がカッチョイイです!
まとめ
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 21世紀の新たなスパイ・ムービー、一見の価値あり! |
個人的推し | 4.5 | かなり好きです! |
企画 | 4.5 | 原作との違いを知って、更に興味を持ちました! |
監督 | 4.5 | 原作ファンとのことで、雰囲気作りが良いです! |
脚本 | 3.5 | 全キャラクターをもっと掘り下げても面白いかも |
演技 | 4.0 | 良いと思います! |
効果 | 4.5 | 主人公の頭痛が伝わって来るぐらいの臨場感 |
実に良く出来た作品だと思います!このシリーズのファンになるかどうかはお任せしますが、この1作目は一見の価値ありだと思います!
”ラドラム・ボーン・スタイル”と呼ばれるこの世界観が癖になるかも知れません。
一方で、ジェイソン・ボーン以外のキャラクターについて、もう少し背景を描くことが出来たら、人と人の交差点としてのドレッド・ストーン作戦が描けて面白かったかも知れません。
もっと撮影効果に関して、色々受賞しても良さそうな気がしますが、どうなんでしょうね・・・
まだご覧になったことない方で、この1作目を好きになれば、新たなお気に入りシリーズの誕生かも知れません!