この記事では、2007年公開 スパイ・サスペンス・アクション・シリーズの第3弾「ボーン・アルティメイタム」について解説します。マット・デイモン扮する記憶喪失の男を巡るこの大ヒットシリーズも、本作では一体何が明らかになるのか?
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ニッキー役、デッシュ役について、そして”Ultimatum”の意味も書いて行きますので、是非この作品の世界に足を踏み入れてみてください!
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作品において、観続けるか、中止するかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から、15分20秒のタイミングをご提案します。
この辺りまで観て頂くと、ジェイソン・ボーンが何をしようとしているのか?そして、ジェイソン・ボーンの意思とは関係なく周囲はどう動こうとしているのか?そして、それらはどう繋がろうとしているのか?が見え始めて、ハラハラ、ドキドキが始まります。
こういうのがお好きなら観続けて頂きたいですし、違うなと思ったら離脱しちゃってください。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ボーン・アルティメイタム」(原題:The Bourne Ultimatum) は、2007年公開のサスペンス・スパイ・アクション映画。主演は、前作、前々作に引き続きマット・デイモン。ボーン・シリーズの第3作目で、ストーリーの時系列的にも、1作目、2作目の続編となる。
# | 作品名 | 公開年 | 製作 | 脚本 | 監督 |
1 | ボーン・アイデンティティー (主演:マット・デイモン) | 2002 | ダグ・リーマン パトリック・クローリー リチャード・N・グラッドスタイン | トニー・ギルロイ ウィリアム・ブレイク・ヘロン | ダグ・リーマン |
2 | ボーン・スプレマシー (主演:マット・デイモン) | 2004 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ポール・L・サンドバーグ | トニー・ギルロイ ブライアン・ヘルゲランド | ポール・グリーングラス |
3 | ボーン・アルティメイタム (主演:マット・デイモン) | 2007 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ポール・L・サンドバーグ | トニー・ギルロイ スコット・Z・バーンズ ジョージ・ノルフィ | ポール・グリーングラス |
4 | ボーン・レガシー (主演:ジェレミー・レナ―) | 2012 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ベン・スミス ジェフリー・M・ワイナー | トニー・ギルロイ ダン・ギルロイ | トニー・ギルロイ |
5 | ジェイソン・ボーン (主演:マット・デイモン) | 2016 | フランク・マーシャル マット・デイモン ポール・グリーングラス グレゴリー・グッドマン | ポール・グリーングラス クリストファー・ラウズ | ポール・グリーングラス |
監督は前作に引き続きポール・グリーングラス。製作も前作に引き続き、パトリック・クローリー、フランク・マーシャル、ポール・L・サンドバーグの3名だ。脚本は、共著者に変更はあるものの、トニー・ギルロイが引き続き務めている。この布陣からも分かるように、前作との継続性が高く、それは作品の演出にも色濃く表れている。
本作は公開時、三部作の完結編という位置づけで宣伝されていたと記憶している。Ultimatumとは英語で”最後通牒”という意味だし。いよいよこの物語もどうケリを付けてくれるのか?という機運が高まっていた。
# | 映画タイトル | 公開年 | 主演 | ロバート・ラドラムの原作 | 出版年 |
1 | ボーン・アイデンティティ | 2002 | マット・デイモン | The Bourne Identity | 1980 |
2 | ボーン・スプレマシー | 2004 | マット・デイモン | The Bourne Supremacy | 1986 |
3 | ボーン・アルティメイタム | 2007 | マット・デイモン | The Bourne Ultimatum | 1990 |
4 | ボーン・レガシー | 2012 | ジェレミー・レナ― | The Bourne Legacy ※ | 2004 |
5 | ジェイソン・ボーン | 2016 | マット・デイモン | 原作無し | – |
※ エリック・ヴァン・ラストバダー(Eric Van Lustbader) がLudlum Brand の下で執筆。
※ 内容は、原作と映画で全く異なる
この表にもあるように、本シリーズはロバート・ラドラムによって書かれた原作小説がベースとなっている。ただし、ラドラム自身の執筆による原作が存在するのは、この「The Bourne Ultimatum」までである。
上映時間は115分(標準的だ!)、製作費は1億1千万ドルで前作の約1.5倍(前作は7千5百万ドル)で、いよいよビッグ・バジェット(=1億ドル以上の製作予算)が付いた。結果は、期待を上回ったであろう世界興行収入4億4千3百万ドルの大ヒットとなった。
あらすじ (15分20秒の時点まで)
モスクワでイレーナ(オクサナ・アキンシナ)に会うという、やるべきことをやり遂げたジェイソン・ボーン(マット・デイモン)は、その代償として負傷し、現地の警察に追い回されることになった。
逃走中も、訓練時代にCIAから受けた拷問のような教育プログラムの記憶がフラッシュバックしつつも、冷静な状況判断と身体に染み付いた戦闘能力で警察の追撃をかわし、暴力は最小限に留めて、再び姿を消す。
6週間後、エズラ・クレイマー長官(スコット・グレン)も出席するCIAの会議において、ジェイソン・ボーンはとりあえずCIAに対する脅威として位置付けられ、監視が続けられることになった。ボーンの真の意図に勘づき始めていたパメラ・ランディ(ジョアン・アレン)も、長官のこの冷静な判断には従わざるを得なかった。
”ブラックブライヤー作戦”という謎のプロジェクトの存在を嗅ぎつけた、イギリス・ガーディアン紙の新聞記者サイモン・ロスは、精力的な取材を続け、イタリア・トリノでCIAのニール・ダニエルズ(コリン・スティントン)から、オフレコを条件にかなりの情報を引き出すことに成功。
フランス・パリでは、マリーの兄マーティン・クルーツ(ダニエル・ブリュール)に、ジェイソン・ボーン自らがマリーの死を報告する。ただし同時に、この死の引き金となった背後の陰謀を明らかにすることも静かに誓う。
イギリスに帰国したサイモン・ロス記者は、携帯電話で”ブラックブライヤー”という単語を無防備に口にしたため、通話を傍受したCIAから一気に最優先監視対象に指定されてしまう。指揮を執るのは、ニューヨークに居るCIA対テロ極秘調査局ノア・ヴォーゼン(デヴィッド・ストラザーン)だ。
パリからロンドンに陸路で移動中のジェイソン・ボーンは、ガーディアン紙の署名記事で、サイモン・ロス記者が自身とマリーを名指しで記述していることを知る。マリーまで犯罪者扱いなことを見過ごせないジェイソン・ボーンは、ガーディアン社の別の記者のデスクに電話をし、匿名のままサイモン・ロスを呼び出して貰う。
ボーンはサイモンに、「記事は読んだ。30分後にウォータールー駅南口に来い」とだけ告げて通話を切る。急ぎ会社を後にし、ウォータールー駅へと向かうサイモン・ロス記者。
ロス記者に対する映像での監視、携帯の傍受は完了していたCIAだったが、第3者のデスクの固定電話にまでは流石に手が回っていなかったため、ロス記者の行先が判らず焦るCIA。
この後、”ブラックブライヤー”作戦の全貌を掴みかけているサイモン・ロス記者とジェイソン・ボーンが接触して、何が起きるのか…?ジェイソン・ボーンの記憶は蘇って行くのか…?
見どころ (ネタバレなし)
マット・デイモン扮するジェイソン・ボーンの孤独感
前作までで、1作目から出て来てた権力を持った醜悪なオジサン・キャラクターが一掃され、スッキリしたかに見えましたが、本作ではまたまた権力者が色々出現してきたことが「あらすじ」の15分程度でもご確認いただけるんじゃないでしょうか?
強大な敵に囲まれれば囲まれるほど、そして台詞が減れば減るほど、マット・デイモン扮すジェイソン・ボーンの孤独感が際立って、その哀しみが良い感じですね・・・我々をそれを観たくてお金と時間を使っている訳ですから。
1作目製作時から5年の歳月が経過していた訳ですが、マット・デイモンの5年分の加齢も、ジェイソン・ボーンというキャラクターに深みを加えるに当たってプラスにしかなってないような気がします。
スター・ウォーズ エピソード6のマーク・ハミルの老け顔を観た時のガッカリ感とは大違いです!www
冴え渡るポール・グリーングラスの演出
前作に引き続き監督を務めたポール・グリーングラス(上の表を参照)。ベタと言えばベタだが、スリリングな演出が冴え渡っています。これは上記の「あらすじ」(15分20秒)時点までご覧になって頂くだけで、十分賛同いただけるんじゃないだろうか?
前作に引き続き、登場人物や対象物に対して”寄り”のカットで表情、動きを”抜く”構図が頻繁に出てきます。更に!必要に応じて、そこからもう一段階サッとズームアップして、キャラクターの目の表情に瞬時に迫ったり、ボイスレコーダーの動作に迫ったりと、一瞬一瞬の緊張感を素早く切り取ることに成功しています。
また、キャラクター2人の一対一の重要な会話のシーンが序盤から出てきますが、肩越しに相手の表情を映して対話のエンゲージメントを強調することは演出の常套手段ですが、この際にハンドカメラを用いて、敢えて画面の揺れをさりげなく挿し込むことで、話をする者、聞く者の心の動揺がさりげなく表現されています。より少ない台詞の中でもエモーショナルな心象風景が映し出されて、この映画のストーリー性が非常に高まっています。
序盤から、ジェイソン・ボーンのフラッシュバックが再三に渡って出てきますが、その画像は彩度を落としたり、敢えて縦にフィルムの劣化のような筋を入れたり、思い出される記憶の時系列を入れ替えたり、ファストカット(画面を素早く切り替えること)を多用したり。そして、そこに効果的にBGMを入れつつ、肝心なところで無音のシーンを挿入したり。
ジェイソン・ボーンというキャラクターの、依然として引き続くトラウマ、混乱、葛藤を、効果的にストリーテリングの手法を介して表現されており、それが痛いほど観るこちらにも伝わってきます。
”ラドラム・ボーン・スタイル”は、単にカッコいいスパイが、スタイリッシュに任務をこなす007シリーズ(←これはこれで好きだけど)等とは一線を画し、自分が何者なのかが分からない不安定な地面の上で、マリーへの愛だけは本物だったというストーリーが最大の魅力であり、ポール・グリーングラスは、この点を最大限に引き出した監督さんなんじゃないでしょうか?
3作目にして初めて、アカデミー賞の編集賞、録音賞、音響効果賞を受賞。当然の栄誉だと思います。
アカデミー会員。このシリーズの芸術性に気付くのがおせーよ!w
世界を股にかけてる感
世界を股にかけてる感、裏を返すと世界のどこまでも追って来るぜ感が、緊張感を高めてくれます。「あらすじ」の15分間だけでも、ロンドン・パリ・トリノ・ラングレー・ニューヨークと5つの都市が出てきます。しかも、それらが近代的な通信設備でリアルタイムで繋がっている様子が演出され、もうどこに逃げても隠れきれないぜジェイソン・ボーンというスリルに直結しています。
字幕ではPDA、音声ではブラックベリーと言及される通信端末が、スマホやiPhone に置換えれば、2020年代にも通用する設定になっていて、今観ても色褪せてないですね。
現代だったら監視カメラによる画像認識が出て来ちゃうんですけどね…
アクションシーン
本作でもアクションシーンは凄いです(←陳腐な表現でごめんなさい)。ただ、こればっかりは観て頂くのが一番だと思うので、これ以上野暮は申しません。
ただ一つ強調しておきたいのは、少なくとも「あらすじ」を書いた冒頭の15分間には(派手な)アクションシーンは出てこないこと。これ重要!多くのアクション映画で、オープニングシークエンスにド派手なアクションを入れるのが常套手段ですが、本作では静かに始まり、並行に動くキャラクターたちが可能な限り丁寧に描かれ、それら点と点が線で繋がっていくので、その辺りを楽しみにしていてください!
音楽
相変わらず、BGM が良いです。3作続けてジョン・パウエルが担当してくれています。効果的に盛り上げたり、そのお陰で音楽が消えたシーンにより没入感が生まれたり。
主題歌は、アレンジには手が加わっていますが、引き続き「Extreme Ways」です。
人気キャラクター
本作品の人気キャラクターにちょっとだけ触れさせてください。
- ニッキー・パーソンズ – ジュリア・スタイルズ
- デッシュ – ジョーイ・アンサー
がファンの間で人気が高いようですね!どんな感じで出てくるのか?楽しみにしていてください!
まとめ
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.5 | 単純に面白いし、芸術性も高まっています! |
個人的推し | 4.5 | 3作目まで観ないとスッキリしないでしょ? |
企画 | 4.0 | ”ジェイソン・ボーン”のルーツにより迫るのは秀逸 |
監督 | 4.5 | 既に述べたようrにグリーグラスの演出が冴え渡っています |
脚本 | 3.5 | 個々のキャラにもっとバラつきが出ても面白かったかも |
演技 | 4.0 | マット・デイモンは素晴らしいです! |
効果 | 4.5 | 各種効果が、必要かつ十分な演出効果を出していると思います |
アカデミー賞の編集賞、録音賞、音響効果賞を受賞しています。このシリーズがこうして芸術的に評価されたのは遅すぎたぐらいだと思います。プロットの面白さ、ストーリーテリング力、そして演出効果と、どれも素晴らしいと思います。
オススメだし、個人的にも好きな映画です!
唯一難点を言えば、CIA側の関係者が結構ステレオタイプかなと。もっとキャラクターにバラつきを持たせて、一癖も二癖もあるキャラクターとして描いて貰ったら、もっと遊びが増えて面白かったかも。
いずれにせよ、4億4千万ドル以上売り上げたのも納得です。