この記事では、2004年の映画「ボーン・スプレマシー」について解説します。大ヒットしたサスペンス・スパイ・アクション・シリーズのこの第2作目で、マット・デイモン扮する記憶喪失の男は、今度はどんな活躍をするのか?
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
キリル役、キム役、イレーナ役(最後の女の子)の俳優さん情報も書いてますので、是非この作品の世界に足を踏み入れてみてください!
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作品において、観続けるか、中止するかの判断を下すジャッジタイムは、
- 上映開始から、14分20秒のタイミングをご提案します。
ここまで観て頂くと、前作で落ち着きを見せたストーリーが、再び始動することが分かります。このハラハラドキドキを楽しめるかどうか、ご自身でお確かめください!
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ボーン・スプレマシー」(現在:The Bourne Supremacy) は、2004年公開のサスペンス・スパイ・アクション映画。主演は前作に引き続きマット・デイモン。ボーン・シリーズの第2作目で、ストーリーの時系列的にも1作目の続編となる。
# | 映画タイトル | 公開年 | 主演 | ロバート・ラドラムの原作 | 出版年 |
1 | ボーン・アイデンティティ | 2002 | マット・デイモン | The Bourne Identity | 1980 |
2 | ボーン・スプレマシー | 2004 | マット・デイモン | The Bourne Supremacy | 1986 |
3 | ボーン・アルティメイタム | 2007 | マット・デイモン | The Bourne Ultimatum | 1990 |
4 | ボーン・レガシー | 2012 | ジェレミー・レナ― | The Bourne Legacy ※ | 2004 |
5 | ジェイソン・ボーン | 2016 | マット・デイモン | 原作無し | – |
※ エリック・ヴァン・ラストバダー(Eric Van Lustbader) がLudlum Brand の下で執筆。
※ 内容は、原作と映画で全く異なる
上の表にあるように、原作はロバート・ラドラムが書いた同名スパイ小説「The Bourne Supremacy」(1986)。原作者と主人公の名前から取った”ラドラム・ボーン・スタイル”の作品である。原作と映画の違いだが、大枠の設定や主人公は踏襲しつつも、背後にうごめく陰謀や、エンディングは大分異なる。
これは当然の決断なのではないか?スパイ・ストーリーを描くに当たって、1986年と2004年では世界情勢は全く異なる。ある意味、とにかく”ジェイソン・ボーン”というキャラクターを掘り下げれば良かった前作とは異なり、ストーリーを拡げるためには様々な設定を置換える必要がある。
# | 作品名 | 公開年 | 製作 | 脚本 | 監督 |
1 | ボーン・アイデンティティー (主演:マット・デイモン) | 2002 | ダグ・リーマン パトリック・クローリー リチャード・N・グラッドスタイン | トニー・ギルロイ ウィリアム・ブレイク・ヘロン | ダグ・リーマン |
2 | ボーン・スプレマシー (主演:マット・デイモン) | 2004 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ポール・L・サンドバーグ | トニー・ギルロイ ブライアン・ヘルゲランド | ポール・グリーングラス |
3 | ボーン・アルティメイタム (主演:マット・デイモン) | 2007 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ポール・L・サンドバーグ | トニー・ギルロイ スコット・Z・バーンズ ジョージ・ノルフィ | ポール・グリーングラス |
4 | ボーン・レガシー (主演:ジェレミー・レナ―) | 2012 | パトリック・クローリー フランク・マーシャル ベン・スミス ジェフリー・M・ワイナー | トニー・ギルロイ ダン・ギルロイ | トニー・ギルロイ |
5 | ジェイソン・ボーン (主演:マット・デイモン) | 2016 | フランク・マーシャル マット・デイモン ポール・グリーングラス グレゴリー・グッドマン | ポール・グリーングラス クリストファー・ラウズ | ポール・グリーングラス |
脚本は、前作に引き続きトニー・ギルロイが担当している(前作、本作も共同名義)。なおギルロイは、次作、次々作の「ボーン・アルティメイタム」「ボーン・レガシー」の脚本も務め、「ボーン・レガシー」に至っては監督も務めている。
前作を監督したダグ・リーマンは本作では製作総指揮に移り、本作からポール・グリーングラスが監督を務めた(「ボーン・アルティメイタム」「ジェイソン・ボーン」も)。グリーングラスは、前作をよほど気に入ったのだろう。本作品に熱心に取り組み、出演の予定が無かったマット・デイモンを再びこの映画へと巻き込み、2人はエンディングについてギリギリまで議論を重ね、ついには公開2週間前にエンディングを撮り直して公開には差し替えたという。
上映時間は108分とやや短め。ただし、ヒット作の続編とあって製作費は増額されて7千5百万ドル。その上で、世界興行収入は2億8千9百万ドルと、キッチリとヒット作に仕上がっている!
あらすじ (14分20秒の時点まで)
インドのゴアのビーチ沿いにひっそりと暮らしながらも、相変わらず記憶喪失に苦しむジェイソン・ボーン(マット・デイモン)。スパイ時代に人を殺した記憶がフラッシュバックする悪夢に頻繁に苦しめられている。既に2年もこの暮らしを続けているのに。
夜中に目を覚ましては、コンクリン(クリス・クーパー)の声、ターゲットの写真、どこかのホテルの部屋、そんな断片的な記憶に苦しめられ、頭痛薬のお世話になる日々だ。そんな彼を優しく見守るパートナーのマリー(フランカ・ポテンテ)。そういう欠片でもメモに残して行けば、楽しい記憶も取り戻す手掛かりになる筈と彼を必死に励ます。
君との良い思い出は絶対に忘れないと、その気持ちに応えるボーン。
ドイツ・ベルリンでは、パメラ・ランディ(ジョアン・アレン)の指揮の下、CIAのエージェントがロシア人の情報屋からある情報を買い取る作戦を遂行していた。その情報とは、数年前にCIAから大金を盗んだ犯人に関する物だった。
作戦は完了する直前に、謎の工作員(カール・アーバン)の急襲によって妨害され、CIAエージェントと情報屋は射殺。工作員はそのファイル一式を持ち去っただけでなく、この襲撃がある特定の第三者の仕業と誤認されるように、その者の指紋を現場に残す細工をして行く。
ファイルを空港近くのホテルで、石油成金のペコス石油CEOグレツコフ(カレル・ローデン)に渡すと、工作員は引き続きグレツコフの指示を受ける。
工作員が向かった先はインドのゴアで、ジェイソン・ボーン(マット・デイモン)の古い証明写真を手掛かりに聞き込みを始める。
この怪しい様子にいち早く気づいたボーンは、ジープに乗り大急ぎで街中にいるマリー(フランカ・ポテンテ)を迎えに行く。ジープにマリーを拾ったところで、工作員と鉢合わせしてしまうボーンとマリーは、大急ぎでその場を走り去る。
本当に追っ手だと確信はあるのか?と訝しがるマリーに対して、明らかに服装も車も周囲から浮いている男を街で2回見かけたと説明するジェイソン・ボーン。
果たして2人は無事謎の工作員から逃げ切れることが出来るのか・・・?ジェイソン・ボーンを待ち受ける運命は・・・?
見どころ (ネタバレなし)
ストーリーの継承性
前作から2年後に製作された本作ですが、ストーリーを上手に継承している様子が、「あらずじ」の範囲をご覧になっただけでも十分に伝わってくると思います。端的かつ効率良く描かれているので、短時間でこの映画の世界に入り込め、優れた作品の予感を持てます!
主人公のジェイソン・ボーン(マット・デイモン)が、依然として記憶が戻らないこと、過去に犯した罪への罪悪感に苦しめられていることは、フラッシュバックを絡めた悪夢のシーンから、これ以上なく効果的伝わってきます。
前作ではショートヘアだったマリー(フランカ・ポテンテ)の髪はロングヘアになり、一部は編み込まれ、南国風の肌の露出の多い服装で、慣れた様子で市場を歩く姿から、彼女がスッカリこの島、この町の生活に馴染んだことが伝わってきます。
一方のジェイソンは、変わらず短く刈り込まれたヘアスタイルと、日課であることを示唆するハイペースのランニングなどから、自己を律する生活を送ってきたことが伝わってきます。台詞では明示的に「2年間同じことの繰り返しだ」とあったので、この男女がこの2年間どんな暮らしを営んできたかが直ぐに分かります。
映像美
「あらずじ」の範囲をご覧になっただけでも、
- インド・ゴアの美しい島の風景
- ドイツ・ベルリンでの作戦決行中の大都会の緊張感
- 場所日時不明の、ジェイソン・ボーンの悪夢に出てくる脅迫めいたシーケンス
と、画面の色、編集、BGMを使い分け、緩急を付けてきます。
特に序盤のビーチハウスのシーンでは、BGMや台詞を廃して、波の音しか聞こえて来ないシーケンスは、のどかな南国の島の象徴でもあり、嵐の前の静けさでもあり、大変印象的なシーンとなっています。序盤から没入感を作り出してくれます。
緊迫感のあるカットや編集
前作も、緊迫感のあるカットや編集には定評のあった作品でしたが、本作では単に寄りのシーンやそのファストカット(=短時間に画面が素早く切り替わること)が使われるだけでなく、”引き”のアングルからキャラクターにズームで”寄る”カメラワークが大事な場面で効果的に使われています。
ゴアという島の生活に紛れ込もうとしているジェイソンに、緊張が走る事件が訪れた時の衝撃を、とても端的に表現していますね。
このように、「あらずじ」以降においても、前作にも増して緊張感の高いスリリングなシーンが目白押しなので、期待してご覧ください!
新キャラクターの登場
- 前作では、
- ジェイソン・ボーン (マット・デイモン)
- マリー・クルーツ (フランカ・ポテンテ)
- アレクサンダー・コンクリン (クリス・クーパー)
- ワード・アボット (ブライアン・コックス)
- ニコレット”ニッキー”・パーソンズ (ジュリア・スタイルズ)
と言った個性的なキャラクターが描かれました。
- 本作では、
- パメラ・ランディ (ジョアン・アレン)
- 謎の工作員キリル (カール・アーバン)
が加わってきます。こちらもとても個性的に描かれていますし、脚本的にも演技的にも深く掘り下げられて行きます。
- 短時間の出演ながら、
- 美人な部下キム (ミシェル・モナハン)
- 最後の女の子イレーナ・ネスキー (オクサナ・アキンシナ)
も評判になったので、ネタバレなしでご紹介しておきましょう。
前作は、ジェイソン・ボーンというキャラクター一直線でしたが、本作ではより多彩なキャラクターが脇を固めていて面白いです!
アクションシーンとストーリー性
文章で予告だけしても伝わり難いのですが、本作でもカーチェイス、格闘シーンといったアクションシーンも迫力がありますし、スパイ物の側面、相手を罠にかけるトリックも健在ですし、何よりジェイソン・ボーンの自分探しの旅が続いて行きます。
”Who was I?”(自分は誰だったのだ?)を知りたい。でも、知ってしまったら自分を許せるのか?任務だったと割り切れるのか?思い出した後、そういう過去にどう向き合えば良いのか?傍らのマリーはそれでも自分を支えてくれるだろうか?
こういうストーリー性が、シッカリと下敷きになっているからこそ、単なるアクション物、スパイ物に閉じ切らないボーン・シリーズは魅力的なんだと思います。まさに”ラドラム・ボーン・スタイル”だと思います!
BGM
本作もBGMがカッコイイですし、効果的に使われています。期待してください。相変わらず「Extreme Ways」が素敵!!
まとめ
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 続編として十二分におススメです! |
個人的推し | 4.5 | シンプルにスリリングな展開が面白いです! |
企画 | 4.5 | 作品の世界が広がっています! |
監督 | 4.5 | ベタな演出だけど、ハラハラします! |
脚本 | 4.0 | 二軸、三軸のキャラクターが掘り下げていきます |
演技 | 4.0 | 工作員キリルが憎たらしいです!! |
効果 | 4.5 | BGM、効果音とも良いと思います! |
実に良く出来た続編だと思います!1作目の世界観をちゃんと踏襲しつつ、世界が広がっていて、人物が絡み合って行って。
”ラドラム・ボーン・スタイル”の面目躍如だと思います。
前作は、ジェイソン・ボーン以外の掘り下げが甘いんじゃない?とかってちょっと思っちゃってましたが、本作品ではキャラクターが絡み合っていく感じが実に見ごたえがあります。
もっと芸術性が評価されて、受賞歴がリッチでも良いような気がするんだけどな・・・
こういう優れた映画シリーズと出会えることは、本当に映画ファンの幸せだよなぁ