この記事では、黒人奴隷を主役に据えるという、クエンティン・タランティーノ渾身の個性派西部劇「ジャンゴ 繋がれざる者」の解説をします。黒人奴隷からの目線ではあるが、当時の白人や黒人までもをひっくるめて全てを皮肉った、新たな西部劇像について述べて行きます。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ジェイミー・フォックスにクリストフ・ヴァルツ、個性的な出演陣がどんなハーモニーを奏でるのか?その辺りも掘り下げて行きます。是非この作品の世界に足を踏み入れてみてください!
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作における、観続けるか、中止するかを判断するジャッジタイムは、
- 上映開始から23分40秒のタイミングをご提案します。
ここまでご覧になると、主人公の身に何が起きたのか?が多少見えてくるので、この辺りのタイミングでジャッジされるのが良いと思います。
概要 (ネタバレなし)
この映画の位置づけ
「ジャンゴ 繋がれざる者」は、2012年に公開された西部劇映画。クエンティン・タランティーノが脚本と監督を務めており、タランティーノにとって8作目の監督作品となる。
西部劇と言っても相当風変わりな作品だ。というのも、主演はジャンゴ役のジェイミー・フォックス、助演はシュルツ役のクリストフ・ヴァルツ。物語は、どちらもアメリカの白人ではないこの2人が、目的を果たすために旅を続けて行くストーリー。そこでスポットライトが当てられて行くのがアメリカの奴隷制度だ。
またクリストフ・ヴァルツの回りくどいお喋りが楽しめますよ!
物語の大半は、ジャンゴの目線で進行して行くが、ジャンゴをいたずらに虐げられたみじめな存在として描くのではなく、ジャンゴの目を通して、白人を、時に白人に媚びへつらう黒人までもを、滑稽な存在として描く。
いずれにせよ、元々「マカロニ・ウェスタン」好きで知られ、ネイティブ・アメリカンを悪、白人を善と描いた古典的な西部劇にはあまり興味が無いタランティーノが、本作品では、西部劇ではあまり語られることがなかった、当時のアメリカ社会が、南部を中心に内包していた黒人奴隷制度に、独自の視点で切り込んだ訳だ。
この試みが、リヴィジョニスト西部劇(= Revisionist Western、Revisionist Anti-Western、もしくは単にAnti-Western と呼ばれる動向。古典的なウェスタンが描く、あまりにも単純な勧善懲悪を修正し、リアリズムを追求する考え方)と高く評価された。
Revisionist リビジョニスト。西部劇に限らず要チェックの単語です!
一方で、「ニガー」という単語が何度も使われている点、「マンディンゴ」と呼ばれる、その存在に客観的な証拠がない、黒人奴隷同士の決闘についての描写があったりと、少なくない批判を受けたのも事実だ。
ただし、鬼才クエンティン・タランティーノらしく、重いテーマにも深刻になり過ぎず、銃撃シーンも何故か笑えてくる演出や、クリストフ・ヴァルツを中心にウィットに富んだセリフ回しを盛り込み、いつものタランティーノ作品にキッチリと仕上がっている165分の長編映画だ。
1億ドルの製作費に対して、世界興行収入が4億2千5百万ドルと大ヒット。タランティーノのキャリア最大のヒット作である(2023年3月現在)。タランティーノ自身が2度目のアカデミー脚本賞を、クリストフ・ヴァルツも2度目のアカデミー助演男優賞を受賞。これらの実績から見れば、世界中でしっかりと受け入れられた作品と言えるだろう。
あらすじ (23分40秒のポイントまで)
1858年(南北戦争の2年前)テキサスの某所。
足首を互いに鎖で繋がれ、馬上の奴隷商人に引きずられるように、何日も何日も歩かされてきた黒人奴隷数名。ある凍えるほど冷え込んだ夜も、半裸に布を被っただけの黒人たちは、吐く息も白い中、薄暗い森の中を歩かされている。
この奴隷一行の前方に何者かが近づいてくる音が聞こえる。警戒して足を止める一行。
前方から現れたのは、馬車に乗るキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)という医師だ。
シュルツは大仰な挨拶を済ませると、自分はスペック兄弟と、兄弟がグリーンビルの奴隷オークションで買ったある特定の奴隷を探していると告げる。
実は一行はスペック兄弟の一行で、兄弟は怪しげなシュルツを追い払おうとするも、シュルツはこれに構わず奴隷の列の中に目当ての奴隷ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)を見つける。
手荒く追い払おうとスペック兄が銃に手を掛けると、シュルツは兄本人と弟の乗った馬を撃ち、瞬く間に兄を葬り、弟を身動き取れない状態にした。
一方的にジャンゴの見受け金をスペック弟に支払うと、シュルツに鎖を外されたジャンゴは、シュルツの指示に従い、スペック兄の服を奪って着込み、スペック兄の馬に乗り込む。
スペック弟はこれに激しく抗議をするも身動きが取れないため相手にされず。それどころか、シュルツによって鎖から解放された他の奴隷たちに殺される。
シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)とジャンゴ(ジェイミー・フォックス)の2人は、テキサスのドードリーという町に行き着き、町のバーに入る。
バーの店主は、黒人を店内に連れ込んだことに申告しようと保安官を呼びに行くも、保安官を連れ戻るやいなや、シュルツがこの保安官を問答無用で射殺する。
店主が今度は、武装した部下を何人も引き連れた連邦保安官を伴って戻ると、シュルツはこう説明する。件の保安官は、実は選任以前に大罪を犯し懸賞金が掛かっている罪人で、自分は正規の手配書の下に彼を正当に殺した賞金稼ぎだと。
ドードリーの町を去り、草原の中を馬車と馬で進むシュルツとジャンゴ。2人を待ち受ける運命は・・・
見どころ (ネタバレなし)
ジェイミー・フォックスのジャンゴ像
他と比較出来ないので何とも言えないが、ジェイミー・フォックスの演技は本作のジャンゴ像にピッタリだったんじゃないだろうか。苦痛に顔を歪め、内に怒りを携えているが、一方で賢く知的でもある。
それに何と言っても、立ち姿が格好良くて、馬上での姿も凛々しい。マカロニ・ウェスタンが大好きなタランティーノの、新たなカウボーイ像だったんじゃないだろうか?ジャッジタイム以降も色んな表情を見せてくれるので、楽しみにしてください!
ウィル・スミスも候補に名が挙がってたみたいだけど、個人的にジェイミー・フォックスがシックリ来るなぁ
とにかくカッコイイので観てください!
新たな西部劇像
既に述べたように、リビジョニスト西部劇に位置付けられる本作。黒人奴隷問題の扱い方の是々非々は、筆者には何とも言えないが、ジェイミー・フォックスの起用で、新たなウェスタンのヒーロー像を再定義、新たな西部劇像を世に問うたのは間違いないんじゃないかな?
しかも、それを深刻に険しい顔で描くんじゃなくて、いつものタランティーノらしく、常に風刺が効いたコケティッシュな方法でやり切っちゃった。それが4億2千5百万ドルの世界興行成績に繋がったんじゃないかな。
奴隷制度なんて絶対に存在してはいけなかったものなんだけど、そんな中でも、差別される側の黒人の振舞いが笑いの対象になっていたり、それ以上に、差別主義者の白人奴隷主や、それに迎合する黒人を、強烈な皮肉を込めて笑い飛ばして行きます。リビジョニスト西部劇の面目躍如といった感じです!
深読みしても良し、気楽に楽しんでも良し。色んな鑑賞の仕方ができると思います!
やっぱり凄かったクリストフ・ヴァルツ
クリストフ・ヴァルツが、この作品のドクター・キング・シュルツ役で2度目のアカデミー助演男優賞を獲得しますね。1度目が「イングロリアス・バスターズ」ですから、ヴァルツはタランティーノに頭が上がらないんじゃないでしょうか?
このキャラクターが、まぁー非常に個性的なんですが、これをヴァルツが完璧に演じていますね!ホントに楽しみにしていてください。知的で洗練された優しい紳士の顔も持ち、一方で強い正義感に裏打ちされた非情な賞金稼ぎの顔も持つ。
その独特な道徳性が、奴隷制度という醜悪な社会基盤と出会った時に、得も言われぬエネルギーを生んで、この映画のストーリーが転がっていく原動力になっていると思うんですよね。
それでいて超コミカル。笑わせようとしている訳じゃないんだけど、やりとりのズレで笑わせる。脚本が良いのか、演技が良いのか。おそらく両者のベストマッチなんでしょうが、堪らないです!
タランティーノ映画に出演している様をまた観たいなぁ
後から出てきます!
後から、サミュエル・L・ジャクソン、レオナルド・ディカプリオ、ドン・ジョンソンが出てきます!ネタバレになるのでこれ以上申しませんが、非常に個性的なキャラクター像に仕上がっております!
長編大作です!
撮影に130日間を要したとのこと。1億ドルの製作費で165分の大作を作っちゃった。何ともクエンティン・タランティーノらしいですね。実際のところ食べ応えのある作品です。2時間40分。皆さんはどうご覧になるでしょうか?
個人的には面白かったので、あまり長さは感じなかったですね。
タイトルの由来
本作の原題は、Django Unchained だ。
ジャンゴには、発音しない”D”が付く。コレ、1966年公開のイタリア映画「Django」から来ています。日本では「続・荒野の用心棒」で馴染みの深い作品だ。この作品の主演フランコ・ネロが本作にカメオ出演している!
「ジャンゴの”D”は発音しない」
じゃあ、Unchained の方は?と言うと、1959年公開のイタリア映画に「Hercules Unchained」、1970年公開のアメリカ映画に「Angel Unchained」というのがあるそうな。この両者から取ったのでは?と言われているようですね。
邦題の「繋がれざる者」が「許されざる者」に掛かってる感じがして、それも面白いですよね!
その他の情報
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0/5.0 | 暴力エグいです。尺も長いです。 |
個人的推し | 4.5/5.0 | 個人的には面白いです。好きです。 |
企画 | 4.5/5.0 | アフリカ系アメリカ人という題材をこんな風に描くとは斬新! |
監督 | 3.5/5.0 | 一方で主題が渋滞していますよね・・・ |
脚本 | 4.0/5.0 | 風刺がめちゃくちゃ面白いです |
演技 | 4.5/5.0 | 演者さんの演技合戦が凄いです! |
効果 | 4.5/5.0 | 音楽が妙に笑えてくるのが不思議・・・w |
こんな評価の☆にさせて貰いました。個人的には超推しの作品です!ただ、
- 毎度のことながら暴力シーン多くと過激ですよねぇ・・・
- それにちょっと尺の長さが気になります
- オマージュを削ったら、もう少し上手く主題を整理できるのかしら・・・
繰り返しになりますが、アカデミー賞の脚本賞(クエンティン・タランティーノ)、助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)を受賞。
タランティーノのキャリア最大のヒット作(世界興行収入4億2千5百万ドル)です(2023年3月現在)。
皆さんのお口に合うと良いんですけど。