この記事では、現在では「黄金タッグ」として有名なロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシのコンビが最初に制作したスコセッシ映画の原点、『ミーンストリート』の解説をします。作品そのものの魅力だけでなく、映画史におけるこの作品の価値や評価についても語っていきます。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
この先、都合9作品でタッグを組んでいく(2023年4月現在)この黄金コンビが、起点となったこの作品で、どんなことに取り組み、どんな描写を試みたのか、是非この作品の世界に足を踏み入れてみてください!
ジャッジタイム
本作品における鑑賞を続けるか中止するかの判断をするジャッジタイムは
- 上映開始から19分の時点をご提案します。
ここまでご覧いただければ、ストーリーの本軸である主人公とジョニーボーイが置かれている状況がご理解いただけると思います。
概要
黄金タッグの原点
「黄金タッグ」と呼ばれる、ロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシの相棒関係は今となっては非常に有名です。この記事をご覧いただいている方で、このコンビが作った映画を見たことがないという人はいないかもしれません。しかし、本作品は、無名俳優だったデニーロと無名監督だったスコセッシが出会った作品にして、数々の名作を作り出した彼らがその才能を世に知らしめた作品であると言えます。映画史における本作品の価値はおわかりいただけたでしょう。
では、「黄金タッグ」が作り上げた作品の一覧を記しておきます。次に見る映画選びの参考になれば幸いです。
公開年 | 作品名 | あらすじ |
1973 | ミーン・ストリート | 3流ギャングの主人公だけは問題児ジョニーボーイを庇っているが… |
1976 | タクシードライバー | 不眠症に悩まされる主人公がタクシードライバーとなり、社会を嫌悪していく |
1977 | ニューヨーク・ニューヨーク | 主人公のサックス奏者と恋人の関係は彼の短気な性格のせいで変化していく |
1980 | レイジング・ブル | ボクシング王者のキャリアと引退後の人生を描いたドラマ |
1982 | キング・オブ・コメディ | コメディの王様になることを夢見る男が次第に常軌を逸して行く様を描く |
1990 | グッドフェローズ | ニューヨークを舞台に実在のマフィアの半生を描いたクライムドラマ |
1991 | ケープフィアー | 弁護士家族と彼らを付け狙う男を描いたサイコスリラー |
1995 | カジノ | カジノの支配人とその仲間のマフィアを描いたクライムドラマ |
2019 | アイリッシュマン | 実話をもとに労働組合とマフィアの関係を描いたクライムドラマ |
認知されたマーティン・スコセッシ
本作品の公開当時、マーティン・スコセッシは31歳。映画監督としてはまだ若手だった彼のキャリアは、本作をきっかけに加速し始めます。上記の作品のうち、本作『ミーン・ストリート』の制作費が$500,000だったのに対して、次作『タクシードライバー』が$28,262,574となったことを見れば、彼が本作で一気に評価され始めたことは分かっていただけるでしょう。また本作は、ニューヨークタイムスのポーリン・ケイルをはじめとした映画批評家から絶賛され、映画界隈でのみならず、彼の名前は社会に知れ渡りました。
縁の下の力持ちハーヴェイ・カイテル
マーティン・スコセッシの相棒といえば、やはり誰もが口を揃えてロバート・デ・ニーロというでしょう。2000年代に入ってからはレオナルド・ディカプリオと多くの作品で制作を共にしており、筆者のような若い世代でもディカプリオが主演のスコセッシ映画を見たことがある方は多いかもしれません。しかしマーティン・スコセッシは本作の実質的主役、ハーヴェイ・カイテルとも多くの作品で共演しており、彼は本作においてもやはり重要な役割を果たしています。
本人からすれば、本作において主演である自分よりもデニーロのほうが注目された事態は不名誉な経験ですが、見るものからすると、カイテルの抑えめの演技がデニーロの派手な演技を際立たせていることが本作を名作たらしめているように感じます。
スコセッシ映画で多くの共演を果たしているカイテルとデニーロの、お互いの良さを引き出し合うかのような関係は映画という芸術において重要なエッセンスであることは間違いないでしょう。
ハーヴェイ・カイテルはタランティーノとの相棒関係も有名だね!クライム映画の脇役はお任せあれ!
芸術的評価
この映画は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
あらすじ(19分の時点まで)
舞台は1970年代のニューヨーク、リトル・イタリー。
地元の3流ヤクザのチャーリー(ハーヴェイ・カイテル)は、仲間や組織への忠義心にあまり自信がなかった。そんな彼には地元の問題児ジョニーボーイ(ロバート・デ・ニーロ)という友人がいて、彼は金はあるだけ使ってしまうタイプの無計画な男で、周囲から金を借りまくり、次第に借金で首が回らない状態になっていく。
地元の仲間たちは彼を見限って相手にしなくなり始めていたが、チャーリーはジョニーボーイを救うことが自分の人生に課せられた罰だと考え、彼を庇い、何とか支援を続けようとする。
チャーリーとジョニーボーイは次第に追い詰められていく…チャーリーの行動は報われるのだろうか…
見どころ
溢れ出るスコセッシ節
本作品は、ストーリー展開がわかりづらく、スピード感も早い方ではないので、純粋な面白さという側面ではあまりお勧めできません。しかし、スコセッシ映画を多く鑑賞されている方からすると、スコセッシ映画特有のナレーションの入り方、コマ割り、カメラワーク、BGM、宗教描写などが随所に感じられます。洗練された有名作品の宝石のようなまとまりはありませんが、輝く原石を掘り当てたような感覚を覚えると思います。その「スコセッシっぽさ」を楽しめる方は、まだ荒削りな彼の才能を目の当たりにすることのできる本作のご鑑賞をお勧めします。
知られざるデ・ニーロの演技
先述したように本作品は、ロバート・デ・ニーロにとっても出世作であると言えます。当時の彼は、商業的に成功した、あるいは評価の高い映画での出演はなく、本作の前年1972年の『ゴッドファーザー』への出演が内定していたところを降板となり、まだ”知る人ぞ知る”と言った立ち位置の俳優でした。しかし本作を経て評価を上げ、翌年1974年の『ゴッドファーザー Part2』でアカデミー助演男優賞を獲得し、彼のキャリアはスター街道に足を踏み入れました。
さて、本作での彼の演技に関して語らせていただくと、いわゆるカメレオン俳優としての才能の芽がすでに出始めていると言えます。デニーロ演じるジョニーボーイという役は、借金があるのに酒や女に金を使い込み、追い詰められているにも関わらず現状を受け止めずヘラヘラしている、というキャラクターです。口で言うのは簡単ですが、見ている人にリアルなイライラを感じさせ、それでも見捨てられない主人公(ハーヴェイ・カイテル)の感情に共感を促す憎めないキャラクターを演じることは容易ではありません。表情や仕草、歩き方、話し方など細部の表現力がすでに完成され、”完全にその人になる”というデニーロの演技を濃く感じることができるでしょう。
まとめ
と言う訳で、この記事では、ロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシが初めてコンビを組んだ作品「ミーン・ストリート」について解説しました。
既に片鱗を見せていたスコセッシ監督らしい映画の構成方法、デ・ニーロらしいアプローチからの演技、そして忘れてはならないのがハーヴェイ・カイテルとの化学反応。この独特の世界の雰囲気がちょっとでも伝わったのなら幸いです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 1回は観てみても良いでしょう |
個人的推し | 4.0 | 若さを感じる映画人たちの輝き |
企画 | 4.0 | モブマフィアものの始まり |
監督 | 4.0 | 演出のセンスがビンビン |
脚本 | 3.5 | 脚本は玄人向け |
演技 | 4.0 | デニーロはすでにすごい |
効果 | 4.0 | 斬新な新手法の数々 |
本作品は、決して万人受けするエンタメとしての評価が高い作品ではありません。しかし、上述した数々の「スコセッシっぽさ」や、デニーロ、カイテルなどの共演の始まりを感じられる作品的価値の部分で、スコセッシ好きやデニーロ好きには観ていただきたい作品です。