この記事でご紹介する「ミッドナイト・ラン」は、1988年公開のロード・ムービーです。ロバート・デ・ニーロ扮する賞金稼ぎと、チャールズ・グローディン扮する逃亡犯。立場が真逆の2人がマフィアとFBIに追われている内に一蓮托生になって行くアクション・コメディの側面もあります。特筆すべきは、アカデミー賞2回受賞の名優ロバート・デ・ニーロが、本作品のジャック役をキャリアを通じて自身最高の役、一番のお気に入りと挙げていること!
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
マニアに人気が高い完全吹き替え版を収録した、「思い出の復刻版 ブルーレイ」情報も交えながら、この映画のどんなところが長く愛されているのか掘り下げてみたいと思います!
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続ける、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から27分10秒の時点をご提案します。
ここまでご覧になると、なるほどこの話はこうやって転がって行くのね!というのが見えると思います。もちろん作品のテイストも見えますので、この時点で好き / 嫌いを判断頂くのが良いと思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ミッドナイト・ラン」(原題:Midnight Run) は、1988年公開のロード・ムービーである。ロバート・デ・ニーロ扮する賞金稼ぎが、チャールズ・グローディン扮する逃亡犯を、無事に保釈金金融業者に届けられるか否か?が描かれる。
監督・製作はマーティン・ブレスト。彼は本作の4年前(1984年)にエディ・マーフィの「ビバリーヒルズ・コップ」を大ヒットさせ、本作の4年後(1992年)に「セント・オブ・ウーマン / 夢の香り」でアル・パチーノに悲願のオスカーをもたらした。すなわち、実力的にはコメディもシリアスも撮れる名監督である(はずなのに携わった作品が少ない…)。
そのマーティン・ブレストが、ロバート・デ・ニーロと組んで制作したのが本作だ。主演が決まっていたデ・ニーロの相手役に、熟慮と試行錯誤の末に抜擢されたのがチャールズ・グローディンで、それまでも堅調にキャリアを積んで来ていたグローディンだったが、本作のヒットは彼を一躍有名にした。
というのも、本作品はアクション・コメディの側面もあり、警官崩れで強面の賞金稼ぎ役のデ・ニーロと、飄々としたトボけた表情でマフィアを欺いた会計士役のグローディンのコンビネーションがとにかく面白いからだ。
本作品は、この2人を含めた出演者の誰一人としておチャラけた演技はしないのに、観ている側は、劇中で次から次へと提示されて来るシチュエーションの笑いのツボに次第にハマって行くという、高難度上質コメディなのだ。この演技で、ロバート・デ・ニーロはコメディ路線を開拓。チャールズ・グローディンは知名度と評価が高まった。
保釈保証業者と賞金稼ぎ
この映画のストーリーをちゃんと楽しむためには、保釈保証業者と賞金稼ぎの存在・関係を正しく理解しておく必要がある。
アメリカでは、bail bond (保釈金) という制度が広範に使われる。一罰百戒(=捕まえた犯罪者を重い罰に処し、他の犯罪予備軍への戒めとする考え方)を旨とする日本の司法制度とは異なり、アメリカには犯罪内容に応じて設定された保釈金(bail bond)さえ支払えば、公判開始まで容疑者をより積極的に釈放するという考え方がある。
この根底には合理的な考え方があって、相対的に軽犯罪を犯した者を拘留することに限られたリソースは使わず、より重犯罪者に集中的に差し向けるという発想だ。犯罪大国アメリカでは、それだけ様々な犯罪者が多いということなのだろう…
この制度を円滑に回すために、Bail Shop、もしくはBail Bondsman と呼ばれる公認の保釈保証業者が、容疑者に保釈金を貸し付けるという金融事業が存在している(注:多くの州で認可制)。
ただし、保釈金を借りて債務者となった容疑者が逃亡すると、保釈保証業者は貸し倒れとなるので、逃亡容疑者を捕まえて保釈保証業者の下に連れて来る役目も必要で、保釈保証業者が設定した賞金と引き換えにこれを請け負うのが賞金稼ぎ(バウンティーハンター)だ。
この映画では、ジョー・パントリアーノが保釈保証業者を、ロバート・デ・ニーロが賞金稼ぎを、チャールズ・グローディンが逃亡容疑者を演じている。
保釈保証業者が公式に書いた保釈債権に基づいて釈放された人物に対しては、一定の逮捕権が発生するので、賞金稼ぎは逃亡容疑者の身柄を拘束することが正式に認められることになる。
保釈保証業者がフィーチャーされる映画としては、クエンティン・タランティーノのジャッキー・ブラウンなんかも挙げられる。
”ミッドナイト・ラン / Midnight Run” の意味
この映画のタイトルになっているミッドナイト・ラン(Midnight Run)の意味は、”一晩で片付けられる仕事”という意味だ。日本語だと”一夜漬けで出来る仕事”とでも言い換えれば、よりシックリ来るだろうか。
上述の通り、賞金稼ぎは保釈保証業者から提示された金額で容疑者逮捕を請け負う。当然両者の間には金額交渉も介在してしかりな訳で、ジョー・パントリアーノ扮する保釈保証業者が ”ミッドナイト・ラン なのに高額な賞金を吹っ掛けるなよ!” とデ・ニーロ扮する賞金稼ぎと交渉するシーンが出て来る。
商業的成果
この映画は上映時間126分と標準的な長さです。実際は、もっと短く感じるのではないかと思う。3千万ドルの製作費に対して、世界興行収入は8千2百万ドルとまずまずのヒット。2.7倍の回収率である。
あらすじ (27分10秒の時点まで)
ロサンゼルスで賞金稼ぎをしているジャック・ウォルシュ(ロバート・デ・ニーロ)は、今日も命懸けで逃亡容疑者を追っている。専ら契約を交わす保釈保証業者はエディ・モスコーネ(ジョー・パントリアーノ)だ。だがエディは、リスクヘッジのために、しばしば他の賞金稼ぎとも並行で契約するので、商売敵のマーヴィン・ドーフラー(ジョン・アシュトン)とは諍いが絶えない。
ジャックが新たに逮捕を依頼されたのは、会計士のジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン)だ。マデューカス(通称:デューク = 公爵)は、雇用主のセラノ(デニス・ファリーナ)がマフィアだと判明したので、帳簿を操作してその資金を横領し、その大部分を慈善事業に寄付するという命知らずの荒業をやってのけた。
デューク(チャールズ・グローディン)はこの帳簿操作で逮捕された後、エディ(ジョー・パントリアーノ)が立て替えた保釈金で釈放されたがそのまま逃亡。そこでエディは、10万ドルの賞金でジャック(ロバート・デ・ニーロ)にデュークの逮捕を依頼したのだ。
ところが、ジャックがデューク追跡に着手するやいなや、デュークの元雇用主であるマフィアのセラノ(デニス・ファリーナ)を内偵中のFBIが、ジャックに捜査の邪魔をするなと圧力を掛ける。
一方でマフィアのセラノも、賞金10万ドルより高額な金で、ジャック(ロバート・デ・ニーロ)を買収しようとする。ただし、セラノとジャックには過去に因縁があり、ジャックがシカゴ警察を依願退職する事態に追い込んだのは、セラノの仕業だったのだ。ジャックはセラノからの申し出にYes とも No とも答えない。
ありとあらゆる手を使って早々にデューク(チャールズ・グローディン)をニューヨークの潜伏先に追い詰めたジャックは、そのままデュークを引き連れてJFK国際空港からロサンゼルスへと空路向かう手筈だったが、デュークが離陸前の機内で飛行機恐怖症だと暴れたために、機長命令で飛行機から降ろされてしまう。
仕方が無く代替案として、鉄道で大陸を横断することにするが、それぞれで得たリーク情報に基づき2人をロサンゼルスの空港で待ち構えていたFBIとセラノ・ファミリーは、ジャックたちに結果的に裏を書かれた格好になり、いよいよ本気で2人の追跡を開始する。
”ミッドナイト・ラン”だった筈のデューク逮捕は、波乱含みの展開となってきた。果たしてジャックは無事デュークを保釈保証業者に届け、約束の10万ドルは受け取れるのだろうか?
見どころ (ネタバレなし)
とにかくこの映画の見どころはただ1点です。それは、この映画のどの登場人物も、どのセットも小道具もBGMも、全ての要素が真剣にこの逃亡劇の一部となろうとしているのに、脚本に書かれた大小様々な設定の妙のせいで、一旦ツボったら笑いが止まらなくなるというコメディぶりです。
ドカンと来る、クスッと来る、ジワジワ来る。大小様々な笑いの波が押し寄せて来る。この上質なコメディぶりが最大の見どころだと思います。
これを主軸とした時に、どんな要素がその”面白さ”を加速させているのか因数分解してみましょう。
デ・ニーロ・アプローチ
本作における、賞金稼ぎ役の役作りをするに当たって、ロバート・デ・ニーロは”デ・ニーロ・アプローチ”と呼ばれる徹底した取材を敢行したと言われています。具体的には、監督のマーティン・ブレストを伴い、本物の賞金稼ぎの活動に同伴し、逃亡者の逮捕現場や張り込み現場で生の取材をしたという。
その甲斐もあってか、本作での(も)ジャック・ウォルシュというキャラクターに、確固たるスタイルが確立されています。外見的には、
- 短く刈り込まれた髪型
- 着古した革ジャンに代表される地味な服装
- ヘビースモーカー(銘柄はマールボロ)
- 痩せていて、追跡時には俊敏な動きを見せる
といった感じです。内面的には、
挑んでくる相手には強烈な皮肉で応戦する。そして、何故か腕時計が止まっていないか、秒針の音を頻繁に確認する、そして犬が大の苦手、なんて一面も見せる。
携帯やインターネットが無い時代というのもあるが、逃亡者の潜伏先を割り出すに当たって、ありとあらゆるコネ、ありとあらゆる裏技を使う描写には、監督と一緒に敢行した取材の効果が出ているんでしょうね。
めちゃくちゃリアルな一匹狼の賞金稼ぎが、腕っぷしの強さと、追跡の実力と、ウィットに富んだジョークで、FBIやマフィアという組織に対抗して行く。そんな奮闘ぶりに、観る者はいつの間にか肩入れしてしまい。この作品に引き込まれて行くこと請負です。是非、ここを楽しんだください!
今現在は分かりませんが、ある時点までロバート・デ・ニーロ本人が、キャリアで一番お気に入りの役はこのジャック・ウォルシュ役だと答えていて、強面なのにコメディという絶妙なライン引きに手応えを感じていたんでしょうか?
化学反応
チャールズ・グローディン扮する”デューク”がとっても愉快なキャラクターです。いや、不愉快なキャラクターと言うべきかな?(笑)
善良な会計士に見えて、正義感から(?)マフィアの大金を横領して寄付してしまう。大人しく司法に身を委ねるのかと思いきや保釈金を踏み倒して逃亡を図る。誠実なのかと思いきや、ペラペラペラペラ良く喋る。口から出まかせを言うのかと思いきや、言ってることは全て正論。
このギャップ丸出しのピエロ・キャラクターが何とも憎めないんですよね。
そんな”デューク”が、強面の賞金稼ぎと一蓮托生で行動を共にするわけですから、そこに何かが起きない筈がないですよね。強面一匹狼 + ギャップ丸出しピエロ。この 1+1 が2にも3にもなる化学反応が、最高に面白いです。
ロード・ムービーの金字塔
ネタバレは避けますが、本作はロード・ムービーの金字塔と評されています。上述の化学反応とも相まって、2人の関係性が次第に変化して行くからです。
デュークをニューヨークで逮捕した後、JFK空港に向かう車中でジャックは言います。「お前みたいな奴は嫌いだ」と、応じるデュークは「こっちは大好きなのに」と。ここがスタートラインとなって、2人の運命はどうなって行くのか?期待していてください!
奇をてらい過ぎて、ロード・ムービーとしてはシナリオにあまり展開力が無かったように思えるデュー・デートとは大違いです…(苦笑)
復刻版ブルーレイ(Blu-ray)について
この映画って、吹替え派の映画ファンの間でも凄く評価が高いそうですね。テレビ朝日が制作し、ジャックとデュークの吹替に池田勝と羽佐間道夫を起用した版が、”吹替映画史上最高傑作”なんて言われているそうです。
そのテレビ朝日放映版に、放映時カットされた箇所を追加収録を追加した(ただし、故人のパートは別の声優さんで)、完全吹替版をBlu-ray に収録したのが、この「思い出の復刻版」です。外装も、劇場公開時の映画チラシを使用した日本オリジナル仕様とのこと。
音楽
ダニー・エルフマンの手による BGM も良いんですよね。左に埋め込んだ “Main Title – Midnight Run” が、この映画の陰気になり過ぎない空気を良く表しています。アルバム全体としてもカラフルで楽しいです!良ければご試聴ください。
まとめ
いかがでしたか?
この作品をより深く味わってもらうための予備情報に限定して、色々書かせて貰ったつもりです。鑑賞の邪魔にならず、かつ、この作品が味わい深くなっていたら嬉しいです。
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | エログロも無いし、健全なコメディです! |
個人的推し | 4.5 | コメディ・ロード・ムービーの教科書! |
企画 | 4.5 | このコンビを設定した段階で勝ち! |
監督 | 4.0 | 普通に面白いです! |
脚本 | 4.5 | 大小様々シチュエーションが笑える! |
演技 | 4.5 | どのキャラクターも真剣だけに益々笑える |
効果 | 3.5 | 捜索手順の描写は流石! |
このような評価にさせて貰いました。
非常に健全なコメディですね!家族でも楽しめると思います。ツボに入ったら、かなり頻繁に笑えると思います。
かと言ってリアリティを疎かにしてないので、人間ドラマの側面も楽しめます。
現代のロード・ムービーのTo-Be モデルじゃないでしょうか?