この記事では、第29回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、アメリカン・ニューシネマを代表する映画の一つである『タクシードライバー』の解説をします。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
今ではよく知られるマーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロの名コンビ。そのコンビ2作目であり、2人の相棒関係を世に知らしめた、この名作の世界に足を踏み入れてみてください。
ジャッジタイム
本作品を見続けるか中止するかの判断をするジャッジタイムは、
- 上映開始から11分の時点をご提案します。
ここまでご覧いただけば、この映画の空気感とテイストをご理解いただけるかと思います。
そして、その空気感とテイストこそがこの映画を形作る最も重要な要素だと筆者は考えています。
その理由は後ほど解説しますが、とにかくこの空気感に没入した、しなくとも芸術性を感じる、好みだ、と言う方には、見続けることをおすすめします。
ストーリー云々の前に、まずこの空気感が好きか嫌いかだと思うんですよね・・・
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「タクシードライバー」(原題:Taxi Driver) は、1976年に公開された映画。主演はロバート・デ・ニーロ、監督はマーティン・スコセッシである。この作品は、21世紀の現代に至るまで長く続くことになる、デ・ニーロ と スコセッシ のコンビの2作目となった作品であり、このコンビの評価を一躍高めた作品だ(ちなみに1作目は、「ミーン・ストリート」(1973))。
製作は、マイケル・フィリップス、ジュリア・フィリップスのフィリップス夫妻で、この2人は「スティング」(1973) でアカデミー作品賞を受賞し、この「タクシー・ドライバー」の翌年には、やはり夫婦でスティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」を製作し興行的に大成功を収めるなど、後述するアメリカン・ニューシネマの時代に名作を世に送り出し続けたプロデューサー・カップルである。
公開年 | 作品名 | あらすじ |
1973 | ミーン・ストリート | 3流ギャングの主人公だけは問題児ジョニーボーイを庇っているが… |
1976 | タクシードライバー | 不眠症に悩まされる主人公がタクシードライバーとなり、社会を嫌悪していく |
1977 | ニューヨーク・ニューヨーク | 主人公のサックス奏者と恋人の関係は彼の短気な性格のせいで変化していく |
1980 | レイジング・ブル | ボクシング王者のキャリアと引退後の人生を描いたドラマ |
1982 | キング・オブ・コメディ | コメディの王様になることを夢見る男が次第に常軌を逸して行く様を描く |
1990 | グッドフェローズ | ニューヨークを舞台に実在のマフィアの半生を描いたクライムドラマ |
1991 | ケープフィアー | 弁護士家族と彼らを付け狙う男を描いたサイコスリラー |
1995 | カジノ | カジノの支配人とその仲間のマフィアを描いたクライムドラマ |
2019 | アイリッシュマン | 実話をもとに労働組合とマフィアの関係を描いたクライムドラマ |
脚本はポール・シュナイダーで、彼は本作品の4年後「レジング・ブル」(1980) の脚本も担当し、ロバート・デ・ニーロに2度目のオスカーをもたらしている。そういう意味では、スコセッシ – デ・ニーロ コンビと非常に相性が良い脚本家なのだろう。
安易に相性が良いなんて言っちゃうのは、素人考えが過ぎるかな?
この作品の評価
まず、本作品の評価としては、第29回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞。また、1994年にアメリカ議会図書館がアメリカ国立フィルム登録簿に新規登録した映画の一つとなりました。
そして本作を、アメリカン・ニューシネマ最後の名作という人もいます。カンヌ国際映画祭では、アカデミー賞に比べて、万人ウケするエンタメとしての評価が高い映画よりも、芸術性が高かったり、メッセージ性が強かったりと”玄人向け”な映画が評価されやすい傾向にあると言われています。その中で最高賞を取った本作の魅力、作風、アメリカンニューシネマとは何なのか、解説していきます。
この映画は、「アメリカ国立フィルム登録簿」(National Film Registry) に登録されている。これは、連邦政府国立フィルム保存委員会(The United States National Film Reservation Board)が毎年25作品を選定するもので、本作品が、アメリカの文化的、歴史的、芸術的に、後世に多大な影響を与えたことが公的機関からも認められた証である。
アメリカン・ニューシネマとは
そもそもアメリカン・ニューシネマとは何なのか。それは、ざっくり言えば、「体制への反抗心から自由を求める若者を描いた作品、あるいはその風潮」を指します。
もう少し具体的に説明します。
アメリカン・ニューシネマが台頭した1960年代後半から1970年代後半までの10年間は、ベトナム戦争が終焉に向かい、その悲惨さを国民が理解し始めた時代でした。ベトナム戦争を眺め、あるいは経験した若者たちの心は絶望やある種の虚無感に覆われ、不景気も相まって荒んでいきました。
そしてそのわだかまりは徐々に、戦争へと邁進したアメリカという「国家」や、自分たちの現状を顧みず搾取を続ける「社会」などの大きな組織やその力への疑念へと変わっていきました。すなわち「体制への反抗心」ですね。
アメリカン・ニューシネマとは、そんな社会の不条理に対する、若者たちの憤りと自由への渇望を表した作品のことなのです。
アメリカン・ニューシネマの特徴
では、映画単位まで視点を落としてみると、『タクシードライバー』ひいてはアメリカン・ニューシネマとはどのような作品なのでしょうか。そしてどのような点に着目して見ればいいのでしょうか。
感覚的な部分になるので人によって意見は分かれますが、アメリカン・ニューシネマと呼ばれる映画は基本的にストーリーが流動的で本軸の流れがわかりづらいものが多いように感じます。そして物語の向こう側に強いメッセージがありますが、そのメッセージとはひとえに上で述べた、荒れた社会とそれに対する憤り、自由を求める欲求です。
つまり、これらの「メッセージ」を、どのような世界観、ストーリー、撮影技法などの「比喩表現」で形にするか…という部分に着目してご覧ください。
あらすじ(11分の時点まで)
舞台は1970年代のニューヨーク。
主人公のトラヴィスは、ベトナム戦争帰りの元海兵隊。重度の不眠症に悩まされている彼は、成り手の少ない夜勤のタクシードライバーに応募し、採用される。
トラヴィスは、荒れた街をタクシーで流す毎日を過ごすうちに、売春や麻薬などの犯罪に次第に嫌悪感を募らせて行く。
そして、それらを一掃する何かを独り待ちながら、夜は運転手、昼はポルノ映画館で時間を潰すだけの変わり映えしない日々を過ごしていた。
ある日トラヴィスは、次期大統領候補のパランタイン上院議員の選挙事務所前を通り過ぎる美女に目を奪われ、彼の日常は少しずつ動き出していく。
見どころ (ネタバレなし)
演技
本作品の見どころとしては、2人の俳優の演技にご注目ください。
まずはなんと言っても主人公のロバート・デ・ニーロ。「デニーロアプローチ」と呼ばれる徹底的な役作りが今となっては有名な彼ですが、本作でも撮影前、ニューヨークで実際に3週間タクシードライバーをしていたそうです。
劇中の演技に関しても、細かな心情描写を映し出す流石の演技を見せています。ネタバレを避けるため内容には触れませんが、あるシーンでの「You’re talking to me?(俺に言っているのか?)」というセリフはあまりにも有名。そのシーンあたりから少しずつ人格や考えに変化が現れる彼の演技をお楽しみください。
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そして本作品は、ジョディ・フォスターの出世作でもあります。彼女の子役としての演技は、際どい役柄もあって(どんな役柄かは見てのお楽しみ)映画界に衝撃を与えました。
一方で当時13歳だったジョディ・フォスターにとってロバート・デ・ニーロの演技への執念は刺激になったそうで、彼女は本作を機に俳優業を本気で志したと語っています。実際本作以降俳優活動を本格的に進め始めました。
世界観
本作品の魅力を作り出す要素として、ある意味ストーリーよりも重要なのが世界観です。世界観を言葉で表現するのはなかなか難しいですが、とにかくこの映画の雰囲気は独特です。
映像の色合いや暗さ、場面が切り替わっていくスピード感、そして背景音が、視聴者にそこはかとない不快感を与えてきます。その不快感が皮肉なストーリー展開と相まって、視聴者の胸に引っかかる何かを残すのが名作たる所以なのかもしれません。
まとめ
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 4.0 | 一度見ておきたい映画です! |
個人的推し | 4.5 | エネルギーを感じたい時に見ます |
企画 | 4.0 | 時代のトレンドと個性の融合 |
監督 | 4.0 | 巨匠の実力が開花した作品 |
脚本 | 4.0 | ブレない本軸がすごい! |
演技 | 4.5 | デニーロの役作りは有名 |
効果 | 4.5 | 映像が素晴らしいです |
アメリカン・ニューシネマという社会の一大ムーブメントに乗っかりながら、それに負けない個性を感じることができる名作です。巨匠と大スターを遡れば必ず出会う作品だと思います。本作の作られた1970年代の時代背景など、映画を楽しむ手助けになるエッセンスをお届けできたのなら幸いです。
トリビア:本作品は監督のマーティン・スコセッシにとっても主演のロバート・デ・ニーロにとっても出世作の一つになったわけですが、デニーロは本作の公開時すでにオスカー俳優。『ゴッドファーザー Part2』で一躍大スターになった彼のギャラは当時鰻登りでした。しかし『ゴッドファーザー Part2』の公開前に本作の出演が決まった彼は、契約時のままの格安のギャラで出演したそうです。彼の義理堅い部分と、純粋な映画への情熱が窺えますね。