この記事では、鬼才クリストファー・ノーランのSFアクション三部作の3作目「テネット」について解説します。”TENET” ってどういう意味?劇中でどんな風に語られるの?といった辺りも含め、特徴、見どころ、あらすじ(ネタバレなし)を書いています。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
ジャッジタイム (ネタバレなし)
本作における、そのまま見続けるのか、見るのを止めるのかのジャッジタイムですが、
- 上映開始から11分00秒をご提案します
150分という長尺の作品であるにも関わらず、わずか11分で
- この作品のスケールのデカさ
- 主人公のシナリオ上の位置付け
が判って貰えると思う。なので、早目の11分を設定させて貰いました。「この映画に付いて行けそう」か「ちょっとこういうの苦手かも・・・」の判断を付けるため、まずは11分間観てみてください!
概要 (ネタバレなし)
本作品の位置づけ
テネットは、2020年に公開されたSFアクション映画。クリストファー・ノーランが、製作、脚本、監督を担当している。このことからも想像できるように、ノーラン・ワールド全開の映画。
筆者は、「インセプション」「インターステラー」と本作「テネット」を、クリストファー・ノーランのSFアクション三部作と呼んでいる。ノーラン監督の三部作志向については、こちらの記事でも触れているので、良かったらどうぞ!
話を戻すと、他の多くのノーラン作品と同様に、ノーランのライフワークである「時の流れ」が本作でも中心的なテーマとして扱われ、やはり他のノーラン作品のように分断された時系列が、”順番が入れ替えられて”描かれる。
世界観・世界線の特徴
特に本作では、時系列を逆向きに過ごす人や物が存在し得るという世界観が設定され(これを逆行と呼ぶ)、逆行を起こしている人や物が、正常に時系列を過ごす(これを順行と呼ぶ)人や物と混在が出来る想定。
例えば、一旦未来に行ってある時点から時間を逆行して過去に遡ってきた自分と、今まさにこの瞬間を順行により初めて過ごす自分とが、同じ時空で時系列を共有することも可能となるような世界観となっている。
同時にスパイ・アクション
そんな正逆の時系列が交錯する世界線の中で、主人公とその仲間が、特殊かつ破滅的な力を持つ悪のボスを倒すために、時にスパイのように情報を手繰り寄せてパズルを解き、時に大胆な破壊工作により敵を欺こうとする。そういった虚々実々の駆け引きと、スケールのバカでかいアクションとが150分間にわたって連続して行く、緻密かつ大胆不敵なスペクタクル作品であり、スパイ・アクションでもある。
これ読んでも訳分かんないでしょ?(苦笑)
説明している方も訳分からないです(笑)
TENETの意味
タイトルの原題「TENET」も、回文(上から読んでも下から読んでも同じ読みになる言葉)になっており、上述の時の順行・逆行の交錯を象徴している。
また同時にこのTENETという単語は、劇中に登場する SATOR、AREPO、TENET、OPERA、ROTAS という5つのキーワードを上記のように2次元配列にすると、真ん中に十字架上に出現する中心的な単語になっている。なので、単独で意味を持つという単語というより、この2次元配列が意味を成すという感じだろうか。
この配列は1つ目のSATORは5つ目のROTASの逆読み、2つ目のAREPOは4つ目のOPERAの逆読み、しかもそれは横読みでも縦読みでも発生するという念の入れようである。
本作では、気付かなくても本編を十分に楽しめるけど、気付くともっと面白くなるというトリビアが随所に仕掛けられており、この5つのキーワードの2次元配列は、まさにそういった仕掛けを暗示する魔法陣になっている。
作品の出来とは関係ないけど、コロナによるロックダウンが明けた2020年秋に公開され大ヒットを記録した、映画業界の救世主的な作品なんだよね
あらすじ (11分00秒の時点まで)
ウクライナのキーフ国立オペラハウス。今まさに交響楽団の公演が始まろうとしているその瞬間にテロ事件が発生する。武装した覆面姿の男たちが突然現れ、武力で場内を制圧したのだ。
数分後、緊急手配されたウクライナ警察の車両が、このオペラハウスの前に大挙して駆けつけるが、1台の車両だけはまるで全てを予期していたかのように、事前にこのオペラハウスの前で待機していた。
その待機していた車両には、ウクライナの対テロ部隊と全く同じ制服を着た兵士が4人乗っていた。1人は、”アメリカ人”と呼ばれる黒人のCIA工作員。
4人は、到着した大勢の対テロ部隊に紛れてオペラハウスに潜入し、本隊に先んじて上階のVIP用個室フロアへと向かう。目的は、そのどこかに居る別のCIAスパイを救出し、その”スパイ”が持っている”荷”を回収すること。
実は、このテロ事件すべてが、素性がバレたこのCIAスパイを捕られるための偽装工作だったのだ。”アメリカ人”が、対テロ部隊による妨害、攻撃をかいくぐりながら、”スパイ”を救出しようとする中、対テロ部隊は証拠隠滅も兼ねて、オペラハウスを大規模に爆破すべく、時限爆弾を各所に設置していた。
スパイと荷を予定通り無事回収した”アメリカ人”達だが、想定外の、対テロ部隊がしかけた時限爆弾の数々も回収しようとする。床に置かれた爆弾の数々に集中する間に、対テロ部隊の兵士に背後から銃を突き付けられた”アメリカ人”。このピンチを救ったのは、何と!壁の銃痕から飛び出てきた1発の銃弾。発射後壁の銃痕は跡形もなく綺麗に消え、まるで時間を巻き戻したかのような軌跡を描く銃弾。
そして、その謎の銃弾を撃ち、”アメリカ人”を救った謎の男もそのまま姿を消した。男のバックパックには、印象的な赤いキーホルダーが付いていた。
”アメリカ人”たちは、爆弾を一つにまとめ、誰もいない2階客席に投げ込んで爆発の被害を最小限に抑え、乗ってきた車両へと無事脱出する。
しかし車両に戻ると、ロシア人の裏切りに遭い、”アメリカ人”は意識を失う。
気が付くと、仲間の兵士と共に拷問を受ける。ロシア人の一瞬の隙を突いて、仲間がコッソリ差し出してくれた自決用の毒薬を飲み込み、再び意識を失う”アメリカ人”。
目が覚めると、そこは病室のベッドの上で、スーツを着た白人が事情を少しずつ説明し始める。
分かったことは、”アメリカ人”は昏睡状態だったこと。歯は治療したこと。毒薬は偽物だったこと。そして、全てはテストだったことだ。
他のメンバーはロシア人に口を割り助からなかったが、”アメリカ人”だけは仲間のために自分を犠牲にした、と言うのだ。
病室と思えた場所は実は船上で、大分回復した”アメリカ人”は、CIAを辞めるつもりであることを伝える。しかし、スーツの白人は、大概の人間は善行を積もうにも身の危険の前では怖気づいてしまう、だが”アメリカ人”は違う。そして、人類の生き残りを賭けた国家を超越する任務に従事して欲しいと告げる。
真実を知ることは破滅に繋がるので、限定的な情報だけ伝える、それはテネット(TENET)だと。
唯一テストに合格した”アメリカ人”は、この後も首尾一貫して名前を呼ばれることなく物語は進んでいきます。果たして、この”名も無き男”は、人類を救うことが出来るのか?そもそも人類の危機とは何だろうか?
見どころ (ネタバレなし)
とにかく緻密なストーリー
本作はとにかく緻密なストーリーが魅力である。タイムトラベル物のお約束のツッコミどころは「祖父殺しのジレンマ」と呼ばれる、過去を変えることで現在の世界線が根源的に消滅してしまうという矛盾であるわけだが、本作はそんな脇の甘さとは無縁だ。
無縁どころか、複雑に絡み合うが、よ〜く眺めると整合性が取れている順行と逆行の世界線を正確に理解することに手一杯になると思う。ここが最大の見どころだと思うのだが、同時にこの手の作品の好き嫌いが分かれるポイントだとも言える。
正直初見で全てを見切ることは非現実的だと思うので、もしお好きなのであれば、2回、3回と見返して、新たに気付く伏線とその回収に驚き、身震いし、快感を得て頂きたい!
バック・トゥー・ザ・フーチャーやターミネーターとは一味違ったタイムトラベルの描写がちょっと癖になるかも
「名も無き男」という主人公
次に注目頂きたいのは主人公である。ジョン・デヴィッド・ワシントン扮する本作品の主人公は、劇中では名を呼ばれることは一切無く、日本語でのクレジットは「名も無き男」だ。「名も無き男」と聞くと「マカロニ・ウェスタン」の中核的作品「ドル箱三部作」のクリント・イーストウッドを思い出す諸氏もいらっしゃるかも知れない。
しかし、本作品での「名も無き男」は一味違う、原語(英語)では、先方が単に「Man With No Name」なのに対し本作では「PROTAGONIST」とクレジットされる。PROTAGONISTとは英語で主人公という意味と同時に、指導者的なニュアンスも持つのだが、果たしてこの「名も無き男」がシナリオ上でどんなOnly Oneの働きをするのかにご注目だ!
ジョン・デヴィッド・ワシントンは、デンゼル・ワシントンの息子だよ。ご存知でしたかな?
他の俳優陣の演技
ロバート・パティンソン扮するニールが怪しげでカッコイイ。髪を少し金髪気味に染める役作りをしてまで本作品に臨んだパティンソン。知性があり、機敏で勇敢で、ウィットにも富んだ若者の役だ。そして何より謎めいているのが堪らない。
物語は基本的に終始主人公「名も無き男」の目線で進んで行くが、特にこのニールというキャラクターの奥行きのある魅力が「名も無き男」の目にどんな風に映るのかが、ストーリーの大きなフックになると思うので存分に楽しんで貰えると嬉しい。
エリザベス・デビッキ扮するキャットという女性も魅力的なキャラクターとして描かれている。とかくデビッキという女優さんの場合、その容姿、特に高身長にまずは観る者の目が行ってしまうのは事実だと思うし、「足長ぁっ!」とおののくシーンが本作品にあるのも事実だが、女性として、母として、内に秘めた強さを絶やさない姿が、ストーリーに説得力を与えてくれるので、そこにご注目頂きたい。
ケネス・ブレナーについては、Needless to say、もはや筆者ごときの素人が言うことは何もない。俳優として決して大柄ではないブレナーであるが、そのイカれ悪役のラスボス感がデカいので、観るこちら側も存分に驚き、執拗に怯え、絶望の淵で涙を流しながら作品に没入出来るんじゃないかな?対ブレナー対策。心の準備をしておいてください。
主要な脇役陣3人の中で、デビッキが過去の露出度で引けを取るかと思ったけど、いやいや存在感のある演技です!
実写にこだわりまくる男クリストファー・ノーラン
ネタバレに繋がるので具体的な記述は一切避けますが、筆者が初回に鑑賞した後色々調べたところ、「えっ!このシーンも実写なの?あのシーンも実写なの?」と驚きの連続だった。とにかくCGは排して実写にこだわる製作手法が採られたようだ。
1990年代後半は、CGによる現実の再現力に目を見張ったものだが、2010年代の後半から2020年代は、実写による撮影技術の向上が目覚ましい。それだけ製作費があるから為せる業なのだが、ノーラン監督の実写へのこだわりが半端じゃないっす。
彼は変態です・・・(もちろん、最上級の誉め言葉です)
音楽
劇中に挿入される音楽が大変独特だ。これは正直好き嫌いが分かれるところかもしれない。少し存在を主張し過ぎな気もしないでもない。ただ一部逆再生させて録音したという独特な効果音が、時間の逆行を容易に彷彿とさせ、本作品独特の世界観を補強しているのは間違いない。
その他の情報
筆者の本作に対するおススメ度合いは、 4.5/5.0 です。
唯一のネックは、長く(150分)て難解という点です。ここをどう捉えるか・・・
ただ、ノーラン監督は、作家性と娯楽性を両立させている、世界でも稀有な映像作家と評されていますね。どういうことかと言うと、通常は監督が創りたい作品をこだわり抜いて製作してしまうと、作家性が強すぎて万人には受け入れて貰えなくなるのが必定な訳です。ところが、ノーラン監督の場合は、同時に興行成績も上げてしまうという娯楽性も兼ね備えていて、その辺りの絶妙なバランス感覚が流石!の一言です。
150分が独り善がり映るのか、娯楽超大作として映るのかは、皆さん一人一人が決めれば良いことだと思うので、上述のジャッジタイム情報も参考にして頂きながら、本作品を視聴してみてください!