この記事では、2009年公開のハチャメチャ・ドタバタ・コメディの傑作、「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」の解説をします。もし朝起きて、昨夜のある時点以降の記憶がスッカリ無かったらどうします?そして、部屋に居るべき人がおらず、代わりにあってはならないものが幾つかあったら… そんなどん底の状態から始まる節操のないブラック・コメディ。
この映画を観るか迷っている方は、後でご提案する ”ジャッジタイム” までお試し視聴する手もあります。これは映画序盤の、作品の世界観と展開が ”見えてくる” 最短のタイミングのことで、作品が気に入らなかった場合に視聴を離脱する目安タイムです。
もし、この映画が気に入らなかった場合でも、このジャッジタイムで観るのを止めちゃえば時間の損切りができます。タイパ向上のための保険みたいなものです。
この映画を初めて観る方のことも考えて、ネタバレなし で、作品の特徴、あらすじ(ジャッジタイムまでに限定)、見どころを書いて行きます。この映画の予習情報だとお考えください。
この映画を観るかどうか迷っている人、観る前に見どころ情報をチェックしておきたい人 のことも考え、ネタバレしないように配慮しています。
本作のヒットにより、その後シリーズ化されて三部作となったこの「ハングオーバー(二日酔い)シリーズ」。その記念すべき第1作目は、どんな風に産声を上げたのか?ちょっと怖いけど、この作品の世界に足を踏み入れてみましょうか?
ジャッジタイム (ネタバレなし)
この映画を観続けるか、見限るかを判断するジャッジタイムですが、
- 上映開始から27分00秒をご提案します。
ここまでご覧になると、事の経緯が飲み込めるのと、この映画のノリが掴めてくるので、本作に対する好き嫌いを判断できると思います。
概要 (ネタバレなし)
この作品の位置づけ
「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(原題:The Hangover) は2009年公開のコメディ映画。コメディ映画の中でも、かなり下品な部類に入ると思うし、相当ハチャメチャな出来事が起こりまくるストーリーだ。よって、こういう作風がお好きな方には刺さると思うし、お嫌いな方はそもそもご覧にならなくても良いかも知れない。
どんな映画かと言うと、タイトルにもあるように”ハングオーバー”=二日酔いを軸にした話である。結婚直前の1名を含む白人男性4人組が、バチェラー・パーティー(男性が独身最後の夜に仲間と騒ぐ儀式的パーティー)も兼ねてラスベガスに繰り出す。ところが、気付いたら翌朝になっていて、ひどい二日酔いの状態で目覚め、更に身の回りがあり得ないほどのカオス状態になっているところからドタバタ劇が始まるというコメディだ。
製作費3千5百万ドル、上映時間100分という、大作とは程遠い製作コンセプトだったにも関わらず、世界興行収入が4億6千7百万ドルの特大ヒットとなり、その後シリーズ化されて最終的には三部作となった。その記念すべき第1作がこの作品だ。シリーズ三作の概要は下の表となる。
邦題 | 原題 | 公開年 | 監督 | 脚本 | 製作 |
ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い | The Hangover | 2009 | トッド・フィリップス | ジョン・ルーカス スコット・ムーア | トッド・フィリップス ダン・ゴールドバーグ |
ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を越える | The Hangover PartⅡ | 2011 | トッド・フィリップス | スコット・アームストロング トッド・フィリップス クレイグ・メイジン | トッド・フィリップス ダン・ゴールドバーグ |
ハングオーバー!!!最後の反省会 | The Hangover PartⅢ | 2013 | トッド・フィリップス | トッド・フィリップス クレイグ・メイジン | トッド・フィリップス ダン・ゴールドバーグ |
トッド・フィリップスの異才
上の表で製作陣を眺めて頂くと分かるように、本作、もしくは本シリーズは、トッド・フィリップスに拠るところが大きいことが分かる。元来トッド・フィリップスはそのキャリアにおいて、本シリーズ以前も、本シリーズ直後も、携わった映画のほぼ全てがコメディ映画という、コメディのスペシャリストであった。
しかし、2019年公開の「ジョーカー」(原題:Joker) から、突如陰鬱なシリアスな映画を制作(製作・脚本・監督を担当)して、大ヒットさせている。本当に才能豊かなフィルムメーカーなんだと思う。
現在(2023年4月現在)ジョーカーの次回作「Joker Folie à Deux」(製作・脚本・監督を担当)を撮影中である。
やはりコメディを極めた人間は、悲劇も包含する格好で創作することが出来るということなのだろうか?
あらすじ (27分00秒の時点まで)
フィル(ブラッドリー・クーパー)、スチュ(エド・ヘルムズ)、ダグ(ジャスティン・バーサ)の親友3人組は、数日後に結婚式を控えるダグのために、バチェラー・パーティーも兼ねてアメリカ西海岸からラスベガスに、羽を伸ばしに1泊旅行に繰り出す。移動手段は、ダグの義父になるシドに借りた高級メルセデス・ベンツだ。
ダグ(ジャスティン・バーサ)の婚約者トレイシー(サーシャ・バレス)には、アラン(ザック・ガリフィアナキス)という弟がいる。このアランという男が、見た目も清潔感が無いし、言動も下品だし、コミュ障だし、オマケに金持ちのボンボンなので気位だけは高いしという曲者キャラクターなのだが、ダグは成り行きで、義弟になるこのアランもこのバチェラー旅行に連れて行かざるを得なくなってしまう。
ラスベガスのホテルに着くと、通常の部屋は予約が一杯で、仕方が無しに4人は高級スイート・ルームに宿泊することにする。夜のとばりも降り、4人は1,2杯酒をひっかけてカジノに繰り出したところ、気付いたら翌朝となっていた。
宿泊してるスイート・ルームは信じられないぐらい荒れ果てたカオス状態。いまだかつて経験したことのないほどの二日酔い。更に悪いことに、主役のダグの姿がどこにも見当たらない。ところが、心当たりを探ろうにも、昨夜の記憶がある時点から綺麗さっぱり消えている。
頭痛と吐き気を抱えながら、残された3人はダグの捜索に動き出すのだが・・・
羽目を外したことは、それぞれのパートナーにバレたくない。
ダグを早く見つけて、結婚式が始まるまでには西海岸に戻らなければ!
見どころ (ネタバレなし)
想像を超えたドタバタ劇
この映画の最大の魅力は、想像を超えたドタバタ劇で巻き起こることだ。次から次へとあり得ないことが起きる。本当に起きる。これがとにかく可笑しい。ゲラゲラと笑ってしまう。
かなり下品な台詞や描写も込みなので、こういうのが好きな人には堪らないと思うし、苦手な人には受け入れられないと思う。
ご提案したジャッジポイントまで観て頂いて、耐性があるかご判断ください!
”記憶が無い!”から“芋づる式”へ
読者の方のどのぐらいが、二日酔いの経験がおありだろうか?そして、昨夜のことを思い出そうにも、全く覚えていない時間帯があるという経験を、どのぐらいの方がされているだろうか?この映画の下敷きとなるのはその感覚である。とにかく完全に記憶がぶっ飛んだという設定なのだ。
そして、ポケットに入っていた雑多なものをヒントに、昨夜の立ち回り先を訪ねるのだが、こっちは向こうを知らないが、向こうはこっちを知っているという他人と再会して行く(←前夜の記憶が無い時間帯に出会っている)。この、昨夜の聖地巡礼的な小さな冒険旅行がそもそも面白い。
加えて、謎を解くために向かった場所で、“昨夜はどうも!”的な態度の“初対面”の相手に、求める答えは貰えるのだが、そこで新たな謎に出くわすという芋づる方式の連鎖謎解きが発動し、行方不明のダグの居場所探しは混迷を極めて行く。コレがイライラするけど楽しい。その上で上述の想像の上を行くドタバタ劇が折り重なって行くので、休む暇がない。
自分は初見の時笑いっぱなしでした!
4人のキャラクターのバランス
4人の主人公たちのキャラクターバランスが絶妙だ。
俳優 | 役名 | メモ |
ブラッドリー・クーパー | フィル・ウィネック | イケメン中学教師。愛妻家だが、パーティー、ギャンブル好き。 |
エド・ヘルムズ | スチュアート・”スチュ”・プライス | 歯科医。生真面目だが見栄っ張り。 |
ザック・ガリフィアナキス | アラン・ガーナー | チビデブ。コミュ障。トラブル・メーカー。トレイシーの弟 |
ジャスティン・バーサ | ダグ・ビリングス | まともな好青年。アランの姉のパートナー |
ケン・チョン | レスリー・チャウ | 謎のアジア人 |
ジェフリー・タンバー | シド・ガーナー | トレーシーとアランの父親 |
サーシャ・バレス | トレイシー・ガーナ― | ダグのパートナー |
フィル・ウィネック
ブラッドリー・クーパー扮する、イケメンでリーダー格で、状況を俯瞰する能力と判断力のあるフィルは、左記の描写だけなら素晴らしい人物なのだが、”結婚は墓場だ。妻子持ちの自分が言うんだから間違いない”的な皮肉っぽい発言が目立つ中学教師だ(←これで中学教師である!)。
でも、基本は陽気で前向きで、ダグ探しにおいても、ちょっと置かれた状況を楽しんでいるかのような節もあり、ステレオタイプ的なアメリカ人キャラクターであり、この映画をとても楽しいものにしてくれる名スキッパーだ。
スチュアート・ブライス
エド・ヘルムズ扮する歯科医のスチュは、一見すると生真面目な男に見えるが、決して相性が良いとは言えないガールフレンドと同棲しており、かつ一方的に尻に敷かれている。歯医者なのにたびたび”医者だ”と中途半端な嘘をつく見栄っ張りな言動も目立ち、自分があまり幸せではないパートナーとの状況を、プライドが邪魔して受け入れられないがために、パートナーを優れた女性だと自分に言い聞かせようとしている節もある。
この男が、二日酔いになる程酔っぱらった時の言動がぶっ飛んでいて、その振れ幅にご注目頂きたい!
アラン・ガーナ―
とにかくエグイのがアラン(ザック・ガリフィアナキス)だ。一言で言うとキモオタなのだが、妙にインテリぶったり、金持ち特有の傲慢な態度を見せたり、下品でコミュ障という、一癖も二癖もあるキャラクターである。
ただし、このキャラクターを演じるザック・ガリフィアナキスが、絶妙な役作りをした結果、どうしてもこのアランというキャラクターが憎めないようになっている。この映画の隅々に下品な笑いを届ける心臓部である。
ダグ・ビリングス
結局まともなのは、ジャスティン・バーサ扮するダグだけとなるのだが、ダグは行方不明になっちゃうので、大半の時間この”まともさ”が生きないシナリオになっているところが良く出来ている。
という訳で、4人の内3人は、内面に矛盾を抱える人物像として描かれていて、かつ彼等4人が化学反応を起こして行くストーリーなので、この辺りタップリとご堪能いただきたい、この辺りのキャラクターの掘り下げがシッカリできているからこそ、単なるB級ドタバタ・コメディに終わらず、大ヒットに繋がったんだと思う。
舞台のラスベガス
シン・シティ(罪深き町)というニックネームもある、ギャンブルの街ラスベガス。街全体がカジノ付きのホテルで覆いつくされているこの砂漠の楼閣が、この映画の舞台だ。
劇中でカジノも出てくるのはもちろんだが、トラブルに巻き込まれて右往左往する際に、街周辺の砂漠も登場する。この都市が本来持つこの”街”と”砂漠”というギャップが、この映画のストーリーの中でも上手に活用されているような気がする。ラスベガスに行ったことがある人も、無い人も、是非そんな目線でもこの舞台を眺めてみると面白いかも知れない。
まとめ
この作品に対する☆評価ですが、
総合的おススメ度 | 3.5 | 万人におススメするには下品すぎw |
個人的推し | 4.5 | 大好きです! |
企画 | 4.5 | 企画が全て? |
監督 | 4.5 | コンパクトにまとまったスピード感 |
脚本 | 4.0 | 贅沢を言うと、もっとトークが面白いと・・・ |
演技 | 4.0 | ダグをもっと掘り下げて欲しい! |
効果 | 3.5 | 特に可も無く不可も無く |
本当に面白い映画です。大好きです!ただし、下品なので、万人にはお勧め出来ないですね・・・
バチェラー・パーティーの酷い二日酔いで、結婚直前の花婿が失踪するって企画自体が既に勝利でしょう!そして、ここからドタバタ劇を徹底的に掘り下げた脚本が最高です!是非、一度は観て頂きたい!
こういうコメディーも世の中にはあるんだと、一見は必須だと思って諦めてください???